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1人になりたい夜もある……  作者: 澤田慶次
6/6

明日の為の今日……

物語は色々あります……

男は公園でベンチに座り、スマートフォンをいじっている。誰かにラインを送っているらしい。

ラインを送り終わると、男は空を見上げてから溜め息を吐いた。

男の名は、加藤かとう博昭ひろあき25歳の会社員である。

博昭はスマートフォンを見つめながら何かを考えている。その時にラインの返事が来た。

博昭は公園にある人物を呼び出していた。どうやら、その人物は来てくれるらしい。

博昭はもう一度、大きな溜め息を吐いた。


暫くすると、若い女性が走って公園に入って来た。

女性は博昭に声を掛ける。

「お待たせ!」

「いや……」

この女性は、神埼かんざき千尋ちひろ25歳であり博昭と同じ会社の同期である。

2人は一緒に研修を受けた。そこから仲良くなり、いつの間にか付き合い始めていた。

会社での2人の評価は上々であり、将来を期待されていた。2人が付き合っている事は秘密であり、知っている者は極僅かである。

「用事って何?」

「うん……ここの所、忙しくってさ……なかなか話も出来なかったからさ……」

「確かに忙しかったよね!…ちゃんと話をする時間も無かったもんね!」

「そうだな……確かに、あんまり話す機会は無かったな……どうなんだ?…新しい部署は?」

「忙しいよ!…大きなプロジェクトに参加してるし、やる事いっぱいで……」

「そうか……大変だな……」

「博昭はどうなの?」

「ああ…そうだな……忙しいのは忙しいけど……今は落ち着いてるかな……一旦は元通りかな……」

「そうかぁ…羨ましいなぁ……」

「あのさ……千尋に会えて、俺は本当に幸せだと思ってるんだ」

「何よ、突然!……照れるじゃない!」

「俺の本当の気持ちさ……本当にありがとう……」

「改めまって何?……どっきりか何か?」

「いや……これだけは伝えたくてさ……」

「なんだよ~……酔っ払ってるのか~?」

「ははは、そんな事は無いよ……」

「だったらなんだよ~!」

「………………いいか、良く聞けよ……」

「うん……」

「俺達、別れよう……」

「??……何言ってんの?」

「別れた方がいいと思うんだ……」

「何?…私が嫌いになったの?」

「そうじゃない……そうじゃないけどさ…………別れた方がお前の為だよ……多分だけどな……」

「意味が良く分からないんだけど!」

「…………俺な……会社を辞めたんだ……今日付けでな……」

「は?…何で?」

「……親がさ……体調崩してな…………俺の親、母さんだけだろ?……1人息子の俺が、面倒見ないとさ……」

「そんな話聞いて無い!…何で話してくれないの?」

「話そうと思ったけどさ……なかなかタイミングが合わなくてな……」

「会社辞めてどうすんの?」

「田舎に帰るよ……就職口も、もう決めてある……突然だけどさ…明日、田舎に帰るよ……」

「突然過ぎるよ!…何でそんなに……」

「善は急げってな……それに、時間を置くとお前に別れを言うのが辛くなるからな……」

「…………………………」

「ありがとう千尋……本当にありがとう……」

「博昭はそれでいいの?」

「いいも悪いも無い……今の生き生きしてるお前が答えだと思ってる……どうにもならない事も、人生には有る事さ……しょうがない……」

「……なら、今日は明日別れる為の今日なんだね……」

「そうなるな……残念だけど……」

博昭はそう言うと、ゆっくりと歩き出し公園から出て行った。

千尋は、そんな博昭を見送っていた。


博昭はポケットに手を入れ、自分のアパートに向かって歩いている。

(やっと言えた…………これでいい……これで良かったんだ…………)

博昭はアパートに着くと、シャワーを浴びてすぐに横になった。新幹線のチケットを見つめ、博昭は今日3度目の溜め息を付いた。

博昭とて、このまま田舎に帰るのは納得がいかない。仕事も楽しくなって来ていたが、それより、千尋と離れたくなかったのである。出来る事なら、千尋も一緒に連れて行きたかった。実際、言葉は喉元まで出ていた。

しかし、生き生きとした表情の千尋を見ていて、遂に言葉を出す事は出来なかった。

博昭は新幹線のチケットをしまい、そのまま眠りに付いた。


翌日、博昭は起きるとシャワーを浴び、朝食を済ませてから荷物を持ってアパートを出た。

途中、不動産に寄り鍵を返すと、そのまま最寄りの駅に向かった。

「博昭!」

博昭は公園の前を通ると、千尋に声を掛けられた。

「何だ?……見送りならいらないぞ……」

「…………違う……」

「……何か用か?」

「……大切なお願いがあるの……」

「何だ?…言ってみろ」

「叶えてくれる?」

「……出来る事ならな……」

「じゃあ…………私をお嫁さんにして下さい!」

「は?」

「昨日考えたの!……いっぱい考えて、色々考えて……でも私は、博昭と居たい!…ずっと一緒に居たい!」

「……何にも無い田舎だぞ?」

「博昭が居る!」

「……スーパーまで、車で45分だぞ?」

「博昭が運転してくれる!」

「……運転は好きじゃねぇんだけどな~……」

「どうなの?…叶えてくれるの?」

「……敵わねぇな~……これからも、よろしく頼みます」

「はい!」

千尋は博昭に抱き付いた。

「辞表は出したから、来月にはそっちに行くね!」

「楽しみに待ってるよ!」

「昨日は今日別れる為の日だったけど、今日は明日から付き合う為の日だね!」

「その通りだな!」

博昭も千尋を強く抱き締めた。

きっと、この2人なら、これからも大丈夫だろう。

ハッピーエンドも悪くはないですね……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後は結ばれてよかったです。 幸せを感じられる話ですね!
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