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推しの美少女は読んでしまった

 

 俺は趣味で、恋愛小説を書いている。

 いつかは、それを趣味ではなく、仕事にしたいというのが俺の夢だ。

 それは簡単な事ではないので、思いつくことを色々と試してみていたのだが……。

 まさかそのせいで、俺の夢が叶わぬものとなってしまうなんて、思いもしなかった。

 

 「龍野君、これ、あなたが書いたものよね?どういうことか、説明してもらえるかしら」


 誰もいない放課後の教室にて。

 俺にそう問い詰めてきた少女、白石 流華の右手には、5枚ほどの原稿用紙が握られている。

 もっと詳しく言うのならば、俺が小説を書き留めている原稿用紙である。


 なくなっていたことに気が付いていて、こんなに遅くまで探していたのだが……よりにもよって、一番見つかってはいけない人の手に渡ってしまった。


 何がまずいのかって、俺が今書いている小説は、あろう事か彼女……白石 流華本人をモデルにしてしまっているのだ。


 ……だって、恋愛小説なんだもん。

 多少は現実を取り入れてみた方が、味も出てくると思っての行いだ。

 

 それに、白石さんは自分自身がモデルにされていることを気付いていないかもしれない。

 いや、その説は大いにあり得る。

 ならば、そこまで深刻に考える必要はないのではなかろうか。


 「この小説に出てくる白石 流華という名前の人物は私よね。何故あなたの小説に私が登場しているの?」

 

 前言撤回だ。そりゃあ本名を出していたら普通にばれるわ。

 流石に名前くらい、工夫を凝らすべきだった。


 …さて。

 今の状況を白石さんの視点で見てみると、どういう事が起きるだろうか。

 

 自分がよく知りもしない人から自分の許可なく自分を小説のモデルにされている。


 ……完全に犯罪者の所業じゃないか。普通に肖像権侵害。

 さらにはセクハラだと言われても、文句言えない。


 ならば、今の自分に出来ることは、精一杯謝って、許しを請う事ではないだろうか。


 「……勝手にモデルにしてしまってごめん。でもそれは、君の美しさに見とれてしまったからなんだ!初めて目にしたときから、こんなにも美しい人をモデルにして小説を書いたら、どんなに楽しいだろうって、考え出したら止まらなかった!だから……ん?」


 言っている最中に気が付いてしまった。

 今俺がやっていることは、謝罪紛いの告白ではないだろうか。


 これを白石さんの視点から見てみると、セクハラしてきた男から、急に告白されるという……。


 ああ、終わった。

 俺の人生、終了のお知らせじゃないか。


 直にこの事実は、白石さんから全世界に知れ渡り、俺は犯罪者の称号を背負う事になるのだろう。

 そうなる前にせめて、白石をモデルにしたこの小説だけは、完成させたかった。

 そうすればもしかしたら、この小説だって、白石に認められていたかもしれない。

 本当にもしかしたら、だけど。

 ……いや、駄目か。


 「……これ、名前は私だけれど、私ではないわよね」

 「……へ?」


 予想だにしない彼女の言葉に、俺は驚きを隠せなかった。

 てっきり、ありとあらゆる罵倒を浴びせられると思っていた。

 

 「だって、本当の私はこんな事、絶対にしないわ」

 「……ああ、そういうこと。確かに現実とはかなり異なってると思うぞ。だって俺、白石の恋愛模様とか知らないし」

 「いえ、そういうことではないのだけれど……」

 

 なんだろう。えらく歯切れが悪いような気がする。

 白石さんは一体、何を気にしているのだろうか。


 しばらく沈黙が続いた。

 とびっきり気まずい沈黙だ。

 まるで死刑宣告を待っているかのようなこの時間、苦痛でしかない。

 煮るなり焼くなり好きにしてもらって構わないから、早くこの時間を終わらせてほしいところ。

 

 そんなことを考えていると、ようやく白石さんが口を開いた。


 「龍野君」

 「な、何でしょうか」

 「この小説の続き、まだあるわよね」

 「お、おう」

 

 確かに、まだある。

 ……原稿用紙100枚ほどな。

 これはきっと、白石さんの手によって処分されてしまうのだろうが……俺にはもう、渡す以外の選択肢は残されていないようだ。


 「……こちらになります」

 「……多いわね」

 「……ちなみにそれ、完成じゃないぞ」

 

 白石さんは、俺が渡した原稿用紙をぺらぺらっとめくると、軽く整えた。


 「これ、借りるわね」

 「……ん?」

 

 借りる?処分ではなく?


 「恐らく、明日には返せると思うわ」

 

 しかも豪華特典付き。返してくれるらしい。


 「あの、白石さん?」

 「……何かしら。今更やっぱり貸せないなんて言われても、困るのだけれど」

 「い、いや、そうじゃなくてさ……気持ち悪いとか、思わないのかなって」

 「思うわよ?だって、あまり仲良くもないはずのあなたから、勝手に自作小説の登場人物にされているんだもの。思わないわけがないでしょう」


 ですよねー。

 分かってはいたけどさ、面と向かって言われると、かなり傷付く。

 でも、それならなぜ……。


 「単純に、興味があるのよ。周りの人間には私が、どういう風に見られているのか」


 まるで俺の考えを先読みしたかのように、白石さんがそう答えた。

 彼女の考えは今の所、よく分かっていないが、世間にばらされる訳ではないのなら、少しは安心してもいい、のかな……?


 「言っておくけれど龍野君、明日はちゃんと学校に来なさい。来なかったら……」

 「来なかったら……?」

 「来なかったら、この小説を学校中にばらまくわ」

 「例え何があっても来させて頂きます!!」

 

 俺がそう答えると、白石さんは満足そうに微笑み、帰る支度を始めた。


 「それじゃあ龍野君、また明日」

 「お、おう」


 白石さんがいなくなり、ようやく俺一人になった教室で。

 俺は安堵の息をついた。

 なんだか色々と理解が追いついていないが……どうやら俺は、明日学校に行かなければ死ぬらしい。


 俺は趣味で小説を書いていて、将来の夢は小説家だ。

 だが、今日の事件で、現実とフィクションを一緒にしてはいけないのだと、深く理解した。

 

 というか白石さん、俺の告白(実際は違う)については全く触れなかったな……。 

 結果的にはそれで良かったのだが、なんだか虚しいよね……。


 かくして俺は、推しの美少女をモデルにして書いていた恋愛小説が本人に見つかってしまった。

 

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