7話 ミドリムシのお医者さん
ギルドマスターと話を終えホールに戻ってきた緑は、シャークとアラン達に呼び止められた。
「おい緑!ちょっと来い!」
「は、はい」
緑はシャークとアラン達の剣幕に若干驚きながら彼らのそばまで行く。
「ギルドの小部屋を借りてるからそこに行くぞ!」
ギルドの中にある小部屋に場所を移した緑たち。部屋に入るなりシャークが口を開く。
「緑、お前の髪で作った防具の耐久実験をしたんだ」
シャークの跡にアランが口を開く。
「俺たちも今朝防具の耐久度を調べるために実験をしたが、正直手に入る物の尺度で考えての実験だったんだ……。しかし、シャークとギルドで合流してから悪乗りしたシャークが全力で攻撃をしたんだ。全力でだ。これは、シャークのチームの補助や支援の魔法、スキルも受けてでの話だ……。その結果お前の髪で作った全身をほぼ覆うタイツはそれを全て受けきったんだ」
アランが話しを終えると、再びシャークが口を開く。
「正直悪乗りしたのは本当だ。アラン達から聞いたら緑の髪で編んだ装備類は、ほとんど時間をかけずに作ることができると聞いたんでな……1枚無駄に切り裂いても、金さえ払えば問題ないと思ったんだ……だが試すのがだんだんエスカレートして、さっき言ったように補助や支援の魔法、スキルも使ったんだ……結果、俺たちはおまえが作った防具を切り裂く事は出来なかった。周りからはSランク冒険者間近とチヤホヤされて、有頂天になっていた自分たちが恥ずかしくおもえるくらいにな……」
それぞれの思いを話したアランとシャークは、しばしの間沈黙したあと、アランが口を開く。
「緑、俺は初めチームのメンバー全員の6着分の服に30万イェン払うと言ったが、すまん! とてもじゃないがそんな値段で作ってもらえるものでは無かった」
少し落ち込みながら話すアランを横にシャークが話す。
「緑、お前が作った装備の評価はもはや俺たちには評価のしようがない。1着100万イェンと追われても納得するしかないと思う」
シャークの口からでた金額に緑は、戸惑う。
「ま、待ってください!いきなり評価が20倍になった説明をお願いします!」
本来であれば自分の作ったものが高く評価され事は良いことだが、いきなりの評価の高まりに焦りをおぼえる緑。焦った緑の疑問に対してシャークが答える。
「緑、お前はアランがギルドマスターに直ぐに会える立場に驚いていたようだがそれは、アラン達のチームがもうすぐSランクに成るといわれているチームだからだ」
「それは、お前達もだろうシャーク」
「そういえば、僕はアランさん達の事を詳しく聞いてなかったですね……」
緑がアラン達のギルドでの立場などの話を聞いたところ、アランとシャークのチームはもうすぐSランクに成るといわれているチームでギルド内でも指折りの冒険者チーム。そんなチームだからこそギルドマスターと面識があり、昨日の様にいきなりの面会がで来たことがわった。
アラン達が自分達の話を終えたあと緑は先ほどのギルドマスターとの件、アラン達と臨時にチーム組んでみてはと促された話をする。
「ふむ緑の経験のなさは俺たちも危惧していたが臨時でチームを組むか……」
考え込むアランを横にシャークが緑に話しかける。
「ところで緑、今朝アラン達に二日酔いに効く実を渡したと聞いたんだがその効果って結構たかいのか?」
「ああ、状態異常回復の実ですね何かに使用するんですか?」
「ああ、実は俺には嫁が居てな長年病気を患っていて俺はそれを治すために冒険者として稼いで様々な薬を試しているだ」
「シャークさん結婚されていたんですね」
「……してちゃ悪いかよ……」
「い、いえ!悪いなんて事はないです!」
そんなやり取りをしていた緑はアイテムボックスから状態異常回復の実、体力回復の実を取り出し渡す。
「効くかどうかわかりませんが試してみてください、もう1つは体力が回復する実です。ご病気が治っても治らなくても、2つとも食べるようにしてください」
「ああ!悪いな!」
シャークはそう言うと部屋を大急ぎで出て行ってしまう。
「あ!シャークさん行っちゃった……」
考え事をしていたアランが緑に言う。
「ああ、緑気にしなくて良いぞ。シャークはもともとダメもとで緑に頼んでるからな。もともと死には至らない病気だしシャーク自身がもうすぐSランクになる冒険者だ。それこそ世間一般では出回らない高価なアイテムもすでに試した後だからな……」
「そうなんですね……治ればいいんですけどね……」
「まぁ、話を戻す。まず臨時でのチームの事だがとりあえず組んで依頼、もしくはダンジョンに潜ってみようと思う」
するとアランのチームメンバーは頷く。
「緑と一緒にチーム組むのはウチも賛成!」
「ああ、ゴブリンの時に緑が強いんは知っとるし、ヒカリは言わずもながらやしな」
「そうですねこんな立派なローブを作っていただきましたし」
「そうっすね、こんな高性能なローブ2度と手に入らないかもしれないっす」
「緑すまないが緑の髪を弓の弦にいただけないかな?」
セリア、ドナ、クリス、テレサも縦に首を振りながら緑の参加に肯定する。しかも先ほど緑の髪で作った装備の価格がはかりしれなと話したばかりにも関わらず弓職のジンに至ってはさらに欲しいと強請っている。
「それでは皆さん臨時ではありますが宜しくお願いします!」
「緑様共々宜しくお願いいたします」
緑とヒカリが改めてアランのチームに挨拶する。
「「よろしく(やで)(っす)!」」
「それではギルドのホールにいって1度依頼を見てみよう」
アランがそういうと皆アランを先頭にギルドのホールに移動する。ホールまで全員で移動し全員で依頼ボードを見ていた時、ギルドの扉が壊れるのではないかという勢いで開かれ、鬼のような形相のシャークが入ってきた。
ダーン!ドシ!ドシ!ドシ!ドシ!
「緑はいるか!?」
シャークが扉を開けたままの勢いでホールの中ほどまで進み依頼ボード前の緑を見つける。そのあまりの形相に入口近くにいた他の冒険者はあわてて距離をおく。
シャークはその形相のまま人垣を分けながら緑まで一直線に歩いてくる。
そして、緑のそばまで来るとその形相はぐしゃぐしゃに崩れ嗚咽を吐きながら涙を流し始め緑の足元に跪く。
「うおおおおおお……緑ありがとう…………あり……がとう……カタリナが……数年ぶり…………にに………いいい」
その言葉を聞いたアランが驚いた顔をする。この時アランの中ではシャークの嫁のカタリナが回復した喜びと今まで回復のする事のなかった病状をなおした緑の実の効果の驚きがせめぎ合っていた。
そんな心中を周りに悟らせることもなくシャークの元まであらんは駆け寄り跪いたシャークを立たせる。
「シャークおめでとう。やっと念願がかなった。」
アランは緑の実への驚きはよそに置き、シャークと硬い握手を交わし心からカタリナの回復を喜んだ。
アランとシャークは同じランクにいこともあり今まで、さまざまな場所で顔を合わせていた。
その都度親睦を深めお互いの身のうちを語るまでに至っていたことからアランはカタリナの状態を知っていたが悔しいながらもカタリナの回復はどこかあきらめていた。
しかし、ここにきて緑との出会いからわずか2日で事が進み回復に至ったことを心より喜びその目には涙が見えていた。
「うおおおお……アラン……お前が緑を連れて来て……くれなければ……カタリナの病状は今も回復……はしていなかった………ありがとう……うおおおおお」
普段は冒険者の口調のシャークだがアランと緑への言葉は感謝も含まれいつもの口調とは違った言葉でああった。
「シャークさん。奥さんの回復おめでとうございます」
あっけに取られていた緑も冷静になりシャークの嫁のカタリナの回復に祝辞を送る。
「へへみっともないとこを見せちまったな」
顔を涙でぐしゃぐしゃにしたいたが、いつもの様にいたずら小僧のような笑顔をみせ落ち着いたシャークは叫ぶ。
「おいてめぇら今日はうちの嫁の祝いだ!俺のおごりで死ぬほど飲ませてやる!」
ギルド内で様子をうかがっていた冒険者の中にはシャークに世話になっていた者達もおり、非常に感謝を感じていたがシャークに報いることができていなかった者達もその報告をうけ心より喜んだ。
そんな騒然としているギルドの扉を少し遠慮がちにゆっくりと開けるものがいた。
「あのーこちらに緑さんという冒険者様はいらっしゃいますか?」
その言葉をきいたギルド内が一気に静かになりその言葉を発した人物に視線が集まる。
「はい、僕ですが」
「私は冒険者シャークの妻でカタリナともうします。この度は貴重な回復薬をいただきありがとうございました。」
「おおカタリナここまで出歩いて大丈夫なのか?」
ギルドに入ってきた人物が自分の妻だと気づいたシャークが駆け寄り体の心配をするが緑の実を食べたカタリナは日常生活を送る分にかんしては何も問題が無いほど回復していた。
「はい、あなた。こんな晴れやかな体調は何年ぶりかとうほど良い気持ちです」
「そうか……そうか……うぐ」
また大泣きしそうになるのをぐっとこらえるシャークであった。
そんな泣きそうなシャークの肩をたたきアランが言う。
「誰かさんがギルド内にいるみんなに奢るらしいんだそんな顔でいるな」
アランが素知らぬ顔をしてシャークがこれ以上大泣きするのを止める。
「ああ、そうだったカタリナも今日はギルド全員に奢るつもりだお前もできるなら顔だけでも出してくれ」
「そんな病み上がりにお酒の席に出るなんて!」
その言葉を聞いた緑がシャークに言いう。妻を回復させてくれた緑の言葉に冷静になりカタリナの参加はやはりは早かったと思い取り消そうと思った時。
「緑様お気遣いありがとうございます。しかし、今の私はそれこそ病気になる前の状態よりさらに調子がいいのです。今夜は飲みませんがお酒だって飲めるくらいに」
「それであれば良かったです。無粋な事をしてすいません」
苦笑いを浮かべ緑はカタリナに謝る。ギルド内の人間が笑顔の中ただ1人この時ギルド内に難しい顔をした人間がいることに本人とある1人以外は気づかなかった。そうギルドマスターとその1人以外は・・・・。
その夜ギルドの中はシャークとその妻カタリナの中心に大騒ぎとなっていた。
「緑!オラ!もっと飲め!今日の主賓はお前とカタリナだ!」
シャークに言われるまま酒を飲む緑はもうグデングデンであった。
ホールがそんな中ギルドマスターの部屋がノックされる。
「マスターお連れしました」
「入ってもらえ」
「失礼します」
ギルドマスターと受け答えしていた受付嬢は中には入らず連れだった人物だけが中に入る。その人物が中に入るなりギルドマスターが言う。
「楽しい時間に悪いなヒカリ君」
「いえ、大丈夫です。私の行動はすべて緑様のためにあります」
「まぁ、とりあえず部屋に入ってくれたまえ」
「わかりました」
ギルドマスターは部屋に入ったヒカリに自分の迎え側に座るよう勧める。
「単刀直入に聞くが緑のもっている異常状態回復の実はどこまでの異常状態を回復できる?」
「そうですね私も詳しくは分かりませんがおよそ人間が認知している病気や状態異常はすべて回復することができると思います」
「人間が認知している病気や異常状態ね……」
「それだけ聞ければ良いありがとう」
「もう、行っていいのですか?」
「ああ、大丈夫だ。ついでにシャークにおめでとうと言っておいてくれ」
「ご自分で言われないのですか?」
「私はまだ仕事だよ」
「わかりました、失礼します」
ヒカリはシャークに伝言を伝えるべく大騒ぎしているホールに戻るのであった。




