42話 ミドリムシの家族は荷物を配達する
男は猫の獣人で名は大和と名乗った。
この世界には様々な獣人が居るが大和は身長180㎝程で体はしなやかな筋肉をしており、まさに猫の俊敏性と柔らかさをもつ獣人であった。
大和の提案により2人は足を止め2人の荷物の届け先のリストを確認し近いところを一緒に回る事になった。
「じゃあクウの嬢ちゃんついてきな! 」
そうクウに大和が叫ぶ
と荷物を持って走りだす。その声に反応してクウも大和を追いかける。クウと大和は同じ方向に向かって走り出すが徐々にクウが大和に引き離される。
単純なスピードは、重りの魔道具をしてもクウの方が早かったが2人が今走っているのは王都の道でそこにはたくさんの人達が行きかう。
2人は猛スピードで目的に向かって走っているが時には急激にスピードを落としたり、人込みで走れるコースがないと建物に向かって飛びあがりその壁を蹴って道に戻るなどして進んでいる。
大和はクウに向かって叫ぶ。
「クウの嬢ちゃんすげー反射神経と身体能力だな! 俺だったら人とぶつかっちまってるぜ! 」
クウの視界では景色はゆっくりと見える、だが今は重りのため自分の体もゆっくりとしか動かせないがそれでも他人からすれば大和が言うように反射神経と身体能力で人との衝突を避けていた。
「そこまでの反射神経があるなら思考スピードも早いんだろ? その早い思考スピードを使って人の歩く道筋を想像して走るんだ。それだけで嬢ちゃんならすぐに俺なんかよりも早く走り抜けるようになると思うぜ」
そう大和に言われてクウはさらに思考スピードを上げる。
もともと戦闘中は一般人にはほぼ消えた様にしか見えないスピードで動き続けるクウの思考スピードは師匠の流でも追いつくことができないものであった。
クウは今から進みたい方向の人の動きを観察し、自分がその場所を通る頃の人の位置を予測する。クウはその予測を自分の動くスピードの5秒先ほどまで伸ばすと笑いがこみあげてくる。
「ふふふふ、あはははは、楽しいです♪ 」
今までの苦労は何だったのかと思うほどクウのスピードは上がり始めるそんな姿を見て大和は焦りながらクウに叫ぶ。
「嬢ちゃん! スピードの上げすぎだ! あんたが誰かにぶつかったら相手は死んじまうぞ! 」
大和がクウに向かって叫んだその時。路地から子供達の集団が走り出てくる。
大和は完全にクウが子供達にぶつかると思った瞬間、クウは子供達の間を通ったことを気づかせないスピードで通りぬける。
クウが子供達の集団を通り抜けたところで大和が来るの待ちそれに追いついた大和がこぼす。
「いや~ まいった! あれを余裕でかわすのか。俺は、正直クウの嬢ちゃんが子供達と完全にぶつかったとおもったぜ」
「えへへへ、やりました♪ 大和さんのアドバイスのおかげで1段壁を登ることができたです♪ ありがとうございました♪ これで師匠にも褒めてもらえると思います♪ 」
「へぇ、クウの嬢ちゃんは師匠がいるのか~ いったい誰に教えてもらっているんだ? 」
「はい冒険者の流さんです♪ 」
それを聞いた大和はすぐに聞き返す。
「クウの嬢ちゃんはあの【達人】の弟子なのか!? それは羨ましいかぎりだぜ・・・・」
大和は以前達人に会った際に弟子にして欲しいと言ったが断わられたのであった。
「嬢ちゃんも冒険者だったか。なら改めて自己紹介だ。俺はB級冒険者チーム【黒い流星】の大和だ宜しくな、クウの嬢ちゃん! 」
「よろしくお願いします! 私はI級冒険者チーム【軍団】のクウといいます! 改めて宜しくお願いします♪ 」
「ええええええ!? クウの嬢ちゃん【軍団】なのか? あの今王都で噂になっている! 」
「噂になっているかはクウは知りませんが【軍団】なのは間違いないです! 」
「となるとクウの嬢ちゃんは下っ端なのか? チームに入ればあの流さんの弟子になれるのか? 」
大和はB級のためI級ランクの授与式の後の模擬戦の事は知らないため、様々な質問をし始める。
「流さんの弟子はクウだけなのです♪ 下っ端といかうちは今6人だけなので上とか下とかないはずなんですが・・・・う~ん、でもクウはチームに入ったのは2番目ですけど~ う~ん、よくわからないです♪ 」
「はははは、6人しかいないのになんで【軍団】なんだ・・・・ 」
大和が不思議に思うのは無理もなく2つ名をもつチームは大きな功績を挙げたチームでその功績から2つ名がつくことがほとんどである。
s級A級のチーム【ドラゴンスレイヤー】【海の守護者】などそれぞれ逸話をのこしている。
緑のチームは【軍団】が2つ名を受ける事になった理由が多すぎた。スタンピードを1つのチームで壊滅させる。戦後復興での資源援助での活躍。他の人からはモンスターにしか思えない大量の家族。
以上の事から今回の2つ名の授与の際に話される逸話は戦後復興の話であった。そのため噂を聞いた人々はとてつもなく集団行動を得意とする沢山の人員をもつチームだと思った。
そんな、噂を聞いた1人の大和はクウの話を聞き混乱するのであった。
その後、クウは大和とそれぞれ受けた依頼を完了させるとダンジョンに大和を招待するのであった。
「な、な、何なんだここは・・・・」
まず、家に招待すると言われて連れてこられたのが孤児院でそこには似つかわしくない扉がありそこをくぐる。
くぐった先には山、川、海、と豊かな自然があり王都でも見たことが無いような高い建物、そこかしこに居るドライアドと思われる子供、さらにはモンスターが背中に子供をのせて歩いている。
そんな光景に唖然とするなか不意に声を掛けられる。
「あれ? どちら様ですか? 」
大和が声を掛けられたほうを見ると緑が立っていた。大和の後から扉をくぐり緑を見たクウが帰宅時の挨拶をする。
「緑さんただいまです♪ こちらの方は今日一緒に【赤い依頼】受けたB級チームの【黒い流星】の大和さんです♪ 」
それを聞き緑が大和に挨拶をする。
「初めまして水野 緑と言います。今日はクウがお世話になったようで。どうぞゆっくりしていってください」
「あ、はい宜しくお願いします」
頭がついていかず気の抜けた返事をする大和。そんな大和の頭を現実に引き戻したのが【達人】の流であった。
「あ、師匠ただいまです♪ 依頼完了してきました♪ 」
「ふぉふぉふぉ、その様子だとなにか掴めたようだな」
「はい、こちらにいる大和さんにアドバイスをもらって1段壁を登れたと思います♪ 」
「確かお主は・・・・黒い流星の者だったかの? 」
「はい、そうです! 覚えててもらえて光栄です! 」
そんなやり取りをしていると緑が大和に今日は泊っていってはどうかと尋ねる。
すると大和は他のチームのメンバーもいるからと断ろうとするがそれならチーム全員でくればいいと言うのであった。




