4話 ミドリムシは虫を捕まえた
キラービーだというアランの叫びのあと、再び兵士達が慌て始める。
「キラービーって強いんですか?」
「ああ、クラスで言うとc級の魔物なんだが、今回は場所が悪い。街の外での遭遇なら問題は少ないが街に近い場所での戦闘となると、こちらは街を守るのを念頭に置くため、どうしても後手に回ってしまう……」
そこまで言ったアランは苦虫を噛み潰した表情をする。緑がアランを見ているとさらに続ける。
「さらに普通体長は30㎝ほどだが、あいつは60㎝程もある……もしかしたら女王なのかもしれん……そうなってくると今後街の近くに巣を作られては被害がかなり拡大するためにここで仕留めておきたい」
「なるほど、それはここで仕留めておきたいですね」
「だが、あいつを仕留めるには現状の戦力では相性が悪い。あいつを仕留めるには、魔法で動きを遅くした上での倒しにかかるんだ。それもターゲットがこちらに向くことがわかる状況での話だ。今ここで戦闘を始めるとどこにターゲットがいくかわから、迂闊に手がだせない。万が一街の人間にターゲットが行くと、それこそ魔法で動きを遅くしてない今では止めることができず被害が出てしまう。魔法で動きを遅くしてない状況や、女王の事を考えるとランクは1つ上がると思われる」
「今、動きを遅くできる魔法を使える方は、城壁近くにいないでしょうか?」
「今は居ないな……」
それを聞いた緑は考え込む。動きを遅くできないのであれば、広域に広げる網のようなもので絡めとりさえすれば、魔法がいらないのではと結論をだし、緑はおもむろに服を脱ぎ始め上半身を露出させる。
「緑、なにやっとるん?」
「どうしたんだ緑?」
緑の奇妙な行動にアラン達が心配し声をかける。そんな言葉を気にせず緑はアイテムボックスにしまってあった実から水を取り出し、勢い良く飲みはじめ、さらに水を飲むだけではなく、頭から浴びはじめる。
場所は城壁の上で、天気も快晴であり、太陽を遮る雲もなく緑は超光合成を開始する。
兵士達がキラービーの対応で忙しくしている中、緑は短時間の間に大量のエネルギーを作っていき、それを髪の伸ばすことに消費する。
もともと街にくるまで作り続けていたものと合わせ、莫大なエネルギーを消費し、緑は伸ばした髪で空中に持ち手のない大きな虫取り網を完成させる。
「よし!できた!」
緑の発言にアラン達は、空中に突如として現れた巨大虫取り網が緑の髪で作られたことに気づく。
「髪を伸ばせるらしいがここまでできるのか……」
「うわ~ めっちゃでかいな~ あれならキラービーも捕まえれそうやね、お兄」
「せやなぁ~ あそこまで緻密で大きいもんまで編み込むことができるのはびっくりやわ!」
セリアとドナの会話をよそに緑が叫ぶ。
「アランさん。兵士の人達にキラービーの気をそらす様に伝えてください」
緑に言われ、アランは兵士達に状況を説明し、キラービーに一斉攻撃をさせる。兵士達の一斉攻撃を避け続けるキラービーだが、不意に攻撃がやむ。先ほどまで多彩な遠距離攻撃を受けていたキラービーは一瞬の間、その場に留まり状況をうかがう。
その一瞬が命取りとなり、緑の作った虫取り網は、キラービーを包み込むと、そのまま地面に叩きつけた。辺りは静まり返り、皆の視線が虫取り網に向けられる。
「大丈夫です。まだ死んではいませんが、虫取り網からは逃げれないようです」
緑の言葉を聞いたアランが叫ぶ。
「キラービーはここにいる緑が捕まえた! もう大丈夫だ!」
「うぉおおおお!」
兵士たちは喜びの声を上げ、緑やアラン達の周りに集まる。
「あんた、よくやってくれた!」
「あのままだとじり貧で、街に入られたら結構な被害がでてたはずだ! よくやってくれた!」
兵士達は思い思い感謝を伝えると、自分達の持ち場に戻っていった。そんな中1人だけ緑のそばに歩いてくる人物がいた。
「ありがとう、助かった。さすがアランが保証するだけの事はあるな」
それは、先ほどアランが保証するなら、緑に街の中に入ることを許可した人物だった。
「俺はカールってんだ。ここではまぁ、兵士長をやってるんだ。今後ともよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします。僕は【水野 緑】と言います」
「緑だな、何か困ったことがあれば相談にのるよ。ところでそのキラービーはどうするんだ?」
「少し考えがあって」
そう言うと緑は、虫取り網で捕まえたキラービーに歩みよる。
緑は少し前に髪に実がなったなら、もしかしたら花も咲くんじゃないかと考えていた。そのことから緑はエネルギーを体外に出しながら、花が咲くイメージする。すると、予想通り緑の髪に1つの花が咲く。
「ねぇ、良ければ僕の仲間にならない? ご飯は蜂蜜であれば、僕が咲かす花から採ってもらって構わないから」
緑がそういうと髪に咲いた花から蜂蜜が滴り落ちる。だが、捕まったキラービーは念話を使って、緑に叫ぶ。
(くっ殺せ! 私はまだ自分の国を作っていないが女王だ! 誰かに支配されるものではない!)
そんな、キラービーの念話に言葉をかえす。
「大丈夫、僕は支配なんかするつもりはないよ……それに僕の蜂蜜はとってもおいしいと思んだ、とりあえず友達になるかは別として、まずは試しに飲んでみてよ」
緑の言葉にキラービーの考え込む。しばらくの間、緑が蜂蜜を差し出していると、キラービーはゆっくりと体を動かし、蜂蜜をなめとる。アラン達が緑が攻撃をうけないか心配する中、キラービーが蜂蜜をなめた。
その瞬間キラービーの体が輝きだし、まわりに居た者達がその視界を奪われ、慌ててさけぶ。
「なんだこれは!」
「やばっ! めっちゃ眩しくて見えへん!」
アランやセリアが慌てる中、緑だけは落ち着いていた。
(この蜂蜜は! なんと芳醇で力がみなぎる! ああああっ!)
光が収まるとそこには1人の女性が立っていた。見た目は蜂の触覚と羽が無ければ人と見分けがつかない。その女性は緑の前までゆっくり歩きそ跪く。
「わが主様。これより私は貴方の配下になり、この命ある限り仕えることを誓います」
元キラービーの女性は緑の前で跪きそう言う。
「とりあえず服をきようか。悪いけどこれで我慢しておいてくれる?」
そう言って緑は顔を真っ赤にしながら、先ほどの虫取り網の一部を慌てて服の形に編みなおし手渡す。中身が中学生の緑には刺激が強かった。キラービーは大人の色気が溢れる美しい女性になっていた。
緑から手渡された服を着たキラービーが呟く。
「これは主様の髪で編んだものですね、これを私が着てもよいのでしょうか?」
「さっきも言ったけど配下とかでなく友達になってくれるかな? 服はその証かな? デザインが気に入らなければ編みなおすから言ってね」
「主様……いえ、緑様これからもよろしくお願いします」
緑とキラービーは握手をする。
そのやり取りを見ていたアラン達は嫌な汗をかき始める。
「魔物が進化したのか? 魔物が人になれるなど龍種くらいなのだが……」
カールとアランは顔見合わせ困惑している。同様にドナやセリアや他のメンバーも引き攣った顔をして緑たちを見ていた。
「とりあえずギルドマスターに報告だな…… アランこれから依頼の完了の手続きをしにギルドにいくんだろう? すぐに報告をたのむ、俺は兵士達に情報を広めないよう言い聞かせておく」
「わかったそうするよ」
そうカールに言うとアランは全員に声をかけギルドに向かうのであった。