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292話 ミドリムシの卒業試験


 緑達がこの世界に来てから功績を上げ、各国の王から全幅の信頼を得ていく中、緑達に反感を持つ者がいないわけではなかった。

 だが……今まで緑達に直接手を出す者達がいなかったには理由がある――それは、緑達が持つダンジョン。


 膨大な魔力を糧に有限でありながらほぼ無限に広がるもう一つの世界。


 もちろん緑達に反感を持つ者達の中でも馬鹿な者達は数多くいた。

 彼等は安易に緑達に手を出した挙句、返り討ちにあい緑達の記憶にも残らなかった。


 だが……今回緑達がダンジョンを開放し、少なくない金銭を受け取り交通機関としたことで、緑達のダンジョンに入れる事が可能になる。

 そんなチャンスを待っていた緑達に反感を持つ馬鹿ではない者達が一斉に動き出す。


 昼間の喧騒とは違い、緑達がいる今の世界では()()()()()()は日が暮れるとは家から出る事は少ない。

 そんな世界で日が暮れ、人々が寝静まった頃に門を潜る者達が現れる。


「いくぞ」

「ああ、油断は無しだ……」


 侵入者達は、油断なく緑達のダンジョンに続く門を潜っていく。





 少し時間は遡り、各国の王が緑達のダンジョンを交通機関として利用する提案を受け、様々な取り決めを話し合う中で王達は尋ねた。


「門を閉める時間はどうする?」


 各国の王の質問に緑達は首を左右に振り答える。

 そんな緑達の様子を見た王達は、首を捻りさらに尋ねる。


「なら、夜中の間も冒険者達に門番をさせるのか?」


 だが、門番をするのは、緑達のダンジョンに入る条件を満たした冒険者達。

 彼等は各国でも厳しい条件と信頼を得ている一握りの冒険者達。

 そんな彼等を夜中まで門番をせさようとは、考えてはいないと緑達は答える。


「なら……門を閉めない夜中の間の警備をどうするのだ?」と聞かれると、緑達はニヤリと笑い答える。


「僕達に反感を持つ者達が襲って来るなら夜中だと思います。そんな彼等には、見せしめになってもらおうと思う」

「なるほど、そういう事か……」


 緑達の言葉を聞き、王達は緑達の考えが読めそれ以上何も言う事はなかった。





 魔法やスキルを使って辺りに人の気配が無いことを確認した彼等は門を潜った後、緑達の居場所を探すため方々に散ろうする。

 その時だった、目の前の地面から彼等を包囲する様に()()()()()()()()


 それは、干支緑達が使役する黒い魔物達。


 緑達を虎視眈々と狙っていた者達が差し向けた者達の腕は決して低くはなかった――だが、相手が悪すぎた。

 日の落ちた暗闇が支配する世界で、闇の魔法を使う干支緑達が使役する魔物達は、昼間以上にその強さを増していた。


 緑達のダンジョンでは普段であれば、冒険者達のために遅くまで開けている酒場がいくつもあったのだが……ダンジョンに多くの人を受け入れたこの日、明かりを灯している酒場は()()()()()()()

 それどころか、街頭すら明かりがついておらず、ダンジョンで明かりを灯しているのは、侵入した彼等が持ち込んだ心もとない小さな光源だけであった。


 侵入した彼等が黒い魔物達に気づき叫ぶ。


「資料にあった例のガキ共が使役する魔物だ!」


 侵入者達は、戦闘体制に入りお互いの死角を潰す様に背中を預け合い、彼等を包囲する黒い魔物に対して円を描く様に対峙する。

 だが、空から見ればぽっかりと空いた円の中心、彼等の背中から子供の声がする。


「みんな、ころしちゃだめだよ~」


 その声に驚いた侵入者が振り返った瞬間、彼等は後頭部に強い衝撃を受けその意識は深い闇の中へ沈んでいった。

 その後、ダンジョンの中では侵入者の悲鳴が上がりはじめる。


「は、はやすぎる……」


「く、来るなー!」


「いやっ! いやっ! こっちに来ないで!」


「助けてーっ!」


「もう無理だーっ!」







 翌朝、緑達のダンジョンでは侵入者達が、緑色の髪で簀巻きにされ道端に転がされていた。


「こうして見ると少し、可哀そうに見えるな……」


「昨日、ダンジョンに居る人間には決して夜は出歩くなと、お達しがあったからな……」


 二日目の門番をする予定の冒険者達は、門の近くで簀巻きにされた侵入者達を憐れむ様な目で見ながら呟く。


 ダンジョンに人を迎える前日、緑達からダンジョンに居る人々に、決して明日の夜は絶対に出歩かない様にとお達しがあった。

 その理由について聞かれた緑達が答えたのは、夜に出歩いている者がいれば干支緑達が容赦なく捉えるからと言ったものであった。


 その言葉を聞いた干支緑達と同じ学校に通う者達は震え上がる。

 彼等からの中には絶対に夜間出歩かないため、普段はすることの無い夜間に必要な物を何度も確認する者や、この機会に故郷に里帰りする者まで出ていた。


 冒険者学校が緑達のダンジョンで開校されてしばらく、干支緑達と学校で同じ授業を受けた未来を期待された若い冒険者達は、干支緑達と机を並べながら加減を知らぬ彼等を知り、日に日にその行動に恐怖を覚えながら学校に通っていた。

 

 そんな干支緑達と同じ学校に通う冒険者の一部には、その夜にあえて出歩き干支緑達の襲撃から逃げおおすと言い、一種の根性試しをする者達も現れたのだが……結果逃げ切れた者はおらず、彼等は干支緑達に気絶させられ、侵入者とは違い簀巻きにされる事は無かったがそのまま道に転がされていた。


 


「くそっ! 話しに聞いたい以上の化け物じゃねぇかっ!」


「ああ、命あっての物種だ! こいつ等と戦うなんていくら金を積まれたってわりに合わねぇ!」


 侵入者のグループの中でも、一番の腕利き達は黒い魔物の襲撃を退け、ダンジョンの中を逃げ回りながら叫ぶ。


「もうすぐ夜が明ける! 人の目が増えればこの追っ手も止まるはずだ!」


 彼等は、高ランクだがその素行で緑達のダンジョンに入れなかった冒険者。


「前方に広場がある! あそこなら突然の襲撃は回避できる!」


 辺りに目を配っていた彼等の仲間の斥候がそう言って、ダンジョンの訓練所を指さす。

 そして、彼等は訓練所の真ん中に着くと警戒態勢を取り、円を描く様に周り見るのではなく、二人一組となり背中を文字道理ぴったりとつけ合い、影からの襲撃を無くす。


 そして、彼等は襲撃を受ける事もなく、うっすらと見えはじめた朝日に気づき口を開きはじめる。


「見ろ! 日が登って来たぞ!」


「これでここに来た人間に紛れて帰れるぞ!」


 うっすらと明るくなってきたことに喜び声を上げる彼等……。

 だが、彼等の警戒網に一つの気配が引っかかる。


 彼等は、その気配に気づいた瞬間、口を紡ぎ気配の方に視線を向ける。


「ふむ、あなた達が一番の手練れだな……」


 気配の主がそう言うと、気配が一気に増える。


「ちっくしょうーっ! 魔物どもの飼い主が出やがった!」


 言葉とは裏腹に侵入者達は、冷静に声の主を全力で警戒する。


「黒い魔物も事前の情報よりも強かった。その飼い主が魔物より弱いはずが無い」


 侵入者の一人がそう言うと、他の者達もその意見に同意し、決して声の主から視線をそらさずその言葉に頷く。

 そんな彼等の態度とは裏腹に、声の主は友人にでも話しかける様な気軽な様子で口を開く。


「あなた達には悪いが、我々の卒業試験になってもらう」


「卒業試験?」


「ああ、我々の卒業試験だ。これに合格すれば我々だけで、ダンジョンの外で自由に活動しても良いといわれている……我は特に気にしないのだが他の兄妹達が、それを強く望んでいる」


 そんな言葉を聞き、侵入者の一人が怒りを露わにする。


「お前らの卒業試験なんかのために簡単に殺されてたまるか!」


 その言葉を皮切りに他の侵入者も口を開く。


「そうだ! お前らをぶっ殺して地獄の様なここからおさらばする!」


「ガキ共が俺らを簡単に殺せると思った大間違いだぞ!」


 そんな彼等の言葉に小さな声の主は続ける。


「大丈夫だ。我々は絶対にあなた達を殺しはしない。むしろ傷つけずに捕まえるのが我々の卒業試験だから、安心してくれ。さらに付け加えるなら、捕まえた後も絶対に危害を加える事もなくあなた達には、ダンジョンから出てもらい、雇い主の元の帰ってもらう。そして、ここであったことを正確に伝えて欲しい。そして、それができた後もう一度このダンジョンに来てくれれば、我々の兄や姉たちが今回の依頼達成に提案されていた金を払うそうだ。


「「なっ⁉」」


 小さな声の主の言葉に侵入者達は、驚きの声を上げる。


 小さな声の主の言葉では自分達は殺される事もなく、ここから生きて帰れることを聞かされた上に、ここでの事を依頼主に伝えて戻ってくれば、依頼達成で貰えるはずだった金を貰う事ができるのだと……。


 金に執着する侵入者達は、考える。


「なら、俺達は……」


「おっと、悪いがここで投降は無しだ。そんな事になれば我々の卒業試験がなくなってしまうからな。それに金の話はあくまで、あなた達が全力で抵抗した上での話だからな……命の保証された腕試しの様なものだ、もちろん腕試しと言ってもそちらは全力で殺しにかかって来てくれてかまわないからな」


「ふん。話は分かった……だが、俺達にも信用ってもんがあるんだ!」


 そう叫ぶと侵入者達は、小さな声の主に向かって走り出す。


「ふむ、卒業試験開始だ兄妹」


「「はーい!」」


 こうして、干支緑達の卒業試験がはじまった。





「「なんでー⁉」」


「ちゃんとむきずだよー」


「うんうん、がんばったもん!」


 夜が明け、緑と魔緑の前に侵入者達を簀巻きにして運んできた干支緑達が非難の声を上げる。


「馬鹿! 確かに無傷だが、お前達こいつ等をボロボロにして倒した後に治癒の実を食わせただろ!」


 非難の声に魔緑が眉を吊り上げ答える。


 魔緑の言葉に緑が「あちゃー」と言った様子で天を仰ぐ。


 だが、そこで辰緑が手を上げ魔緑に反論する。


「待ってくれ魔緑兄よ。確か兄は、一番強い侵入者達を無傷で連れて来いと言っただろう? なら、過程に多少の傷があっても良いのでないか? それにこの卒業試験は兄妹が悪党でも安易に人を殺さない様にするために試験だったのだろう?」


「ああ、その通りだ」


 辰緑の反論に魔緑が頷く。


「だが、辰! 干支達の中で唯一のブレーキ役と思っていたお前が龍になりブレスまで吐きやがって! 治癒の実が無ければ、あの侵入者達は危なかったんだぞ!」


 侵入者達の戦いで干支緑達の中で、唯一の理性だと思っていた辰緑が今回龍に変貌しブレスまで吐いていた。

 もちろん、侵入者達は辰緑のブレスで全滅した。


「そ、その件は申し訳ない。訓練とは違い本気で殺しにかかって来る敵と戦うのがあれほど心躍るものだとは思っても見なかったのでな……」


 魔緑の言葉でいつも以上に小さくなる辰緑に緑が助け舟を出す。


「ねぇ、まーちゃん。今回は少し辰ちゃんが暴走したけど、僕達も過程で無傷とは言わなかったし、いいんじゃないかな?」


 その言葉にハッとして顔を上げる辰緑。

 だが、魔緑は続ける。


「駄目だ。今回の件でわかった事だが、辰緑の考え方が龍種に近く危険だ……強くなり、より強者との戦いを好む。それを許せば、こいつらが次に誰と戦おうとする?」


 そう言って魔緑が視線を向けた先に居たのは、干支緑達の卒業試験の合否を聞きに来たサラマンダー達であった。

 視線を向けられた龍種達は即座に明後日の方向を見て、そんな事は考えていないと言ったポーズをとる。

 そんな彼等を見て魔緑がため息を吐いた後、言葉を続ける。


「あいつら合体した干支緑達と戦いたそうにしているからな……だから、仮合格だ。今後、家族と本気で戦いたいときは、俺達に話してからにしろ。もしダンジョンの外で、俺達に匹敵する強さを持った敵と本気で戦う様な事になりそうなら全力で逃げろ。じゃなけりゃダンジョンの外に出て、干支達だけで単独で動くことは許さない!」


「「⁉」」


「と言う事は、魔緑兄よ卒業試験は一応合格と考えて良いのか?」


「仮だぞ! 仮!」


「「やったー!」」


 こうして、干支緑達の卒業試験は仮合格となった。



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