288話 ミドリムシだよ全員集合
魔緑を先頭に兄妹が狂人の群れに向かう途中、魔緑は前を向いたまま2人に向かって尋ねる。
「お前達の事はなんと呼べばいい?」
「僕の事はリリーと妹はローズと呼んでくれるかい?」
「わかった。俺は一応魔緑と呼ばれることが多いが……まぁ、好きに呼んでくれ」
緑達は、魔緑の事をまーちゃんと呼び、リリーとローズもきっと同じように呼ぶだろうと思ったが、はじめての顔合わせで一応今の本名を名乗っておこうとした。
だが、それは呼ばれる事なく他の皆と同じ呼ばれ方をすることになる。
3人を追いかけてきた緑と腐緑が声を上げる。
「まーちゃん。お願いだから様子を見ながら魔法を使ってね」
「うんうん、組み合わる魔法の中でも最大の火力になりそうだし、ホローする私達の手に負えなかったら大変な事になるからね」
緑と腐緑の言葉にリリーとローズが笑いを堪えられずに噴き出す。
「あははは。魔緑ってかっこいいと思ったけど、皆がまーちゃんって呼んでいるなら僕達もまーちゃんと呼ぶことにしようかな。ねぇ、ローズ」
「そうねリリー兄さん。私達も魔緑さんの事はまーちゃんと呼ばせてもらう。ふふっ」
「結局こうなるか……」
ヤレヤレと頭を振りながら魔緑がため息をつく。暫くすれば2人もまーちゃんに呼ぶようになると思っていたが、まさかこれほど早くなるとは思っておらず、どっと疲れが押し寄せた。
だが、今は目の前の事を先に片づけようと気持ちを切り替え、口を開く。
「まぁ、好きに呼べばいいと言ったのは俺だ好きに呼べ。それよりも今は狂人を片付けるぞ。リリーとローズ2人は風魔法を使うんだろう? 俺の火の魔法を風の魔法でさらに火力を上げてくれ」
それまで笑っていた二人だが魔緑の言葉を聞き真剣な表情になると、魔緑に向かって返事をする。
「ああ、任せて欲しい。【超光合成】でこれほどのエネルギーが発生するなんて知らなかったから、僕とローズは一般の人と変わらない魔力でこれまで冒険者として戦ってきた。魔力の制御にはかなり自信がある」
「ええ、私とリリー兄さんでまーちゃんの火の魔法の火力をしっかり上げる」
リリーとローズが自信に満ちた表情でそう言うと、魔緑がそれを聞きニヤリと笑う。
「なら、お手並み拝見だ。少しづつ魔力を上げていく」
そう言うと魔緑が魔法で火の槍を作り出し、それを見たリリーとローズが風の魔法を使う。
「すごいな。まだ、ほとんど魔力を込めてはいないのに炎が青くなるとは……」
火の魔法は、緑達の知識によって温度が上がれば赤から青、さらに温度が上がると青から白色に変わる事が判明している。
まずはお手並み拝見と言った通り、魔緑は普段とは違い火の槍の温度をあまり上げず、火の槍を生み出したのだが、リリーとローズが風の魔法を使うと火の色は赤から青へ変わった。
本来は魔法を複数人で行使する場合、他人と協力しなければならず非常に難易度が高くなる。
緑達はこの世界に来る際に女神からもらったスキルのせいで存在が大きくなりすぎ、世界の壁を通るためにその存在を分ける事になったが元は1人の人間。
性格などは明確な違いができるほど変異し別人の様になったものの、体の動かし方や考え方の根本となる部分は似ており、それは魔法を使う場合もの同じであった。
そのため緑達が共同で魔法を行使する場合、他の者達と比べて遥かに難易度は低くくなった。
緑達は【超光合成】で生み出されるエネルギーを魔力に変換して使えるため、大量の魔力を保有していることになるのだが、それでも今もなお集まり続ける狂人達にできるだけ魔力を節約しようとしてい緑達にとってそれは嬉しい誤算となった。
(なるほど、複数の属性を組み合わせて魔法を行使する場合、足並みを揃えるのは難しいが俺達には関係ない。しかも属性同士の相乗効果があるため、同じ魔法でも必要とする魔力も少なくなるうえ威力もあがる……しかも、その節約できた魔力を上乗せすればさらに威力を上げる事ができるのか……)
嬉しい誤算に気づいた魔緑は、槍の数と込める魔力を一気に増やす。魔緑達の頭上には数えるのも馬鹿らしいほどの火の槍が浮かび上がり、その色は青色をしていた。
火の槍を作り終えると魔緑が、リリーとローズの方を見て「いけるか?」と短く尋ねると2人は魔緑に「「まかせて」」と返事をする。
すると、魔緑達の頭上で待機していた槍の色が青から白へと変化し、それを見た3人が声を揃える。
「「行け!」」
その瞬間、槍が一斉に加速して狂人の群れへと向かっていく。槍は射線上の狂人を蒸発させながら進み、狂人達の群れの中心に到達すると、大爆発を起こしていく。
だが、今もなお狂人の群れと戦い続ける干支緑と龍種達がその爆発に飲み込まれたため、緑が非難の声を上げる。
「ちょっと! やりすぎ! 皆が巻き込まれた!」
もちろん各々で魔法の障壁を張れば問題ないとは思うが、それでは彼等が無駄に魔力を消費するため、魔力を節約したい現状では本末転倒となる。
だが心配そうに緑が見つめる中、爆発で上がった砂煙が晴れると、干支緑と龍種達だけでなく干支緑達が放った黒い魔物達までもが風の障壁で守られていた。
それを見て緑が驚いた表情で2人を見る。
「大丈夫、魔力操作は自信があるって言っただろう? 風を操ることにそれほど魔力は使わないし、あの強烈な爆風を操れば見ての通りだよ」
「リリー兄さんの言う通り、爆風の方向を変える位は簡単」
そう言ってリリーが髪をかき上げる姿は、物語に出てくる王子様の様な仕草だが、その容姿と相まって嫌味は感じられず、それに呼応するかのように妹のローズが貴族の令嬢よろしくお辞儀をする。
「すごい威力な上に消費魔力も少なくなっているね。これなら、マーちゃんとリリーとローズは一緒に魔法を使えば、かなりの魔力の節約が見込めるね」
そう言いながら腐緑がやって来ると、干支緑と龍種達がやって来る。
「すごい! すごい! ドカーンってなった!」
「火と風の魔法を一緒に使ったのか⁉ 俺達龍種は魔法を混ぜるなんて使うなど考えもしなかったぜ!」
魔緑達の魔法を見て、テンションを上げた干支緑とサラマンダーが興奮気味に声を上げる。
そして、ここに6属性全てを使える【水野 緑】が集まる。
火の魔緑、水と土の緑、風のリリーとローズ、闇の干支緑、聖の腐緑。さらに上空から降りて来た風の龍種のシルフが合わさり5属性の龍種も揃う。
そして、そこから魔族の間で神話として語り継がれる戦いが繰り広げられる。
魔緑とリリーが一緒に魔法を使うと一つの国が消し飛ぶほどの巨大な爆発を起こし、緑とローズが一緒に魔法を使うと稲妻が走り、広大な面積の地面を焼いた。誰かが傷つけば天から聖なる光がさし傷が癒え、倒れた敵は闇に飲み込まれる。
龍種が暴れると屍の山を作り、そんな龍種と一緒に様々な動物の容姿を混ぜ合わせた見た事もない獣が様々な力を使い龍種以上の狂人達を葬った。
火の槍や稲妻が飛び交い風が切り裂き、時に氷の雨が降り、巨大な龍種と謎の獣が暴れ、その光景を見た魔族達は正に天変地異がだったと言う。
その天変地異は数日に渡って起こり続け、それが納まるとそこに狂人の姿は無く、そこには緑色をした5人の青年達と小さな子供が12人さらに5匹の龍種がいたという。
そして、彼等は巨大な門が出現すると全員がその門に入っていったと……。
神の遣いが自分達の世界に帰って行ったように見えたその光景は、さすがに疲れ切った緑達が魔族達に何も言わずに門を開き、自分達の家に戻ったものであった。
そして、緑達は数日ぐっすりと寝た後、再び門を開き魔族達の前に姿を現わすと、その場に居た魔族を自分達のダンジョンに招待し、狂人に勝った祝いの宴をはじめるのであった。




