283話 ミドリムシのアダマンタイト
「すまない、聞いてもいいだろうか」
弟のミノタウロスが騒いでいるクウと子供達に話しかけると、すぐにクウが返事をする。
「はい♪ 何ですか♪」
「この建物を作りはじめたころに巨大なアダマンタイトの土台を見たと思うのだが、その土台の上には何が建っているんだ?」
弟のミノタウロスは副隊長でその部下達は、クウとのやり取りを静かに見守っているとクウが少し考え返事をする。
「えっと……アダマンタイトは舞台なのでその上には何も立てていません」
「あれだけのアダマンタイトを舞台に⁉」
弟のミノタウロスはクウの返事に驚きを隠すことができず、思わず声を上げるとそれを聞いた部下達も正気の沙汰ではないと騒ぎはじめる。
騒ぎはじめた部下の1人、実家が鍛冶屋のミノタウロスが仲間を押しのけクウの前にでる。
「す、すいません! その話は本当ですか⁉ あれだけのアダマンタイトがあれば強力な武具を大量に作れるんですよ⁉」
「はい♪ アダマンタイトと言うんですか? あれじゃないと戦いはじめたらすぐに舞台が壊れてしまうんです♪」
実家が鍛冶屋のミノタウロスは、クウの言葉を聞き眩暈をおこしそうになるがさらにクウに尋ねる。
「あなた達【軍団】が強いのはわかりますが、それでもここで我々魔族の相手をする間地面が荒れるような事はなかったはずです!」
実家が鍛冶屋のミノタウロスがそこまで言うと他のミノタウロスも声を上げる。
「そうです! 確かにここで【軍団】の方達が我々魔族と戦うようになって、地面に生えていた短い草はもうなくなってしまいましたが地面はまだ形を保っています」
「いや、それは私達が本気で戦っていないからですね♪」
「「⁉」」
クウの言葉にミノタウロス達に戦慄が走る。
確かに【軍団】の力の底が見えないと思っていたが、それほどの隔絶した差があるとは夢にも思っていなかったミノタウロス達はクウの言葉を聞き茫然とする。
そんな中クウの口から願ってもない言葉が出る。
「コロシアムができたので、今から舞台が壊れないか私達家族が実際に戦って様子を見るのですが皆さんも見ますか?」
「「見ます!」」
クウの言葉に間髪入れずミノタウロス達は返事をする。
クウとミノタウロス達のやり取りの様な事がいたるところで行われ、【軍団】と戦うためにいた魔族達はコロシアムに案内されていく。
「でかすぎる……」
案内された魔族達がいざ観戦席に案内されるとコロシアムがいかに巨大かを知ることになる。
緑達が作ったコロシアムの大きさは、緑達が転移してきた世界の野球ドームよりさらに大きく収容人数は10万人に届きそうなほどの広さで、さらにその中心には一辺が100mほどの正方形の舞台があった。
そして、その舞台のまわりには【軍団】の子供達を除いた家族が集まっていた。
魔族達がざわつく中、クウとノームが舞台に上がるとそれまで騒がしかった魔族達が一斉にしずかになり、クウが叫ぶ。
「今から私とノームさんが舞台の強度を確かめるために少しの間戦います♪」
クウがそう言うと魔族達が拍手を送る。
そして、その拍手がやむと2人は舞台の中心に立ち構えをとる。
「はじめ!」
ヒカリが大きな声でそう言うと、2人はその姿を変貌させる。
ノームは子供の姿から本来の龍の姿となり、クウは外骨格をまとう。
2人はお互いの姿が変わったことを確認すると頷き合い、高速で動きはじめる。
それからの戦いは、【軍団】と戦うために集まった魔族達の中でもほんの僅かな者達のみがなんとか目で追う事ができるものであった。
その何とか目で追う事のできた魔族達は、クウとノームの実力をみて心を躍らせていた。
その一部の魔族は自分達より遥かに強いクウとノームの戦いを見て、その力のほんの一部でも紐解き何としても自分の力にしよう戦いを見ていた。
ミノタウロスノの兄弟もそんな数少ない魔族であった。
「兄さん、子緑と丑緑。あの子達は本当に子供だったんだな。これが【軍団】の大人の強さなんだね」
「ああ、これほどの力があるにも関わらず彼等は我々を殺すことなく戦ってくれたことに感謝するしかないな」
そう言った2人のミノタウロスは腕を組みクウとノームの戦いを見ていた。
クウとノームの戦いは徐々にその激しさを増していき、魔族達のテンションも最大になったところで拳と前足を相手の顔面の僅かに手前で止めて終了になる。
「それまで!」
ヒカリがそう叫ぶと観客席からため息がはかれる。
「最後は息をするのを忘れていたな」
「そうだね兄さん。すごい戦いだった」
兄弟のミノタウロスが思わずため息を吐き椅子に座る。
「戦いを見るだけこんなクタクタになるなんて思いもしなかった」
そう言った2人の部下達はその戦いを見続けるために全神経を使っていたため、見終わったいま全員が疲労困憊の様子であった。
その後、クウが外骨格を脱ぎ、ノームが子供姿に戻ると握手をして舞台から降りると戦いがはじまめる前の拍手とは比べ物にならほどの拍手と声援が2人に送られる。
長い間拍手が送られそれがやむと、今度は腐緑が舞台に上がった。
1人で舞台に上がった腐緑の姿を見て、相手は誰だと思い首を傾げる魔族達にむかって腐緑が叫ぶ。
「ここで少し、私から提案があります!」
そう叫ぶと腐緑は舞台の上からミノタウロスの兄弟を指さし叫ぶ。
「そこのミノタウロスの兄弟。私と戦ってみない? 絶対に殺すようなことはしないし、戦いが良い物であれば私個人からなにか贈り物をしてもいい」
腐緑の言葉にミノタウロスの兄弟は顔を見合わせと頷く。
「その話お受けする!」
弟のミノタウロスが腐緑に返事をすると、他の魔族が歓声を上げる。
「じゃあこっちに下りてきて!」
腐緑がそう言うとミノタウロスの兄弟は舞台に向かって下りていく。
他の魔族は、2人の前を開ける様に左右にわかれ2人に負けるなと声をかける。
2人はその言葉に手を上げ、舞台に向かって下りていく。
2人は舞台に上がり腐緑の前に立つと一つ尋ねる。
「この提案俺、達兄弟にとってはありがたいものだが、何かそちらからの要求はないのか?」
兄のミノタウロスがそう言うと腐緑は悪い笑顔となる。
「そう言ってもらえるなら、戦いの後一つお願いを聞いてもらおうかな」
「わかった、可能な限りその願いを聞き受ける」
「ありがとう。不不不不」
「あ……「では、はじめしょうか」」
腐緑の悪い笑顔に悪寒を感じた弟のミノタウロスが何かを言いかけるが、腐緑がそれを許さず話を進める。
舞台の中央に腐緑が向かっていく姿を見て弟のミノタウロスは何も言えなくなり、しょうがないと舞台の中央に向かう。
3人が中央に揃うとヒカリが声を上げる。
「はじめ!」
戦いがはじまると兄弟は構えをとったまま腐緑の様子を注意深くうかがう。
そんな2人を見る腐緑もすぐには動かず、兄弟に向かって話はじめる。
「私の武器はこれ」
そう言って自分の髪を腐緑が指さすと、すっと髪が持ち上がり幾何学模様を作り出す。
「女性の髪を斬るのは、いささか気がひけるな」
思わず弟のミノタウロスがそう言うと腐緑が笑いながら答える。
「あははは、いいね。紳士な男性はどんな種族でもかっこいい。でも、さっきの戦いを見ていたよね私は、あの2人と同じくらい強いからその気遣いはいらないし。これを見て」
そういって腐緑は自分の髪の長さを伸ばしたり縮めたりする。
「こんな感じで長さも自由自在だから気にしないでね」
「わかった、全力で戦わせてもらう」
そう言うと弟のミノタウロスは斧を持ち、腐緑にむかって走り出しその斧を振るう。
「何⁉」
振るわれた斧は、腐緑の髪に阻まれその動きを止める。
「髪だけど決して切れないと思ってくれていいよ」
腐緑がそう言うと弟のミノタウロスの陰から兄のミノタウロスが飛び出す。
「では試させてもらう!」
兄のミノタウロスは斧を全力で腐緑に向かって斧を振り下ろす。
「弟よ話は本当の様だ」
兄が全力で振り下ろした斧も腐緑の髪を切り裂くことが出来ず音もなく弾かれる。
兄弟はすぐに後ろに飛びのき距離を取る。
「格上なのはわかっていたがここまで手がでないとは……」
「髪に阻まれない様に攻撃を叩きこむしかない様だな」
兄が悔しそうにする中、弟は冷静に次の作戦を兄に伝えると2人は手に持っていた斧を舞台に置き構えを取ると素手で腐緑に向かっていくのであった。




