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281話 ミドリムシの兄弟愛


「ぐっ」


「大丈夫か兄さん。この実を」


「なんだ? この果物は?」


「いいから食べて」


 弟の魔族は、干支緑達からもらった治癒の実を地面に横たわる兄の魔族差し出す。

 兄の魔族は怪訝そうな表情をしながらも実にかじりつく。


「こ、これは」


 兄の魔族は体の芯に残っていたダメージがすっと引いたことに驚き目を丸くすると、寝ていた状態から起き上がり地面に座る。


「兄さん。ここでは、絶対に相手を殺さない戦いがずっと続いているんだ」


 そう言った弟の魔族の視線の先では、【軍団(レギオン)】が挑戦を受け様々な魔族と戦っていた。


「馬鹿なそれでは相手に手の内をさらけ出してしまうではないか!」


 弟の魔族の話を聞き、思わず叫ぶ兄の魔族。


「ああ、そうなんだ。だから彼等の()()()()()挑戦者に対して必要最低限の力で勝ち続け、傷を癒し力を蓄え再び挑戦してきた者には、その手に入れた力より少し上になるように力を使い倒すらしい」


「そんな馬鹿な! それでは、彼等はここに挑戦しに来る者達をわざわざ鍛えているようなものではないか⁉」


 兄の魔族の言葉を聞いた弟の魔族は思わずフッと笑う。


「まぁ、さっきほとんどと言ったがそうでない者もいる」


 弟の魔族がそう言うと、すっと指をさす。


 兄の魔族がそのさした方に視線を向けると、この場では珍しい1対多数の戦いがはじまろうとしていた。


 しかも単独で戦うものは先ほどの干支緑達と同じほどの背丈の子供。


「相手になる魔族も俺ほどではないが、決して弱くはない。お前と同程度の者達に見えるが……」


 そう言って兄の魔族が弟の魔族に視線を向ける。


「ああ、俺も前回ここに来た時は驚いた。俺と同程度の魔族達が集団で子供戦うと聞いてな……思わずその戦いを観戦してしまった」


 弟の魔族そこまで言うと、歓声が上がり戦いがはじまる。


 子供相手にも関わらず、魔族達は陣形を組み子供の動きを注意深く観察する。

 それはあたかも強大な敵と戦う準備の様であった。


「あの者達は何をしているのだ?」


 あまりに魔族達の行動が慎重なため、兄の魔族が思わずそう言った瞬間に戦いが動く。

 観戦する者達の目に、魔族の戦士達を1人で相手取る子供の四肢が遠目に見ても膨らんだように見えた。


「な、なんだ。あれは?」


 それはあまりに不釣り合いな姿。

 小さな子供の胴体に巨大な四肢がついている。


 それを見た観戦者達から再び歓声があがる。


「今回は尻尾も生えているぞ!」


 その声を聞きさらに歓声があがる。


 アンバランスな姿の子供がのそりと一歩前に進むと魔族達は距離をあけるように一歩下がる。

 そんな魔族達の様に子供がニヤリと鋭い歯をみせると、アンバランスな子供が魔族に向かって走り出しその巨大な腕を振る。


 魔族の1人がその手に持つ巨大なタワーシールドで子供の前に飛び出し、子供の振るった拳を受け止める。


「ぐうっ! ぐっは!」


 しかし、その巨大なタワーシールドを持つ魔族は拳を受け止めるどころか、そのまま盾と一緒に吹き飛ばされる。

 前衛が紙の様に吹き飛ばされ魔族達は浮足立つかと思われたが、彼等はまるでそうなることがわかっていたかのように次への行動がはやかった。


 拳を振るった状態のアンバランスな姿の子供の両サイドから、魔力を纏った拳とナイフが迫りくる。

 拳を繰り出した者、ナイフを振るった者、観戦していた者達全員が当たると思った。


 だが、その攻撃は弾かれる。

 当たる前に弾かれたのではなく、その攻撃は確かに子供の体に当たっていた。

 当たったのに攻撃は弾かれた。


「くそっ! なんて硬い鱗だ!」


「ぐうっ! 拳が!」


 拳を繰り出した魔族が思わず苦悶の声を上げ、攻撃した手をもう片方の手でおさえる。


「一旦さがれ!」


 そう言って前に出たのははじめに吹き飛ばされたタワーシールドを持った魔族。

 拳を痛めた魔族はその魔族の後ろに下がり、子供との距離をとる。


「さっきは吹き飛ばされる方にとんでダメージをへらしたか。前回と違い中々良いうごきだ。しかも回復魔法を感じた。回復役も慌てなかったようだな」


 そう言って子供がニヤリと笑うと服が破れその肌が見える。


「あれは……龍種なのか?」


 子供の破れた服の下からあらわれた真っ赤な鱗を見て、兄の魔族が思わず声を出す。


「ああ、彼は遥か東にある龍種の国から来たと聞いた。しかもその国の火の属性の龍種で一番の強者らしい」


 座って眺めていた兄の魔族は、いつの間にか立ち上がり観戦した弟の魔族を見上げる。

 だが、さらに兄の魔族は驚くべきことを弟の魔族の口から聞くことになる。


「それでも彼は、彼等のチーム【軍団(レギオン)】では一番ではないと言っていた」


 思わず息をのむ兄の魔族。


「ば、馬鹿な」


「兄よ俺が話を聞いてここに来たのは数日前に、ことのはじまりは【軍団(レギオン)】で一番の者がここで1人の魔族から挑戦をうけ戦った事と聞いた。その彼は丸1日魔族達の挑戦者達の相手をしたらしい」


「本当なのか?」


 兄の魔族がそう尋ねると一際大きな歓声が上がり、視線を戦いに向けると挑戦した魔族達が全員地面に倒れており、彼等は装備していた鎧の一部が壊されていた。


「あのレベルの装備を破壊するだけでなく全員が一撃で気絶させられるのか……」


「ああ、鎧を通り抜け体の内部にダメージが伝わると攻撃を受けた者が言っていた」


「だが、あのタワーシールドは……」


 兄の魔族が言うように、挑戦した魔族が持っていたタワーシールドがまるで使い終わったちり紙を丸めた様になっていた。


「ああ、今回は彼が気に入られたらしい……彼の攻撃を良く防いでいたからな」


「俺はお前との話しで周りの音が聞こえてなかったのか……」


「いや、彼が盾を奪うとそのまま両腕でゆっくりと盾を折り曲げてしまっていた。ここからでは音もきこえなかった。だが、そんな時は大抵【軍団(レギオン)】はその者にその優れた技術で作った装備を送るらしい」


「戦闘能力だけでなく武具の開発技術も高いのか……」


 兄の魔族は自分の両手をしばらく眺めていると、突然両手を強く握りこむと立ち上がる。


「あーはっはっはっは! 負けて楽しくなるのは何時ぶりだろうか! 弟よ一度返って部下達にも準備をさせ全員でここに戻って来るぞ」


「そう言うと思っていた」


 弟の魔族がそう言うと一人の魔族が兄弟の元に走って来る。


「副隊長! 準備をしてまいりました!」


 その魔族は彼等の部下の1人であった。


「野営の準備は?」


「はっ! 【軍団(レギオン)】の方達の言われた通り少し離れた場所に陣をたてました」


「そうか、ありがとう」


 そういって弟の魔族は兄に手を差し伸べると、兄を立たせると頭をさげ言う。


「隊長、久しぶりに手合わせをお願いします」


 弟の魔族はそれまでの兄弟間の口調から上官との口調へ変え、兄の魔族に言う。

 それを聞いた兄の魔族は嬉しそうに笑いながら言う。


「ああ、丁度俺もそう思っていたところだ。全員に通達しろ! ここで俺達はまだまだ強くなれるぞ!」


 そういって兄弟と部下は野営地に向かう。


 そんな彼等を少し離れた場所から見ている者がいた。


「腐腐腐腐、兄弟の愛もいいね。彼等が一緒に挑戦した時は私が変わってうけようかな♪」


 そう言って腐緑は嬉しそうにスキップして去っていくのであった。


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