280話 ミドリムシと兄弟
何物にも例外はある。
干支緑達が緑の代わりに魔族の挑戦を受けはじめ数日が経ち、緑達に挑戦をしに来る魔族の中でも干支緑達はその実力を認められつつあった。
だが、干支緑達に負けた魔族を馬鹿にしその実力をはかれない者がいた。
しかもその者は魔族の中でも有名な戦士だったため、緑達に勝てはしなくとも実力が上がるきっかけになれば良いと思う者や、殺されずに実力が高い者と戦える経験を得に来た者達を列の後ろから攻撃し、戦闘不能にしながら列の先頭にやってくる。
列に並んでいた魔族達は後ろからいきなり攻撃され、怒り心頭に振り返るもその魔族の顔を見ると悔しながらに黙って道を開けるしかなかった。
そんな行動に気づいた魔族達と戦っていた干支緑達と他の家族は、その魔族に気づくと戦っていた者と勝負がつくと次の魔族に待ったをかけ、その魔族が列の先頭に来るのをまっていた。
「ここに我が愚弟を倒した子供がいると聞いた! いますぐに出てこい!」
そう言ったのはミノタウロスの魔族。
その魔族は利き手ではない左手で1人の魔族を引きずりながらやって来た。
引きずられていたのは先日、子緑と戦ったミノタウロスの魔族。
彼の体には無数の傷があり出血も多く息も絶え絶えであった。
そんな彼の姿を見た子緑は激高して、思わず彼を助けるために走り出そうとするがそれを辰緑に止められる。
子緑が振り向くと辰緑が首を左右にふる。
「ぼくじゃかてない?」
悲しそうに聞く子緑に辰緑は静かに頷く。
辰緑の返事に子緑は悔しそうにうつむく。
「じゃあ、ぼくは?」
そう言って辰緑と子緑の元にやってきたのは丑緑。
先日の話を特別兄弟の中でも仲の良い子緑から聞いていた丑緑だが、辰緑は再び首を左右にふる。
それを見て丑緑も悔しそうにする。
だが、その時3人を見た魔族が口を開く。
「ほう、お前達も兄妹がいるのか? お前達の様な子供など何匹いてもかまわない! 全員で俺と戦え!」
魔族がそう言うと辰緑はニヤリと悪い笑顔を見せる。
「本当にいいのだな?」
辰緑がその魔族の前に立ち確認する。
「ああ、何人来ようがかまわない!」
魔族の言葉を聞くと辰緑は振り返り、子緑と丑緑に笑いながら話しかける。
「と言う事らしい。2人で戦うなら大丈夫だ」
「「ほんとう⁉」」
「ああ、ただ合体してでの話だ」
「「がったいか~」」
子緑と丑緑は辰緑から出された合体する条件に悔しそうにする。
干支緑達は、兄妹で合体するとその戦闘力が爆発的に上昇する。
以前に自己防衛反応の様に合体した時、寅緑、巳緑、申緑の3人は鵺の様な姿となり大量のゴブリンを雷で焼き払った。
その時、付き添いで一緒に行動していた龍種達は短時間ながら鵺の力が自分達に匹敵すると喜んでいた。
だが、当の干支緑達は合体することにあまり良いイメージを持っていなかった。
それは、干支緑達がダンジョンで流の元で鍛錬をし実力をつける中で、合体することで容易に爆発的に戦闘力を上げる事を子供ながらに喜ぶことができなかったため。
そのため、一緒に戦うなら合体せずに戦おうと考えていた。
しかし、辰緑のだした許可は合体して戦うならと言うものであった。
「わかった。がったいする」
悔しそうにしながらも子緑が辰緑に返事をする。
「ねちゃん。いいの?」
心配そうに尋ねる丑緑に子緑は笑顔で答える。
「かたきをうつのがたいせつ」
「わかった」
丑緑も子緑の言葉に笑顔で返事をすると、魔族の前に2人で立つ。
「3人いるんだ。3人まとめてでいいぞ」
「「ぼくたち2人であいてだ!」」
魔族を睨みつけながら返事をする2人。
「ふん! 2人でも3人でも一緒だ!」
そんな魔族に辰緑が答える。
「まぁ、戦ってみればわかる事だ。2人とも先に合体しておけ」
辰緑の言葉に頷くと、2人は合体する。
2人が光りに包まれ、その光が消えるとそこにはヤマアラシの様に背中に無数の針毛を生やしたミノタウロスの姿があった。
「ほう、お前達は我等ミノタウロスに近い種族か……」
2人の合体した姿を見た魔族は興味深そうに2人の合体した姿を見る。
「いいえ、ぼくたちはミドリムシです!」
合体した2人がそう答えると魔族は興味を失ったのか勝負をせかす。
「どっちでもいい。さっさとはじめるぞ!」
「では、はじめ!」
辰緑の合図と共に2人が走り出す。
勝負は一瞬でついた。
子丑緑のスピードが僅かに魔族を上回った。
子牛緑が持つ武器は、丑緑がミノタウロスの姿になった時に使う強大な斧。
その大きさは本家のミノタウロスの魔族が持つ強大な斧に引けを取らない大きさ。
そんな強大な斧を持ったにも関わらず、子牛緑は本家のミノタウロスにスピードで上回った。
「ふん! 所詮は子供か!」
魔族は後の先を取るべくわざとスピードをおとして動き、子牛緑に攻撃させその攻撃を見切った。
「⁉」
子牛緑が繰り出したのは斧を振り下ろした攻撃ではなく、バットを振った様な地面と水平にくりだした横なぎであった。
魔族がその攻撃を真上に打ち上げる様にはじくと、子牛緑の姿勢はバットを振り切った姿になり、魔族に背中を見せる形となる。
魔族はこうなることがわかっていたとニヤリと笑い、打ち上げた斧を切り返し子牛緑に向かって振り下ろす。
だが、そこで子牛緑の背中に生えていた無数の針毛が逆立つとその長さを伸ばす。
「ぐあっ!」
その針毛はまるで薔薇の茎の様に無数の小さな棘がついており、魔族の体に刺さるとその動きを
縫い留める。
「くそっ! この卑怯者っ! 正々堂々と戦え!」
魔族は劣勢になると子牛緑を卑怯者と罵りはじめるが、子牛緑はそんな魔族の言葉に聞く耳を持たず、持っていた斧の向きを変えると斧の側面で魔族の頭を殴りつけ気絶させるのであった。
「勝者! 子牛緑!」
辰緑が勝利者宣言をすると、戦っていた魔族に攻撃され泣く泣く列の順番を譲るしかなかった魔族達が歓声を上げる。
「ざまあ見ろ! 子供でも干支緑達は強いんだ!」
「弟は良い方なのに、どうして兄の方はああも酷い性格をしているんだ!」
「干支緑達は合体するとさらに手が付けられないのか⁉」
魔族達は、勝負を見おえると様々な感想を叫ぶ中、辰緑が一歩前に出ると魔族が静かになり注目する。
「我等、干支緑は合体することで戦闘力を爆発的に引き上げる。我等は全員で12人いる。これからは余裕があれば何人かで合体して相手をしても良い。戦いたいものはぜひ声をかけてくれ。そこに倒れている魔族は敗れはしたが何人でも相手になると言っていたぞ」
それまで、嫌な魔族が負けたことで喜んでいた魔族達に、辰緑は冷や水をかける様な事を叫ぶと魔族達を睨む。
そんな辰緑に魔族達は何も言う事ができなかった。
辰緑の言葉で辺りは静まり返り、魔族達は声を押し殺し物音も立てない様にして様子をうかがう。
そんな場所に能天気な言葉を発する者がやってくる。
「あれ? なんか静かすぎない? たっちゃんどうしたの?」
そう言ったのは腐緑。
「何、どんなダメな兄妹でも他人に悪口を言われるのは腹が立つと思ってな……」
そう言って辰緑が腐緑を見つめる。
何を言っているのだと腐緑が不思議に思っていると、合体をといた子緑と丑緑もそばにきて腐緑を見つめていた。
「えっ⁉ ダメな兄妹ってもしかした私⁉」
悲しそうな顔をする腐緑に子緑と丑緑が抱き着き口を開く。
「「おねえちゃん! だ~いすき!」」
そんな2人の言葉に腐緑も笑顔になり抱きしめ返す。
「私も皆が大好きだよ!」
「兄弟はやはり良いものだ」
そう言った辰緑が視線を向けた先には、気絶した兄を弟の魔族が介抱している姿があった。




