272話 ミドリムシは驚かす
「ねぇ、みちゃん」
「なに、いぬちゃん?」
「少し先に誰かいない?」
戌緑にそう言うわれ、巳緑が進む先に目を凝らす。
「ほんとうだ。ふたりいるね」
「おかしいね。こんな、まもののおおいもりで」
2人は、強力な魔物がいる森であまりにも弱弱しい気配を感じ首をひねる。不信に思った2人は冒険者学校の先生の言葉を思い出す。
(おかしな気配、おかしな事に気づいた時は、距離を置いて慎重に様子を見ましょう)
「せんせいのいったとおり、はなれてみてみよう」
「そうだね、きのうえからがいいとおもう」
2人はそう言ってスルスルと木に登ると、音もなく木から木へと音もなく飛び移りながら進んで行く。
「今日はこの先に行こう」
「おい、この先はいつも魔物が大量に居る方向じゃないのか?」
今、少年少女は自分達の集落から出て、食べられるものを探していた。
「うん。でも、今日はなぜか魔物の気配がないの……今のうちにこの先にいけば、普段取れない山菜や果物が沢山とれるはず、まわりに気をつけながら進めばきっと大丈夫……のはず」
少年少女が話をしていたのは、普段は大量の魔物がいるために、行く事ができない森を進むかどうか。
索敵能力に長けた少女が普段は行けない場所には、今まで収穫できなかった食料があり、今がチャンスと言うが話の途中で言葉が尻すぼみになる。
そんな様子に少年は頭を悩ますが食料が多く確保できるのであれば、今の自分達の状況では非常にありがたいと思い決断する。
「うーん。行ってみるか……ちゃんと周りに気を張ってくれよ」
「うん。魔物の気配は大きいから絶対に見逃さない……」
少年が頭を悩ませながら出した答えに少女が力強く頷くと、2人は普段は魔物が大量にいる方向に恐る恐る足を進めようとする。
そして、少年少女が1歩目の足を地面におろした瞬間の木の上から2つの塊が落ちてくる。
「「こんにちわー」」
その2つの塊は巳緑と戌緑。2人は少年少女の前に着地すると挨拶をする。
「「ぎゃああああ!! ラミアと人狼⁉ た、助け……」
少年少女は2人の姿を見て叫び声を上げると、そのまま白目を向いて気絶する。
気絶した少年少女を見て慌てはじめる巳緑と戌緑。
「いぬちゃんどうしよう……」
「きぜつしちゃったね……」
2人がどうしたものかと、悩んでいると他の干支緑達が追い付いてくる。
「どうした? 巳に戌よ」
2人がしゃがみ込んでいるのを見て辰緑が声をかけると2人が涙目で振り返る。
「たつちゃん。あいさつしたら、きぜつしちゃった」
巳緑の言葉に辰緑が2人の背中から覗き込むと、気絶した少年少女を見つける辰緑。
「む、子供……いや、子供でないのかもしれないな……兄たちに相談しよう」
「何かあったのか?」
干支緑達に追いついた魔緑はすぐに状況を確認する。
「ああ、兄よ見てくれ」
辰緑がそう言うと、干支緑達が左右に別れ道ができる。そこを進んだ魔緑が気絶している2人の前に立つ。
「子供……ではないのか? この2人はどうした?」
魔緑がそう言って、先頭進んでいた巳緑と戌緑に視線を向けると2人は経緯を説明する。
「なるほどな、2人の姿に驚いて気絶したと……干支緑達は全員子供の姿に戻れ、その後2人をおこす」
「「はーい」」
魔緑の言葉で干支緑達が普段の姿に戻ると、魔緑は2人の頬を軽くたたき起こしていく。
「おい、大丈夫か? 起きろ」
「う……ん、ん……あれ? ラミアと人狼は?」
「ラミアに人狼? 俺達はここから東の国から来たんだが、気絶しているあんた達を見つけただけで。ラミアと人狼の姿は見なかった……」
気が付いた2人に魔緑は巳緑と戌緑の説明は後にしようと、少しだけ嘘をつく。
「ああ、そうなのか……わざわざ、起こしてくれてありがとう。気絶したままだったら魔物に食われていたかもしれない」
そう言って2人は起き上がると、魔緑に深く頭を下げる。
「それは気にしなくていい。俺達はこちらの国々に探し物をしに来たんだが、あんた達に話しが聞きたいんだが良いだろうか?」
「この辺りの情勢を教えるのはいいが、俺達は食料を取りに来たんだ。しかも今は幸いな事に、辺りに魔物がいない。この間に食料を確保したいから、少しだけまってくれるか?」
2人の話を聞いた魔緑は、【アイテムボックス】より魔物の死体を引きずり出し尋ねる。
「魔物の肉は食えるか?」
魔緑がそう尋ねると2人は目を輝かせる。
「久しぶりの肉だ」
先を急ぐ魔緑は、もし彼等が魔物を食べれないのであれば、ダンジョン産の食料を出そうかと思っていたが、それをしてしまうと話がややこしくなると思っていたため、うまく行ったと胸をなでおろす。
「ところであんた達は、2人で生活を?」
「いや、この先に俺達の集落がある」
「なら、この魔物の死体と情報の交換をしたい。今から向かっても大丈夫か?」
「ああ、魔物の肉と情報を交換できるなら、こちらは万々歳だ、よろしく頼む」
少年は笑顔でそう言うと魔緑に右手を差し出す。
「こちらこそよろしく」
魔緑が右手を差し出し握手をすると、全員で少年少女の集落に向かうのであった。
今魔緑達は、少年少女の集落の前で待っていた。
「魔緑さん、うまく話しが聞けそうですね」
そう言ったのはヒカリ。
「ああ、ここで魔族の領域の話を聞ければ、緑と三日月の行方がわかるかもしれない。とくに三日月とは連絡が取れないからな……」
「そうですね。こちらの進むにつれて緑様の気配を強く感じれるようになりました。きっと緑様は元気でいられると思います……でも、手紙の返事はきてないのですよね?」
「ああ、あの馬鹿は絶対に【アイテムボックス】に手紙が入っていることに気づいていない。腐緑が次に使いそうな物に手紙を括り付けているようだが、ことごとく手紙が付いている物には触れてない様だ」
「そうですか……」
手紙の魔緑に言葉に落胆するヒカリ。
「だが、ここまで来たんだ緑とはすぐに会えるだろう。その時はビンタでもかましてやれ」
「そうですね……」
ヒカリの様子に魔緑は3姫に目配せすると、3姫がヒカリに話しかけヒカリを連れていく。
魔緑がヒカリと3姫の様子を見ていると、声をかけられる。
その声の主は先ほどの森の中で出会った少年少女。
「魔緑さんお待たせしました。長が説明をするとの事なのでどうぞ皆さん中にお入りください」
「長が直々に話してくれるのか、よろしく頼む」
魔緑達は、2人の案内で彼等の集落の中に案内されるのであった。




