267話 ミドリムシの家族の勇者ともふもふ
「こちらの世界に来て最高の朝だね」
そう言った三日月はケットシーとクーシーに埋もれて朝を迎えていた。
三日月は昨日召喚された直後にケットシーとクーシー達をなで回した後、彼等の現状を聞くことになったのだが、彼等は話の途中で船をこぎはじめたために三日月は話は翌日にまわそうと提案した。
そして、三日月が寝室に案内され横になると、続々とケットシーとクーシーが部屋に入って来る。
三日月は彼等が部屋に入って来た事を不思議に思い尋ねると、彼等は普段寝る時は仲間と集まり集団で寝ると言う。
そのために、三日月とも一緒に寝たいと言った彼等を三日月は喜んで迎え入れた。
つんつん
「ムニャ、ムニャ」
つんつん
「ワフ、ワフ」
「ふふふふ、可愛すぎる」
三日月はその身体能力をフルに使い、ケットシーとクーシー達を起こさず寝床からはい出ると彼等が起きないように気をつけながらつつきはじめる。
三日月は一緒に寝ていた彼等を一通りつつき終わると、優しく声をかけて彼等を起こす。
「みんな朝だよ、そろそろ起きてー」
「勇者様おはようございますニャー」
「勇者様おはようございますワン」
「皆おはよう」
彼等は三日月に声をかけられ目を開ける、それぞれ三日月に挨拶をしていく。
そして、三日月に挨拶をすると再び眠りはじめる。
「えっ?」
目覚めの挨拶をしたにも関わらず、綺麗に挨拶をした順番に再び眠りにつく彼等に思わずあせりをおぼえる三日月。
確かに動物の猫や犬は、その大半を寝て過ごすが彼等は動物ではなく、しかも今は他の種族に襲われるかもしれない状況。
そんな状況の彼等があまりにも警戒心がないために不思議に思う。
三日月は寝床を静かに出ると、他の者達がどうしているのか確認をするために建物をでる。
「⁉」
三日月が建物の外に出ると彼等の集落の外に魔物の気配を感じる。
三日月は、すぐに彼等の集落から出て魔物を倒しに行こうと考えるが、魔物の気配は集落の外にいくつも感じられるため、自分が下手に集落から出てその間に集落が襲われては本末転倒と思い、外に出る事をせず魔物の気配に集中する。
三日月は魔物の気配に気を配りながら、もし魔物が集落の中に入って来たら集落の中心から1撃で魔物を倒そうと集落の中心に向かう。
だが、その間も魔物の気配は集落の近くを通るだけで一向に魔物が集落の中に入ろうとする気配がない。さらに集落の中にある他の建物から出て来たケットシーとクーシー達は魔物の気配に気づいていないようで普段の生活そのままの様子。
そして、三日月は集落の中心につくとしばらくの間魔物の気配をうかがい続ける。
「やっぱり、集落には入ってこないね……」
しばらくの間、魔物の気配をうかがい続けるも魔物が集落には入ってこないために三日月は実際に魔物を自分の目で確かめるために中心から離れる。
そして、三日月は集落の端まで行くと魔物の姿を見つける。
「いたいた」
今まで三日月がいた、東の国々ではまず見かけない強力な魔物を見つけるが、魔物は集落内で動きかまわるケットシーとクーシー達に気づいていなように集落から離れていく。
そして、魔物を見ていた三日月に声をかける者がいた。
「勇者様どうしたんですかニャー?」
「集落から出たら危ないですワン」
それはケットシーとクーシーの子供達。彼等の目にも集落の外に魔物が見れるはずなのに落ち着いている。それを不思議に思う三日月は子供達と目線を合わせるためにしゃがむと彼等に尋ねる。
「ねぇ、皆。皆あそこにいる魔物はわかるよね」
そう言って三日月が指さす先には、子供達を一飲みにしそうな魔物がいる。
そして子供達は三日月が指さした方に顔向けると、魔物を見た後三日月に顔を向けると頷いて返事をする。
子供達が魔物を目にしても、全く怖がった様子がなく不思議に思った三日月は単刀直入に聞く。
「皆、魔物は怖くないの? なんで?」
「外の魔物は怖くないですニャー」
「うん、外の魔物はこっちに気づかないワン」
「そうなんだ! ならダイジョブだね!」
そう言って三日月は立ち上がると子供達の頭をなでていく。立ち上がった三日月に気づいた大人のケットシーとクーシーが声を上げる。
「あんた達勇者様の邪魔をするんじゃないニャー」
「勇者様、子供達が邪魔をしてしまってすいませんワン」
「大丈夫です。私の方から声をかけたので子供達を叱らないでください」
そう言って三日月は再び子供達の頭をなでる。
「そうであれば、良かったですニャー」
「皆も勇者様の邪魔にならない様にするワン」
三日月はその後、子供達に別れを告げ寝床を用意された建物に戻って来る。
「あはははは、まだみんな寝てるね……」
三日月が寝床に戻って来ても、三日月と一緒に寝ていたケットシーとクーシー達は今だ寝息を立てていた。
「あの勇者様よろしいですかニャー」
「まだ皆寝ていてすいませんワン」
三日月がまだ寝ているケットシーとクーシー達を見て困った顔をしていると、後ろから声をかけられる。
「あ、君達に少し聞きたい事があるんだけど……」
「はいニャー、術者の皆がこの時間になっても寝ていた場合私達がお話をすることになっていますのニャー」
「勇者様がお怒りになるのもわかますワン。ですが、どうか私達の話を聞いてくださいワン」
「うん、私もこの集落の様子を見てきていくつか予想をたてたけど実際に話しを聞きたいからね」
「はいニャー。よろしくお願いしま……ああ、あごは弱いニャー」
「勇者様先に話を……お腹は許してほしいワン!」
三日月は2人を満足がいくまでなでると、2人から話を聞く。
「なるほどね、ケットシーとクーシーは珍しい幻を操れる種族なんだね」
「はいニャー。と言っても我々を明確に意識しているほかの魔族なんかには効かない者達もおりますニャー。勇者様を召喚したのは、その幻の効かない種族から守って欲しいのですニャー」
緑達の家族でもファントムが幻を使って戦えるが、三日月がこちらの世界の文献などを調べても幻を操り戦闘をした者の話しを見つける事はできなかった。
「今までは我々の様な弱い種族を相手にする魔族はいませんでしたニャー、でも少し前の異常気象で食料が足りなくなった種族が我々に目を付けたのですニャー」
「今まで、我々と交流など考えていなかった種族が我々のところに色々な物を持って来て、食料と物々交換を要求する様になってきましたワン。しかも最近はもっと食料の交換量を多くしろと言ってきますワン」
「それを断ったら武力行使をちらつかせる感じなのかな?」
三日月の言葉を聞きケットシーとクーシーの二人は悲しそうな顔をして頷く。
三日月は2人の反応を見て考え込む。
(彼等の食料が何なのかまだ聞いていないけど……他の種族が食料を得るため強硬手段をとってきたらそれを跳ねのけても解決しないよね……他の種族も生きるか死ぬかの瀬戸際だし、弱肉強食を考えると弱い者達は食料になってしまうのも事実だよね……)
三日月が考え込み、それをケットシーとクーシーの二人が心配そうに見ていると、外から叫び声が聞こえる。
「他の魔族がむかってくるワン!」
その声を聞き三日月は、建物の外に向かう。
「子供は家の中に入るニャー!」
「絶対に家からでたらいけないワン!」
三日月が外に出ると、ケットシーとクーシーの集落に真直ぐに向かって来る気配を感じる。
(遠目に気配を感じたけど、特に戦闘力にかんしては問題なさそう……でも、この集落を避けて他の集落にいかれて強硬手段に出られたら、私が気づけないところで他の集落が皆殺しになってしまうかも……)
「とりあえず会ってみようか」
三日月はそう言うと、まっすぐ向かって来る気配に向かって集落の中を歩いて行く。
そして、三日月が集落の端で待っていると魔族の者達が森からとびだしてくるのであった。




