266話 ミドリムシを召喚した種族
緑は思わず呟く。
「あれ? ここは?」
緑は自分のダンジョンで家族と話をしていると、突然足元に魔法陣があらわれ次の瞬間には森の中にいた。
そして、緑がまわりを見渡すと辺りから声が聞こえてくる。
「勇者様、私達の都合で召喚してしまいお怒りとは思いますが、どうか! 我々に力をお貸しください!」
「お願いします!」「どうかお慈悲を!」「お助けてください!」
緑を召喚した者達は次々に緑に助けを求める声を上げる。
優しい緑は助けを求められ、力を貸す事になんの戸惑いもない。だが、勇者と呼ばれたからには緑は先に言っておかなければなら事があると思い、助けを求める声を遮り声をあげる。
「待ってください! 僕の力をお貸しするのは何も問題ありません! でも……大変言いにくいのですが……」
緑がそう言うと声はピタリとまり、辺りは静まり返る。
「僕は勇者ではなく魔王なのですがそれでも良いですか?」
緑がそうに言うと、喜びの声が上がり森がざわつきはじめる。
「我々魔族の土地に住む者にとって魔王様こそ勇者様です。どうか、我等をお助け下さい魔王様!」
「「魔王様万歳!」」「「魔王様万歳!」」
緑は自分の称号が魔王ならなおさら良いと聞き胸をなでおろす。
「僕が魔王でも良いのならなら良かったです」
そして、称号が問題ないとわかると緑は森に召喚されてから不思議に思っていた事を尋ねる。
「すいません。僕は召喚されてから皆さんの姿が見えないのですが、皆さん何故姿を隠しているのでしょうか?」
緑に言葉に喜びの声がピタリと止まると代表者と思われる者が声を上げる。
「これは失礼しました。このままでは見にくかったようですね……」
声の主がそう言うと、木々の傍に次々に人の姿が浮かび上がり、森が動きはじめる。
人の姿を浮かび上がらせた者はドライアド達で、木そのものが動きだしたのはトレント達であった。
「ドライアドとトレントの方達でしたか……それで姿がみえなかったのですね」
「姿をお見せせず申し訳ありません。ところで魔王様は一体なんの種族なのでしょうか?」
「僕は【超ミドリムシ】と言う種族です」
「「【超ミドリムシ】ですか? はじめて聞きました」」
緑はドライアドやトレント達に自分の種族の説明をする。
緑が自分の種族の話をした後、家族の話をするとドライアドとトレント達は深々と頭を下げる。
「緑様を家族と引き裂いてしまい申し訳ありません」
「大丈夫です。気にしないでください。それよりも何故、僕の助けが必要なのかをおしえてください」
緑はドライアドとトレント達に気にするなと手を振ると、自分が召喚された理由を尋ねる。
「それは我々を食料と見る他の魔族が我々を食い殺そうとしているのです。元々魔族は劣悪な環境下でも生きていけるほど生命力が強いのですが、数か月前に起こった異常気象により一部の魔族が食料危機に陥り、我々を食料にしようとしているのです」
緑は先日の6つの国の食料危機をまねいた異常気象が魔族が住む領域にまで影響したことに驚く。
「異常気象は魔族が住む領域にまで影響したんですね……僕がいた国から西にある6つの種族の国でも異常気象で食料危機が起こって、つい先日支援をしてきたばかりです」
緑はそう言って先日の食料支援をした話をする。
「と言う事は、我々は緑様を、我々の魔族の領域のかなり東から召喚したのですね。緑様の言われた6つの国は我々の領域の東にある国々だと思われます」
「はい、きっとそうだと思います。今もわずかながら家族との絆が感じられるので、違う世界に召喚されてはいないようです……少し今自分の居る場所がわかり安心しました」
緑は自分が今いる大まかな場所がわかったことで、隠していた不安が消え幾分明るくなる。
「少し話がそれてしまいましたね本題にもどします。本来戦いが好きな魔族は戦いで命を落とすならいざ知らず、飢えて死ぬなどは許せなかったようで、食料を奪うための戦争をはじめる種族が出はじめました。そして、彼等は本来なら戦う相手に選ばない我々の様な弱い種族にも戦争をしかけてきたために我々弱い種族は召喚にふみきったのです」
緑はドライアドの言葉を聞き、話をとめる。
「待ってください。我々弱い種族といいましたが他に召喚をした種族がいるんですか?」
「はい、そもそも召喚自体が上手くいくかわからないために我々弱い種族は各種族で召喚をしました」
「他にはどんな種族の方達がいるんですか?」
「我らの以外の弱い種族は幾つかありますが、ケットシー、クーシーや小人、ダークエルフやラミアやハーピー、も他の種族と比べると弱い種族となります」
「彼等が弱い種族といわれるんですか……」
「はい、他の魔族が強すぎるのです。巨人やミノタウロス、ケンタウロスなど魔物の力と人の知力を兼ねそろえているので……」
ドライアドの言葉に緑は思わず尋ねる。
「ダンジョンやなどで出てくるミノタウロスなどは、知能も低いまさに魔物だと思うのですがこちらでは人のような知力があるんですか?」
「たしかに彼等の一部は野やダンジョンで魔物として生きているものもいますが、魔族と魔物の違いは体に魔石があるかどうかです。竜種も知能が高くなると龍種となり人以上に賢くなるでしょう。彼等も同じであまり姿に違いはありませんが知能が高くなり、魔物から魔族になるとその知能は人と同じか人以上です」
「魔物の力を持って人以上の知能ですか……」
「はい、そんな彼等と我々が戦えば我々はすぐに全滅してしまいます。今はまだ強い種族どうしで大きな戦争をしていますが、その矛先が本格的にこちらに向けば我等は全滅してしまうでしょう」
ドライアドの言葉を聞き、巨人やミノタウロスなどただでさえ強い魔物が人以上の知能があると想像するとその強さは数倍になると容易に予想できる。
「わかりました。彼等の戦う欲求を満たしたうえで食料危機をのりこえればまた魔族の領域も平和になるでしょう。皆さんにも手伝ってもらいたい事がありますので一緒に平和をとりもどしましょう」
「もちろん、我々にできる事なら何でもします。よろしくお願いします」
緑は、ドライアドとトレント達とこれからの事について話をはじめるのであった。
緑と同じくして魔法陣で召喚された三日月は、召喚した者達と顔を合わせていた。
「勇者様どうか我々を助けて下さいニャー」
「ケットシーだけでなく我々もお願いしますワン」
三日月は、ケットシーとクーシ―達合同で召喚されていた。
ケットシーは猫の獣人とは違い、まさに2足歩行する猫。そしてクーシー達は2足歩行する犬。
召喚されて彼等の姿を見た三日月は目をキラキラとさせ彼等に近づき、手当たり次第に彼等をなでます。
「ああ! 勇者様尻尾の付け根をトントンしないでくださいニャー!」
「勇者様、お腹は、お腹は許してくださいワン!」
「あごはダメニャー!」
「ああ! ああ! 耳の裏! 耳の裏はいけないワン!」
彼等も三日月の目が獲物を狙う獣の目になっていることに気づき、三日月から逃げようとしたが、三日月は召喚された勇者でその戦闘力は折り紙付き、弱い種族と言われる彼等が逃げれる相手ではなかった。
召喚されてから小一時間ほどすると満足したのか、三日月はなでまわしていたケットシーとクーシー達を開放する。
「それで私を召喚した理由はなにかな?」
そう言った三日月の前にはいくつもの毛玉ができていた。
それは三日月になでまわされたケットシーとクーシー達の塊であった。
「それは先ほども説明しましたニャー」
「全然聞いてくれなかったワン」
彼等は三日月になでられる間、代わる代わる三日月を召喚した理由を説明していたのだが、三日月の耳には届かずまた一から説明するはめとなる。
「なるほどね、魔族の領域でも食料危機が起こっていて、君達の様な儚く可愛い種族が滅ぼされそうになっているんだね」
「儚く可愛いなんて言ってないニャー。この人、大丈夫かニャー?」
「そうだワン。我々はただ弱い種族だワン。本当に我らの話を聞いているのかワン?」
三日月が本当に自分達の話を理解しているのか不安になる彼等だが、自分達をなでまわし満足げにしている三日月の機嫌を損ねないか心配でそれ以上何も言う事は出来なかった。
だが、彼等はこの後すぐに他種族が襲ってきた時、三日月が容易く敵を撃退するのを見て、自分達を見る目は怖いが実力だけは間違いないと知り、三日月になでられるのを受け入れるのでのであった。




