259話 ミドリムシの反省会
「これで少しは落ち着けるか……」
「そうだねまーちゃん」
緑達は、西の獣人の国でダンジョンの報告をした後、久しぶりに自分達の家でゆっくりと過ごしており、緑達は水をたっぷりと入れたタライに浸かっていた。
「あ、みーちゃんにまーちゃんここに居たんだ」
そう言って緑と魔緑の元にやって来たのは、普段とは違い少しやつれた様な腐緑。
「うん、久しぶりに超光合成をしてたんだ」
「誰かさんがダンジョンで実を食いまくったからその補充にな」
「うっ……そう言われちゃうと返す言葉もないや……」
そう言って腐緑は落ち込んだ様にうつむく。
西の獣人の国の王に依頼されダンジョンの調査に向かった緑達。そこで腐緑は運悪くダンジョンの罠にかかり、危うく家族を攻撃するところを調査に向かった家族とアラン達に救われた。
そのことを暗に魔緑に言われ落ち込んだ様子の腐緑。
「やっぱり気にしていたのか……」
先ほどの腐緑に対して嫌味の様な事を言った魔緑だったが、腐緑の様子を見た魔緑は思わず呟く。
そんな魔緑の呟きが聞こえなかったのか、魔緑の言葉に落ち込んだ様子の腐緑を見て、緑は魔緑に向かって怒りの抗議をする。
「もう、まーちゃん! そんな意地悪な事を言わないで! あの凶悪な罠はきっと、僕やまーちゃんでもかかった罠だよ!」
普段あまり怒ることの無い緑が目を吊り上げて怒った表情を見せる。
緑達が調査に向かったダンジョンは、ダンジョンの調査なら冒険者の中でも1,2を争うアラン達でさえ、緑達と合同で調査をしていなかったら全滅していたと言うほどの凶悪な罠が大量にあったダンジョン。
そのため調査の後も、その時のメンバー全員があの罠にかかってもしょうがないと言う。
だが、そんな罠にかかったことを嫌味の様に言った魔緑。
本来であれば魔緑がそんな事を言うはずがないのだが、緑と腐緑はどこかに後ろ暗い思いがあったのかそのことに気づかない。
そんな緑と腐緑に魔緑はさらに続ける。
「ああ、さっき言ったのは嘘だ。俺も緑と一緒の意見だし、これで緑の本音が聞けただろう?」
目を吊り上げていた緑は目を点にし、腐緑は下を向いた顔を上げる。
「どういう事? まーちゃん」
「なに、ダンジョンから返って来てから様子がおかしかったんでな。どうせ罠にかかったことを気にしていたんだろう……俺もアラン達から詳しく話を聞いたが、そんな初見殺しの罠にはまるのはしょうがないと思ってな」
そこまで聞いた腐緑が顔を上げると、その表情は明るいものになり魔緑に向かって嬉しそうに叫ぶ。
「もしかして心配してくれたの⁉」
「……まぁな……」
普段の表情で答える答える魔緑であったが、その顔は耳まで赤くなっていた。
「まーちゃん! 愛してる!」
腐緑は叫びながら、タライに浸かっていた魔緑に向かってダイブする。
「うわっ! こらっ! 抱き着くな! タライから水がこぼれる!」
「よかったね! ふーちゃん!」
「うん!」
そう言って腐緑に声をかけた緑も声をかけられた腐緑も笑顔になっていた。
「でも今回で僕達も油断していた事に気づいたから、今後は気をひきしめていくよふーちゃん」
「うん。みーちゃんの言う通りだね。この世界に来て全ての事がうまくいってたから、やっぱり油断していたんだね」
緑の言葉を聞き、腐緑も魔緑に抱き着いたまま真剣な表情になり返事をする。
だが、この世界に来た【水野 緑】達は女神からもらった超ミドリムシの能力で、この世界の者達であれば抗う事の出来ない事故や事件も解決してきた。
そのため、この世界の者達からしたら緑達の存在はまさに英雄とも言える存在であったが、本人達はその功績に納得がいってない様であった。
それも【水野 緑】達が自分達で決めた、全ての人を幸せにすると言う目標が大きすぎるものだと気づいていないためであった。
「ああ、それもあったと思うが俺達は自分達の能力ならなんでも解決できると考えるのが間違いだったのかもしれないな」
魔緑の言葉に緑と腐緑が不思議そうにすると、さらに魔緑が続ける。
「俺達は油断していたんじゃなくて、なんでもできると思い上がっていたんだろう。だから、これからは俺達が防げない事故や事件、助ける事ができない人もいると考えないといけないな……俺達は神でもないし女神ですら間違う事もあるのだから……」
「たしかに、僕達【水野 緑も】わかれちゃったしね」
そう言って緑が苦笑いすると腐緑も緑に続く。
「私なんて女の子になっちゃったしね」
腐緑は少し怒った表情をして、自分の胸を指さす。
「ああ、だからも失敗してもしょうがないし、後は自分達のできる範囲を把握しないといけないな」
「「うん!」」
「これで今回のダンジョンの反省会は終わりだ。ところで腐緑は何か用があってここに来たんじゃないのか?」
緑と腐緑の様子が明るくなり、魔緑は腐緑が自分達を訪ねて来た理由をきく。
「あっ! そうそう、忘れてた。実は今回の支援をした国々からぜひ自国に来て欲しいと言われていたんだけどどうしようかと思ってね」
魔緑の言葉に思い出したと腐緑は手を叩き、2人を探していた理由を説明する。
「ああ、たしかに各国に非常用の連絡手段として扉を置けているのは龍種の国と獣人の国だけだったな……」
「しかも、こっちの国は小さな戦争をしてたみたいだから東の国々ほど仲が良くないのか、エルフとドワーフは相手の国より先に来て欲しいみたいな事も言ってけど……その国どうしの不仲を商人たちに利用されたんだよね。何か不仲も解消できないかな? まーちゃん……」
腐緑の相談に緑も魔緑も難しい顔をする。
3人が答えの出ないままどうしたものかと考えているとクウがやって来る。
「あ、緑に魔緑さん、腐緑さんもここに居たんですね♪」
「「どうした(の)?」」
クウの言葉に緑、魔緑、腐緑の3人が同時に反応する。
「えっと実は西の獣人の国から連絡が来て、ドワーフさん達が会いたいと言ってるそうなんです」
クウの言葉に緑がタライから立ち上がる。
「わかった会ってみよう。でもなんでクウが僕達を呼びに来たの?」
普段であればダンジョンで住み込みで働いている者が緑達の元に連絡を届ける事になっているにも関わらず、クウが呼びに来た事を不思議に思った緑が尋ねる。
するとクウが珍しく困ったように答える。
「実は、ドワーフさん達が私の子供達の上の者に合わせて欲しいとやってきたので……」
そこまでクウの話を聞いた魔緑が思い出したように話しはじめる。
「そう言えば、コロシアムの上流にあるダムの管理をしていたドワーフ達がコロシアムを見て驚いていたからな……もしかして建物について話を聞きたいと言っているのか?」
「魔緑さんの言う通りなんです。建物の立て方を教えて欲しいと言ってて、私では判断がつかないんです」
「ふむ、なら良いことを思いついた。ドワーフ達には建築技術を教える代わりに本国に向かうのは後回しにさせてもらおう」
「それが良いね。じゃあ皆でドワーフの人達に会いに行こうか」
緑、魔緑、腐緑の3人はこれで国の順番を決めるうえで良い話ができると思いドワーフ達の元に向かうのであった。




