258話 ミドリムシ達は持ち帰る
緑がダンジョンコアについて意見を求めたがアラン達は、少し待ってくれと言いチームで話し合いをはじめる。
アラン達を待っている間に緑は、さっきの会話で気になっていた事を腐緑に尋ねる。
「そういえば、ふーちゃんもさっき何か思いついた様な事を言っていたけど、ふーちゃんも辰ちゃんと同じことを考えていたの?」
「いや、私はダンジョンコアの話しでじゃなくて、ダンジョンから魔物があふれる理由について思いついたの……まぁ、自分でも正直半信半疑だったけど、辰ちゃん、巳ちゃん、戌ちゃん達が小さなダンジョンコアを発見したのを見て、思いついた理由は間違っていないと思うんだ」
「えっ? ふーちゃん、ダンジョンがあふれる理由がわかったの?」
「あくまでも理由の一つだけどね」
そう言って腐緑は眼鏡をかけると説明をはじめる。
「まず、考えて欲しいんだけど。みーちゃんは、ダンジョンから魔物があふれるのはどうしてだと思う?」
「それはダンジョンの中に魔物が多くなりすぎたから?」
「うん、それも間違いではないんだけど……じゃあ、どうして魔物が多くなるの?」
腐緑の言葉に緑は、思いつく理由を腐緑に話す。
「ダンジョンに人が入らなくなって人が魔物を倒さなくなったにも関わらず、ダンジョンの中で魔物が生まれ続けたからかな?」
「私の考えは少し違ってダンジョンコアが小さなダンジョンコア……さっき辰ちゃん達が見つけたダンジョンコアの子供をダンジョンの外に運ぶために魔物をあふれさせたんだと思うんだ」
「ああ、俺達も腐緑の言う通りだと思う」
そう言ったやって来たのは、先ほど話し合いをはじめたアラン。アラン達は話を合いをおわらせたのか、その後にセリヤやドナと他のメンバーも一緒に緑達の元にやって来る。
「うん、うちもふーちゃんと一緒の事を考えたわ。これまでのダンジョンから魔物があふれたんは、ダンジョンコアそのものが他の場所に行くか、ダンジョンコアの子供を他の場所に送るためやと思うんよ」
「うん、セリアや腐緑の言う通り、突然ダンジョンが消えた様になくなるんも、ダンジョンコアが他の場所にすでに移っとって、ダンジョンの入り口が最後につぶれただけやと思うねん」
「ダンジョンから魔物があふれてもダンジョンが残っている場合は、たんにダンジョンコアの子供を魔物に隠して他の場所に送っただけと考えればつじつまが合うっす」
セリア、ドナ、攻撃魔法の使い手テレサの3人はダンジョンから魔物があふれた理由を説明する。
「人が入らなくなったダンジョンは、国が監視をしますけど。それは、中に人をやってまで中の状況を確認していたわけではないので……もちろん、人を中にやろうとするなら人を雇わないといけませんし、危険なダンジョンに送るなら、なおさら報酬も上がるので依頼にお金もかかるため、コスト的に中に人を送る事は今まで考えられなかったんだと思います」
最後に回復魔法を使うクリスが今まで気づかれなかった理由を説明する。
「確かに、人が寄り付かなくなったダンジョンは危険度が高いから誰も入りたがらないし、今話していた理由で間違いなさそうですね」
説明された理由に緑も納得して頷く。それを見てさらにアランが続ける。
「さらに、ここのダンジョンについても長らく発見されなかった間、人がダンジョンに入らなかったために人が寄り付かない状況と似ていたんだろう。魔緑達の話しで聞いた巨大なタコの魔物が生まれたのは、それはダンジョンが本命のダンジョンコアの子供を魔物で注意を引き付けて逃がしたのかもしれない」
アランの話を聞き、緑も様々な考えを思いつき、その中でも有力そうな考えを話す。
「確かに、そう考えれば話に聞いた巨大なタコの様な魔物は恰好の囮になったはずですし、皆その間はダンジョンを注意深く監視していたかと聞いたら、たぶん巨大なタコの魔物に注意をひかれて監視に抜けがあったんじゃないかと思いますね」
「ああ、もしくはその巨大な魔物を倒して、緑の子供達がコロシアムを作り上げるまでの間に夜中こっそりダンジョンコアの子供を魔物に運ばせたのかもな……」
全員がダンジョンから魔物があふれる理由の核心に迫っていると思い興奮して話がとまらない。
だが、そこでアランが皆を落ち着かせるためか一旦話しを止める。
「まぁ、今までわからなかったダンジョンから魔物があふれる理由の確信に迫っていると思うが、ここで調査を打ち切り一旦ダンジョンの外に出て報告をしよう」
アランの言葉に全員がハッとすると、アランの言葉に頷く。
「そうですね、ここまでの地図も急いだとは言え、かなりルートを調べる事ができました。それに、凶悪な罠の位置、それの対処法などもわかりましたし。一旦地上に戻って獣人の国の王様とも話し合いましょう。でもここからもう一度来た道を戻らないと駄目なんですね」
「ああ、その事だが……緑達には言ってなかったが、普通ダンジョンの最下層にはダンジョンの入り口付近に運んでくれる魔法陣があるんだ。それに乗って帰ろう」
「そんなものがあるんですね! それじゃあ帰りは少し楽ができそうですね」
アランの言葉に緑が喜び、全員で魔法陣を探しはじめる。
全員で魔法陣を探しはじめると魔法陣はすぐに見つかり、全員が魔法陣の前に集まる。
「じゃあ、皆さん地上に戻りましょう!」
そう言って緑が魔法陣に乗ろうと歩き出すと腐緑がハッとして緑に待ったをかける。
「あっ⁉ 待ってみーちゃん! 魔法陣には足を乗せないで!」
緑が今まさに魔法陣の上に足を乗せようとしたところで、腐緑が大きな声をあげる。緑はその声にびくりと動きを止めるとゆっくりと足を引き戻し、腐緑の方に振り返る。
「な、なに? ふーちゃん? そんなに慌ててどうしたの?」
腐緑のあせった様子に緑は驚きながら腐緑の方に振り返る。
緑が振り返ると、腐緑は苦虫を噛み潰した様な顔で言う。
「このダンジョン……信用できる?」
アランの言葉に帰りは楽ができると思っていた全員が暗い顔になる。
「「信用できない……」」
「だよね……残念だけど、帰りは来た道を戻ろうか……」
ダンジョンの魔法陣が信用できなかった緑達は、自分達が作った地図を見て最短で地上に向かうのであった。
数日後、ダンジョンから出て来た緑達の報告を受け獣人の王は、緑達とアラン達、冒険者ギルドの幹部を呼び、ダンジョンについて話し合う。
「なるほどな、緑達の報告と予想を聞いたが間違いないと思う……」
そう言って頷く獣人の王は、意見を求めようと冒険者ギルドの幹部に視線を送る。
王に視線を送られた冒険者ギルドの幹部も聞いた情報を元に自分の考えを話しはじめる。
「我々も報告を聞く限りはかなり確度の高い予想だと考えます……なので緑さん達【軍団】とアランさん達のチームが持ち帰った情報はダンジョンを解明する上で大きく貢献したと思うので特別報酬を出したいと思います。それを踏まえたうえで今回の調査で分かった事と今の予想をギルドの方で発表してもよろしいでしょうか?」
話しはじめら冒険者ギルドの幹部は緑達の報告を聞き、緑達が持ち帰った情報と予想を正式なものとして発表したいと言う。
「僕達【軍団】は構いませんが、アランさん達はいかがですか? 正直な話し、今回アランさん達がいなければ、僕達は下手をすれば全滅をしたかもしれないので、発表の件に関してはアランさん達の考えに従います」
「ああ、それは俺達も同じだ。俺達も緑達がいなければ全滅していた可能性は高い。なので緑達が良ければ俺達は発表してもらってかまわないので緑達の意見を聞こうかと思っていた」
冒険者達が手にいれた情報は、その情報を手に入れた冒険者達の判断で発表もできるし秘匿することもできる。
ただ、今回の様に冒険者自身に利益をもたらす情報ではない場合は、冒険者達も判明した情報を発表することに首を縦に振ることが多い。
と言ってもダンジョンの情報だと何が利益を生み出すかわからないため、情報の発表を断られるかもしれないと思っていた冒険者ギルドの幹部は2人の返事を聞き、ほっと胸をなでおろす。
胸をなでおろし安心した冒険者ギルドの幹部はさらに話を続ける。
「では、今回の件で我々ギルドは、報酬の他にアランさん達のチームに2つ名を送りたいと思います」
「ほんまなん⁉ やったついにうちらも2つ名もらえんの⁉」
「やたっでセリア! これで俺らも他のs級冒険者と肩を並べられるで⁉」
冒険者ギルドの幹部の言葉に大喜びをするセリアとドナをよそに、アランは冷静に尋ねる。
「それで俺達の2つ名はなんてなるんだ?」
「はい、アランさんのチームは特にダンジョンに入って情報や財宝を持って帰ることが多いから【持ち帰る者】としたいと思いますがいかがでしょうか?」
「ああ、それで問題ない」
「ではアランさんのチームの皆さん。我々冒険者ギルドは今日からあなた達の事を【持ち帰る者】と呼ぶと発表します」
その言葉を聞いたアラン達……【持ち帰る者】は大喜びするのであった。




