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251話 ミドリムシと罠


「皆準備はいいですか?」


 そう言ってクウが討伐班の面々を見ると、全員がうなずく。


「じゃあ、踏みますね」


 クウが皆の返事を見て、部屋の隅にある罠の魔法陣を踏む。

 すると罠の魔法陣に魔力が流れ、魔法陣が青白く光ると部屋の中央に赤い巨大な魔法陣が出現する。


「来るぞ緑」


「はい。討伐班が劣勢になったらすぐに加勢します」


 緑とアランは真剣な目で部屋の中央にある魔法陣を見つめる。


 緑とアランが見守る中、赤く巨大な魔法陣から次々に魔物がはい出てくる。


「ふむ、まずは我が行こう」


 そう言って辰緑が一歩前に出るとクウが黙って頷く。


「ノーム、シェイド、あの子は大丈夫?」


 ノームとシェイドに尋ねたのはウンディーネ。


「ああ、問題ない」


「辰緑がこの程度の数に押されるはずがなぜ」


「本当かしら……」


 ノームとシェイドの返事を聞き、ウンディーネはヤレヤレといった表情をする。そんなウンディーネの表情をみてノームが口を開く。


「ウンディーネ、それほど心配ならすぐに飛び出せるようにしておけ、まぁやるだけ無駄だと思うがな……」


 龍種の3人がそんな会話をしていると辰緑が魔物の群れに向かっていく。


 龍種の3人よりさらに後ろにいたアランは、3人の言葉が聞こえず驚きの声を上げる。


「あんな真正面から⁉ 緑、お前達はちゃんと干支緑達に戦闘教育をしているのか⁉」


「ダンジョンにある冒険者用の学校でちゃんと学んでるはずです」


「なら、どうして辰緑は1人で向かっていく⁉」


「ギャアアアア!」


 アランが辰緑の様子を見て、苛立ちながら緑の詰め寄ると魔物の悲鳴があがり、アランは視線を辰緑にもどす。


「へぇー。あんな戦い方もあるのね」


 そう言ったのはウンディーネで辰緑が戦いはじめすぐに感嘆の声を上げる。


 今、魔物の群れに飛び込んで行った辰緑は、両手両足だけに龍種の鱗と爪をはやし、その爪で魔物を引き裂き、魔物の攻撃をその強固な鱗ではじいていた。


「本来の姿が人型の辰緑は、龍種の姿になるには大量のエネルギーを必要とするらしく、その節約といってたぜ」


 辰緑の今の姿をしている理由を以前、辰緑から理由を聞いたシェイドが説明する。


「魔物の死体が邪魔になりそうですね、クウが死体をかたずけます♪」


 辰緑が次々と魔物を倒していくと足元に転がる魔物の死体が多くなり、クウがその処理をかって出る。


「クウ殿よ感謝する! 後で魔物の回収は我がするので端に寄せておいてくれればいい」


 辰緑は立ち止まりクウに向かって頭を下げると、またすぐに魔物へ向かっていく。


「私にまかせるのです♪」


 クウはそう言うと辰緑の邪魔にならない様に、すいすいと魔物の間を駆け抜けながら魔物の死体を運んでいく。


 辰緑が魔物と戦い、クウが魔物の死体を運ぶ、そんな様子を見ていた緑は笑顔で話しはじめる。


「アランさん特に問題はなさそうですね」


「あ、ああ。緑ちなみに質問なのだが、他の干支緑達も辰緑と同じくらい強いのか?」


 呆然と辰緑の戦いを見ていたアランは緑の声で我に返り、緑に思わず尋ねてしまう。


「いえ、多分1人1人の強さで考えると辰ちゃんがダントツで強いと思います」


「少し安心した」


 もし、他の干支緑達が同じ強さなら自分達は小さな子供に負けるかもしれないと思ったアランは、緑の言葉を聞いて安心する。


「でも、僕もちょっと驚いているんです。辰ちゃんが生まれたのは最近でさっき言った勉強はしていないんです」


「なら、さっきの返事はうそだったのか?」


「いえ、さっきの返事は他の()()()()()と言うのが正しかったですね、すいません。でも辰ちゃんは他の兄妹の記憶を持っているらしいので勉強はしていませんが、知識はあるんだと思います」


「なるほどな……干支緑達は恐ろしい力を持っていたんだな……緑、あの子達を間違った道にすすませるなよ」


「はい、そのために学校に行かせてます」


「そうだったな。しかし、魔物の召喚が一向におわらないな……」


「ですね……」


 魔物が召喚されはじめ、しばらく経ったが魔物の召喚が終わらない事に首を傾げるアラン。


 アランが不思議に思うのも仕方がなく、本来魔物を召喚する罠はその性質上ある程度の魔物を呼び出すとその行動を停止する。


 罠の性質を知っているのはアラン達だけで、その場にいた全員が辰緑の戦いを集中して見ていた。


 そのため、誰も部屋の隅で巳緑と戌緑が罠の魔法陣を踏むことで、魔法陣が青白く光るのが楽しくて踏み続けていた事に気づかなった。


 全員が不思議に思う時間が続く中、腐緑がふと巳緑と辰緑が大人しい事に気づく。

 腐緑は巳緑と戌緑がどこにいるのかと探し、そこで2人がしていることを目にする。


(あはははは、巳ちゃんに戌ちゃんなんてもので遊んでるんだ……これって、皆が知ったら怒られちゃうよね……)


 腐緑は、巳緑と戌緑がこのままでは大目玉を食らうと思い、静かに2人の元に近づくと罠を踏むのを止めさせる。




 それからしばらくして、辰緑が最後の召喚で呼ばれた魔物を全て倒し、死体をアイテムボックスに回収しようと死体の山に目をやると、必死に巳緑と戌緑が死体の回収をしていたことに驚き2人に声をかける。


「巳に戌よ魔物の死体の回収をしていてくれたのか、感謝する」


 最後の魔物の死体をアイテムボックスに回収した巳緑と戌緑に辰緑が声をかけると、2人は涙を流しながら辰緑に頭を下げる。


「「たつちゃん! ごめんなさーい。うわーん!」」


 急に泣きはじめた2人に皆が驚く中、腐緑が苦笑いしながら事の成り行きを説明する。


「なんて事だ……魔物の召喚する罠を踏んで遊んでいたとは……俺はなぜ気づかなかったんだ……」


「あはははは。まぁ、今回は特に問題がなかったからええんちゃう?」


 頭を抱えたアランにセリアがそう言うと、アランは真剣な顔になり巳緑と戌緑に向かって歩いて行く。


 アランに気づいた、2人はアランに怒られると思い必死に頭を下げながら謝る。


「「アランさん! ごめんないさい!」


 アランは巳緑と戌緑のそばに来ると、2人と目線を合わせるために2人の前にしゃがみこむ。巳緑と戌緑はアランに怒られると思い目をつむるがそんな2人の頭をアランは優しくなでるはじめる。


「いや、謝るのは俺の方だ。緑達がはじめてダンジョンで遭遇した罠なんだ、お前達もはじめてだったのだだろう? それなの俺はお前達の事を見ていなかった。本来ならダンジョン調査の仕方を教える立場だった俺がちゃんと行動を見ておくべきだったんだ。すまない」


 そういってアランは巳緑と戌緑の頭をなでおわると立ち上がり、2人を見下ろしながら続ける。


「まぁ、魔物を召喚する罠で遊んだ事は悪かったが、2人はそれまでちゃんと罠を見つけていたんだ。この後も引き続きセリアと一緒に罠を見つけてくれ」


「「はい!」」


「よし! そのいきだ!」


 そう言って再びアランは2人の頭をなでる。


「よかったね、みーちゃん」


 そんなアランと巳緑、戌緑のやり取りを見た腐緑が緑に話しかける。


「うん、さすがアランさん。ふーちゃん、僕はてっきりアランさんは2人を怒るものだとおもったよ」


「私もそう思ったからアランさんが謝って驚いたよ……でも、一番驚いたのは巳ちゃんと戌ちゃんが自分から謝った事と自分から魔物の死体の回収をかって出た事かな……」


 腐緑の言葉に緑は、驚き目をまるくする。


「えっ⁉ それ本当⁉ あれってふーちゃんが2人にああする様に言ったんじゃなかったの?」


 腐緑は黙って首を横に振る。


「皆私がそうする様に言ったと思ったんじゃないかな?」


「うん、絶対みんなそう思っていると思うよ。なら、後でほめてあげなきゃ」


 緑は巳緑と戌緑の方を見て笑顔になる。


「うん、そうしてあげて」


 そう言った腐緑も緑と同じように視線を巳緑と戌緑に向けると笑顔になる。


「それにしても私達の弟妹はきちんと成長しているね」


「だね、僕達も弟や妹に負けないよう成長しなくちゃね」


「うん、そうだね」


 2人はそう言うと温かいまなざしで巳緑と戌緑を見守るのであった。

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