249話 ミドリムシとダンジョンの罠
「じゃあそろそろ出発しようかな。皆さんお願いします」
「「こちらこそ、よろしく(っす)」」
緑達はダンジョンを調査するにあたって、アラン達のチームに調査の仕方を一緒にダンジョンに入って教えて欲しいと頼んでいた。
出発前にアラン達が緑達を見ると、その人数の多さに驚く。
「しかし、調査班と魔物の討伐班の2班でダンジョンに入るとは思っていなかった」
アランの言葉に緑が済まなさそうな顔をして、事情を説明する。
「説明してなくてすいません。西の獣人の国の王に僕達は、ダンジョンの調査の中で強力な魔物がいた場合、兵士達が海の魔物との戦闘になれるまでの期間を作るために、倒しいておいて欲しいと言われたんです」
緑の言葉でアランは納得し頷く。
「なるほどな……ダンジョンから魔物が出てくる事はそう多くはないが、出てきた時は強力な魔物やたくさんの魔物が出てくる事がほとんどで一度出てきたら次の期間までは時間が空くから、今回は先に中の魔物を減らしておくと言う事か……」
「ついこないだ出て来た魔物は巨人化した兜より大きかったそうです」
緑の言葉にアランが驚く。
「そんな巨大な魔物がでてきたのか……だが、そうなると今からダンジョンに潜っても今言った魔物が掃除をした後だから魔物もほとんどいないんじゃないか?」
「はい、なので討伐班はもしもの時に待機しているかんじですね。それと調査班が調査に集中できるようにです」
「家族……この場合はチームのメンバーか……メンバーが多い緑達だからできることだな……」
「今回アランさん達と一緒に調査をして、そこで覚えたノウハウは家族で共有して、今後もしダンジョンの調査依頼が来た場合は調査班と討伐班の2班に分けて、交互にその役割を交代して調査を進めようか考えています」
「なるほどな、メンバーが多いからそれも可能か……だが、普通の冒険者にはできない芸当だな……」
「そうですか?」
緑の言葉を聞き、アランが出した結論に疑問を持つ緑。
「ああ、ダンジョンでの報酬は見つけたものをメンバーで割るんだが、人数を多くすればそれだけ一人当たりの報酬は減る。だが全滅の可能性は人数を多くしたところであまり大きく減らす事は出来ない。だから、冒険者はできるだけ少ない人員でダンジョンに潜るんだ。それにメンバーたくさんがいる事で危険を増す罠もあるしな。まぁ、緑達みたいに個人の能力が高い者達の集まりなら、個人で罠をどうにかできる場合は一概にそうとも言えないがな」
「それはどういう事でしょうか?」
「まぁ、簡単な例えで言うと、大きな岩が転がってくるような罠なら、今回はいないが兜なら大概のものは破壊することができるだろう? だが俺達なら、罠を見つけ解除することで岩を回避するが、もし気づけなかった場合はチームのメンバー全員が岩に押しつぶされて終わりだ」
アランの口から出た話に緑は青ざめる。
「確かに僕達なら岩を破壊できる者も多いですし、もし罠にかかっても大丈夫ですけど、アランさん達ですら岩に押しつぶされる可能性もあるんですね」
「もちろんだ。まぁ、俺達のチームでも大きさによっては岩を破壊する場合もあるが、岩を見つけられずに罠を解除した後に転がって来るはずだった岩を見た時、背筋が凍った事は何度もあったな。岩が小さい場合は罠のそばにあることが多いからすぐに見つけることができるから、気をつけるべき時はそばに岩が無い場合に限るがな……とダンジョンに入る前に長々と話しても仕方がない、中に入って罠が見つかればそのつど説明していく」
「「よろしくお願いします」」
緑達は、そう言ってアラン達に深々と頭を下げるとダンジョンに入っていく。
今回緑達の作った調査班と討伐班はそれぞれの数人の家族で構成させれている。
まず、調査班は緑、腐緑、巳緑、戌緑、蜘蛛とヤスデの蟲人のアミにスデファニーの7人であった。
この調査班には、兜も参加したがったがダンジョン内はその大きさから兜が巨人化できる場所が限られている事と、ダンジョンの外に強力な魔物が出た場合の処理を考え緑がダンジョンの外で待つように言った。
続いて討伐班には、クウ、辰緑、ノーム、シェイド、ウンディーネの5人で構成される。
ヒカリやファントム、レイ、三日月、魔緑と他の干支緑に3姫、サラマンダーは兜と一緒にダンジョンの外で待機する。
当初、アラン達に調査班が7人もいるのは多いと言われたが、アミとスデファニーは外骨格をまとい、下半身が蟲となると天井を歩くこともできる聞くと、天井を歩けば邪魔にならないし新しい発見もあるかもしれないと了承された。
ダンジョンに入ったアランのチームと緑達は順調に調査を進め、ダンジョンをマッピングしながらダンジョンを降りていく。
そんな中、地下3階に降りた直後に罠に遭遇する。
「皆とまって! 罠や!」
セリアが珍しく大きな声を上げる皆をとめる。
「皆ここに罠があるのわかる?」
そう言ってセリアが指さす先には、地面が少し盛り上がっていた。
「へんなにおいがするー」
「すこしだけ、まわりとおんどがちがうー」
セリアの声にすぐに反応したのは、鼻をスンスンと鳴らす戌緑と舌先を出入れしている巳緑。
「確かに、ここだけ地面がもりあがってますね」
「うん、言われなければ気づかなかった」
次に反応したのは他のメンバーの邪魔にならない様にと壁に張り付いていたアミとスデファニー。その後に残りの調査班がセリアの指先に視線をあつめる。
「じゃあ、今から罠を発動させるから、皆気をつけてや!」
そう言ってセリアが罠をふむ。
「わっ!」
セリアが罠を踏んだ直後、スデファニーが驚きの声を上げる。
スデファニーが張り付いていた壁の一部が開き、そこから矢が発射され戌緑がそれに飛びついて矢を止める。
「とったー!」
嬉しそうにそう言った戌緑は尻尾をブンブンと左右に振っていた。
そんな姿を見たアランは、ヤレヤレと言った表情で口を開く。
「戌緑、矢を止めたのは良くやった」
そう言ってアランが戌緑の頭をなでると尻尾の振れ幅が大きくなる。だが、アランはそのまま戌緑の目線に合わせてしゃがむと真剣な目で戌緑に話す。
「だが、聞いてくれ。緑達の家族なら問題なく矢を止められるかもしれないが罠で飛び出してきた矢はふれていはいけない」
アランがそう言うとセリアが続ける。
「せやで、戌ちゃん。ここみたいに浅い階層なら問題ないけど、深い場所になると罠も凶悪になって来て、触った瞬間アウトの毒が塗ってある矢なんかもあるねん」
「ごめんなさい」
セリアがそう言うと戌緑は落ち込んだ様子であやまり、尻尾も力なく垂れさがる。
「はじめてだから仕方がない。それにそれを教えるために一緒に来てるんだから戌緑も落ち込むな」
そう言ってアランが再び戌緑の頭をなでると、尻尾が再び左右に揺れる。
そんな光景を見て笑顔になった緑は口を開く。
「なら、セリア。罠にかかって飛んできたものは触らない方がいいんだね」
緑が納得した様にそう言うとセリアは頭をふる。
「そうでもないねん。深い場所の罠は、次の罠の作動スイッチになる事もあるから。1番ええのは罠が無いと確認した場所に叩きつけるねん。そうすれば他の罠が動くこともないから」
「「なるほど」」
セリアの言葉を聞いた緑達は、思わず声をそろえる。
「まぁ、緑達なら状態異常回復の実で毒も消せるかもしれないが、その実もいちいち使っていてはもったいないだろう? だからなるべく普通の冒険者の様に対応するのが良いだろう」
「確かにアランさんの言う通り、実も無尽蔵に作れるわけではないので無駄遣いはしない方がいいですね」
緑の言葉に緑の家族が頷く。
そんな中、巳緑だけは矢が発射された場所を見つめて、しきりに舌を出し入れしていた。
巳緑が1人だけよそ見をしている事に気づいたセリアが巳緑に声をかける。
「どうしたん巳ちゃん?」
セリアがそう言った瞬間、巳緑が矢が発射された後も開いている壁に腕を突っ込む。
「何やってんの⁉」
セリアが巳緑に駆け寄り巳緑の腕を壁から引き抜こうとするが、壁の中からメリメリと音がして巳緑が腕を引き抜くと、そこには小さな魔石が握られていた。
「とれたー」
嬉しそうに魔石を皆に見せる巳緑を見てアランのチームは驚愕する。
「うそやん!」
セリアが思わず叫ぶとその兄のドナもセリアを追うように叫ぶ
「マジか⁉ 罠って魔石で操作されてたんか⁉」
「今まで罠が発動した後の場所に手を突っ込むなんて考えたこともなかった……」
セリアと一緒に斥候役をするジンも驚愕しながらそう呟く。
「ジンさんの言う通りっす。私とクリスは基本罠に近づく事すらしないのに、そんなところに怖くて手なんかいれれないっす。クリスもそう思うっすよね」
「はい、テレサの言う通り、ダンジョンは何が起きるかわからないので、罠で開いた壁に手を入れようなんて考えません……ですが罠を作動させた後は、しばらく罠は再稼働しないはず……もしかして魔石の中の魔力を充電しているのでしょうか?」
チームのメンバーが話し合う中、アランは考え込んでいた。
「もしかしたら、罠を発動させた後に魔石を抜けば、さらに罠が再稼働するまでの時間が長くなるか……もしかしたら2度と発動しないのかもしれない。ともかく、ここに戻って来た時にここがすぐにわかるように目印をつけておこう」
そう言ってアランは懐から発行する液体を取り出し、開いた壁をかこむ様に円を描く。
「これで戻って来た時に直ぐに場所がわかる。もしもこれで罠が発動するまでの時間が長くなったり、2度と発動しなければもの凄い発見だぞ」
そう言ってアランが巳緑の頭をなでると、巳緑はアランに戌緑もなでるように言い、巳緑と戌緑は頭をなでられ嬉しそうにするのであった。




