248話 ミドリムシの思い
「もう、そろそろ離してくれないか?」
「「だめー」」
「まーちゃん、ここは我慢するしかないね。干支ちゃん達も久々に会えたから嬉しいんだよ。私も少し前までもみくちゃにされていたしね」
ダンジョンから緑によって呼ばれた家族は、久々に会えた家族と話をする中、干支緑達は魔緑の体によじ登っていた。
はじめこそ、仕方がないと考えていた魔緑であったが小一時間にもなると痺れを切らし、先ほどのように言ったのだが、魔緑の提案は干支緑達に却下され、困った顔をする魔緑を腐緑がなだめていた。
「そうだぜ、魔緑。干支達はまだまだ子供なんだ、親の様に思っているお前達と離れて寂しかったんだろう」
そう言ったサラマンダーに魔緑がジト目で口をひらく。
「ああ、わかっている。だが、お前も一緒に俺にくっ付いているのは何故だ? サラマンダー」
「くしししし、いいじゃねぇか。俺も久々にお前に会えてうれしいぜ」
魔緑の体にはエメラルドグリーンの干支緑達に加えて、真っ赤な髪をしたサラマンダーもよじ登っていた。
「仕方がない……」
魔緑があきらめてからさらに小一時間ほど経ったころ、緑が魔緑達の元にやってくる。
「まーちゃん、こっちの話は終わったよー。干支ちゃん達もそろそろまーちゃんから離れてあげてねー」
「「はーい」」
「はぁ……助かった……」
干支緑達が甘えることに満足し、緑の言う通りに魔緑の体から降りると、魔緑は思わずため息をつく。
「お疲れ様まーちゃん。僕も久々に会ったときはそんな感じだったよ」
「兄よ。お疲れ様」
緑と一緒にやって来た辰緑が魔緑を労う。
「そう言いながら、何故おまえは体をよじ登る?」
「まぁ、我も甘えたいのだ許してくれ」
そう言った辰緑は魔緑によじ登るとすりすりと頬ずりする」
「がはははは! 魔緑も子供相手じゃお手上げだな!」
「おい、やめておけ。魔緑をからかって燃やされてもしらないぞシャーク」
緑の後についてきたシャークが魔緑をからかいアランがそれを止める。
「2人とも緑から話は聞いたか?」
シャークがからかって来るのは毎度のことで魔緑はそれを追求しても仕方がないと、話を進める。
「ああ、さっきお前達の家族会議に参加したときに依頼の話を聞いた。俺達も一緒にダンジョンに潜る」
「俺達は、ここでダンジョンから出て来た魔物の退治の仕方を教える」
「依頼を受けてくれて感謝する」
「ああ、ダンジョンの知識は間違いなくお前達よりもあるから任せてくれ」
「こっちも、普通の人代表として海の魔物との戦い方をレクチャーする。まかせろ」
「ああ、頼りにしている」
そう言うと魔緑は、シャークとアランと握手していく。
「と言っても魔緑は、俺達と一緒で地上組だろう?」
「ああ、俺の火の魔法はダンジョンのような狭い場所だと空気を薄くしてしまうからな」
シャークの言葉に魔緑は返事をした後、チラリとアランの方を見る。
「ああ、松明などであれば大丈夫だが、強力な火の魔法となると空気が薄くなって、魔法を使ったこちらが動けなくなりかねない」
「ああ、その代わり地上に出てきたら奴らでシャーク達の手に負えない奴らは俺が丸焼きにする」
魔緑がそこまで言うとシャークが真剣な顔になり、魔緑に問いかける。
「俺達の手に負えない奴が出てきた場合、緑達がいない時はどうするつもりなんだ?」
「ああ、俺達が依頼を果たした後は、獣人の国の魔法使いがここに常駐して、兵士達が手に負えない魔物が出て来た場合は一斉攻撃で何とかするらしい」
「それで手におえないとなると【軍団】に依頼をだすんだな」
「ああ、アランの言う通りだ。それで俺やサラマンダーが魔法使い達に魔法を教える事になっている」
「魔緑が魔法を教えるか……それは本当に身につくのか?」
再びシャークが問いかける。
「大丈夫だギルなんかもちゃんと白い炎を扱えるようになっているだろう?」
「確かにあいつも、魔緑に魔法を教わって炎が白くなっていたな……」
「たしかに赤い炎をから青くなって最後は真っ白になっていたな……」
魔緑に言われ、シャークは炎剣のギルを思い出す。アランもギルの炎剣の色が変わっていったのを思い出す。
「まぁ、聞いた話では魔法使い達はやる気に満ち溢れているらしいから何とかなるだろう?」
そこまで言うとアランとシャークは黙り込む。
「どうした2人とも?」
魔緑が黙り込んだ2人に様子に不思議そうにするとアランが話しはじめる。
「はじめて緑と会ったときにも言ったのだが、俺達冒険者にとって技術や知識は正に飯のタネだ。それを惜しげもなく提供するのはどうなのかと思ってな」
「ああ、なるほどな。俺達が魔法を強力に扱えるのは、以前の世界での知識があるからとは説明したと思うが、その世界ではほとんどの人が知っている知識だったからな……俺達がそれを隠そうとしないのは、その辺りが関係しているな……例えばの話しだが、2人は冒険者になろうとしている奴がいて、冒険者ギルドをさがしているたら場所はおしえないか?」
「いや、さすがにそれは教えるな。そうだろうシャーク?」
「ああ、アランの言う通りだ」
「何故だ? 2人が俺達が魔法の技術を他の奴に教えるのは難色を示したはずだが?」
「いや、魔緑。さすがにそれぐらいは俺達もおしえるぞ、冒険者ギルドの場所なんか誰も知っている事だしな」
そう言ったアランがシャークを見ると、シャークも黙って頷く。
「だが、その冒険者が優秀な冒険者になれば、2人の収入が減る原因にもなるんじゃないか?」
「「た、たしかに……」」
「だが、2人は間違いなく教えると言ったよな? 俺達にしたら同じことなんだ」
「「⁉」」
「まぁ、収入は冒険者達の生活に直結するし、慎重になるのもわかる。だが、魔法の技術は俺達にしたらその程度の事なんだ。俺達は、この世界ではとてつもなく恵まれた存在でダンジョンの中でその生活が完結してしまって食うに困らない。まぁ、苦労をしていないかと聞かれると、確かに苦労する部分もあるが、たまたま恵まれた存在になった俺達が他の人達が幸せになる技術を隠し持つ気にならないって事だ」
「いままで考えたこともなかったが……そう言われると納得できるな」
「かけだしの冒険者を見ると死ぬんじゃねぇぞって目でみているしな」
「2人が俺達に幸せになるようにと思って言ってくれているのもわかるが、俺達は十分この世界で幸せにしてもらっている。もちろん2人にもな」
魔緑がそこまで言うと2人はそっぽを向いて顔を赤くして頬をかく。
2人はしばらくして顔色が戻ると口を開く。
「俺は、少しはずかしくなった。お前達は今まで何度も普通の冒険者なら死んでもおかしくない困難に立ち向かい、被害もほぼなく解決している。そんなお前達が富や名誉を持つのは当たり前だと思っていたんだが、お前達ほどになるとそれをまわりに配るのか……俺なら、もっと富や名声を欲しがってしまうかもな……あはははは」
「アランそれは緑達のまわりのやつらなら皆思っている事だろう。まぁ、緑達がでかい器だと思っていたがここまでとは思っていなかった。がはははは!」
「とまぁ、そんな感じなんだ。2人には感謝をしているが、俺達もなんでもかんでも技術提供をしているわけじゃないしから、危険な技術や知識はこれでも抑えているんだ」
それまで笑っていたアランとシャークがピタリととまる。
「「危険な技術や知識?」」
「ああ、そうだ。この世界にも似たような事をしていた奴らが居たが、それはたまたま思いついた奴らだったが、俺達がいた世界は何千年も人同士で戦争をしていたからな。もちろん、対人に対しての残虐な事をしてきた上で蓄積された技術がな……例えば……」
「兄よ我は、その続きを聞かない方が良いと考える。なのでここで失礼する」
そう言うと辰緑は、魔緑から降りて皆がいる方に向かっていく。
辰緑が十分に離れ、魔緑がアランとシャークに以前の世界での非人道的な行為の上で確立された技術の話をすると、2人はみるみる顔色を青ざめさせる。
「わ、わかった。そんな危険な技術や知識があるとは夢にも思わなかった……」
「ああ、お前達がそんな知識を持っているなら、魔法の技術なんかを教えるのに抵抗が無いのは頷ける」
「だろう? それにそんな技術を使いこなせる奴がいるんだ」
「「はぁ?」」
2人の反応に魔緑は真剣な顔で話しはじめる。
「ここだけの話し、【水野 緑】の中でなんでもありの戦いになれば、俺と緑はもれなく干支緑達と腐緑に完敗する。こちらの世界での魔法を使った戦い方であれば1番強いのは干支緑達。さらに以前の世界の知識を使えば腐緑あいつが1番強い。たぶん、あいつがその気になれば俺達【軍団ですら半日で全滅だ」
「「じょ、冗談だろう?」」
「なら、緑にも聞いてみるか? おーい緑! こっちに来てくれ!」
「ん? 何、まーちゃん?」
魔緑は大きな声を上げ、緑を呼ぶ。魔緑に声をかけられた緑がやって来ると、魔緑とアランとシャークは3人で話していた事を説明する。
その説明が終わり、【水野 緑】の強さの話になると緑は苦笑いする。
「あはははは、たしかに言いにくいけど。もし【水野 緑】全員が戦ったら、僕とまーちゃんは早々に敗退するね」
「だろうな、腐緑を倒すとなると三日月かヒカリ辺りくらいしか無理じゃないか?」
「そうだよね。三日月ちゃんなら遠距離からの攻撃でヒカリなら超高速の移動で近づいて意識の外からの攻撃するしかないよね」
「あと干支緑達が倒した魔物を操れるなら、この世界の魔物全部を従えて戦われたら俺や緑でもじり貧になって負けるだろうな……」
「そうだねー、それに干支ちゃん達は最終手段として皆で合体したらどんな力を持つかわからないしねー。3人で鵺になって雷を纏ったって聞いた時は絶対に勝てないと思ったもんね」
緑と魔緑の話をアランがとめる。
「ま、まてお前達。お前達はお互いの倒し方を考えたりするのか?」
アランの言葉に緑も魔緑もキョトンとして答える。
「「あたりまえだ(よ)」」
「何故だ? お前達は家族だろう?」
「うん。でも僕達は神様じゃないから、僕達が間違ったら誰が止めるか考えたら、それは他の家族しかいないと思うんだ」
「「!?」」
緑の言葉にアランもシャークも驚愕する。
「だな。干支緑達はわからないが腐緑はそう考えているだろう」
「「そ、そうか」」
アランとシャークがなんとかそう答えると、ヒカリがやってくる。
「緑様、腐緑さん、そろそろ皆さんもお待ちです」
「うん、そうだね。じゃあ皆のところにいこう」
そう言うと緑、魔緑、ヒカリは皆がいる方に歩いて行き、アランとシャークは話しはじめる。
「俺は考えたこともなかった……シャークはどうだ?」
「俺も考えたことがなかった……」
2人は緑と会った時の事を思い出す。
2人は緑の事をはじめドラゴンと言ったが今ではその上の龍種すら例えにならないと考える。
「緑達が間違ったらか……」
「がはははは! アラン俺達は何度も緑達に命を救われているんだ、もし緑達が間違ったら俺達が命がけでとめるしかないだろ」
「はははは、そうだな」
2人は笑い声とは裏腹に真剣な目で緑達の背中をみつめるのであった。




