247話 ミドリムシは家族と再会する
「よっしゃぁあ! これで材料が確保できた!」
兜はそう言って、斬り倒した魔物の触手を担ぎ、その大きな魔物の頭を引きずりながら緑の元に歩いて行く。
「大将さっきは、待たずにこっちに来ちまってすいません!」
大きな背丈の兜が深々と緑に頭を下げながら謝るのを見て、観客席で戦いを見ていた兵士達がざわつきはじめる。
「あれは魔緑だよな? 兜があそこまで腰を低くして対応するのを見たことがない」
「おい待て、よく見てみろ。魔緑が2人いないか?」
「本当だ魔緑が2人いる⁉ と言う事はあれが魔緑の言っていた【軍団】のリーダーの【水野 緑】か⁉」
緑の身体能力は非常に高く、遠くで話す兵士達の話し声がそのまま耳に入ってしまう。
「兜、気にしないで兜が急いでこっちに来ないと兵士の人達が危なかったんでしょう?」
「それもありますが、魔緑の旦那から極力兵士の手におえない魔物は俺が倒す様に言われてるんです」
「そうなのまーちゃん? 何か理由があるのはわかるんだけど……」
緑は兜の言葉を聞き、理由もなく魔緑が兜だけで魔物の処理をする様に言わないとは思うが、その理由がわからないため確認をする。
「ああ、獣人兵士達は俺達の様に攻撃魔法を使いつつ戦う人間がすくないからな、純粋な身体能力と技術で戦う兜の方が兵士達の手本になると思ってな……」
「でも、兵士の人達に兜の真似をできるのかな?」
「無理なのか?」
緑の言葉に思わずこぼした魔緑は、観客席で戦いの様子を見ていた兵士達が集まってきたために視線を移すが誰も視線を合わせようとはしない。
獣人も身体能力に優れている者が多いが、兜のほどであるかと聞かれると兜と一緒にしないでくれと思うのが本音で、緑と魔緑の話を聞いた兵士達が魔緑と視線を合わせない様にするのは仕方がなかった。
「しかし、困ったな……獣人の王に兵士達に戦い方を教えてやってくれと言われたんだがな……」
そう言って魔緑は獣人の王に視線を向けるが、獣人の王は魔緑から子供達が一夜にしてコロシアムを建てたと聞いてからは王女となにやら真剣な顔で話をしていて、魔緑の声は届いていないようであった。
「まーちゃん、それならうってつけの人達がいるなじゃない」
「俺たち以外にそんな事ができるとなると……」
魔緑はそこまで言うと、自分達のダンジョンの中にいる人々の顔を次々に思い出していく。魔緑の頭の中で次々と顔が浮かんでは消えていく中、ある人物の顔が残る。
「なるほど、兵士達はここで魔物を押しとどめないといけないし、定点で魔物と戦う上で足場が水辺でも気にならないと言えば【海の守護者】だな」
「うん、それに僕達はダンジョンの調査の依頼も受けているよね」
「ああ、そうだな。アラン達にも来てもらおう」
そこまで言うと緑は、今もまだ2人で話をしている獣人の王と王女に声をかけるのであった。
「すまん、すまん。緑達の事を見ていると湯水のように話をすることが生まれてしまってな……」
「申し訳ありません、緑さん……」
「それで以来の件でおうかがいしたい事がありまして」
そう言って緑は2人に考えていることを説明する。緑は2人がどんな反応を示すか気になっていたが思いのほか良い返事をもらえた。
「緑様達が必要と思うその2つのチームも呼んでいただきたいです。もちろん、その2つのチームへの報酬も用意させていただきます。ですよね王様」
「うむ、緑達が必要とする冒険者チームならぜひとも呼んでくれ」
「ありがとうございます。では今日の内に彼等に連絡をしておきます」
「ああ、そうしてくれ。それと、話が変わるのだが緑達は建築の依頼を出せれれば、それも請け負ってくれるだろうか?」
「建築の依頼ですか?」
「ああ、そうだ。さっきシンシアと話していたんだが、こんな建物を一夜にして建てる緑の子供達の実際の現場を我が国の職人にも見せてやりたいと思ってな」
「はい、王の言われる通り我が国の建築技術を高めたいと思います。もちろんその依頼とは別に技術の提供料の支払いもさせていただきます」
2人の言葉に緑は、困ったような顔をして話す。
「きっと、技術の提供への報酬はいらないといったらお2人は困った顔をするんですよね……」
緑がそう言うと、獣人の王と王女が苦笑いをしながら話しはじめる。
「ああ、内心的には非常に嬉しい提案なんだがな……それは一国の王として非常に困る……思うにここより東にある国々の王達にもそのような事を言って困らせたのだろうがな……」
「そうですわ緑様。きっと緑様達は東の国でも今な様な事を言って、東の国の王様達をこまらせたんでしょうね」
緑は、2人に今までの行いを見透かされて頬をかく。
「ばれましたか……皆、今みたいに言うと困った顔をするんです」
「ああ、容易に想像できる」
「私もです。その辺りのお話は一緒にお酒を飲みながら、近々お話しいたしましょう」
「はい、ぜひよろしくお願いします。今は依頼を進めます。良いよねまーちゃん」
「ああ、何か問題があれば口を出そうとも思っていたが、特に問題も見当たらなかった。それと酒を飲むときは俺も呼んでくれるんだろうな?」
「ああ、もちろんだ。話に聞く【水野 緑】全員と一緒に飲もうではないか」
王はそう言って王女に視線を送ると王女は笑顔で返事をする。
「ええ、王様。きっと楽しいと思います」
「ああ。それでは我々は先日我々が帰った後ここに残ってもらった兵士達から話を聞きに行くとしよう」
「はい。緑様、魔緑様失礼いたします」
「いえ、こちらこそ仕事があるにも関わらずお話を聞いていただいて感謝します」
「ああ、こちらの願いを聞いてもらって感謝する」
緑と魔緑はそう言って、王と王女に頭を下げようとすると止められる。
「待て待て、依頼をしたのはこちらだ。それにこの依頼はお前達以外に受けれる者はこの近辺の国にはいないはずだ。こちらこそよろしく頼む」
「なにとぞ、よろしくお願いいたします」
そう言って王と王女は深々と頭を下げるのであった。
緑と魔緑は王と王女と別れ、再びコロシアムの中心が見える場所までやってくる。
「あ、まーちゃん! こっちやで!」
緑と魔緑をいち早く見つけた凜が2人に手を振る。
琉璃、凛、珊瑚の3人は子供達との再会をおえたヒカリとクウと一緒にいた。
「緑様ただいま戻りました」
「ただいまです♪」
「うん、2人ともお帰り」
緑はそう言うと、2人とは抱き合う。
「変われば変わるものだのう」
「ほんまやで、うちらとまーちゃん以上にスキンシップするやんか」
「すっごく羨ましいです」
緑とヒカリとクウの3人の様子を見て琉璃、凛、珊瑚の3人は魔緑に視線を送る。
「あれはやりすぎだ」
「そんな事はないかと思うがのう」
「せや! あれくらいして欲しいわ!」
「私達もすっごくしてほしいです」
魔緑が3姫の言葉にどうしたものかと思っていると、ヒカリが魔緑に助け舟を出す様に話しかける。
「魔緑さん、それでお話はすんだのでしょうか?」
「ああ、ヒカリ。獣人の王と王女は納得してくれた。あとで緑にダンジョンの扉を開いてもらって。ダンジョンから皆を呼んで家族会議をしたい」
「わかりました。どこか都合の良いとこで扉を緑様に開いてもらいます」
「ああ、そうしてくれ」
「久々に皆にあえるとほっとするのう」
「うんうん。干支ちゃん達とも会いたかったし」
「サラマンダーさんやウンディーネさん達にもすっごく会いたかったです」
「なら、直ぐに扉を開いて皆に来てもらおう。あそこなら兜もいる事が多いから何かあったらすぐに呼びに来てくれるし机やイスも一杯あるから問題ないよね」
緑の言葉に全員がうなずくと魔緑が兵士達に事情を説明して、その場を後にするのであった。




