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244話 ミドリムシは獣人の国の王都を目指す


「じゃあ、いきますよ」


 そう言って緑はダンジョンの扉を開く。


 緑が扉を開けるとそこでは、龍の姿となった辰緑と干支緑達が乗っている黒い大ムカデが戦っていた。


「ふむ、たしかに強いな……」


 辰緑は体に巻き付いた大ムカデの頭をつかみ、引きはしながら感心する。


「「たつちゃん、すごーい」」


 ムカデの上で辰緑とムカデの戦いを見ていた干支緑達は、目をキラキラとさせながら声をそろえる。


「しかし、こう何度も巻き付かれると疲れるな……」


 ムカデよりも辰緑の方が力が強いらしく、辰緑は簡単に自分の体からムカデを引きはがすが、そのたびにムカデは態勢をかえ辰緑に巻き付く。


「これで最後にしてくれるか、兄妹達よ」


 そう言った辰緑は、再びムカデを引きはがすと、遠くにむかってムカデを投げ捨てる。


 ムカデに乗ってる干支緑達は、ムカデごと投げ捨てられるが、地面とぶつかりそうになると素早く移動して、ムカデにまたがる位置をかえる。


「「うん! これでさいご!」」


 干支緑達が返事をするとムカデが高速で右に左にうねりながら辰緑に向かっていく。


 ムカデが蛇のようにして高速で向って来るのに対して、辰緑は魔力を圧縮し魔法を発動させる。


 辰緑の魔法は、辰緑自身の影から大きな黒い棘を生み出していく。その棘はムカデの胴回りほどもあり、もしムカデに棘が刺さればムカデが1撃で止まると思われた。


 そんな棘を生やしながら影は蛇行してムカデに向かっていく。


「辰ちゃんの魔法の練習になりそうだね」


 緑がそう言った瞬間、後ろで物が倒れたような音が聞こえる。緑が音のした方に振り向くと、そこには手綱を握ったまま失神した冒険者達が倒れていた。 


「そういえば、干支ちゃん達の大ムカデを見て失神したんだった……」


 緑は、自分の乗っている馬車を降りると、失神した冒険者に手綱がからまないか確認する。


「これなら、大丈夫そうだね。じゃあ、皆は僕達の後を付て来てくれるかな?」


 緑がそう尋ねたのは、冒険者達が乗る馬車を引く子供達。緑の言葉に子供達は嬉しそうに頷く。


 それを確認した緑は、自分の馬車に戻ると獣人の王国に向かうのであった。




「ん……ん? ここは?」


 そう言って目を覚した獣人の冒険者が、辺りをキョロキョロと見回すと、隣で並走する馬車に緑を見つける。


「あ、起きたんですね。皆さんが見た大ムカデに危険はないので安心してください」


 そう言って緑は、並走する馬車に乗る冒険者の後ろを指さす。冒険者は思わず緑が指を指した方に顔を向けると、隣を巨大なムカデが並走していた。


 冒険者は思わず緑の方を向くと、ムカデを指さしながら叫ぶ。


「本当に大丈夫なのか⁉ あんなものが暴れたら、いくつもの町や村が滅ぶぞ⁉」


「大丈夫です! ほら子供達も乗っているでしょう?」


「子供達?」


 緑の言葉に冒険者がもう一度ムカデの方に顔を向けると、その頭には干支緑達が乗っていた。


「そういえば、最初会った時にあのムカデはあの子達のペットと言っていたが本当なのか?」


 冒険者の言葉に、緑は苦笑いしながら説明しはじめる。


「まぁ、厳密にいえばペットではなく、あの子達がよみがえらせた魔物です。なのであの子達が呼び出す魔物は、あの子達に攻撃でもしなければ襲ってはきません」


「だが、さっきあのムカデは龍と戦っていたではないか!」


「あれは、遊んでいただけです」


「龍と遊んでいた? なら龍はたおしたのか?」


 冒険者が緑に尋ねると、冒険者の馬車が僅かに揺れる。


「さっきの龍は我だ」


 緑と話していた冒険者は辰緑の言葉に振り返る。


「あそこからどうやってこっちにきた?」


「どうやってと言っても飛び移っただけだが?」


「本当か?」


 冒険者は、辰緑の言葉を聞き後ろにいた仲間に尋ねる。


「ああ。この子ムカデから飛び移って来たぞ」


 冒険者は緑との話を聞くために全員が緑の方を向いていたと思っていたが、仲間の1人が干支緑達の方を向いており飛び移る瞬間を見ていたようだ。


「たしかに普通の子供ではない様だが、龍と言うのは信じられないな」


「なら証明してみせよう。酉よこっちに来てくれ!」


「はーい」


 酉緑は辰緑に呼ばれるとその背に羽を生やし、文字通り飛んでくる。


「お前は鳥の獣人なのか?」


 冒険者は思わず尋ねるが酉緑は首を傾げる。


「ん-? わかんなーい」


 そんな酉緑に緑が助け舟を出す。


「その子は獣人ではありません」


「そうなのか?」


 背に鳥の翼が生えているにも関わらず、鳥の獣人ではないと言われ冒険者は納得ができない顔をしていた。


「では、冒険者の方が我が先ほどの龍だと証明しよう」


 不満そうにしている冒険者をよそに、話しをすすめるために辰緑がそう言って馬車から飛び降りると、辰緑は地面に着地すると同時に大きなクレーターを作り飛び上がる。


「がったーい」


 その辰緑を追って酉緑が後ろから辰緑を抱きしめる。2人は輝きだしその体積を大きくしていき、光がおさまると大きな翼をもった飛龍になっていた。


「飛龍だと! もしや飛龍にもなれると言うのか⁉」


「信じてもらえましたか?」


「ああ、信じた。その上で話を聞きたい……緑、あんた達は獣人の国に何をしに来る?」


 冒険者の目は、今にも襲い掛かって来そうなものであった。


「僕達は、獣人の王様より川の工事とダンジョン探索の依頼を受けているので、獣人の国に着いたら川の工事とダンジョンの探索をすると思います」


「王からの依頼なのか?」


 目を鋭くしていた冒険者は、驚いて目を皿のようにする。


「はい、すでに僕の家族が獣人の国に居て、僕達の到着を待っています。家族には、そこに王様もいると聞いています」


「……安心した。緑達が獣人の国を侵略するとでも言ったらどうしようかと思った」


 今度は緑が目を皿のようにするが、すぐに笑顔になると手を横に振る。


「そんな事するはずないですよ。獣人の国を侵略しても僕達には何のメリットもないですし」


「確かにあのダンジョンがあればそう思うな」


 冒険者は緑のダンジョンを思い出し苦笑いする。


「なら、俺達はゆっくりさせてもらう。飛龍なんてものがいれば襲われる心配もないだろうし……あの大ムカデもいる、空も陸もとんでもない護衛がいるしな。わはははは!」


 そう言うと、冒険者は安心したのか御者をしながらくつろぎはじめる。


「もし、魔物が襲ってきた場合はあの子達の遊び相手になるのでこちらに任せてください」


「ああ、そっちにまかせる。これで怪我でもしたら良い笑いものだ」


 冒険者そう言うと、さわやかにサムズアップした。




「じゃあ、皆。今日進むのはこれぐらいにして、ダンジョンに帰ろうか」


 緑の声に皆が集まって来ると、緑はダンジョンの扉を開く。扉をくぐり緑達が冒険者を連れてダンジョンの食堂に向かう。


「しかし、信じられないなダンジョンに入ってゆっくり眠れるなんて……」


「僕達と一緒に旅をすることになった人達は、皆そう言いますね」


「無理もない、便利すぎる。さしずめ緑達の国は高速で移動可能な軍事国家のようなものだ。緑達のダンジョンと戦争になどなったら、想像もしたくないような恐ろしい事が溢れるように想像できる」


 そこまで言うと冒険者は身震いする。そんな冒険者の仲間もうなずき呆れたようにこぼす。


「「戦争の概念が根底から覆される」」


「まぁ、僕達は戦争なんてする気もないですけよ。じゃあ皆さんここで待っててください」


 緑は食堂につくと、そう言って家族と共に厨房に向かうのであった。




「さぁ、皆さん席についてください」


 緑はそう言うとテーブルの上に料理の皿を並べていく。

 冒険者達は言われたとおりに席に着くとテーブルの料理を見て騒ぎはじめる。


「すげぇ、美味そうだ」


「これは、獣人の国の料理だ……」


「獣人の国にしかない香辛料もある」


「僕達は、各国の料理を研究しています。今日は獣人の国の料理をお出ししますが、明日はここのメニューをお渡ししますので、進む途中に何が食べたいか決めておいてくださいっと……話していたら料理が冷めちゃいますね、それではいただきます!」


「「いただきます!」」


 そこから冒険者達の間で料理の取り合いがはじめる。


「あっ! それは俺が目をつけていたやつ!」


「早いもの勝ちだ!」


「おい、こっちにもよこせ!」


「これ! すげーうめぇ!」


 そんな冒険者達の様子を見た緑は嬉しそうに言う。


「皆さん欲しいものがあれば追加で作りますので言ってくださいね」


「「おかわり!」」


 冒険者達は思い思いの皿を緑に突き出す。


「はい、すぐに作ってもらいます」


 緑は、冒険者達から注文を聞くと厨房にそのリストを渡すのであった。

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