241話 ミドリムシは帰りを待つ
人族の王都に向かった腐緑、三日月、レイの3人は王宮での話し合いもおわり、城壁の外で野宿をしながら今後の話をしていた。
「今、私達がした方が良い事は2つあるけど、どうしようかな?」
「ふーちゃん、2つって言うけど具体的には?」
三日月の言葉に腐緑は人差し指を立てる。
「まず1つ目は、獣人の王国の川の治水工事」
続けて中指もたてる。
「2つ目は各国に扉を設置していく」
腐緑がそこまで言うと三日月は首を傾げる。
「あれ? ダンジョンの調査は?」
「それは、治水工事と同時進行かな?」
「じゃあ、川の工事にダンジョン調査と各国で私達のダンジョンの扉の設置かぁ……でもそれなら、いつもみたいに同時進行じゃだめなの?」
三日月の言葉に腐緑は少し困った顔をする。
「うん、ダンジョンが新しいものでなければそうするんだけど……」
腐緑は困った顔のまま腕を組む。
「ダンジョンの危険度が問題なんだよね……まぁ、調査しないとまだわからないけど、新しく発見されたダンジョンの危険度は高く見積もるに越したことはないからね」
「でも以前、緑ちゃんとヒカリちゃん、クウちゃんでダンジョンの探索をしたって言ってなかった?」
「うん、こちらの世界に来てすぐに3人はアランさん達とダンジョンに入ったらしいけど、それはお試しに良く知られているダンジョンに入ったから、それほど危険じゃなかったんだ。今回の様な新しいダンジョンが発見された場合、そのダンジョンの情報は冒険者達の尊い犠牲の上で集められるからね」
「なるほどね~」
「それにさっき言ったけど、治水工事とダンジョンの調査が同時進行なのは、皆でダンジョンの調査をした場合、その影響でダンジョンから魔物が逃げ出したら、それを退治する人が入り口付近に居ないと駄目だからね」
「確かに私達がダンジョンの調査をした場合、魔物がダンジョンから逃げ出しそうだね」
三日月は、【軍団】の面々の顔を思い出していく。
「でしょう? 私達家族はダンジョンからしたら劇薬だと思うし、そんなものが体内に放りこまれたらダンジョンが慌てて何をするかわからない」
腐緑はお手上げと言った様子で両手を上げる。
「たしかにダンジョンも訳の分からないものだけど、うちの家族も負けてないよね」
そう言って苦笑いする三日月。
「だから、ダンジョンの調査をするのは被害を出さないためにも、家族全員で取り掛かるのがいいと思うんだ、そうなると扉の設置がね……」
「あの~」
腐緑と三日月がどうしたものかと考えているとレイが手を上げる。
「ん? どうしたのレイちゃん」
「はい、そもそもダンジョンの設置は後回しでもいいんじゃないですか~? 私達は各国の失態でこちらの国にまで来ましたが~、それも今は存在の知らなかった町や商人の暗躍に関してはお知らせしましたし~ 沢山の人が死ぬような事はなくなったんですし~」
「「あっ……たしかに……」」
「これ以上は私達が甘くみられるんじゃないでしょうか~」
「はは、みーちゃんの悪い癖がうつったね」
「そうだね、ふーちゃん」
そう言って2人は頭をかく。
「なら次の定時連絡でその事を書いて、獣人の王国に集まろうとしようか」
腐緑の言葉に三日月もレイも頷く。
「はぁ、いつも緑に甘いと言っていたのに……」
そう言って落ち込むのは魔緑。
「まぁ、まーちゃんも厳しい事を言ってるようで甘い所があるからのう」
「うんうん、まーちゃんが怒らなみんな甘々やからな~」
「でも本当は、まーちゃんもすっごい甘々です」
そう言った3姫は魔緑にのしかかる。
「それじゃ、次は皆でダンジョンの調査と治水工事だな!」
「久々に皆にあえるのう」
「やっぱ、皆がそばにおらんと寂しいわ」
「家族が一杯なのが【軍団】ですね」
「と言っても、真直ぐにこっちには来れないから、一度他の家族は龍種の国に集まる形になるな」
「なんでなん? みんな真直ぐに獣人の国にきたらあかんの?」
「凜、家族が5つの国に別れても、それぞれの国で大騒ぎになったのだ、それが一度に獣人の国にきたらどんな騒ぎになるかわからんのう」
「すっごい大騒ぎになりそうです」
「せやかて、それはそれぞれの国で町や村に連絡すればええんちゃうの?」
「ああ、それも一理あるが人以外はどうする? 人は凜が言った様に各国の町や村にそれぞれ連絡すれば問題ないかもしれない。だが、大量の家族が獣人の国に集まって来る途中で、魔物や動物たちが怯えてパニックになったら、それこそスタンピードになりかねないだろう?」
「たしかに……そうやわ……」
「皆にすぐに会いたいのはわかるが、俺達はまわりの事を考えて行動しないとな」
そういって魔緑は凜の頭をなでる。
「まーちゃんや、私の頭もなでてくれんかのう」
「凜さんだけずるいです」
「ああ、わかっている」
魔緑は琉璃と珊瑚の頭をなでていく。
緑は定時連絡の時間になると、アイテムボックスの手紙を取り出す。
「手紙がきてるね……」
そう言って緑が手紙を読む間、ヒカリとクウはその様子をじっと見つめる。
手紙を読み終わると緑は2人に手紙を差し出す。だが、2人とも首を振って中身を確認しようとはしない。
「私は緑様の行くところであればどこでも一緒に行きます」
「クウもです♪」
2人の言葉に緑は笑顔で言う。
「僕達は5つの国の中心にある龍種の国に集まって子供達をダンジョンに送ったら、獣人の国に向かう事になったから2人ともついてきてね」
「「はい!」」
その日から【軍団】の魔緑一行以外は、5つの国の中心にある龍種の国に向かう。
数日後
「おかえりなさい、皆さんのお話は途中まで同行した者達より聞いております」
そう言って緑達を出迎えたのは龍種の国の長であった。
「長自ら出迎えてもらってすいません」
「【軍団】の皆様に救っていただいたのは5つの国だけでなく、ここ龍種の国もです。そんな恩人を出迎えないのは失礼です」
そう言って龍種の長は緑に深々と頭を下げる。
そんな様子を見て、緑は長の態度は変わらないと思い話を変える。
「長、頭を上げてください。感謝を謹んでお受けします。ところで他の皆はもう帰って来てますか?」
「いえ、他の方々はまだ戻って来てはおりません。皆様我らの国に戻ってこられるのですか?」
「はい、まーちゃん……魔緑が向かった獣人の国に家族全員で向かう事になりました。ですがそのまま僕達が向かうと各所でパニックが起こりそうだったので、一度ここに集まる話になりました」
「なるほど……ですが緑様達は確かヒカリ様がダンジョンのコアを持っていたと記憶しているのですが、ダンジョンの扉を開いて緑様達のダンジョン経由で戻ってこられなかったのは?」
「皆、国境付近を通るように戻って、各村や町の様子を見て帰ってくると思います」
「なるほど」
「国の方でも今回の件の後処理に動いていたので、どの村や町にも王都から人や支援物資が運ばれていたのを確認しました。これで一見落着になると思います」
「それは良かったです」
「それで申し訳ないのですが、皆が帰って来る間こちらで待たせてもらってもよいですか?」
「はい、何もない所ですが、皆様がお帰りなるまでごゆっくしてください」
「はい、よろしくお願いします」
そう言って緑達は、他の家族が龍種の国に戻って来るのを待つのであった。




