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240話 ミドリムシは甘える


「どうやら、川の支流を飲み込んでいたダンジョンがあったらしいね」


「それで各国の川の水量が減少してたんですね」


「これでダンジョンを潰せば、解決したのも同じですね♪」


 定時連絡の手紙を読んでいた緑は魔緑達の経緯を知り、今回の問題解決が近いことを話していた。


 だが、手紙を読み進めると緑は思わず声を上げる。


「あれ?」


 緑の様子が気になり、ヒカリとクウは緑が持つ手紙を覗き込む。


「なるほど、ダンジョンを資源とする町もありましたし、簡単に潰さないんですね」


「でも緑さん、危なくないですか?」


「うん、でもダンジョンを管理している町もあったし、それは獣人の国がきめるから……僕達は口をはさめないかな……」


 緑達は、さらに手紙を読み進める。


「あっ!」


 手紙を読み進めると、今度はクウが声を上げる。


「川の工事の依頼です♪」


 治水工事となると自分達の出番だと嬉しそうにするクウ。


「緑様、この依頼うけるんですか?」


「僕は、皆に意見を聞いて反対がなければ受けようと思うけど、2人はどう?」


「私は賛成です♪」


「そうですね、ここでさらに恩を売っておくのも良いかと思います」


 冷たく聞こえるヒカリの言葉だが、家族以外にはあえて事務的な言葉を使うヒカリ。


 つまり冷たく聞こえるが、ヒカリもクウと同じく賛成している。


「2人とも賛成してくれて、ありがとう」


 緑は2人を後ろから抱き寄せる。


「えへへへ♪」


「私は冷静に判断したまでです」


 そう言いながら頬を赤らめるヒカリ。しばらくの間、緑は抱き寄せた2人に頬ずりを続ける。


 頬ずりに満足したのか、クウが緑に尋ねる。


「じゃあ、緑さん。私達はこれから獣人の国に向かうのですか?」


 クウの言葉に緑が困った顔をする。


「それが悩みどころなんだよね~」


「各国のダンジョンの入り口ですか?」


 緑達の家族が各国の王都に向かい、緑のダンジョンの事を話すと、どの国ももろ手を挙げて入り口の設置を喜んだ。


 そのため、獣人の国のダンジョンに向かうか、各国をまわるかで緑は悩んでいた。


「よろしければ、今回も私が……」


「それはだめ」


 ヒカリが1人で各国をまわると言おうとすると、緑がそれを止める。


「ヒカリ、今回の件で僕は思ったんだ。僕は凄くヒカリに甘えていたんだと」


「私は緑様に甘えてもらうのは嬉しいんですが……」


 緑の言葉にヒカリは少し残念そうにする。


「前にも言ったけど、これから僕はヒカリに甘えるつもり」


「なら、私に言ってください。各国に入り口を置きに行くように」


「ううん。それは言わない」


「何故ですか?」


 ヒカリの表情が歪み、目に涙がたまりはじめる。


「み、緑さん」


 それを見たクウが珍しくあせりだす。


「……やっぱりヒカリは甘えれないみたいだから、僕が今からヒカリに甘えるよ」


 緑の言葉にヒカリは目を丸くする。


「僕は少しでもヒカリと離れたくない。だから、扉を設置するなら一緒に各国をまわるし、獣人の国にむかうならヒカリも一緒」


 ヒカリの目から一粒の涙がこぼれ落ちると、涙は堰を切ったように流れはじめる。


「うっうっ……」


 泣き声を上げそうになったヒカリは、緑の胸に顔をうずめ声を押し殺す。


「ヒカリさんよかったです……ぐすっ」


 ヒカリの様子を見たクウも涙ぐむ。


 そんなクウの言葉に緑はクウの方に顔を向ける。


「もちろんクウも一緒だよ」


「えへへ。もちろんです♪」


 後ろから抱き寄せられた2人だが、今は2人とも緑の方を向いている。


(今度は間違ってないよね。三日月ちゃん、皆……)


 緑は自分達が今いる西側の国に、ヒカリと三日月が扉を設置して戻って来た時の事を思い出す。






「緑ちゃん、ちょっと話があるんだ」


 そう言われたのは、二人が帰って来た夜。三日月の後ろには魔緑の嫁の3姫にウンディーネと腐緑もいた。


 皆が笑顔であるが緑は気づいていた。腐緑以外、全員が怒っていると。


 三日月に言われるままに緑達はダンジョンの中の食堂に移動する。その移動の間に腐緑はニヤニヤしながら近づいて来る。


「みーちゃん。皆、激おこぷんぷん丸だよ」


 そう言いながら、腐緑は緑の肩をツンツンとつつく。


 食堂に着くと、緑の前に三日月、3姫、ウンディーネが座る。


「じゃあ、ごゆっくり」


 そう言うと腐緑が結界を張る。結界の中は、外と腐緑の1本の髪以外の全てを遮断した。


「さぁ、これで私達以外にこの中の声も様子を知ることはできない。緑ちゃん私達が集まった理由がわかる?」


「ヒカリとクウの事?」


 緑の言葉に三日月達全員がうなずく。


「そう、でも特にヒカリちゃん。さっき言ったけど2人とチューもしてなかったんだって?」


「……う、うん」


 返事をした緑は耳まで真っ赤にする。


「はぁ……中学生には敷居が高いか……なんて言わないよ! こっちの世界じゃ中学生くらいで成人とするらしいね?」


 三日月がそう言うと、3姫がうなずく。


「しかも2人は元魔物で、みーちゃんの魔力と自分達の魔力であれだけの子供も産んでるのに、チューすらしてないなんて!」


 三日月は机に肘をついて頭を抱え込む。


 三日月はため息をつくと頭を抱えたまま、緑と目を合わせる。


「2人で西の国まで行って来たけど、その間に色々ヒカリちゃんに聞いたんだ」


 そこまで言うと三日月は、少し悲しそうな顔をする。


「ヒカリちゃんは上手くみーちゃんに甘えれないって悩んでいたよ」


「⁉」


 三日月の言葉にそれまで怒っていた皆が悲しそうにしながら話しはじめる。


「のう、みーちゃん2人はとても良い子だ。もう少し……そのなんだ……男のみーちゃんから愛情表現をしてやってもいいのではないかのう?」


「せやで! もっとぶちゅーとキスでもしてやりぃや! まーちゃんはしてくれるで!」


「そうです! まーちゃんは私達の事をすっごく愛してくれます! みーちゃんにできないはずありません!」


 3姫が必死に話す中、ウンディーネが静かに話しはじめる。


「ねぇ緑……私は龍種で長命種だから色恋沙汰には疎いけど、蟲達は恋人ができたらすぐに愛を燃え上がらせていたわ。私が言うのもなんだけど、蟲人達は生きるのに必死だったわ……緑達は色んな人達を幸せにして来た、だから緑達にはもっと幸せになって欲しい。それができる環境なのだから……」


「緑ちゃん、どうか2人を幸せにしてあげて、もちろん緑ちゃんも幸せになって……」


 最後に悲しそうに三日月が言う。


 緑の顔色から赤さがひき、真剣な表情で言う。


「うん、頑張る」


「「言ったね」」


 女性陣が声を合わせた瞬間、結界内に延ばされた髪を引っ張る。


 それを合図に結界が解かれると、結界の外には、魔緑、干支緑、蟲人達、龍種達、緑の家族達のほとんどがイスを並べていた。


 緑が驚いていると、腐緑が前に出る。


「ごめんね、みーちゃん。声は外に丸き声だったんだ」


 そう言って腐緑は、横にずれる。

 

 腐緑の影に隠れていた家族の中心には頬を赤らめたヒカリとクウがいた。


「じゃあ、さっそく頑張って!」


 そういって三日月が緑の背中を押す。


 緑が驚いた表情から真剣な顔になると2人の前に歩いて行く。


 クウは嬉しそうに、ヒカリは少し不安げな顔で緑を見上げる。


「2人とも待たせてごめんね」


 そう言って緑顔を近づけると、クウは目をつぶる。


「えへへへ、きちんと唇にキスをしてもらったです♪」


 キスをされた後、クウは自分で両頬を持ち上げ嬉しそうにする。


「ヒカリごめんね、今まで気づかなくて……」


「そんな事ありま⁉」


 緑の言葉にヒカリがそんな事ないと言おうとするが、緑は最後まで言わせまいと唇で塞ぐ。


「これからはもっと甘えてね、ヒカリが甘えれないなら僕が甘えるから」


「はい、緑様……」


 ヒカリはそれだけ返事をすると、緑の胸に顔をうずめ涙した。






「よし、ヒカリちゃんが他の国に向かう事はないみたいだね」


 そう言ったのは定時連絡の手紙を見た三日月。


「そうだね。これでまたヒカリちゃんが1人で各国をまわるなら家族会議だったね」


「腐緑さんの言う通りです~」


 レイがそう言うと、三日月と腐緑はレイの顔を見る。


「どうかなさいましたか~?」


 二人の様子にレイは言う。


「「レイちゃんはどうなの?」」


 二人の言葉にレイの表情が妖艶なものになる。


「ふふふふ~ それは内緒です~」


 そう言って舌なめずりをするレイ。


 レイの様子にカマキリの習性を思い出した2人は、悲しそうな顔をするのであった。


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