236話 ミドリムシはやさしい孫
「「こんにちわ~」」
「失礼するぜ」
「失礼するわね」
「失礼いたします」
「まぁ! かわいいお客様! 皆もっとこっちにいらっしゃい!」
「「はーい!」」
干支緑、サラマンダー、ウンディーネ、ファントム達は、エルフの女王と謁見していた。
「申し訳ございませんが、そこまででお願いします」
女王に言われ走り寄る干支緑達と女王の間に割って入る男がいた。
「本当にあのスタンピードを先導していたのがこんな子供達とは、信じられないな……」
そう言いながら男は干支緑と女王の間に入った直後に、顔をほころばせて干支緑達の頭をなではじめる。
「「えへへー」」
撫でられるのが気持ち良いのか、干支緑達はされるがままになっている。はじめは厳格で厳しい性格をしていると思われた男だったが本当はただの好々爺であった。
と言っても長命種のエルフの中での好々爺は何年生きているかわからない。だが、そんな者達は緑達の家族にもいた。
「くしししし、そうだろう。干支緑達はかわいいからな」
「そうね、みんな素直でかわいい良い子達だものね」
エルフの男に同意したのは、サラマンダーとウンディーネ。
「お前ばかりずるいぞ!」
「私もなでたい」
もう我慢できないと、謁見の場にいた他のエルフ達も干支緑達のまわりに集まって来る。それにつられて女王も立ち上がろうとする。
「あ、あ、あ、わた、私も……」
「「女王様はだめです!」」
「彼等は大きな力を持った子供達。もしも、女王様に何かあれば一大事です」
「そうです! 我等の様な老人であればかまいませぬが、女王様に何かあってはいけませぬ!」
そう言ったエルフの老人達であったが、その間も干支緑達をなでる手は止まらない。
「きゃはははは!」
「くすぐった~い」
「おじいちゃん、おばあちゃん、だいすき~」
干支緑達は、撫でられたり、頬ずりされたりしている。
サラマンダーとウンディーネ、ファントムはその光景を笑顔で見ている。
そんな3人に気づいたエルフの女王は、3人に尋ねる。
「あなた達3人は子供の姿をしているが、口調から察するに見た目通りの年齢ではないの?」
「ん? ああ、そうだ。俺と……」
サラマンダーはウンディーネに視線を向ける。
「私は、そうね。エルフの女王さん」
2人の返事を聞いた後、エルフの女王は返事をしないファントムに視線を向ける。
「私は、少し話すと長くなるのですが、私は見た目通りの年齢です」
「だが、きちんと常識を持っている様に思えるな。なら、3人はこちらに来なさい」
エルフの女王は3人に手招きをする。それを見た老人達が声を上げる。
「「女王様!」」
だが、女王も黙っていない。どうしても子供をなでたいと老人達に反論する。
「今聞いたでしょう? 見て目通りの年齢ではないと。なら、ここで何か騒ぎを起こすなら、とっくにおこしているはず、それに彼等が連れて来た、者達でエルフの国は簡単に滅ぶ」
「「むぅ、たしかに……」」
「さぁ、3人ともこっちに来て」
そう言うと、エルフの女王はイスから立ち上がると、しゃがみ込みサラマンダー、ウンディーネ、ファントムの視線の高さを合わせる。
トトトトと、3人は女王のそばまで来ると、サラマンダーとウンディーネが女王の頭をなではじめる。
「え? え? え? なんで?」
「俺らからすれば、エルフの女王でも年下だからな」
「ええ、サラマンダーのう言うとおり」
しばらくの間2人が女王の頭をなでていると、女王は顔をほころばせ、されるがままになる。
「これはこれで、いいわね。私も何百年と頭をなでてもらっていなかったし」
なでなで すりすり ふにふに
それからしばらくの間、謁見の場では、撫でたり撫でられたり、頬ずりしたりされたり、頬をもむなどが続き、全員が満足した所で話し合いがはじまる。
「まずはチーム【軍団】に我が国の民を救ってもらった感謝を」
まずは、奴隷にして売られそうになっていたエルフ達の話をすると、女王が礼を言う。女王の言葉で女王自身に加え、その場にいたエルフ全員が頭を下げる。
さらに、国境付近に作られた、町の件も話し合いに上がる。
「正直なところ町が作られていることに気づきませんでした……」
「ああ、あなた達がスタンピードとなって、その町にまで進んでいなければ、我々はいつまでもその町に気づかず、まわりの町や村が滅んでいくことに気づかなかっただろう……感謝する」
エルフの宰相と思われる男が深々と頭をさげる。その後を追うように他の者達も頭を下げる。
「黒幕の処理はそちらに頼むぞ、俺達は悪人だろうと、他の国の人をさばくつもりはない」
「ああ、サラマンダー殿、黒幕は確実に見つけ出す!」
宰相は力強くうなずき、サラマンダーはニヤリと笑う。
「ああ、また俺達が助けにくるような事にはならないでくれよ」
「ああ!」
サラマンダーと宰相の話がおわると女王が口を開く。
「それで、今回の報酬なのだが……」
「ああ、それはいらないらしい」
「「なぜ⁉」」
「知らん!」
「ちょっとサラマンダー! 知らないのは噓でしょ!」
サラマンダーの言い分にウンディーネが声を上げる。
「俺は長い話は嫌いだ、それに緑がいらないと言ったならそれが全てだろう?」
「あなた最後まで話を聞いていなかったわね……」
サラマンダーの言葉にウンディーネはあきれた顔をするが、すぐに真面目な顔をして女王の方を向く。
ごくり
女王は、ウンディーネの真面目な顔を見て何を要求されるのかと、思わずつばを飲みこむ。
「私達の王様は……あ、リーダーの事ね。エルフの町に我々のダンジョンに直結する、扉を設置させてほしいと言っていたわ」
「あなた達のダンジョンに直結する扉?」
「ええ、それは……」
「そんな扉をいくつも作っているなんて……でも、それなら喜んでお願いするわ。今回の様な緊急時に、あなた達のダンジョンを通って、情報の交換をできるのは利益しかないわ」
緑達のダンジョンの説明を受け、エルフの女王はもろ手を挙げて喜んだ。
「今回の件が丸く収まったら、私達はこちらの6つの国を、まわるからその時設置をしていくわね、ああ、そうだここにもおいて大丈夫かしら?」
「ああ、ぜひお願いしたわ。もし、危険なんて言うものが出てきても、あなた達がその気なら6つの国はとっくに滅んでいるし反対はさせないわ。それに、簡単に頼むつもりはないけど緊急時は、あなた達が助けにきてくれるんでしょう? それにたまにあの子達にも来て欲しいわ」
そう言って女王が視線を向けた先には、話が難しく飽きて寝てしまった干支緑がいた。
「あいつらは人気者だからな、なかなか来れないかもしれないぞ? それにここは子供が頻繁に来てもいいところか?」
「あの子達なら大歓迎よ!」
「くししし、そうか。なら一つ良いことを教えてやろう。あそこで眠っている干支緑達は全員の半分だ」
「え? 6人で半分なの? と言う事は……」
「ふふふふ。そうよ、あとの半分は今ドワーフの国にいるわ」
サラマンダーがそう言うとエルフの女王はすっと立ち上がり、握拳をかがげる。
「これは、エルフとドワーフの戦争よ! この子達は全員エルフの国に来てもらうわ!」
「女王の言う通りじゃ! 毛むくじゃらの奴らに孫達はわたさん!」
「そうだ! くさいと言って頬ずりしてくれない孫たちなど知らん! この子達が本当の孫だ!」
「そうじゃ! ほっぺにチューなど何百年ぶりか!」
「「子供こそ繁栄の証!」」
「ああ、これは残りの干支緑達も連れて来てやんないとだめだな……」
「ええ、すごく歓迎してくれそうね」
そう言った、サラマンダーとウンディーネは苦笑いするのであった。
「ふむ、かわいい奴らじゃ」
「おひげすごーい!」
「もじゃもじゃー! きゃはははは!」
「ちからもちー!」
今、ドワーフの王国の謁見の間では、干支緑達がドワーフの王様、宰相その他その場にいる者達が干支緑達と戯れていた。
「辰緑、お前はいかないのか?」
「我は、遠慮しておく……」
「辰緑は、俺といる方を選んでくれたか!」
辰緑の言葉をシェイドが曲解する。
「シェイドそれは、違うぞ。辰緑は我といることを選んだのだ」
「違う俺とだ!」
「違う我とだ!」
「「ぐぬぬぬぬ!」」
ノームとシェイドはメンチを切り合う。
「お2人共そんな子供のような喧嘩はやめてくれ。お2人がそんなつまらない事でケンカをするなどがっかりだ」
「「⁉」」
辰緑がそう言うとノームとシェイドがあたふたとしはじめる。
「違う辰緑! これはつまらない事ではない! とても重要な事だ!」
「ノームの言う通りだ! 辰緑が俺のそばにいる事を選んだことは重要な事だ!」
「なんだと! 辰緑が選んだのは我だ」
ケンカを再びはじめた2人を見て辰緑は思う。
(この2人はだめだ、ほっておいてドワーフの王と話そう)
「ドワーフの王よ話し合いをはじめても良いだろうか」
「あ、ああ。それは良いんだがあの2人をほっておいて良いのか?」
その視線の先にはノームとシェイドが高速で戦いはじめた。
辰緑は振り返りそれを見ると叫ぶ。
「お2人共、もしお城を傷つけたら絶縁させてもらう」
「「それは大丈夫だ!」」
「と言う事で話をすすめたいのだが良いだろうか? ドワーフの王よ」
「ああ、そうだないい加減に俺達も話をすすめなきゃいけない」
そう言って話し合いがはじめられた。
「なんだと、今いる干支緑達は全員の半分だと!」
「ああ、もう半分はエルフ達の国に居る」
「あんなひ弱そうなもの達がそばにいれば、ひ弱さがうつる!」
「辰緑殿、ぜひご兄弟でドワーフの国に遊びに来てくれ」
「ああ、わかっている。全員でこちらに来させてもらう」
辰緑の言葉を聞き、ドワーフの王が玉座の横を指さし言う。
「ほれ、そこだ王の玉座の横に扉をおいてゆけ」
「いや、ダンジョンコアはヒカリ殿、我らの王様の……いやリーダーの緑殿の奥方が持っているため、我々だけでは扉を設置するのは無理なのだ」
「そうか分かった……6つの国をまわる時は、ぜひ我等ドワーフの国へ1番はじめに来てくれ! 頼むぞ!」
「ああ、リーダーの緑殿に言っておこう、その結果ここに来るのが1番はじめかはわからないが」
「ああ、エルフの国より先だったら大丈夫だ」
ドワーフの王はサムズアップしてそう言うのであった。




