234話 ミドリムシは証拠をあつめる
「よしっ! これで書類も全てまとまった! これであれば、王も調査をしてくれるだろう!」
時刻は朝日が昇り数時間立った頃。ギルドマスターが最後の証拠をまとめおわった所で緑達がやってくる。
「書類の整理はおわりました?」
「ああ、こっちは完了した。そっちは? って聞くまでもないか……」
そう言ってギルドマスターがまわりを見ると、もう町があったとは思えない光景が広がっていた。
「この町を作るのにかかった時間を考えると、作業をした連中に同情するぜ。まさかたった数日で町が更地になっちまうんだからな」
「解体してでた資材は、どうしましょうか?」
そう言って緑が視線をおくる場所には、大量の資材が置かれていた。
「ああ、資材は持っていきてぇが、今からまた王都に行かないと駄目だからな……」
「持っていった方が良いなら、持っていきますけど?」
「もう、馬車に積むのは無理だろう?」
緑達が乗って来た馬車には、町に残っていた食料が大量に積まれていた。龍種の国を出た頃なら、積むこともできただろうが、冒険者や技術者達と別れたために馬車の量は減っていた。
「僕のスキルで持っていくことができますよ。きちんとまとめて、蟲人の国と紙でも貼っておいてもらえれば、他の国の分と混ざってもすぐに取り出せると思いますので」
「他の国と混ざる? それはどういう事だ?」
「僕達【水野 緑】は全員共通のアイテムボックスを持っているので、他の【水野 緑】も他の国の物資を運ぶ時に使うと思うので」
「なるほどな。まぁ、これだけの支援物資になるはずだったものが見えれば、向こうも信用してくれるだろう……」
「そうですね、それではゆっくりと王都に向かいましょう。ヒカリお願いできる?」
「はい、こちらを監視している者達の場所も把握していますので、すぐに戻ってきます」
ヒカリは、その場から飛び立とうと、ぐっとしゃがみ込む。
「でも、危険と思ったらすぐに逃げてきてね?」
緑の言葉に、ヒカリはしゃがみ込んだ姿勢で、緑の方を見る。
「そんな事があると思いますか?」
「万が一、億が一があるかもしれないから、どうしても言っておきたかった」
「ありがとうございます」
ヒカリは嬉しそうに笑うと飛び立っていった。
「さすがハチの蟲人、すげぇ速さだな」
思わずこぼすギルドマスター。
「まぁ、少し違うんですけどね」
「ん? 違うのか? まぁ、道中お話します。今は出発しましょう」
「ああ、ちがいねぇ」
緑達は会話をおえると、馬車に乗り込んでいき、王都に向かって出発した。
「本当に、わずか数日で町が無くなってしまった……」
「しかも奴ら、全員馬車に乗ってどこに行く気だ……」
「おい! 蟲人の女がどこかに飛ぶぞ!」
「どこに向かうか見逃すな!」
遠くから緑達を監視していたのは、蟲人の王の勅命で動いていた特殊部隊。彼等は、双眼鏡を使ってようやく見る事ができる距離から緑達を監視していた。
彼等の1人が飛び立とうとするヒカリに気づき、声を上げると全員に緊張が走る。全員でヒカリの行先を見逃すまいと、まばたきも我慢して双眼鏡をのぞく。
「「⁉」」
「こっちに来る!」
「くそっ! なんてスピードだ!」
「全員バラバラに、逃げろ!」
隊長の男が双眼鏡から視線を外し、部下に指示を出した瞬間、ヒカリがさらにスピードを上げた。
ブブブブ……
「「うそだろう……」」
監視していた者達は、思わず声をそろえる。
隊長の男も音に気づくと恐る恐る振り返る。そこには、先ほどまで双眼鏡で見ていたヒカリがいた。絶対に逃げれない、そう思った隊員達が覚悟を決めた瞬間、ヒカリは手紙をさしだす。
「私達は、王都に向かいます。我々の王から手紙を預かっています。そちらの国の王様にお渡し下さい。2通ありますが1通は貴方達の王に、もう1通は貴方達に」
隊長の男は、封筒を黙って受け取る。
「見ても?」
「ええ、すぐにあなた達の分は見て欲しかったところです」
隊長が自分達ようの封筒から手紙を出す。
「こ、これは本当なのか⁉」
「あなた達も見ていたと思いますが、あの町にあった冒険者ギルドのマスターが証拠をまとめています」
「それを我々が預かる事は?」
隊長の言葉に、ヒカリは頭を振って返事をする。
「そうだな、証拠はあなた達が持っていくのが安全か……」
「はい、もし途中であなた達が殺されて、手紙が奪われてしまっても証拠は我々が確実に届けます」
「敵があらわれるとは限らないが、その時は頼む。我々もはなんとしてもこの事実を確実に王の元に届ける。」
そう言った体調は部下に向かって叫ぶ。
「すぐに向かう。行くぞお前達!」
「よろしくお願いします」
「承った!」
そう言って隊員たちは飛び立っていく。
「どうか死なずに王に届けてもらえれば、我々も楽なのですが」
ヒカリは飛び立っていった隊員達の後ろ姿を見て呟く。
「ただいま戻りました」
「おかえりヒカリ、どうだった? 彼等は信じてくれた?」
「はい、承ったと言っていました」
「あの距離をこの短時間で往復してくるのか……ヒカリとダンジョンコアで無血革命ができるな……」
「……しませんけどね」
「それはできるってことだな……」
ギルドマスターの言葉に思わず緑が苦笑いをする。
「くくくくっ……否定しないんだな」
ギルドマスターは少し黙ったあと、真面目な顔を緑にたずねる。
「なぁ、緑。他の4つの国に送った戦力と、この蟲人の国に来ている戦力に差はあるのか?」
「……5つの戦力にほぼ差は無いと思っています。単純に比べる事はできませんが、それぞれの国と戦っても問題ないほどには……」
「お前達の庇護下に入った方が、民は幸せになるな……なぁ、6つの国をまとめて統治してくれねぇか?」
「それは、友達のシャークさんも言っていいましたがお断りします」
「あのシャークが? あの悪ガキが賢くなったものだな! がはははは!」
「思っていましたが、シャークさんとお知り合いですか?」
「ああ、すこしな……それに、緑のダンジョンに入り浸ってるんだ。行けば会えるだろう? その時にシャークに話させる」
「わかりました。楽しみにしておきます」
「ああ、おれも緑のダンジョンを楽しみにしておく」
「そういえば、道中の飯は俺もくわせてもらえるのか?」
「もちろんです、僕も料理をするので楽しみにしててくださいね」
「王様自ら料理をするのか? それは楽しみだ! がはははは!」
緑達の馬車は、蟲人の王都にゆっくりと向かっていくのであった。
「さて、もうすぐ王都だね。王様に手紙がうまく届ていれば良いんだけどね」
「そうだね三日月ちゃん。しかし、今回一番苦労したのが、証拠集めだったとはね。私しばらく書類なんか見たくないよ」
「戦う方が楽でした~」
「緑ちゃん達は、町のギルドマスターが味方になってくれたから良かったけど、私達の方は……」
そう言って三日月が視線を送るのは、びくびくと震えている人族の少女。
「すいません、すいません、私が新任のギルドマスターですいません」
「だね、三日月ちゃん。まさか、言いなりにできるように、こんな子をギルドマスターに推薦してるとは思いもしなかったよ」
「しかも、まわりのギルド職員は商人達の言う事を聞くように~根回しされた人材ばかりにしていましたね~」
「私が以前いたのは凄く小さな村の冒険者ギルドで、1人でほとんどの業務をしていたので……大きな町の仕事まで把握できていなかったので……」
「そこに付け入られて、金銭部分を誤魔化す仕事はすべて、商人の息のかかった者達がしていたと……」
「はい……気づかずすいません」
「大丈夫攻めているんじゃないよ」
そういって、三日月はギルドマスターの少女にすりすりと頬をよせる。
「三日月ちゃんは、いたくその子を気にいってるね」
「ん? ああ、以前の世界の孫を思い出しちゃってね」
「お孫さんがいるんですか⁉ もしかしてエルフさんなんですか?」
「いや、私は違う世界から召喚された勇者なんだ」
「ええ~! 大変です! 勇者があらわれたなら、魔王がどこかに出現してるはずです! 急いで探さないと!」
「ああ、それは大丈夫。魔王は私達の王様だからね。腐腐腐腐」
「え? 勇者と魔王が一緒にいる冒険者チームなんですか?」
「もう、私達のチームは東の国では国と見られちゃってるからね~」
「【軍団】ですよね?」
「「うん。そうだよ」」
三日月と腐緑が声をそろえて返事をする。
「腐緑さん、三日月さんそろそろ王都がみえてきましたよ~」
「「あ、本当だ」」
「あれ? でもなんか城壁の外で戦ってない?」
「ふーちゃん、もしかして今回の件に関わっていた、貴族が逃げ出そうとしているのかな?」
「あ~そうかもですね~どうしましょう~? 誰が味方か敵かわかりませんね~」
「どうしたら……ってこっちに鎧を着た人が向かってきてない?」
「本当だ三日月ちゃん。お城からの連絡かな? あっでも慌てて曲がった。逃げて来た関係者かな? レイちゃんお願いできる」
「はい~もう、大丈夫です」
レイがそう言うと、馬が曲がった方にレイの子供達が姿を現す。
「なぜこんなところにデッドマンティスが⁉」
子供達に怯えた馬が思わず止まると、鎧を着た男を子供達が包囲する。
「不不不不、とりあえず一緒に王都に来てもらうよ」
腐緑の言葉を聞き、男は観念したようにうなだれるのであった。




