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232話 ミドリムシの不安


「嫌な事だけど……町の城壁を取り払っちゃって……」


 そう言ったのは緑。今回の商人の暗躍に緑は少なからず怒りを覚えていた。

 いや、以前に魔王になった時よりも怒っていたのかもしれない。


 緑、魔緑、干支緑、腐緑の中で、もとなった【水野 緑】に1番近い緑。

 その性格は、一見おとなしいものと思うかもしれないが、異世界に転移して、しばらくしてからなったのは魔王。


 緑は多くの人を救い、弱き者や貧しい者、幼い者達の事を思い涙をながした。


 それでも、緑は勇者ではなく、魔王になった。


 では魔王とは、何をさすのか。魔物の王、魔族の王、魔法の王、悪魔の王とその文字ですら、容易に様々な想像できる。


 子供達を魔物と見るなら魔物の王。

 

 膨大な魔力量を考えると魔法の王。


 まだ、緑達はあった事はないが、魔族や悪魔と呼ばれる者達の王。


 それらに共通して、思い浮かぶのは絶対的な力。それが緑本人だけなら、勇者と呼ばれたかもしれないが、緑は何よりも家族の絆を大切にした。それに応えるように家族も力をつけた。


 勇者が少数精鋭で魔王に挑む。そんな話はあまたにあるが、緑はその莫大な人数の家族と一緒に、より困難な事に挑む。


 今回もその大切な家族と一緒に問題にとりかかる。


 今、緑達がいるのは1つの町の前。


 その町は、商人達が秘密裏に作った町。


 今緑達のいる世界の文化は、緑達が元居た世界なら、中世ヨーロッパ時代に近い。そんな世界ではギルドくらいしか情報網を持っていないため、ほとんどの人が情報弱者と思われる。そんな世界で、秘密裏に作られた町。


 多くの人が情報を得られない中、秘密裏に作られた町が、本来なら他の町に運ばれる支援物資を奪い私腹を肥やしていた。


「町に住む人たちも、自分達が悪事に加担しているとは思ってないのだけど…………やっぱりこの町はない方がいいよね……というか……きちんと国の管理下にある方がいいんだよね……」


 緑達が、町の前で数日待つことで、町の人達は緑達を見て他の村や町に移動した。

 町に残っているのは、各自がすぐに持ち出すことができなかった財産。

 だが、その持ち出す事ができなかった余分な財産は、本来周りの町や村に配られる予定だった支援物資。


 緑は、それを本来送られる町に送るつもりであったが、迷っていた。


(本来の場所に、本来届くべきものを届けるだけ……でも、それを知らない人からしたら、ただ財産を奪われたと思うよね……でも……)


「緑様♪ 私が指示を出してもいいですか?」


 そう言ったのは、クウ。緑は思わずクウを見るが、クウはニコリと笑っている。


「私も子供達に指示を出したいのですが良いでしょうか?」


 さらに言葉を重ねたのはヒカリ。二人は、生まれた時からの女王。子供達に指示を出す事にためらいはない。


 それが、迷っているかいまいが……。

 緑は、二人の言葉に頷く。


「城壁を取り払った後は、建物を全部解体しなさい♪」


「使える物資は、全て保管しなさい! もし、判断がつかないものは集めておきなさい!」


 二人の母の言葉に子供達は、よろこんで行動をはじめる。


 子供達は、母に言われることに疑いを持たない。すぐさま言われたことを実行しようと、町に向かおうとするがすぐに止まり、振り返る。


(僕の判断は、間違っていないよね……)


 緑がそう思っていると、ヒカリが緑の手に自分の手を添える。


「大丈夫です緑様」


 ヒカリがそう言うと、クウが反対の手を取る。


「そうです! 緑さん♪」


 二人の言葉に緑は黙って頷く。


「みんな壁がなくなったら、建物を解体して、使える物はまとめておいて」


 緑の言葉を聞いた子供達は、町にむかっていく。その姿をみてヒカリとクウがぼやく。


「お母さんよりお父さんの言う事がたいせつなんですね……」


「以前はもっと私達の言う事を聞いてくれていたとおもうのですが……」


 それを聞いた緑が、手をはらい二人を抱きよせる。


「ごめん、二人とも……僕はもっと頑張る」


 そう言って、二人の頬に口づけする緑であった。




 緑とヒカリとクウは人の居なくなった町を歩く。その時ある建物の扉が開く。


「おいおい、どんだけ家族がいるんだ……」


 そう言って扉を開いたのは、緑達に依頼をした冒険者ギルドのマスター。


「僕は言われた通りにしたつもりですが?」


「くくくく、そうだな。俺が頼んだ通りの状況だ。王はお前達の状況を逐一みているだろう」


 そう言ったギルドマスターは緑に向かって右手をさしだす。


 緑は、ギルドマスターの手を握ると、少し不安そうな顔をして尋ねる。


「これで依頼は完了できたでしょうか?」


 緑の言葉に、ギルドマスターはニヤリと笑う。


「ああ、完璧だ!」


「そ、そうですか……」


 緑は暗い顔をしてギルドマスターに返事をする。そんな緑の様子を見てギルドマスターが尋ねる。


「もしかして、この町から移動した住民の事を気にしているのか?」


 ギルドマスターの言葉は緑の悩みそのものであった。


 そんな悩みを言い当てられた緑は、言いにくそうに答える。


「いえ……正直な……ずずっ、ところ…………何も知らない人達の事を……うっ……心配しています……」


 緑の言葉を聞いたギルドマスターは、嬉しそうに答える。


「人はお前が心配する以上に頑丈だ……だが、その心配する心は好感が持てる」


 そう言ってギルドマスターは、緑とは反対側にあった城壁に視線を見て、緑から視線を外す。


「うっ……うぅ……」


 緑は、スタンピードにあった人々の事を思い出し、自分のしたことに涙をながすのであった。


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