231話 ミドリムシは見守る
「くそっ! 振り返るぞ! 全員何かの影に隠れろ!」
獣人の王は、一緒にいる者達に向かい叫ぶ。
その叫びに、一緒に兜の後を追っていたもの達全員の動きが止まる。
しばらくすると、兜が再び前を向き、歩きはじめる。
「ばれなかったのか……?」
王は、思わずそう言ってまわりを見回す。
だが、その視線は一緒に来た獣人にではなく、まわりにいるホレストアントやキラービーの子供達に向けられていた。
「今回は、誰も見つからなかったか……?」
「王様、今回は連れ去られた者達はいません!」
そう言って、獣人が王に報告をする。
「それは、よかった……」
兜の後を追いはじめた王達は、少し前の事を思い出す。
「あの巨人に気づかれてはならない! 全員慎重にいどうするぞ!」
「「おう!」」
王の言葉に、王直属の部下達が返事をする。彼等は、王に選ばれた優秀なもの達だが、その関係は王と家来と言うよりも、父親と息子達の様な関係であった。
そのため、先ほどのような言葉遣いも許されていた。もちろん、彼等の中には本当の息子達も混ざっている。
獣人の王は、その国で一番強い者がなり、彼等は王直属の部下で、日々を王を超えるために一緒に鍛錬する仲間であった。
彼等は、強敵と書いて友と呼ぶ様なもの達で、お互いを敵と思いながらもその仲間意識も強かった。
そんな彼等が兜の後を追っていると、いつの間にかデッドマンティス達にかこまれていた。
そのデッドマンティスとは、もちろん子供達。
思わず、叫んだ仲間の言葉に王を含めた全員が、戦闘態勢をとり叫ぶ。
「いつの間にデッドマンティスが⁉」
だが、子供達は、王達に見向きもせず、その自前の鎌の先をすっと兜に向ける。
王とその部下は、子供達といきなり戦闘には入らず、子供達の行動を注意深く観察する。
それは子供達が、おかしなスタンピードを構成すると思われるため、王達は慎重に行動していた。
そんな王達が子供達を観察する中、子供達は鎌を兜に向けたまま動かない。
王の部下の一人がつぶやく。
「なんだ? 何か意志を伝えようとしているのか?」
すると子供達は、その言葉に頷くが、その姿を見た部下が叫ぶ。
「頷いているのか? そんな馬鹿な! 魔物のデッドマンティスが⁉」
王の部下がそう言うと、子供達は、魔物と言う言葉に、まるで人の様に肩をおとす。
「俺の言葉に落ち込んだ? 本当に言葉を理解すると言うのか⁉ 馬鹿な⁉」
王達が驚いていると、子供達が動き出す。
それを見た王達も、子供達と並走する様に動き出す。
その中1人の部下が王のそばに来ると耳打ちする。
「王様とりあえずは様子を見ましょう」
「う、うむ……」
部下の言葉に返事をした王は考えはじめる。
(このデッドマンティス達は、我らと同じようにあの巨人を追っている……このデッドマンティス達も巨人を警戒している?)
「止まれ!」
ふいに王がそう叫んだのは、自分達の前を走る子供達の1人がおもむろに両手の鎌を広げ、まるで後ろの者全員に止まるように指示した様に見えたから。
王達は1人をのぞいてその場に止まる。
「おい待て! はやまるな!」
「その先の木の陰に身を隠します!」
王の叫びに部下は、先にある木にかくれるため、さらに、スピードをあげた。
その時、兜が振り向く。
(何⁉ こっちを見ている? やばい⁉)
その部下は、兜に見つかると思い、近くの木の陰に隠れようとするが、先ほどあげたスピードがそれを許さない。
兜が、完全に振り返る。
振り返った兜は、両手をクロスしてバツマークを作った後、その部下を指さす。
すると、その部下のまわりにキラービーやホレストアントが集まって来る。
もちろんこれも子供達なのだが、その数に思わず動けなくなる部下。その部下は、すぐに子供達にたかられてしまい、姿が見えなくなる。
部下が食い殺されると思った王は、すぐに部下の元に走り出す。
だが、すぐに子供達が散り、部下の姿が見えると、彼はヒモのようなものでグルグル巻きにされ、芋虫の様に転がされていた。
「「食われたんじゃないのか?」」
そうこぼして、呆然とする王達。すると王達のすぐそばに、一台の馬車がやって来る。
それを牽引しているのもホレストアントの子供達。さらに馬車の中から子供達が飛び出すと、丁寧に芋虫にされた部下を馬車に運び込む。
「何故馬車に?」
王達の言葉に返事は帰ってこないが、再び子供達の1人が自前の鎌をすっと兜に向ける。
「なんだ? 奴が振り返った時、我々の方が姿を見られていた……だが、捕まったのは先に走っていた部下? どういうルールだ?」
王がつぶやいた瞬間、子供達の視線が王にあつまる。
「な、なんだ? 何か気になる事でも言ったのか?」
驚いた王が思わず尋ねると、子供達は先ほどの様に、うんうんと頷く。
子供達の姿をみた王は考えはじめる。
(どの言葉に反応したんだ? 考えられるのは……捕まったのは先に走っていた部下? どういうルールだ? と言う言葉あたりか……)
そう思った王は、試しに子供達に向かってつぶやく。
「走っていた部下、ルール?」
すると子供達が拍手の代わりに鎌をカチャカチャとぶつける。その様子をみて王は考えをさらに進め、ある一つの仮定を立てる。
「ふむ、もしや動いていたから、捕まった?」
すると、子供達の両手の鎌を使い、巣上に円を描く。
王は部下達と顔を見合わせると、お互いに確認する。
「どうもあの巨人が振り向いていた時に、動いていてはいけならしいな……」
再び、まわりに沢山の円が作られる。
今度は、部下の1人が子供達に問いかける。
「お前達もあの巨人をおっているのか?」
部下の言葉に、子供達は円を作る。
「なるほどな……お前達もあの巨人を追っていて、俺達と戦う事はないというわけか……」
「ふむ、王様、正解のようですな」
子供達の反応を見て、部下が王に言う。王達は完全に、子供達が自分達の言葉を理解していると確信して、話を続ける。
「では、今は敵対せずに一緒に巨人を追うとするか……」
その言葉に反応するかの様に子供達が、兜に顔を向ける。
「ふふふふ、意思疎通できる魔物か……本来なら恐ろしいデッドマンティスだが、今は少し頼もしく思えてしまうな……皆! 少しの間、魔物と一緒に巨人を追うぞ!」
「「おう!」」
部下達が返事をすると、王達はまさに獲物を狙う目をして兜の後を追いはじめる。
だが、王達はしらない……今、子供達がしているのは【だるまさんがころんだ】ということを……。
王達が子供達と一緒に兜を追っている中、さらにその後を追う者達がいた。
「獣人の王様は子供達と一緒に、【だるまさんがころんだ】か……あとで、理由を聞いたら怒るかもな……」
「いやぁ、今回それはないんちゃう?」
「そうだのう、今回のスタンピードは、それぞれの国の問題に気づかなかったのが悪いからのう」
「この国の人達が、気づいていれば私達は、支援物資を配ることもなかったですし、むしろすっごい迷惑をかけられています」
「そうか……どうやら、緑のくせがうつったのかもな……」
「みーちゃんは、優しすぎるからのう……」
「せやな……みーちゃんは優しすぎるなぁ……」
「すっごく優しいです!」
「だが、あいつが優しすぎるから俺は厳しくしないとだめなんだよな……」
そう最後に魔緑が言うと、3姫は魔緑を優しくだきしめた。




