230話 ミドリムシは目的地に到着する
「おい! 準備の進み具合はどうだ⁉」
そう言ったのはドワーフの王。
今ドワーフの王都では、スタンピードに対する準備をしていた。
「王国中の戦士を集めろ! あの数のスタンピードをここでうち滅ぼさなければ、村や町がひとつひとつけされて、我らの王国は滅亡する! なんとしてもここで食い止めねばならん!」
辰緑、ノーム、シェイドが先頭を歩く、遠足を見てドワーフの王国が下した決断は、王都で迎え撃つと言う事であった。
「しかし、あのスタンピードを統率しているのは、どこのどいつだ……」
王は誰にも聞かれない小さな声で言う。
そんな王の前に、監視する者達からの連絡が届く。
王は定時連絡を聞くと顔を真っ赤にする。
「監視者達の予想が正しいなら、朝、昼、晩と決まった時間になると進行が止まり、群れの中から煙があがり、飯を食っていると予想されるだと!」
ダン!
王は握りしめた拳を机に叩きつける。
王が怒るのも無理はなく、スタンピードを見つけてから、監視を続ける者達から定期的にくる報告で、自分達を馬鹿にしているような内容が記されてた。
「スタンピードが統率されている事には驚いたが、それを統率している者の意図がわからん! あれだけの魔物を率いてまるで遠足でもしている様だ!」
王は正解を言い当てる。
「しかも大部分を構成するのが蟲の魔物にも関わらず、先頭を歩くのが竜だと⁉ なんの悪い冗談だ! しかも食事の時間には、姿を消すだと⁉ これでは、竜ではなく龍種で、そのものがスタンピードを統率している様ではないか⁉」
王がさらに叫ぶ。
「しかも、その龍種が他の魔物達を無理やり従わせている様子もないのは、家族とでも言うのか!」
ここまでの話を【水野 緑】達が聞けば、エスパーではないかと驚いただろう。
だが、事実を知らない王は、家来達に聞く。
「何でもいい! 何か思う事があれば述べよ!」
そう言って、王が家来たちを見回すが誰も言葉を発しない。
「ただいま戻りました!」
そう言ってやってきたは、他の国に送った使者であった。
その使者は、王の前に来て跪く。
「他の国の返事はどうであった」
「返事は、無理だというものでした」
「くそっ!」
そう言って王は、ひじ掛けをたたく。
そんな王の様子に使者は、言いづらそうに続ける。
「王様、申し上げにくいのですが、報告は他にもあります」
「なんだこれ以上、何を聞いても驚かんぞ!」
「そ、それが……我等ドワーフの王国の隣国、獣人と蟲人の国内にもスタンピードが起こっており、支援をして欲しいと言うことです」
「な、なんだと! どういう事だ⁉」
「我々は、獣人国、蟲人国にそれぞれ向かいましたが、国境付近でそれぞれの使者達と会いました。向うもこちらと同じように隣国に使者を送ったようです」
「つまり、ドワーフ、獣人、蟲人のそれぞれ国で同時に大規模なスタンピードが起こっていると……」
「王様のおっしゃる通りです!」
使者の言葉を聞き、王は頭を抱える。
「なら、人とエルフの国に行かせた者達は、どうなのだ?」
「失礼します! 人とエルフの国に行った使者より急ぎの報告があります!」
「通せ!」
王の言葉にやって来た使者は、息も絶え絶えで王の前に跪く。
「礼は良い! 急ぎ報告をいえ!」
「人とエルフの国で大規模なスタンピードが発生しております!」
王は再び頭を抱える。
「5つの国で大規模なスタンピードだと……」
この時、人、エルフ、ドワーフ、獣人、蟲人の王は全員が頭を抱えていた。
最悪の場合、それぞれの国がスタンピードを殲滅できなければ、複数のスタンピードに襲われると。
【水野 緑】達は騒ぎを大きくして、それぞれの王国に知られていない町の存在に気づいて欲しかったのだが、それぞれの国が国家滅亡の危機を感じていたことを知らない。
「と、とにかく今は目の前のスタンピードだ! 対策をつづけろ!」
4日後、辰緑達はドワーフの王都の目と鼻の先にいた。
「ここに来て、動かないだと……」
「ふむ、そろそろだな……」
「しばらくの間、待っていたんだ、俺達の後を追いつつ、向かう先も調べるだろう」
「ですな、ノーム殿、シェイド殿これだけ気を引けば我らの後を追ってくるはず、それでは例の町にむかいましょう」
辰緑がそう言うと、子供達が両サイドに別れ、町への方向に道ができる。
「もう少しだけ、楽しい遠足だな」
ノームの言葉にシェイドも辰緑もニコリと笑うと、頷き歩きはじめる。
3人が方向転換して、歩きはじめると、子供達も喜んで歩きはじめる。
「馬鹿な……一体なんのつもりだ。ここまで、来て王都にこないだと? どこに向かう気だ?」
ドワーフの王は、攻めてこない辰緑達に思わず呟く。
ドワーフの王はスタンピードがどこに向かうか予想しはじめる。
だが、直ぐにわからないと結論を出すと、家来達に指示を出す。
「すぐにあのスタンピードが向かう方向を調べて報告せよ。もしも村や町がある場合は、至急住民を避難させろ!」
王の命令に家来達は散って行く。
しばらくすると、家来が王の元にやって来る。
「王様、スタンピードの進行方向がわかりました」
「うむ、やつらはどこに向かっている」
「あのスタンピードは、真直ぐに国境付近の村と村の間を目指している様です」
「その言い方だと進行方向上には何もないのか?」
「それが……村と村の間に、我々の知らない町ができているんです……」
「なんだと? だが、今は経緯を調べる時ではない。急いで町の住民達に避難する様につたえるんだ」
「はい、もう避難命令はだしました。町の住民はそばの村に向かわせます」
王は家来の返事を聞と、座っているイスの背もたれにもたれかかる。
「我々の注目が集まったところで、向かう先をかえた。しかもその先には、我々の知らない町がある。これは、偶然か? ここまで訳の分からない事が多すぎた、もしやこのスタンピードを統率している者は、この町を知らせたかった?」
「なんだあの巨人は⁉ あんなの者先ほどまでいなかったぞ!」
そう言ったのは獣人の国の王。その目線の先には、ヒカリやクウ、レイの様に外骨格を纏った兜がいた。
さらに以前と違う部分があり、兜の額には自分の身長の3分の1ほどの角が生えていた。
「まるで巨大な蟲人だな……あれに理性があるなら魔物よりやっかいだな……」
そう言って獣人の王は、兜を睨みつける。
「全員戦闘準備はできているか⁉ あの巨人は城壁に近づけてはならん! 間違いなく城壁を登って来る! あれは俺が少数精鋭を連れて打って出る! 他の者達は、巨人以外の魔物にあたれ!」
王がそう言うと、城壁の跳ね橋が下げられ、王と数十名の者達がその下げられた橋を渡り、兜へ向かう。
だが、王と精鋭たちが跳ね橋を渡り終えた所で、兜は振り返り歩きはじめる。
「何故こちらに向かってこない? どこに行く気だ⁉ もしあいつが他の村や町に迫ったら……大惨事だ! すぐに行先を調べろ!」
王の言葉で、王と一緒に跳ね橋を渡った者達の一部が走り出す。
「すぐに行先を調べるのだ!」
そう言った王は悔し気に兜の背を見る。
(これでは動きようがない!)
そう思い王は歯を食いしばるのであった。




