229話 ミドリムシは昼飯にする
ノームとシェイドが本来の姿で先頭を歩き、その後ろに辰緑がついていく。
「ふむ、やはり龍種と竜の区別は、あまり外見では区別されないのだな……龍種には知性があると言うのに……」
「俺達に知性があるかないか以前に、俺達の姿を見た時点で大騒ぎになるからな……」
ノームとシェイドがそう言ったのは、辰緑と酉緑が飛龍となり辺りを飛んで戻って来た時、姿を見たドワーフ達が大慌てで逃げていく気配を感じたから。
「ノーム殿、シェイド殿の言う通りだ、魔緑も龍の姿になれるようだが、いつも驚かれると言っていた」
「ああ、あいつの場合は特に珍しい姿をしているからな……ウンディーネが体を水に変えた様な姿になるからな」
「俺も一度見たが、たしかスライムが龍の姿をまねたような姿だったな……透き通っていた」
「ふむ、我はどうなんだろうな……」
辰緑がそう言うと、辰緑の姿が変貌し、小型で黒い龍となる。2人はそれを見ると、上機嫌になる。
「ほう、そなたは闇属性の魔法を使うからか、体が黒い色をしているな……大きさは我と同じくらいか……」
そう言ってノームはチラリとシェイドを見る。するとシェイドが口を開く。
「おお、辰緑の黒は美しいな……それに、年月が経てば、俺くらいまで成長するんじゃないか?」
今度はシェイドがノームをチラリと見る。
「「我(俺)とお似合いだな!」」
二人の声が重なると、ノームとシェイドは、にらみ合いながら話しはじめる。
「我の方が辰緑とお似合いだ!」
「いいや、俺の方が良い!」
2人の会話を聞き、辰緑はヤレヤレと思う。
(我は本来の姿が人のため、他龍の姿を見ても、良い悪いなど思う事はないのだが……いっそのこと我はふたりの番にならないと、はっきり言った方がよいのだろうか? いや……楽しい遠足なのだ、今はまだ言わない方が良いだろう。とりあえず話を変えよう)
「ところで、お2人は先頭を歩いているが、ドワーフの国の王都の場所は、ご存じなのか?」
「「⁉」」
「とにかく中心に行けば良いのではないか? それにシェイドが知っているのだろう?」
「まてまて、ノームは知らないのか?」
2人の会話が不穏なものになり、思わず辰緑が2人に尋ねる。
「お2人とも知らずに歩いていたのか⁉」
「「……」」
辰緑の言葉に思わず、黙り込む2人だが、そんな二人に6人の冒険者のドワーフの男が助け舟をだす。
「お、お2人とも大丈夫です! 今向かっている、国の中心で間違いありません! もしも方向がずれそうならお声をおかけします!」
2人の龍種の姿を見て、ドワーフの男はかしこまって、そう言った。
「なら、よかった。ドワーフの冒険者殿、方向がずれたらすぐに知らせて欲しい」
「わ、わかりました」
そう言ってドワーフの男は、3人から少し後ろに下がり、子供達にかこまれる。
それは、ドワーフの男が集団の中にいる事を知られないため。
もっと言うなら、辰緑達後に続くスタンピードと思わせる集団が理性を持ち、集団行動を取っていると思わせないためであった。
だが、この思いは他の4か国も含め失敗に終わっていた。
辰緑達の場合は、逃げたドワーフ達が国に情報を報告したあと、すぐに監視する者達が派遣され、その者達がすぐに気づいたためであった。
「おい、あれは本当にスタンピードか? どうもおかしくないか?」
「ああ、俺も思っていた。本来スタンピードで局所的に起こる、魔物同士の共食いがない。しかも蟲の魔物達なら、途中にある草木を食べならが進んでもおかしくないのに……」
「それは、まずくないか? あれだけの魔物が共食いをしないなんて……誰かに統率されているわけでもあるまいし」
ドワーフ達がそう話していると、目の前で集団の進みがおそくなり、完全に止まる。
「おい、止まったぞ! 何が起きるんだ⁉ 外側の魔物がまわりを見張るように見ているぞ」
「こんなタイミングでスタンピードが止まるなんて! もし一気に四方八方にばらけるなんて地獄だぞ!」
そんな事を言って、慎重に辰緑達の様子をうかがうドワーフ達。そんな戦々恐々としているドワーフ達をよそに彼等は、食事の時間となっていた。
「ふむ、そろそろ飯の時間だな……ノーム殿、シェイド殿一度止まってもらえるか?」
「ふむ、もうそんな時間か……楽しい時間とは、早くすすむものだな」
「まったくだ、辰緑と一緒に歩くのは楽しいものだ」
そう言うと、シェイドは爪を使い、鱗の隙間に隠していた、マジックバッグをそっと地面に下ろす。さらにシェイドは子供の姿になり、持っていたマジックバッグから、弁当箱をとりだす。
しばらくして、子供達の食事の準備が整うとシェイドがノームに言う。
「では、ノーム弁当を食わせてもらう」
シェイドが取り出した弁当は、ノームが作った物で、シェイドは弁当のふたを横に置くと手を合わせる。
「「いただきます」」
辰緑、ノーム、シェイドの言葉に子供達も後に続く。
チキチキチキチキ
そう鳴くと子供達も食事を開始する。子供達は、馬車を隠す様に移動しており、その馬車には余った支援物資がのっていた。
その支援物資とはほぼ食料であり、さらに6人の干支緑達が持つ、スキルのアイテムボックスより、食材を出して子供達に配り、その食料や食材を受け取った子供達は、器用に料理していた。
そんな辰緑達を監視しているドワーフ達もまた食事をしていた。
「完全に動きが止まったが、四方にばらける様子もない、今の間に俺達はわかれて、食事をしておこう」
「そうだな……たしかに動きが止まった今しかないな……」
「見張りと役と食事にする者に分けて後で交代しよう」
ドワーフ達がそんな話をしていると、子供達が動く。
「お、おい! ホレストアント達が重なりあって、壁を作りはじめたぞ。綺麗に重なりあって奥がみえないな……あれは、絶対に統率されているな……」
「さて、中で何をしているのやら。監視班は注意深く見ておいてくれ。すぐに食事をおわらせる」
「ああ、任せろ」
それからしばらくして、食事をおわらせた者達が戻ってくる。
「交代だ。どうだ何かあったか?」
「いや、何もなかった。あいつらはいったい何をしているだ?」
「これで大人しくしてくれていればいいんだが……」
そんな話をしていると、子供達が動きはじめる。
「「動きはじめた!」」
そう言って、話をしていたドワーフは子供達の行動を、何も見逃すまいと注意深く見る。
「……なんだ? あれは交代しているのか? なんのために? 壁を作っていた魔物がわかれていったが、その内側にまた壁を作っている。見せたくないものでもあるのか?」
そんな言葉にほかのものがニヤリと笑い言う。
「実は、俺達みたいに食事をしていたりしてな……」
その言葉を聞いた仲間は、そんな事はあるはずがないと、無視をして監視を続けていた。その者があるものに気づく。
「ん? なんだあれは?」
そう言ったドワーフの言葉に他のドワーフ達も目をこらす。
「煙が上がっているな、もしも食事だとしたら、魔物が火を使って飯をつくる? がはははは」
「がはははは」
そう言ってドワーフ達が笑っていると、煙の量が増えていく。
「「……まさかな?」」
「ふむ、食事の交代も終わったから、そろそろ進むか……」
「そうだな、片付けもそろそろ終わっただろう」
2人の言葉に辰緑が反応する。
「ノーム殿、シェイド殿の言う通り、そろそろ進もうか」
辰緑がそう言うと、数匹の子供達が辰緑のそばに寄って来る。それに気づいた辰緑は子供達に話しかける。
「そろそろ出発しようと思うのだが、大丈夫だろうか?」
チキチキチキチキ
辰緑の言葉に返事をする子供達は、大きくを頭を縦にふり、散って行く。
その子供達が散って行くと、他の大勢の子供達の視線が辰緑に集まっていく。それを見た辰緑は大きな声で言う。
「それでは出発する!」
そう言って辰緑が振り向き、歩き出すと子供達もそれについて動き出す。
すると、ドワーフの冒険者が口をひらく。
「少し方向がずれています」
それを聞いた辰緑は、振り返るとニコリと笑い。
「その調子でお願いする」
辰緑はそう言って、ドワーフの冒険者が方向を教える前に方向を変え進みはじめる。
それを見たドワーフは呟く。
「間違ってねぇ……俺をためしたのか……小さくてもすげぇな……がはははは!」
先ほどまでの緊張はどこへ行ったのか、ドワーフの冒険者は、笑いながら歩きはじめるのであった。




