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227話 ミドリムシの遠足の準備


 緑達は、新たにできた町のギルドマスターと話した後、アラン、シャーク達の馬車に追いつく。


「王様! おかえりあそばせ! 町はどうでしたか⁉」


 シャークはそう言ってニヤリと笑う。


「もう! シャークさんそんな言い方やめてって言ってますよね!」


 そう言って困った顔をする緑を無視してシャークは続ける。


「それで何か収穫はあったのか?」


 シャークが笑顔のまま、緑に尋ねると緑はニコリと笑い答える。


「みんなで遠足(ピクニック)です!」


 それまでニヤリと笑っていたシャークであったが、緑の言葉を聞きキョトンとする。そんなシャークの表情に緑は続ける。


「さっきの町はない方が良いみたいです!」


 様々な話をして来た緑だが、短くシャークに伝える。そんな緑の言葉にシャークは再びニヤリと笑う。


「なんかわからないが楽しそうだな!」


「ええ! みんなで楽しみましょう!」


 そう答えたシャークの表情は、ただただ楽しそうであった。そんなシャークは続ける。


「俺は、今の説明でも楽しそうだからいいが、アランはそうは思ってないみたいだ! みんなに説明してくれ!」


「はい! 次の村か町で説明します!」






「と、いうことになりました……」


 緑はシャークに言った様に、次の村を見つけて支援物資を届けた日、一旦村の近くで野営をして、本来ない町で話したことをみんなに伝えた。


「なるほどな……情報がどこで止められているかわからないなら、いっそう皆が注目するような事件を起こすのか……」


 そういって黙り込むアランに、緑は心配そうに話しかける。


「もっといい案があったでしょうか?」


「いや、俺も緑達が考えた話は良いと思う」


 アランの言葉に緑は胸をなでおろす。ふだん自分自身で考えが足りないと思っている緑の中で、アランの言葉はとても頼もしいものであった。


「なら後は楽しむだけだな!」


 シャークの言葉に、冒険者と技術者達が頷くと緑に言う。


「なら、わし達はここまでじゃな……」


「ああ、スタンピードを偽装するなら俺達は、不要だな……」


「いえ……みなさんには、まだして欲しい事があります」


「なんじゃ、まだ手伝えることがあるのか?」


「もう、俺達にできる事はないんじゃないか?」


 緑の言葉に、技術者と冒険者は何ができるかと考えはじめる。だが、彼らの考えがまとまる前に緑が言う。


「みなさんには、各国でスタンピードを人々が追うように先導してほしいんです」


「それは、さくらをすればいいんじゃな」


「それなら俺達にもできそうだ」


 じつは技術者、冒険者達は、手伝えることが無くなり悔しいと思っていた。だが、他国まで乗り込み自分達が手伝いたいという思いで、緑達を危険をさらすわけにはいかない、そのために自分達が手伝えることはここまでで、後は龍種の国にもどりダンジョンに入ろうと思っていた。


 そんな中、緑から言われた言葉は、彼等の中にある、片方にリスクが乗り、もう片方にはできる事が乗った天秤を大きく傾けた。


 その天秤の傾きは、技術者と冒険者達が今までの経験を踏まえたうえで判断したこと。


 彼等は口をそろえる。


「それならわし(俺)達でも手伝える」


 そう言った彼等の表情は、獲物を見据えた獣の様なものであった。




 数日後、技術者と冒険者達は、せっせと自分のマジックバックに食料を詰めていた。


「これくらいでいいかのう……」


「ああ、数週間分の食料をつめこんだ。王都がスタンピード対策として立てこもった場合でも十分な食料だ」


 彼等は、村や町に運んできた支援物資で余った物を均等に分け、分配していた。


 チキチキチキチキ


「お! 戻って来たな!」


 その鳴き声は、子供達が獲物を狩ってきた声であった。


「こりゃまた大量に狩ってきたな」


 そういった技術者の目には、自分達の数倍の大きさの魔物を狩ってきたクウの子供達の姿がうつっていた。


 クウの尾子供達は狩ってきた獲物を運ぶと、その先にはレイの子供達のデッドマンティス達がまっていた。クウの子供達からデッドマンティス達が狩ってきた獲物を受け取ると高速で、さばきはじめる。


 獲物は、討伐証明、可食部、素材として使える部位にわけられる。可食部にかんしては、切り分けると均等に分配していき、討伐証明と素材は緑の元にはこばれる。


 その姿を見て、技術者と冒険者はいつも思う事がある。


 本来魔物は、子供達の様に理性的な行動をしない。冒険者達が戦う魔物は、むしろ本能的な行動をとることがほとんどであり、彼等が魔物と戦う場合、その本能的な行動を逆手に取ることが多く、いつも理性的な行動をする子供達が敵でなくて良かったと思う。


「こんな感じでいいか?」


 そう尋ねたのは冒険者達で、その相手は子供達であった。冒険者達は、子供達には難しい手先を使う作業を手伝っていた。


 それも終わり、子供達を他に手伝う事がないと知ると、冒険者達は自分達のまとめた荷物を背負う。


 冒険者の言葉に子供達は、一斉に足をあげ答える。それを見た冒険者もニコリと笑う。


「それじゃあ、俺達はいくから……ケガに気をつけてな」


 技術者や冒険者達が子供達の頭をなでると、再び子供達が足をあげる。


 支援物資を運んでいた一行から技術者と冒険者が離れていく。彼等は荷物をそれぞれ持ち、今いる国の王都に向かう。


 そんな彼等を見送る子供達の表情は読むことはできないが、どこかさみしげであった。そんな子供達の姿を見て、笑うものがいた。


「ふふふふ、みんな後で会えるから、そんなさみしそう顔をしないで」


 緑がそう言うと、子供達が緑のそばに集まって来る。


「みんな準備はできましたね!」


「お待ちかねの遠足です♪」


「じゃあ、みんな出発するよ!」


 そう緑の声が響くと、子供達が動きはじめる。


 緑達が、馬車に乗り込むと子供達をそれを牽引するが、これまでとは違い、緑達の馬車は先頭を進まず、子供達にかこまれた群れの真ん中を進む。


「これだけの子供達がまわりにいれば、外からは見えないでしょう」


「これでみんなが私達をスタンピードと思ってくれるはずです♪」


 緑達の馬車を囲む様に、子供達の中でも大きな個体の子供達が歩いている。


 緑達支援物資を運んでいた一行には、何人かの龍種が人の姿をとり同行していたが、その者達はいま本来の姿をとり子供達にまじって歩きはじめる。


 また獣人の中でも、魔緑の嫁の3姫の様に、獣のそのものに姿を変えた者達も群れの中にいた。


 外からみれば、蟲の魔物、獣の魔物、龍種が混じるスタンピードと思われるむれは、ゆっくりと王都に向けて動きはじめる。


 その群れに入ろうとする、魔物達を倒しながら。

 

 緑達家族の遠足(ピクニック)はじまる。


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