224話 ミドリムシは子供達と町にいく
「な、何者だお前達!」
「何者だって、普通の旅人ですが……?」
緑の言葉に、一緒に御者台に乗るヒカリとクウも頷く。
緑達が町の中に入るために城壁の前の列に並ぶと、最後尾の案内をしていた兵士が慌てて走ってきて叫ぶ。
怪しまれない様に、普通の旅人と言った緑だが、兵士の目は緑達の馬車を牽引するホレストアントに釘付けになっている。
緑達が乗る馬車は普段クウの子供達が牽引しており、緑達の話がいきわたっている東の国では、緑達の存在を確認するのに一役買っている。
彼等について追及する者達がめっきり減った最近では、他人からおかしな目で見られることを忘れていた緑達は、兵士の質問に首を傾げる。
「どう考えても、ホレストアントが馬車を引くなんておかしいだろ!」
「え……? そうですか?」
慣れとは恐ろしいもので、緑達は兵士の言う事を理解できない。そんな緑達のやり取りを聞き、まわりの列に並ぶ者もざわつきはじめる。
兵士もまわりがざわつきはじめたのを感じて叫ぶ。
「もういい! お前達は馬車をおいてこっちにこい!」
「緑さん、はやく入れるみたいですね。ラッキーです♪」
「そうだね、でも兵士の人は怒ってみるみたいだから静かにしとこう」
はやく中に入れると思い、喜ぶクウに緑が小さな声で言う。緑の言葉を聞き馬車を降りたクウは、子供達の前にしゃがむと小さな声で言う。
「みんな兵士の人の言う事を良く聞いて大人しくしていてくださいね♪」
クウの言葉を聞き、子供達は一斉に敬礼する。緑とヒカリも敬礼を見てうんうんと頷く。
「おい! なんで3人全員がおりるんだ! 馬車はどうする気だ1人は残れ!」
3人が馬車を降りたのをみて、兵士がさらにイライラする。だがそんな事にお構いなしに、ヒカリが兵士に言う。
「馬車なら、この子達がひいていくので、言ってくだされば大丈夫ですが?」
ヒカリが何を言っていると兵士に言うと、兵士がさらにイライラしながら反論する。
「ホレストアントが言う事を聞くはずがないだろ!」
ヒカリは怒り散らす兵士に、ヤレヤレと言った雰囲気で口を開く。
「では、試しに指示を出してみてください。この子達が言う事を聞くのが証明されます」
そんなヒカリの言葉を聞き、兵士はそんなはずがないだろうと、クウの子供達に向かって言う。
「……おい、こっちにこい!」
兵士が馬車を牽引する子供達に命令する。それを聞いた子供達はさっと足をあげ敬礼すると、兵士の指さす方向に馬車を引いていく。
「これでわかりましたか?」
ヒカリは唖然とする兵士に尋ねる。緑達と兵士のやり取りを遠目で見ていた、他の兵士達もそれをみて唖然とする。
そんな中、クウが兵士達に追い打ちをかける。
「もう少ししたらお昼の時間だから、馬車の中のごはんを適当に食べておいてください♪」
緑に静かにと言われたことを忘れたクウは、大きな声で子供達に言ってしまう。その言葉に敬礼で返す子供達。それを見てさらに目をむく兵士達。
「……わかった、3人とも来い」
緑達は子供達に手を振りながら兵士のあとをついていく。
緑達3人は門のわきにある兵士の詰所に案内され、いわれるままにイスにすわる。緑達がまっていると、3人を案内した兵士が上官とおもわれる男をつれてくる。
上官の男は、落ち着いた様子で緑達に尋ねる。
「3人はこの町へは何をしに?」
「観光です。僕達は3人で蟲人の国からやってきました」
「あの馬車のホレストアントは? 私も見たが人の言葉を理解するんなど、聞いたことがないのだが……」
「えっと……」
まさか子供達の事を聞かれるとは思っていなかった緑が、どうしようかと思っていると、ヒカリが話しはじめる。
「こちらのクウがテイマーでテイムしています。ですよねクウ」
「はい、私がテイムしています♪」
「ホレストアントのテイムなど聞いた事がないのだが……」
そこまで言って上官は黙り込む。緑達はその間もじっと上官を見つめる。
その時、兵士が詰所に駆け込んでくる。
「も、門の外にいるホレストアントが!」
その言葉を聞き、何かあったのかと緑達が立ちあがる。だが、兵士が叫んだ言葉は……。
「飯を作りはじめました!」
緑達3人はすっと椅子に座りなおす。だが、兵士達は一斉に門に向かいはじめる。緑達と話していた上官さえも。 緑達もそれを見て後をついていく。
兵士達の後を追い、門の外に出ると人だかりができており、その中心で子供達が鍋を作っていた。
「おい、ホレストアントが鍋をつくっているぞ……」
「魔物だろ? 大丈夫なのか?」
「あの肉は何の肉なんだ……まさか人じゃないよな……」
ホレストアント達が鍋を作っているのを見て、集まった人達が口々に不安を話す中、一言だけ違う意見が聞こえる。
「いいにおい……」
列に並んでいる中に小さな子供がいたらしく、親と一緒に見ていて思わずつぶやいた声に、皆の視線が集まる。すると、鍋を作っていたホレストアント達が一斉に動き出し、小さなお椀をもって女の子の前にちかづく。
見ていた者達が驚き後ずさりする中、緑達が女の子の前にでると、子供達からお椀を受け取り、女の子の前に差し出す。
「食べてみる?」
緑の言葉に思わず尻込みをする女の子。その女の子にクウがニコリと笑い話しかける。
「美味しいから、食べてあげてください♪」
女の子はそう言うわれ、おずおずとお椀とスプーンを受け取り、一口たべる。
「おいし~!」
女の子の言葉を聞き、喜んだ子供達が輪になって踊りだす。その一糸乱れぬ動きに驚きの声が上がる。
「すごいな、綺麗にそろってる……」
「ありさん、すごーい!」
女の子も喜んで声をあげると、それまで流れていた空気がかわり、皆が子供達を優しい目で見はじめる。その時であった。
カーン! カーン!
「魔物がくるぞ!」
その声に、兵士達が門からでてくる。兵士達は、魔物が来る方向に壁を作り、少し離れた森の方を睨みつける。
兵士達からは殺気があふれ、門の前に並んでいた者達は、どんな魔物がくるのかと心配そうに見守る。そんな兵士達に緑が声をかけ前にでる。
「兵士の皆さん大丈夫ですよ」
緑がそう言うと、子供達が緑の前に出る。さらには、ヒカリの子供達がどこからともなく飛んできて、陣形を構築する。
だが、突然あらわれたヒカリの子供達に驚いた兵士が叫ぶ。
「キラービーだ! どこからかきたんだ! しかもホレストアントとキラービーが陣形をつくるだと⁉」
緑の両サイドに、ヒカリとクウがたつ。
「ウルフだ!」
城壁の上から兵士が叫ぶと、森から20匹ほどの狼の魔物のウルフが群れで町に向かってくる。
「みんな今です!」
クウが叫ぶと、子供達の足元の地面から石の棘がはえウルフに向かっていく。その棘に半分ほどが串刺しになり崩れ落ちるが、残りの半分は石の棘を飛び越え、なおも町に向かって走ってくる。
「残りをかたずけなさい!」
今度はヒカリが叫ぶと、キラービーたちが一斉に風の魔法を放ち、風の刃が残りのウルフを切り刻む。
その光景を見て、兵士も列に並ぶものたちも固まる。皆が動かない中、緑だけが振り向く。
「大丈夫だったでしょう」
その声を聞いた瞬間、皆が喜びの声を上げる。
「よかった!」
「魔物から魔物に助けられた!」
「ありさん、はちさんにすごーい!」
「あんた達助かった! ありがとう!」
「ホレストアントにキラービーの子達もありがとう!」
チキチキチキチキ
子供達は、その場にいたもの達に礼を言われると、先ほどと同じように輪になって、踊りだす。
それを見た、人々はさらに声を上げる。
そんな光景を見ていた緑のそばに、上官の兵士が来ると耳打ちする。
「あのキラービーは、そちらの女性が?」
緑は、笑顔で答える。
「はい彼女もテイマーです」
上官がヒカリの方を見ると、ヒカリが黙って頷く。それを見た上官は口を開く。
「あんた達のホレストアントとキラービーは町に入れるようにしておくから、町に入ってくれ」
「「本当ですか⁉」」
そう声をそろえたのは、ヒカリとクウ。
「みんな集まりなさい!」
「みんな集まってー♪」
そう2人がいった瞬間、近くの森からキラービーが、地面が盛り上がりホレストアントが飛び出し、100人ほどの子供達があつまってくる。
その数に驚いたその場にいた人々が悲鳴をあげ門の中に逃げ込むのであった。




