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221話 ミドリムシは話をすり合わせる


「お前達2人が代表か?」


「ああ、俺がドワーフ代表でこっちが」


「獣人の代表よ」


 魔緑に尋ねられ、しぶしぶと言った表情で二人が答えると、魔緑が単刀直入に尋ねる。


「あんたら、ドワーフと獣人の国どころか、全ての国を滅亡させるつもりか⁉」


「なんで俺(私)達がそんな事をしなければならない!」


 魔緑の言葉に、二人が声をそろえて答える。


「なら、なんでダムの水を開放しない⁉ 今、どの国も異常気象で雨が降らず、生活用水として使う川の水が減って、危機的状況なんだぞ!」


「国からの許可なしに、そんな事ができるわけないだろう!」


「そうよ、私達が勝手に開放したりしたらそれこそ戦争になりかねないわ! それに川の水が減って危機的状況なんて話は聞いてないわ!」


「な、なんだと……」


 二人の言葉に魔緑が立ち眩みをおぼえる。


「わしらは、それぞれの国から指令を受けて、ここで仕事をしている。わしは、もちろんドワーフの国」


「私は獣人の国よ!」


(だとしたら、ドワーフと獣人の国がグルで意図的に水に制限をかけた? 今回の件は、単純にそれぞれの国々が国境付近の村や町を見捨てた話だけではないのか?)


「本当に信じていいのか?」


「「あたりまえだ(よ)!」」


「そうか、すまなかった……だが、こちらも遥か東から、わざわざ支援物資を持って、国境付近の村や町に支援物資に配りに来たんだ。今の話だけで、はいそうですかと、すぐに帰るわけにはいかん。少し、話を聞きたいのだが良いか?」


「東の国から来たのか⁉」


「でも、東の国って相当遠いはずでしょう? しかも大量の支援物資を持って? あんたは、ここに少数で乗り込んで来たけど本当の話なの?」


「ああ、本当だ。こちらは今回の件について、自分達が知っている情報を全て開示する。それに元々俺達は、こちらの6つの国で戦争が起こるのを止めて欲しいと依頼されてきたんだ。その依頼主も今回一緒に来ている。呼んで話をしてもらう」


「「……」」


 魔緑の話に2人は思わず顔を見合わせる。


「で、時間を貰えるか?」


「わかった。だが、少し上と相談したい」


「それは、私もよ」


「それは、難しい判断だな」


「何故だ⁉」


「もしもかしたら、お前達2人の上司も今回の件にグルの可能性があるからな。場合によったらお前達2人は、濡れ衣をかぶせられて消されるんじゃないか?」


「「⁉」」


 2人が魔緑の言葉に思わず息を飲む。


「とりあえず、上司への相談は後にして、俺達の話だけでも聞かないか? さっきも言った通り、こちらは情報を全て開示するつもりだ」


「……わかった」


「あなた、それで良いの?」


「わからねぇ……だが、こいつの話が本当なら大量の支援物資をもってきたんだろう? 裏を取ればすぐにわかる。それが本当ならそんな莫大な資産を使って、俺達を騙す必要もねぇ」


「確かに……とりあえず情報を聞いていいかしら?」


「ああ、頼む。そのうえで、そちらの情報をこちらに開示するか決めてくれていい」


「なら、こっちじゃ……ついてこい」


「待ってくれ、さっき言った依頼主や、俺達の事を証明できる物や人を連れてくる。跳ね橋を下げてくれ」


「わかったわ」


 話が終わると、跳ね橋はすぐに下ろされ、魔緑は自分が乗ってきた馬車に戻ると、嫁の3姫に城の中であったことを説明する。


「なんや、けったいな話やな~」


「ああ、とにかく、城に向かうから、3人とも来てくれ」


「しかし、支援物資の輸送は良いのかのう?」


「輸送もすっごく大切だと思います」


「なら、琉璃と珊瑚は、輸送をすすめてくれへん? まーちゃんには、うちがついていくから」


「ふむ、凜が一緒に行くなら大丈夫かのう? 後で合流するなら、凜の背にのって飛んで来ればいいしのう」


「すっごく、安心です!」


「なら、すまないが。凜は俺と一緒に城に、2人はこのまま支援物資の輸送を頼む」


「まかされよう」


「すっごく頑張ります!」


 3姫の返事との話を終えると、魔緑が全ての馬車に向かって、大きな声で叫ぶ。


「じゃあ、出発前に城の近くまで馬車を移動したい! 皆、動いてくれ!」


 魔緑の言葉で、馬車が一斉に移動を開始する。




「おいおいおい、まじか! どれだけの馬車を引き連れているんだ!……しかも馬車を引いているのはホレストアントじぇねぇか! あいつら、魔物を手なずけているのか⁉」


「あれを東の国から引き連れて来たって……どれだけの資材を投入したのよ……大金持ちってレベルじゃないわ……それこそ、大国に近い資産でも持ってなければ……」


 ドワーフと獣人の代表は、城の近くに移動してきた、馬車の数とそれを牽引するクウの子供達に、驚きながら話す。


 そんな2人をよそに、城壁の上で警備をしている、兵士達は驚くと同時に、恐怖もおぼえていた。


 それは、馬車の上空に数十匹の見えたため。城には、キラービーの対策に魔法を使える魔術師もいたが、キラービーの危険度は、数の多さで大きく跳ね上がる。


 そんな中、目が良い兵士が、震えながら馬車の方を指さす。


 他の兵士達が馬車に向かって、目を凝らすと、そこには少なくとも、馬車の幌に数匹のキラービーが待機していることがわかったから。


「馬車1台に数匹のキラービーがのっている……」


 1人の兵士が思わず呟く。だが、それだけでは終わらなかった。


「お、おい。あ、あれを見ろ!」


 キラービーに気づいた兵士とは、別の兵士がさらに声を上げる。


 大量の馬車が進む中、所々隙間があったのだが、城からある一定の距離になると、その空白の場所からデッドマンティスが姿をあらわす。


 もし、あの魔物達が襲ってきたらと、想像した兵士達の表情は、青を通り越して、白くなっていた。そんな時、突然笑い声が響き渡る。


「あーっはっはっはっはっ! こりゃまいった!」


 そう言って笑い出したのは、ドワーフの代表。


「ふふふふ、そうね……もうどうにもならない状況ね……」


 大笑いしている、ドワーフの代表とは反対に、獣人の代表は諦めたように、静かに笑う。


 先頭の馬車が、跳ね橋の手前にまで来ると、そこから降りた魔緑が叫ぶ。


「これで支援物資の輸送していることは、信用してもらえたと思う! 今から、俺と付き添いを2人連れて中に入るがいいだろうか⁉」


「おうっ! 入って来い!」


 ドワーフの代表の返事を聞きき、魔緑が馬車に乗り込み、城の中に入ろうとすると、子供達に呼び止められる。


 チキチキチキチキ


「ん? どうした?」


 魔緑がそういうと、ホレストアントは、胸につけている小さなポシェットから、カードの束を取り出し、それを器用にめくっていくと、1枚を魔緑に見せる。


 ホレストアントが魔緑に見せたカードは【ごはん】のカードであった。


「そうか……言われるまで気づかず、すまない。城のまわりで食事をとってから次に向かってくれ」


 チキチキチキチキ!


 魔緑からそう言われたホレストアントが、大きな声でひと鳴きすると、一斉に子供達が食事の準備をはじめる。馬車に乗っている、冒険者や技術者達も、子供達にカードを見せられ、同じように食事の準備にとりかかる。


 子供達は、人の言葉を理解するが、自分達の思いを伝える手段がなかったため、今回緑達が導入したのがこのカードであった。このカードを数人の子供達にわたしており、簡易ながらも子供達からも魔緑達に意志を伝える手段としていた。


 魔緑と凜は、城に入ると兵士に案内され、城にある応接室に入る。


「すげぇ数だな!」


 部屋に入った瞬間にドワーフの代表の男がニヤリと笑いそう言った。


「国境線上の村や町を救おうと思ったら、あれでも最低限だ……馬車の数もはじめに比べれば3分の1ほどだ」


「あれで3分の1……だと……」


「本当にバカげた数だわ……」


 獣人の代表も思わず呟く。


「それに、あの馬車の大きさ。ありゃさすがに馬で牽引するなら、かなりの数が必要になるから、ホレストアントが引いているのか」


「ああ、子供達が総出で引いてくれている」


「あのキラービーとデッドマンティス達もあなたの家族なの?」


「正確には、()()()()()だな」


「まぁ、俺達の家族の話は、後でするから、異常気象と川の水が減った話をしたい」


「ああ、すまんな。あまりに興味がひかれたもので」


「ええ、全くよ。あの数の馬車や魔物……失礼、家族だったわね。子供達だったかしら? あの数の馬車と子供達をみたら、皆こうなるわよ」


「ああ、だが俺達も急いでいる、話をすすめよう」


 魔緑がそう言うと、二人も真剣な目をして頷くのであった。



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