218話 ミドリムシと勇者は頭を抱える
人の村の支援を終えた後、腐緑、三日月、レイが馬車に乗り、更に国境線上を進むと、今度はエルフの村が見えて来た。
「次はエルフの村だね。ふーちゃんの出番だね」
そう言って三日月が腐緑を見ると、少し困った顔をしていた。
そんな腐緑の様子に、三日月とレイは顔を見合わせると、腐緑にたずねる。
「腐緑さんどうかしましたか~?」
「そうだよ、いつものならエルフの男の子を見れば、目を輝かせるのに」
そんな2人の質問を聞き、腐緑はまじめな顔をする。
「いや、今見えてるエルフの人達は、さっきの村の人達より、痩せてはいないなと……さっきの村は、もしかしたら見捨てられたのかもしれないから……こちらに来る前は、人だったものとして少し残念に思えてね……」
人の村は、王都からの支援が滞っており、村人がやせ細っていた。それから、考えられるのは見捨てられたかもしれない、だがエルフの村人は、痩せてはいるものの、命の危機に瀕している様には見えなかった。
それに気づいた腐緑の言葉に、馬車に乗っていた女性エルフが口を開く。
「単純にエルフが長寿で、人ほど数がいないので、結束が自然と固くなるのと、世界樹様の恩恵でしょう」
その言葉を聞き、他のエルフ達も頷く。そんなエルフ達の様子を見て、腐緑はさらに関心する。
「ほら、やっぱり。エルフの人達は、偉ぶらないね。それってすごいよね。さっきの村は、王都から切り捨てられたのかもしれないのに……」
そんな腐緑の言葉に、まわりの者達が目を丸くする。そんな中、1人のエルフが立ち上がり叫ぶ。
「それであれば、【水野 緑】さん達は、もっとすごいじゃないですか! 聞けば、緑さん達がまわった国々の危機には颯爽と現れて、助けて来たんでしょう⁉ しかも、今度は私達の様な、遠くの国々の助けまでしてくれる! 皆そう思わない?」
「ああ、そうだ! さっきの村だって、こうやって腐緑さん達が来なければ、村人全員が餓死していたはず!」
「ほら、それは僕達は、たまたま女神様に力を貰ったり、運に恵まれていたから……それに子供達が……」
「それこそ、自分達に余裕があるからと言って、自分の財産を分け与える者などほとんどいない! 今みたいに、自分達の偉業はまわりのおかげとしか言わない【水野 緑】さん達の方がよっぽど素晴らしい人達です!」
「かな……」
そう言った腐緑の言葉に、その場に居た者達が全員頷く。
「ふふふふ、ありがとう……じゃあ、エルフの人達に支援物資を届けよう! じゃあ、エルフの皆、私達の事を説明してくれるかな!」
「「はい!」」
腐緑の言葉で馬車は止まると、エルフ達が村に向かって走っていく。
だが、エルフ達が村で、腐緑達が来た理由を説明するも、すぐに信用される事はなかった。
「まいったね、結束が固い弊害かな、エルフの皆がいても、私達や他の種族がいるとすぐに信用してもらえないみたいだ」
エルフの者達が村に行き、腐緑達がここに来た理由を説明した後、ここに残していく冒険者や技術者達が、エルフ以外の種族も含まれると聞くと、エルフ達は彼等が残る事を拒否した。
「……やっぱり、あれしかないのかな?」
「やっぱり、あれしかないと思うよふーちゃん。エルフの人達に信用してもらうなら……」
「でも、今回はすぐに次の場所に向かわないといけないから、あれをすると足止めをされかねないよね……」
「ですね~。腐緑さんがあれをすると、エルフの皆さんはすぐに信用してくれると思いますが……足止めされそうですよね~」
「でも、やっぱりあれをするしかないよね……エルフの人達に聞いて、病人や怪我人の人を教えてもらおう」
腐緑達は、一緒に来たエルフ達に、この村に病人や怪我人がいないか聞いてもらう。エルフ達から病人や怪我人の話を聞くと、腐緑達はその者達が集められている、病院の様な役割をする建物に向かう。
その場所では、話を聞いたエルフ達が騒いでいた。
「本当に、怪我はともかく病気までなおるのか⁉」
エルフ達は、腐緑達の話を聞くも、半信半疑だった。だが、一緒に来たエルフ達の説得におれ、その場所に案内する。
「じゃあ、治療するよ」
そう言って、腐緑は魔法を使うために魔力を練りはじめる。その瞬間、エルフ達が叫ぶ。
「こ! これは! まさか!」
「世界樹様の気配! しかもこれほど濃いものは、感じたことがない!」
そこから、腐緑は魔法で、重い怪我や病のエルフ達を治療していく。
それが終わると、エルフ達の態度は少し前と180度変わり、腐緑を崇めはじめる。そうなると、村に冒険者や技術者達が残ることに反対する者はいなくなった。
だが、その代わりに腐緑達が想像していた、問題が持ち上がる。
「世界樹様! どうかしばらくの間、村に滞在してください!」
「どうか子供達の頭を撫でてやってください!」
「世界樹様からこの様な施しをいただいて、何もお礼をしないわけにはいきません!」
「ああ! もう! さっきも言ったけど、私は世界樹様じゃないし! ここみたいな場所がまだいくつもあって、そこにも行かないと駄目なんだ! いい加減にはなして!」
腐緑がそう言うと、エルフ達はしぶしぶ腐緑を諦める。
エルフ達を振り切り、腐緑達は逃げるようにエルフの村を後にする。
「やっぱりこうなったか……はぁ……」
しばらく馬車を走らせた後、腐緑はエルフ達の説得に思ってた以上の時間を取られた事に、思わずため息をつく。
「この世界に来て、一番疲れたかもしれない……」
「はははは、しょうがないよ。でも、やっぱりふーちゃんの気配は魔法を使うと世界樹様そっくりになるの?」
三日月が視線をエルフに向けると、すぐに返事が返ってくる。
「はい、本当に世界樹様にそっくりです。普段、世界樹様の気配は、世界樹様に近づけば近づくほど濃くなり、私達を包んでくれます。ですが、腐緑様の気配は、その包み込んでくださる気配を押し固めたような濃さがあります。その気配を感じたエルフは、間違いなく世界樹様が顕現されたと思います」
「いつの間にか様付けになってる……」
「あ、失礼しました。やはり私達はあの気配を感じるとどうしても……」
「ああ、大丈夫別に気にしてないし、それが嫌ってわけじゃないんだけど、こそばくてね」
そう言って腐緑は、頬をかく。
「でも、いつもなら気にせず魔法を使うのに、どうして今日は使うのをためらったのですか~?」
いつものと様子の違う腐緑に、レイが尋ねる。
「ほら、今回は時間が経つにつれて、下手したら死人が出かねない状況でしょう? だから、さっきみたいに時間を取られたらた困るからね」
腐緑の言葉を聞き、レイはなるほどと納得しそうになるが、あることに気づき腐緑にたずねる。
「普段も腐緑さんの言葉によっては、死人が出かねないと思うのですが……?」
「⁉ そ、それは……し……」
「「し?」」
レイの質問の答えが気になった三日月も思わず声をそろえる。
「死ぬ前だったら、私が治療できるから」
「あはははは!」
「ふふふふ、さすが腐緑さんです」
「「あはははは!」」
三日月とレイに加え、馬車に乗っている冒険者の数人が笑う。彼等も気になって話を聞いおり、腐緑の言葉に大笑いする。
それを見て、腐緑は納得がいかないと顔をしかめる。
そんな腐緑を見て、三日月とレイが声を上げる。
「あはははは! ほらほら、そんな顔をしてたら、次の村か町の人達が驚くよ!」
「そうですね~ 腐緑さんは笑顔が一番です~」
それにつられて、馬車に乗っている者達全員が笑うのであった。
それから、しばらくして不意にレイが声を上げる。
「止まってください!」
レイの言葉に馬車が止まると、後続の馬車も止まっていく。
「どうしたのレイちゃん?」
難しい顔をしたレイの言葉に三日月が尋ねる。
三日月が尋ねると、レイは目尻に涙をためて口を開く。
「どうしましょう、腐緑さん、三日月さん。私どう対応したらわかりません」
腐緑と三日月は、レイの涙を見て、驚きのあまり顔を見合わせる。
そんなレイが言うには、腐緑達が進む先に、何人かの人間がおり、誰か通りかからないか様子をみているとの事であった。
いつものレイなら、盗賊の様な人間達は、子供達に有無を言わさず、処理をさせるのだが、レイの口から出た言葉は、腐緑も三日月も悩ませるような言葉であった。
「やむにやまれず村人が盗賊行為をしようとしています」
レイの言葉を聞いた腐緑と三日月は、レイと一緒に、仲良く頭を抱えるのであった。




