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217話 ミドリムシの予想外


「ホレストアントが建物を作っている……」


 腐緑達が炊き出しをする中、村人が思わずこぼしたように、ホレストアントの子供達が、村に支援物資を保存するための倉庫を作っている。


 腐緑達が到着した、国境線上で一番近い村は、人の村であった


 緑達が想像したように、国境近くの村や町には、王都からの支援物資はあまり送られてこなかったようで、遠目に見ても村人達がやせ細っていた。


 それを見て、腐緑達はすぐに炊き出しをはじめ今にいたる。


 小さな村のため、炊き出しをはじめると、すぐに村人全員が集まる。


「ありがとうございます」


「本当にたすかりました。私達は良いのですが、子供達が可愛そうで……」


 村人達の言葉を聞き腐緑は思う。


(危なかった……こんなこと言っているけど、村の備蓄の量を聞いたら、次の収穫までに底をついていた。そうなっていたらきっと村人全員、大人も子供も餓死していたかもしれない……)


 腐緑はそう思うと目をつりあげる。


 村人全員が食事を終えたのを見計らって、腐緑が村人を集める。


「きつい事を今からいいます」


 村人が腐緑に注目すると、いつもより声のトーンを1段下げて腐緑が話はじめる。


「私達が着ていなければ、近いうちにこの村の人は全員餓死していました」


「「!?」」


 腐緑がそう言い放つと、村人達はうつむく。


「どうして、助けをもとめなかったのですか?」


 さらに腐緑のトーンが下がる。


 すると村長が手を上げる。


「助けを呼びにいかせました……だが、息子は帰ってこなかったのです……その後も何人かを王都にいかせたのですが」


 そう言うと村長は涙を流す。


「そうでしたか……」


 腐緑は、村人達の目測の甘さを怒ろうと考えていたが、村人達も考え行動し、そのうえで思った以上に状況が悪い事がわかった。


 腐緑の返事を聞き、村長が続ける。


「ドワーフと獣人の国境付近の山の中にある湖から、枝分かれした川が各国に流れているのですが……数年前ほどから水量が減り、ここ数年の異常気象でさらに農作物が取れなくなってきて……」


「異常気象に川の水量が減って来ていたのですか……」


 腐緑は、ここに来て新たな問題の浮上に悩みはじめる。


「これは、各国の存亡の危機かもしれないねふーちゃん」


 同じように考えはじめた三日月が腐緑に声をかける。腐緑は少し考えた後、5枚の紙にメモを取り、それを赤い封筒に入れて、アイテムボックスの中に入れる。書いた内容は全部同じ。


 新たな問題の浮上、生活用水に使われていた、ドワーフと獣人の国境の川の水量の減少。


 緑達は、今回5つのグループに分かれるさいに、定期的にアイテムボックスで手紙のやり取りをすると決めをしていた。


 ダンジョンコアは1つしかないので、ダンジョンの入り口を同時に5つの国境線上に増やしていく事は出来ない。そのためにダンジョンを通じての物資や人員の移動ができず、緊急時に単独で高速移動のできるヒカリの元に置かれている。


 はじめは、国境線上をヒカリが飛ぶと言ったが、最後の方に回される国境線上が手遅れになる可能性があるために、5つのグループに分ける事になった。


 その時手紙のやり取りを魔緑が提案したのであった。


 手紙の確認時間になったために【水野 緑】が全員共通のアイテムボックスに手を入れる。






 魔緑達はドワーフと獣人の国境線場に向かっているがまだ、村や町も見えていなかった。


 そんな中、魔緑の嫁の3姫の琉璃は、魔緑が困った顔をしながらアイテムボックスから手紙を出すのを見て、思わず尋ねた。


「どうかしたのかのう? まーちゃん?」


「非常用の赤色の封筒だ」


 琉璃に尋ねられた魔緑は、赤い封筒を見せ中の紙を確認する。魔緑は確認がおわると、その紙を自分の嫁の3姫に渡す。


「生活用水に使われていた川の水量の減少か……」


「それと、王都にいった伝令が戻ってこないと書かれてるで」


「各国がすっごくまずい状況になっているのかもしれません」


「これは、村や町一つ一つで支援物資の倉庫を作ったり、炊き出しをしていく場合じゃないな……各村や町に着いたら、ある程度の人数の冒険者や子供達を残し、残りはすぐに先に進むべきだな……残った者達も物資の受け渡しや倉庫作り、場合によっては井戸も掘るそんな感じだな……後、俺達は川の源流の調査だな……」


 3姫は魔緑の言葉を聞き、真剣な表情で頷いた。






 腐緑は手紙を送った後、しばらくしてから返事の手紙が来ていないかアイテムボックスの中を確認した。


「おっ! 入ってる、入ってる……どれどれ……う~ん、やっぱりまーちゃんも同じ考えになるよね」


「ふーちゃん、まーちゃんからの返事はどうだった?」


 そう言って三日月が手紙を読み終わった腐緑に尋ねると、腐緑は手紙を振りながら答える。


「予想通り、これから向かう村や町には、冒険者と技術者、子供達を少しづつのこしていって、【水野 緑】は先に進むように書かれているね」


「じゃあ、そろそろ私達は先に進もうかふーちゃん、っとレイちゃんにも声をかけないとね。お~い!レイちゃ~ん!」


「は~い、三日月さんどうしました~?」


「説明は馬車に乗りながらするから、次の場所に向かうよ」


「あら、移動がはやいですね~」


「うん、ちょっと状況が思っていたより悪いから予定変更になったんだ」


「わかりました~」


「っとその前に、ここに残ってもらう人達を決めないといけないや! ちょっと行ってくるね」


 そう言って腐緑は、頭の中にあるリストから、残ってもらう冒険者と技術者を選び、村の中に探しに行く。それから、しばらくして腐緑が戻ってくる。


「やぁ、おまたせ」


「遅かったね、ふーちゃん何かあったの?」


「いや、残ってもらう人達に釘をさしてたら遅くなっちゃって」


「釘? なんの?」


 三日月が腐緑の言葉を聞き、釘を刺すような事があったかと、尋ねる。


「ほら、今回は当初の話なら、村や町の状況をしっかりと見てから、次に進む予定だったけど、それができなくなって人員を残して進む事になったから、残った人達にはもし王都から人が来て支援物資の件で揉めた場合、旗色が悪そうならすぐに龍種の国に戻るように言って来たんだ」


「あそっか、私達からの依頼内容がかわっちゃったし、依頼の失敗と思って必要以上に頑張って、死傷者がでたらだめだしね」


「今までの事を考えたら、無理しちゃいそうな冒険者や技術者が出ないとも限らないからね」


「子供達は大丈夫なの?」


「子供達は、お父さんとお母さんの命令は絶対に言う事を聞くんだ。そして今回はお父さんからの命令として伝えてあるから、大丈夫な……はず?」


 そう言って腐緑はレイに視線を向ける。レイはその視線に気づくとニコリと笑い答える。


「はい、大丈夫です。私達お母さんの命令よりお父さんの方が重要と普段から言っているので」


「あははは、それなら大丈夫だね! それじゃあ三日月ちゃん出発しようか」


「うん! じゃあ、みんな出発するよー!」


 そう言って三日月が振り向くと、出発準備の整った無数の馬車の御者が頷き、それを牽引する子供達が一糸乱れぬ動きで進みはじめた。




「おい、腐緑さんは無理はするなって言ってたけど、他の奴らどうすると思う?」


 腐緑達が出発した後、村に残った冒険者達、技術者、子供達の代表が話はじめる。


「ある程度の無茶をするだろうな」


「だよなぁ……ここで【軍団(レギオン)】に覚えを良くするために無理をする奴は出てくるだろうな……俺達が目を光らすしかないか」


「「はぁ……」」


 代表者達は腐緑に釘を刺されたものの、確実に無理をする冒険者が出ると思い、ため息を吐いた


「しかし、わしらがおって良かったのう……」


「ああ、あんたらドワーフの技術者がいれば、井戸もポンプを備え付けられる。あれなら弱った村人でも水汲みができるだろう」


「そうね……水が無ければ、新しい農法を教えても無駄になってしまうものね」


「それは、俺達冒険者じゃ教えられねぇしな」


「緑さんと魔緑さんが技術提供を考えていたらしい。これが功を奏したな」


「ですね。もし、支援物資の輸送だけでしか考えていなかったら、私達がここにくるまで時間もかかったでしょうし」


「「やっぱり【軍団(レギオン)】はすごい!」」


 そう言葉をそろえる、各種族の技術者達。そこには、人、エルフ、ドワーフ、獣人、蟲人、龍種全ての種族の技術者達がいた。


「まぁ、もし戦いになったとしても、私の様な龍種の技術者もいますし、何よりも頼りになる子供達もいるわけですし、何も問題はないでしょう」


 そう言って、龍種の技術者は話を聞いていた数人の子供達の頭をなでる。


チキチキチキチキ


 頭をなでられ、子供達は嬉しそうに足を上げて返事をするのであった。

 

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