214話 ミドリムシの依頼
ダンジョンに案内された龍種の長は、ダンジョンに入ってからずっと口を開けっぱなしになっていた。サラマンダー達がいた島の龍種と蟲人達とは違い、長い間五つの国の隣で生活を続けていた龍種達の常識は、人々に近いものになっていたようで、長たちは緑にはじめてダンジョンに案内された冒険者達と同じ反応をしていた。
長たちはダンジョンの中を簡単に説明されると、緑達が集まるいつもの食堂に案内される。
「いや、驚きました。緑さん達のダンジョンの中がこのような大国だったとは夢にまでおもいませんでした……しかもキーラビーやホレストアント、デッドマンティスの数万人の子供達。緑さん達が六つの国の戦争を力ずくで止める事ができると話していた時は、緑さん達にも少なくない被害が出ると思っていましたが、この戦力を見れば各国も無血開城を行うかと思います」
「はははは、僕は他の国々を傘下にするような事は考えてないですし、各種族ごと独自の習慣やルールに営みもあると思います、誰かがそれを無理やり統一するのではなく、お互いの事を良く知りそれらを尊重して、関係をきずいていくのが大切だと思います」
緑がそう言うと、魔緑が話に加わる。
「と、緑は思っているで、実力行使は考えていない。当初の予定通りに国境に各国と同じ種族の人員や関係者を派遣して穏便に支援していくつもりだ」
「わかりました魔緑さん。ここを見て私は少々欲をかいてしまった様です。当初のお話をすすめましょう」
「では最初に、長がいる龍種の国から真直ぐ北に延びる獣人とエルフの国境に向かうものですが……先日、誘拐から助け出したエルフの方達と、その誘拐された者達を取り返しに東の国に来たエルフの者達、うちの干支緑達からそれぞれの半数を送ります。後は、支援物資の輸送に子供達から数千人、それに護衛や治安維持のためにうちに滞在中の冒険者達から数十名送ります」
緑がそこまで言うと、魔緑が待ったをかける。
「待て緑。干支達を補佐させるためにサラマンダーにウンディーネ、ファントムを付けて、さらにうちのダンジョンの技術を持つ者達も送って、国境付近の町や村に技術を指導を行うぞ。場所によっては、以前から国の中心から外れているために生活に使う技術が乏しい所もあるだろう。うちのダンジョンの様に、各種族が技術を持ち寄って技術の融合がおこれば、国と国との結束も硬くなる」
「ほお、それはぜひ我等龍種にも一つご教授していただきたい」
「それは、長の部下達で技術を習得したいと思う者達を各国境に一緒に送ればいい、その後で何かわからない事や聞きたい事がある者達は、改めてダンジョン内で勉強すればいいだろう。とりあえず今は話をすすめたいのでそれで良いか?」
「ありがとうございます。魔緑さんの言う通りにさせていただきます」
「次は、北東方向のエルフと人の国境に向かうのは腐緑に三日月にレイとエルフのもう半数だな」
「南東方向の人と蟲人の国境には僕とヒカリとクウの3人で行くよ」
「じゃあ、南西方向の蟲人とドワーフの国境は干支達の残りの半数にノームシェイド、アミあたりか」
「最後は北西方向のドワーフと獣人の国境には後はまーちゃんと奥さんの3姫と兜でいいかな?」
「俺達の所にはヤスデの奴もつけてくれ……そう言えばあいつの名前を決めてなかったな……」
「後は、それぞれに子供達に冒険者、ダンジョンの技術職の者達で、人数は最初に言った国境の人数で大丈夫かな?」
「ああ、とりあえずこれで問題ないだろう」
「じゃあ、僕はダンジョンの冒険者の皆に依頼を出してくるよ」
「あっ! 緑!」
「大丈夫! 冒険者の皆にも無理はさせないから!」
緑は、魔緑にそう言うと広場に走っていく。
「あいつ忘れているな……冒険者の女達がダンジョンで使える、風呂やトイレを欲しがっていることを……」
「皆さーん、【軍団】の依頼でーす!」
「緑さん! 報酬はでるの⁉」
「できる限り要望には応えるつもりです!」
「乗った!」「受ける!」「あんた達、依頼をうけるよ!」
「「依頼の内容を教えて!」」
女冒険者達の圧に戸惑うが緑は、依頼内容をはなしはじめる。
「サークル王国から西に行った、場所にある、人、エルフ、ドワーフ、獣人、蟲人、龍種の6つの種族の国が食料危機に瀕しています! そのためにお互いの食料を狙って6つの国が戦争になりそうなんです! 僕達【軍団】は、大量の支援物資と技術指導に、まずは国境ぞいの町や村からいくのですが、そこに届けた支援物資を国の中央の部隊が奪いに来るかもしれないので護衛を頼みたいんです!」
「それは、子供達も行くの?」
緑の言葉に1人の冒険者が質問を投げかける。
「もちろん子供達には、今回は支援物資の輸送をメインとして一緒に行ってもらうつもりです!」
「それって私達が必要?」
【軍団】が出る上に子供達も手伝うとなると、冒険者達は自分達に出番がないのではないかと思い尋ねる。
「もちろん! 今は皆、子供達と仲良くしてるけど、はじめはそうでなかったでしょ? 皆みたいになれるように橋渡しになって欲しいんです!」
緑の言葉に、冒険者達はダンジョンに来た当初の事を思い出す。【軍団】のダンジョンと言われても、そこに溢れていた子供達。今でこそ、友人関係をきずいてる者達だが、はじめは警戒していた事を思い出す。
うつむきながら、そのことを思い出した冒険者の視界に1匹のホレストアントが入る。そのホレストアントは冒険者の視線に気づき顔を上げると、どうしたの?と顔を傾ける。
それを見た冒険者は、しゃがみ込むとホレストアントの頭をなでながら言う。
「今度、皆と一緒にお仕事になるみたいよ」
チキチキチキチキ
冒険者の言葉を聞いたホレストアントは、嬉しそうに冒険者の足元をまわりはじめる。
冒険者とホレストアントのまわりには、飛んでいるキラービーの足に自分の拳を合わせる者、デッドマンティスの鎌と自分の武器をまるで乾杯でもする様にぶつけ合う冒険者達がいた。
「ぐす……皆、仲良くしてくれてありがとう……うぅぅぅ」
ダンジョンに来た冒険者達と子供達の距離が近くなっている姿を見て、緑は涙ぐむ。
「干支ちゃん達に笑われるよ緑さーん」
「俺達で良いなら護衛の手伝いをするぜ!」
「報酬も期待するわよ!」
「お風呂とトイレ……まずはトイレかしら……」
「すん! 国境上を進むので、今回は長い依頼になると思うので、皆長旅用の準備をして欲しいんだ」
鼻水をすすった、緑はまじめな顔をして冒険者達に言う。
「「了解!!」」
冒険者達は緑に返事をすると、それぞれがまじめな顔をして、依頼の準備をするためにその場を後にする。
多くの冒険者達が去った後に、見知った顔が残る。
「よぉ、緑。6つの国って、数日前に俺達が連れて来た6人の冒険者の国だろ?」
そう言いながら緑の肩に腕を回し、顔を近づけて尋ねたシャークは、いたずら小僧の様に笑っていた。
「はい、シャークさん達が連れて来た、彼等の国です」
「なら、乗りかかった船だ。もちろん俺達も協力するぜ」
「俺達も微力ながら協力するぞ」
シャークの後に、そう言ったのはアランであった。
「シャークさん、アランさん、お2人は特に付き合いが長いので、子供達とむこうの人達の橋渡しをお願いします」
「「了解!!」」
2人も緑に返事をすると準備するためにその場を去っていくが、思い出したように声をあげる。
「しかし、報酬なんだろうな~? 楽しみだぜ」
「きっと、俺達の想像のできないものだろう」
わざと緑に聞こえる距離でそう言いながら。
この日から、緑のダンジョンにいる子供達が一つの目的に向かって一斉に動きはじめる。




