212話 ミドリムシと龍種の長
「おい、サラマンダー戦う気が満々のようだがまだ彼は、我等3人の中から選んではいないぞ」
そう言ったのはノーム。
「俺は、戦っても、戦わなくてもどちらでもかまわない」
ノームの言葉に反応するシェイド。
2人の言葉を聞きサラマンダーは顔を明るくする。
(もし、俺以外が選ばれればこの難しい選択をしなくてもいいな、くしししし)
そう思いながらサラマンダーは、長の御護衛の男に確認する。
「では、3人の中から1人を選んでみろ」
(選ばれるな、選ばれるな、選ばれるな)
心の中でそう願うサラマンダー。
「では弟子が戦ったと聞きました、サラマンダー殿お願いします」
だがサラマンダーの願いは届かなかった。
「わかった……」
サラマンダーは返事をすると男から100mほど離れた場所に立つ。
「いつでもいいぞ」
サラマンダーがそう言うと、護衛の男は龍種の姿に変貌する。
「では、行きます!」
男はそう言うと、サラマンダーに向かっていく。
「アイスランス!」
男がサラマンダーに向かいながら魔法を発動させる。アイスランスは男の周りに浮き続け、その数を増やしていく。男はサラマンダーに向かっていく途中で進路をかえ、様子をうかがう様にサラマンダーを中心としまわりはじめる。
「水の属性龍か……サラマンダーの属性には、相性が悪いな……」
「だが、その相性を容易にひっくり返すほどの実力差がありそうだが……20から30位くらいだろうか?」
男の魔法を見たノームが呟き、それにシェイドが反応する。
「そんなところだろうか……む、サラマンダーも魔法を使うようだな……これは……くくくく、あいつも成長しようと必死なのだな」
サラマンダーの周りに男のアイスランス同じだけの、小さな白い火の玉が浮かび上がる。
「俺は、どんどん差を広げられている気がする……」
「しょうがない、闇属性の魔法を操れる【水野 緑】は干支達だ、むしろシェイドが干支達に教える立場だろうし、シェイド以上に魔法を扱える者を探す方が難しい。むしろ魔緑がいて、魔法の手本にできる相手がいるサラマンダーの環境が良いのだ」
「それならば、緑がいるウンディーネも環境が良いのでは?」
「緑の魔法はそれほど難しい物は使っていない……むしろ魔法を覚えてすぐの者でも使える物だ。だが、緑の無尽蔵とも思える魔力量でその魔法使うために、ウンディーネでも真似することができない様だ……蛇口を捻ったら出る水の量が大河ほどあると言っていた」
「たしに……」
「お、アイスランスをうつようだぞ」
ノームが男の魔力の揺らぎを感じ取り、男の動きに注目する。
体の周りに浮いているアイスランスが50ほどに増えた所で、男はそれを高速で打ち出しながら、サラマンダーに迫る。
だが、男にとって想定外、緑達にとっては想定内の事が起きる。サラマンダーの周りに浮かんでいた白い小さな火の玉がアイスランスに向かう。
「何をするつもりか知らんが、そんな小さな光の魔法で俺のアイスランスは防げない!」
男がそう言い、一つ目のアイスランスが小さな火の玉にあたると、アイスランスが爆発した。男は驚くも、うちだしたアイスランスを止めようとはしない。
だが、そのため50発ほどの爆発が起こり、男はその爆発のためにサラマンダーに向かう事を止め、そん場で爆風に耐えるように腰をおとした。
爆風がおこり、砂ぼこりが舞ういお互いの姿が見えなくなる。男はそのまま砂ぼこりが収まるまでサラマンダーのいた場所を注意深くうかがっていた。
「なんだと!?」
砂ぼこりが晴れ、男は見えたサラマンダーの姿に思わず声を上げる。
サラマンダーは無傷な上、サラマンダーの周りの小さな白い火の玉は何事もなかったかの様に、その数を減らす事もなくその場に浮いていた。
「魔法で相殺したのではないのか!? それにあれは、聖属性の魔法ではないのか!? 何故爆発したんだ……?」
「ああ、これは火の魔法だ。俺もこれを目にするまで炎に色の違いがあるとは知らなかったがな」
そこまで言うとサラマンダーは小さな火の玉を練り合わせる。練り合わされた火の玉はその形を変え炎の剣となる。
「なんだあれは……?」
男はサラマンダーの握る剣から目が離せなかった。
(あれは、やばい!)
そう心の中で叫んだ男は、自らも龍の姿でも扱える氷の大剣を作り出す。
「準備は良いようだな、行くぞ!」
そう言ったサラマンダーは男と違い、龍種本来の姿ではなく子供姿のまま叫ぶ。サラマンダーは、弾丸の様に急加速し、男に向かって走り出した。
男はサラマンダーの剣を防ごうと、氷の剣で受けるようとするが、サラマンダーの剣は男の氷の剣をまるでバターを切るように様に切り裂き、その先にある男の首のそばでピタリと止まる。
「ま、まいった……」
男がそう言うとサラマンダーは剣を霧散させ、緑の方を見ると嬉しそうにVサインを見せた。
「子供の姿は油断させるものか……」
男の言葉に振り向いたサラマンダーは、ニヤリと笑う。
「違うな。愛するべき弟妹達のそばにいるためだ」
サラマンダーがそう言った瞬間に声が聞こえてくる。
「やったー!」「サラマンダーのかち~!」
それは干支緑達の声であった。
干支緑達はかけてくると、次々にサラマンダーに飛びつく。同じくらいの身長の干支緑達が次々にサラマンダーに抱き着く姿は、子供がおしくらまんじゅうをしている様であった。
「先ほどは失礼な事を言い、申し訳ありません」
「気にしないでください」
「こういう事には慣れているからな……」
緑の後にそう言った、魔緑は不機嫌そうに答える。
「もう、まーちゃん……」
「……」
緑が魔緑に視線を送るも、魔緑は目を合わせようとはしない。
「話をすすめましょう」
緑は、魔緑の機嫌をなおすのをあきらめ、龍種の国の長と話をすすめる。
「お話はきいていますが、彼等の情報は数か月前のものだと思うので、今の現状をおしえてもらえますか?」
「はい、彼が東の国々に助けを求めた頃と違い、もう戦争がはじまっています」
「!? 全面戦争ですか!? どことどこがですか!?」
緑は本当に戦争がはじまっていれば、いよいよ武力を持って介入しなければならないと思い、声を荒げる。
「お、落ち着いてください! 戦争がはじまっていると言っても、小さなものが広範囲にわたって起こっているだけで……」
「落ち着いていられません! それが拡大すれば大きな戦争になってしまいます!」
「緑落ち着け……」
「!? ごめんまーちゃん」
「謝るのは俺にではない……」
「すいません、長。取り乱してしまって……」
「いえ、貴方達が本当に戦争を止めたいと思っている事が分かりました。先ほど言った小さな戦争ですが、それは本当に小さなものであれば国境近くの村などが起こしているものです」
「それが集まって大きな戦争にならないのですか?」
「……なりません」
「それはなぜですか?」
「それぞれの国境近くの村まで、支援物資がとどいてないから、彼等は自分達の村からうごけません……」
「「!? もっと状況が悪い!」」
長の言葉に、緑と魔緑が声をそろえるが、長はそのまま話を続ける。
「もしかしたら、国々は国境付近の小さな村などを切り捨てたのかもしれません……」
「龍種の国は何か支援などできなかったのですか?」
「我々は、ご存じかと思いますが食事を必要としません。そのために食料の備蓄などをしていませんでした。そんな我らに天罰が与えられたのかもしれません、各国の情勢が悪くなると中心の位置にある我らの国の魔力の流れがおかしくなってきております」
「このまま流れがおかしいままだとどうなるのでしょうか?」
「我らの魔力が枯渇して、全滅です」
「龍種の方達は、ここから逃げないのですか?」
「逃げる事も考えましたが、最強の種族と言われてる者達がまっさきに尻尾をまいて逃げるのは……かっこわるいだろ?」
そう言って長はニヤリと笑った。




