209話 ミドリムシに平伏するエルフ
エルフ達はお互いの状況を話し合う。
「他の国の民を攫って奴隷にして、西側の国に売るだと……」
冒険者のエルフは、彼女達が危うく奴隷として売られそうだったと聞くと、呆然とする。
「おい、大丈夫か?」
冒険者のリーダーの龍種がエルフの冒険者を気づかい声をかける。
「ああ、すまない。少しぼうっとしてしまった。しかし、これがエルフだけの話とは思えない」
「ああ、俺もそう思う。どこの国にもクソみたいな奴はいるからな……しかし、こんな話が多くなると、いよいよ戦争になるな……」
リーダーの冒険者は悔しそうな顔をしてそう言う。彼等は、6つの国が戦争にならないために東の国に助けを求めて来たが、時間的猶予が無くなってきている事にあせりをおぼえる。
「人族、エルフ、ドワーフ、獣人、蟲人、龍種それぞれの国で飢える者達が増えてくると、どこかで暴発するかもしれない。それは、個人の争いから村、町と大きくなりいずれ国と国に……」
「あと、どれくらいの時間がのこっているんだろうか……」
「「……」」
誰かが言った言葉に全員がだまる。
エルフと冒険者達が下を向き苦虫を嚙み潰したよう顔をしていると腐緑がやってくる。
「さぁ、今から皆が泊る部屋に案内するよ! 今日はとにかく休んで疲れをとって!」
腐緑が明るくそう言うが、彼等は返事をすることができなかった。
「はぁ、エルフが大勢来たと聞いて来たんだが、どうやら西の国のエルフの様だな……」
「あっ! まーちゃん」
腐緑が振り向くと、そこには魔緑がいた。魔緑はヤレヤレと言った表情で、下を向いた者達に声をかける。
「おい、お前達。腐緑の言葉が聞こえなかったのか?」
それでもエルフと冒険者は、顔上げずに考え込んでいた。
ズドン!
大きな衝撃音が響き、建物が揺れる。
エルフと冒険者達は驚き、音の発生源と思われる方向をむく。そこに魔緑がイライラとしながら、腕を組みエルフと冒険者達を見ていた。
魔緑の足元の床は、大きく蜘蛛の巣上にひび割れており、先ほどの音を魔緑が出した事に気づいたエルフと冒険者達が声を上げる。
「す、すいません! つい考え事を」
「も、申し訳ないつい」
慌てて、エルフと冒険者達が魔緑に謝るが、魔緑は彼等に言う。
「お前達は、戦争を止めに来たのは聞いたが、今のお前達に何ができる? お前達に助けを求められて、俺の家族が命を懸けて西の国に向かっている。そんな中、お前達が自分達の国の心配をするのはわかるが、お前達が今やるべき事は、体調を万全に整えておき、動くべき時に備える事じゃないか? それにお前達が自力で国に戻るより、俺達の家族が向かう方が何十倍も早い。」
「「!?」」
エルフと冒険者が魔緑の言葉にはっとする。
「だから、お前達も今日は大人しく体力を戻す事に専念しろ。さぁ! 寝床に案内するぞ、ぐずぐずするな! 動かない奴はぶっ飛ばすぞ!」
そう言って魔緑が食堂からエルフ達が泊る部屋に案内する。
その道すがら、腐緑が魔緑に近づく。
「まーちゃん、ありがとうね」
「あいつらも辛いのはわかるがな……さっさと休ませておかないとすぐにヒカリと三日月が帰ってきた時に動けませんじゃ話にならないからな。それに明日にでも俺達の鍛錬風景でも見せれば安心するだろう」
「そうだね、ヒカリちゃんの速度のならあっという間につきそうだしね」
「それでも2,3日はかかるだろうがな……」
エルフ達は、案内された部屋にあるベッドと布団の質の高さに驚きながらその日は眠るのであった。
翌朝エルフ達は、腐緑に案内されて緑達家族が行う朝の鍛錬を見学する。そこには6人の冒険者も呼ばれていた。
彼等が案内された場所は広大な広場になっており、緑に蟲人達、魔緑と3姫、腐緑に干支緑達、4人の龍種達もいた。
彼等の前には元s級冒険者「達人」の流が立っていた。
「それではいつも通り、二人一組になって10分間の対戦はじめ」
その声に反応して、彼等彼女達は近い実力のものと対戦をはじめる。
3姫と干支緑達は、3人づつで1人とし他のものたちと対戦する。
「なんだ、これは……」
その言葉を発したのは冒険者のリーダーの男。
高速で動く緑達の戦いを見て、驚きの声を上げる冒険者達のリーダーは思わずこぼす。
「あの子供達もどうなっているんだ……」
「ふふふふ、驚いた? 僕達の家族には、勇者や魔王もいるからね。それにあなたと同じ龍種もいるからね?」
「それは、サラマンダーとの件で嫌と言うほど思い知らされたが、彼が言ったここには彼より強い者がいるという言葉は嘘じゃなかったんだな……」
「そうだね、以前は龍種の彼等の方が強かったけど、うちには【達人】の流さんがいるし、お互いを守れるように強くなろうと頑張っているしね」
「そこまで! 次は、姿を変えても良い! それでは次は15分間で、はじめ!」
「さぁ、皆が本気を出すよ。流れ弾が飛んで来たら大変だから、結界を張るから外に出ないでね」
腐緑がそう言うと透明な光る壁が現れる。
「こんな、強力な結界があるのか……あんたも相当強いだよな? あんたで何番目なんだ?」
「はははは、私はきっと下の方だと思うよ。それに、私の力はこういった鍛錬では使いづらい力だからね。それに自分達で誰が強いか見ればいいと思うよ」
腐緑とリーダーの男が話していると、後ろから声がかけられる。
「あ、あの~」
「ん? あっ……」
腐緑が振り向くと、腐緑の後ろではエルフ達が平伏していた。
「やはり、貴方は世界樹様が顕現された姿だったのですね!」
「ああ、違う違うから! やめて! 五体投地なんかしないで! 私は世界樹様じゃないから!」
「そこまで! では、次は各々で自己鍛錬に! それぞれの戦いを振り返って考えるように!」
緑達が数回の対戦をした後、流がそう言うと緑達は腰を下ろし、対戦した相手と話し合う。
そんな緑達の対戦を見ていた冒険者の6人はため息をつく。
「はぁ、これで数万のホレストアントやキラービー、デッドマンティスの子供達がいるんだろう? これはシャークって冒険者が言った、緑達が6つの国を征服するって話ができない事じゃないとわかった……」
「俺達がサラマンダーと戦った時は大分手を抜いてくれていたんだな……3桁と言われたがどれほどの差があるかもわからないくらい離れているな……」
「これで少しは、安心してもらえた?」
そう言って緑がやってくる。
「みーちゃん、お疲れ様」
「ふーちゃんもお疲れ様、皆の結界ありがとうね」
「私も良い鍛錬になったよ。これほど長時間の間、結界を張った事は無かったからね」
「これで少しは俺達の家族の事を信用してもらえたか?」
「あ、まーちゃんもお疲れ様」
「ああ、本当に戦争が起こったとしてもあんた達なら力ずくで戦争を止められるだろう」
「エルフのあんた達もこれで少しは安心できたか」
「「す、すいませんでしたー」」
魔緑が冒険者達だけでなく、エルフの者達に視線を向けると、平伏する。
「おい、たしかに怒ったが、そこまでする必要はない、ただ俺はしっかりと休んでほしかっただけだ」
魔緑の言葉にエルフ達はぶんぶんと頭を振って、頷くのであった。




