207話 ミドリムシとエルフ
「こんな事ってあるのか……こんな状態じゃ……誰も……誰も生き残っているはずがない……」
エルフの救出部隊は、盗賊達の現状を確認したそばから胃の中を空っぽにしていった後、盗賊達が魔物に襲われたと思い、途方に暮れていた。
なぜなら盗賊達の状態を考えると、彼等は救出対象の女性達も一緒に殺されてしまったとしか思えなかった。エルフの救出部隊は、盗賊達にさらわれた女性達の家族、友人、恋人、兄妹、親や子供で構成されており、彼女達が死んだと思い嘆き悲しんだ。
絶望の淵に叩き落された、エルフの救出部隊。
しかし、そこにヒカリ達が救出達対象のエルフの女性達を連れて現れた。
はじめエルフの救出部隊は、ヒカリ達と一緒に現れた、救出対象の女性達の姿を見て涙を流し大喜びするが、盗賊達を皆殺しにしたデッドマンティスが周囲の探索を終えて、ヒカリ達の元に戻って来たために、1名を除きエルフ全員がパニックを起こした。
「いやーっ!」「デッドマンティスよ!」
「そんな! ここまで来て!」「逃げないと!」
「おい! 女達が逃げる時間をかせぐぞ!」
「1人でも逃げろ!」
救出したエルフの女性までが、デッドマンティスの姿と数を見て、悲鳴を上げて散り散りになって逃げようとし、その女性達を逃がすべく救出部隊がデッドマンティス達に攻撃を仕掛けるために動いた。
その時、1番はじめにヒカリ達に助けを求めたエルフの女性が、声の限り叫んだ。
「皆! 落ち着いて! 彼等は、敵じゃない! 皆を助けてくれたのは、このデッドマンティス達なの!」
その声を聞き、エルフ全員がその動きをピタリと止める。
女性は、これまでの経緯を説明するが、ヒカリ達から与えられた情報量が少なすぎるために上手く説明できず困ってしまう。
そこで、事態も収まったという事で、ヒカリ達が自分達の情報も含めエルフ全員に説明をするのであった。
説明を受けたエルフ達は、ヒカリ達の前に綺麗に整列し、救出部隊のリーダーの男が先頭になりヒカリ達に頭を下げる。
「ヒカリさん、三日月さん、レイさん、腐緑さん、ファントムさん、彼女達を救っていただき感謝する」
エルフの男達のリーダーがそう言って頭を下げると、後ろにいる全員が後を追うように頭を下げる。
「お気になさらず、私達は当たり前のことをしたまでです」
「本当にありがとう」
ヒカリの言葉にリーダーの男は、顔をほころばせ、再び感謝の言葉をのべ頭を下げる。
再び、感謝の言葉を受け、ヒカリ達は困った様な表情を浮かべる。
その表情を見て、リーダーの男はこれ以上感謝の言葉を並べては、ヒカリ達を困らせると考え、話を変えるように視線をレイに向け話す。
「しかし、話を聞いても信じられないな。そちらの美しい女性のレイさんが元魔物のデッドマンティスとは……」
「あら~ 美しいだなんて~ 嬉しいですね~」
「それにデッドマンティスがこれだけの数いて、しかも組織立って行動するとは……彼等デッドマンティスと敵対していたら我等は、何もできずに全滅していただろう……あの盗賊達の様にウプッ! 話の途中にすまない、少し思い出してしまった」
「あはははは、あの光景をいきなり見せられたら忘れらないよね~」
「いやいや、三日月さん達の様に女性がシャンとしているのに、我々男がいつまでも引きずっていては、お恥ずかしい」
エルフの男達とヒカリやレイ、三日月が話しているとファントムが空中に浮きながら近づき、エルフの男に尋ねる。
「いえいえ、三日月さんの言う通りです。もしよろしければ私の魔法で記憶をぼかす事もできますが?」
「ファントムさんそれは、遠慮しておきます。今回の様な事を我々は忘れてはいけない。だから記憶をぼかしてはおけないので」
「そうですか、わかりました。戦士の貴方達に失礼な事を言いました。どうかお忘れ下さい」
そう言ってファンアトムはエルフ達に頭を下げる。
「いやいや! どうか頭を上げてくれ! 貴方に頭を下げられては、我々はどうすればいいか困ってしまう。それに貴方達の様な強い者に戦士といって貰って嬉しい限りだ!」
「それは、安心しました。では皆さんこれからどうするおつもりですか?」
「これから我々はすぐにここから自分達の国に戻るつもりです」
「そうですか、ちなみに皆さんの国はどこになるのでしょうか?」
「我々の国はここから西に向かった場所にあって、今我々の国は非常に不安定な状況で国にすぐに帰らなければならないのです」
「もしや、他の国と戦争になるかもしれないと?」
「な、なぜ、それを……」
「ちなみに皆様がお国に帰られるのにどのくらいかかりますか?」
「ここからであれば、ここからであれば少なくとも4、5か月ほどかかるかと……」
「なら、我々と一緒に来るのがいいでしょうね」
「皆さんも我々の国にむかうのですか?」
「いえ、我々がはじめに向かうのは、皆さんの国に隣接する龍種の国です。そこから、我々は5つの国に別れて向かいます」
「な、何のために向かわれるのですか?」
「「戦争を止めるためです」」
ファントムへの質問にヒカリ達が声をそろえて答える。
「皆さんが自力で帰るより、我々と一緒に向かえば、国に帰る時間を短縮できることを保証しましょう」
「短縮できるのですか!?」
「龍種の国からの距離が詳しくわかりませんが、仮に龍種の国の中心からであれば皆さんの国にはどれほどの時間がかかるでしょうか?」
「龍種の国の中心からですか!? 龍種の国の中心からであれば……強行軍で進めば、国境まで2か月ほどで戻れるかもしれません」
「先ほど言われた4、5か月とは国境までの話でよろしいですか?」
「は、はい! ですが龍種の国の中心地に行けばただでは帰れません! それに中心地に行くまでに龍種達と戦いになるかもしれません」
「皆様が戦う事なく、エルフの国に戻れるように我々がいたします」
「信じていいのでしょうか……」
「大丈夫です、我々は6つの国に戦争にさせないために行くのです」
エルフのリーダーの男は真剣な顔をしてファントムに尋ねる。
「貴方達の戦力で……ですか?」
この時、リーダーの男は、ヒカリ達の戦力を使えば、1つの国ならば傾きかねないと尋ねたが帰って来た言葉は驚くべき言葉であった。
「ここにある戦力は、我々にとってほんの一部です。ですが……戦力を使って、6つの国に言う事を聞かせるつもりはありません」
「ほんの一部ですか……それが本当なら恐ろしいことだ……だが、貴方達は私達の家族を救ってくれた。数日の間、貴方達の事を見せさせて欲しい。その上で皆さんと一緒に国に向かうか考えたい」
「わかりました。数日ですが皆さんと一緒に国に向かいたいと思います」
「では、皆様お疲れだと思うので今日はそろそろ、我々の国に向かいましょうか」
「我々の国? この辺りは、国と国の間で、まだ東よりだったと思うのですが、我々の国からはなれるのでしょうか?」
「私達の国は、どこにでもあり、どこにもありません」
「どこにでもあり、どこにもないですか?」
「はい、私達の国に来てもらえればわかります」
「わかりました、皆さんの国への案内、よろしくお願いします」




