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205話 ミドリムシは送り出す


「2人とも、お願いするね」


「はい、緑様、すぐにつくと思います」


「緑ちゃん気にしないで、私もこっちの世界を見て回りたいし」


 ヒカリと三日月はそう言うと、緑の傍まで歩いてくる。


「緑さま」


「緑ちゃん」


 緑の傍まで来た二人は、緑の名を呼ぶとそっと腕をまわし、緑を抱きしめる。


「わわっ!」


 2人は、驚く緑を気にせずしばらくの間、緑を抱きしめる。


「……」


 緑は、何か言おうとするも、黙って2人を抱きしめ返す。


 しばらくの間、抱き合った3人は、自然と離れる。


「緑様を補充できました」


「私もお裾分けしてもらっちゃった」


「もう、2人ともいきなりだから驚いたよ」


 そう、緑が困った様に言うと、2人がずいと顔を近づける。


「いきなりでないなら、いいんですか?」


「って聞こえるよね」


「あ、いや……えっと……」


 緑は、赤くした顔をそらして、しどろもどろになる。


「ふふふふ。では三日月さんそろそろ行きましょうか」


「あははは、そうだねヒカリちゃん」


 2人は、そう言うと周りに集まった家族に顔をむける。


「皆さん、行ってきます」


「皆、いってきます」


 皆が、2人に挨拶を済ませると、ヒカリが三日月を抱き上げると、空に向かって飛び立つ。


「あっという間だな」


「そうだね、まーちゃん」


「不安?」


「少し、不安かな……。ふーちゃん」


「2人なら大丈夫です♪」


「そうですよ~」


「うん、クウもレイもありがとう」


 そう言って、皆で2人が飛び立った方向を見つめる。




 飛び立ってから数十分後。


「うわ~、凄い凄い! 1人の力で戦闘機以上の速度で飛べるなんて!」


 三日月は、ヒカリに抱き上げられたまま、空の旅を楽しんでいた。


「やっぱり、魔法はすごいね。と言うか蟲人の人って、皆空を飛べるの?」


「いえ、飛べない人もいます。アミもその1人です」


「あー、そうだった。アミちゃんは蜘蛛の子だよね? なら飛べないか」


 そう言った三日月は、自分達が進む方向に続く街道を見下ろす。


「やっぱり向こうから来る人の数の方が、向こうに行く人より多いね」


「ですね、向こうの状況は悪いようですし、こっちに人が移動してきてるようですね」


「まぁ、そう言ってもぽつぽつとしか人は見えないけどね。あ、町だヒカリちゃん少し降りて村の様子を見ていこうか」


「はい、向うの国から良くない人が来ていないか見ていきましょう」


「だね~」


 2人が、地面に降りようと話していると、叫び声が聞こえる。


「誰か! 助けて!」


 2人は上空から声のした方に目をむけると、森の中を女性が走っており、さらにその後を囲い込む様に盗賊の様な男達が後を追っていた。


 ヒカリは、そのまま激突するかのようなスピードで地面に向かう。


「オラッ! 待ちやがれ! お前は商品なんだよ!」


 女性は、必死に男から逃げようと声を上げながら、森の中を走っていた。


「来ないで! 来ないで! だ、誰か! 助けあっ!」


 だが、不運にも女性は木の根につまずき、そのまま転んでしまう。


 女性が転ぶと、男がその間に距離を詰め、女性に追いついた。


「手間かけさせやがって!」


「痛い! はなして!」


 追いついた男が、女性の髪を掴み引き上げると、周りから男の仲間が集まって来る。


「オラッ! さっさと立て!」


「いやっ! 誰か!」


「捕まえたか!」


「ああ、何とかな。しかし、手間をかけさせやがって!」


 そう言って男は、女性の顔をはたく。


「おい! 商品なんだぞ! 顔はやめておけ!」


「ああ、わりぃ…… ったく手間をかけさえやがって。こっちだ行くぞ!」


 男がそう言った時、男の後ろから声が聞こえる。


「その手を離しなさい」


「えっ?」


 男がその声に驚き声を上げ振り返ると、そこには女性を隠す様にヒカリが立っていた。


「誰だ!」


 男はヒカリを見て思わず叫ぶ。


 だが、ヒカリは男の言葉に返事をせず、男の前にそれを投げ捨てる。


 男がヒカリが投げ捨てた物に目をむける。


「ぎゃああああ!」


 男はそれを見た瞬間に叫び声を上げ、そのまま転げまわる。


「俺の腕がぁああああ、誰かポーションをくれぇ!」


 ヒカリが男に向かって投げたのは、ヒカリが切り落とした男の腕であった。男がそばにいる仲間に叫ぶがその声に返事は帰ってこない。


 男は転げまわりながら周りを見ると、男の仲間は、全員地面に倒れていた。


「クソッ! 何がっ!? ぐぅうううう」


 男は仲間の状態を見ると冷静になり、うめき声を上げながらも懐からポーションを取り出し、切られた腕にかける。


 腕の傷がポーションで治ると、男はヒカリを睨みながら立ち上がろうとするが、再び倒れる。


 男は、自分が動けない事に驚き、目だけをヒカリの方に向けると、三日月がそばにいる事に気づく。


「だ、だ……れ……だ」


 男は、なんとか言葉を絞り出すが,そこまで言って意識を失うのであった。


「いや~、ふーちゃんに貰っておいた痺れ毒は、凄い効き目だね~。あっという間に痺れてうごけなくなったね」


 そう言った三日月に向かってヒカリは、感謝を伝える。


「三日月さん、他の盗賊の処理ありがとうございます」


「いやいや、適材適所だよ。人を守りながら戦うなら、ヒカリちゃんの方が相性がいいだろうし」


「三日月さんも可能なのでは?」


 ヒカリにそう言われた三日月は、頬をかきながら呟く。


「う~ん、できない事もないけど……やっぱり私は、中距離から遠距離での戦闘の方が得意かな?」


「……わかりました。そういう事にしときます」


「そうそう、気にしない気にしない」


 そんな話を2人がしているとエルフの女性が声をかける。


「あ、あの……ありがとうございました!」


 エルフの女性は、そう言うとヒカリと三日月に向かって深々と頭を下げる。そんな女性を見てヒカリも三日月も目を丸くして答える。


「いえ、気にしないでください……当然のことをしたまでです。なので頭を上げてください」


「うんうん、ヒカリちゃんの言う通り! 気にしないで!」


 女性を助けた事を何とも思っていない2人は、女性の態度に慌てて答える。それでも態度を変えない女性に三日月が話を変えるように言う。


「……しかし、やっぱりエルフの人は綺麗な人が多いね」


 なんとか話を変えようと、三日月はそう言って女性をまじまじと見つめる。


 そんな中、女性が2人に質問をする。


「あ、あのお2人は冒険者の方でしょうか? もし、そうであればお願いしたい事があるんですが…… あの……」


 エルフの女性はそう言うと、非常に言いづらそうにして2人を見つめる。そんな様子を見た2人が気づいたことを尋ねる。


「あっ! もしかして、家族や友達がこいつらの仲間につかまっている?」


「そうですね、すぐに気づかずすみません。場所を教えてもらえますか?」


「えっ!? いいんですか!?」


 女性は、頼もうとしたことを先に2人に言われて驚く。


「じゃあ、いきましょうか三日月さん」


「そうだね、この胸糞悪い連中をぶっ飛ばそう! 悪いけど、こいつらのアジトまで案内してもらっていいかな?」


「ぐす……よろしくお願いします……案内します」


 エルフの女性は2人の言葉に涙ぐむが、まだ他の人達が助かったわけではないと気づき、厳しい顔つきになる。そんな女性を先頭にして、3人は森の中を進んで行く中で盗賊について話し合う。


「それで、盗賊は何人くらいいるの?」


「はい、全員を見れたわけではないんですが、40名ほどだと思われます」


「結構多いね、貴方たちはどこで捕まったんですか?」


「この近くの森ですか?」


「いえ。ここから西の方角ですが、どのくらい距離があるのかわかりません。馬車で運ばれているのはわかったんですが……他の人達とも話したのですが、皆が全員バラバラの場所でつかまったので……」


「みんな遠い所から連れてこられてたんだね……もう少しだけ我慢してね、私達が皆をかえしてあげるから。ね、ヒカリちゃん」


「はい、絶対に皆さんが居た所に送り届けます」


 しばらく歩くとエルフの女性が立ち止まる。


「この先に盗賊たちが居ます」


 その言葉にヒカリと三日月が頷く。


「少し待っててください」


 ヒカリはそう言うと、その場から空に飛びあがる。


 ヒカリは、飛び上がるとどんどん高度を上げていき、森の中の様子をうかがうと、三日月たちの元に降りてくる。


「この先に広場があり、盗賊達と4台の馬車がありました。人数は20名ほどの姿が見えましたが、馬車の中にもいるようですね」


 そう言ってヒカリはエルフの女性をみつめる。


「はい、馬車の中には10名づつエルフが乗せられていて、そこに2人の盗賊が常に見張っています。私達は全員で20名ほどです」


「外の盗賊はともかく、見張りの盗賊がやっかいだね」


「そうですね……三日月さん、ここはダンジョンの中から応援を呼びましょう」


「誰に来てもらうの?」


「レイさんとその子供達です」


 ヒカリの言葉を聞くと、三日月はなるほどと手を叩く。


「レイさんに手伝いを頼むのはいい考えだね! じゃあ、少し離れてダンジョンに入ろう!」


 2人はいい考えと言葉を弾ませるが、エルフの女性は2人の会話の意味がわからず不安そうにその会話を聞いていた。会話が終わると2人がその場から離れるように歩き出したために思わず声をかける。


「あ、あの、ここから離れるんですか?」


「あっ! 説明がなくここから離れると心配するよね。でも今、説明すると長くなるから、今は黙ってついてきてくれると嬉しいな」


 エルフの女性はそう三日月から言われると頷き、盗賊達から離れるように3人は移動するのであった。


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