2話 ミドリムシをゴブリンと言わないで
「どうしよう……」
緑は思わず独り言がもらす。【鑑定】結果は爆弾タイプの実と表示されていた。
緑は望んだものに対しての結果が無茶苦茶だと思いながら、すぐさま実を放り投げる。
「……」
実を放り投げた後、その場にふせて、緑はしばらく様子をうかがうが、実は、爆発しない。
さらに、緑は用心のために、その辺にあった石を投げ、当たったところで様子を見るが、一向に爆発はしない。
「……」
そこで、緑は先ほどこ爆弾の実が発生した原因になった、体の中のエネルギーを、実に飛ばすイメージを持ち、意識を集中する。すると爆竹が爆発したような音がして、実があったところに小さな火がついた。
「あっ⁉ 火がついた!」
緑は火がついたことで思わず声を上げる。だが火の勢いは、緑が想像していたよりも小さく、あわてて集めた枯れ葉に火をつける。
緑は、枯れ葉から枯れ木に火をうつし、火が安定しはじめると、集めておいた木から長めのものを選び、先ほど採った魚を串刺しにして焼いていく。
「こんなものでいいかな?」
緑がしばらくの間、魚が焦げないように焼き加減を調整していると、魚からなんともいい匂いが漂ってくる。
緑は、魚の刺さった木を手に取ると、ひと口食べる。外の皮はパリパリで、身はふっくらとしており、ひと噛みごとにうまみが口に中にあふれる出る。
「う~ん、おいしい~」
そう呟いた緑は、何も考えず夢中で魚を食べきってしまう。
魚を食べ終えると緑は、そのまま食休みを取ろうと、湖のそばにあった広場で横になる。だが、魚を食べてから30分ほどたつと、緑は体に違和感をおぼえる。
「何か、手がしびれる感じがするな~」
思わず呟いた緑は、自分に【鑑定】を自分にかけてみる。
【水野 緑】状態……軽度の麻痺
「さっきの魚しか、考えられないよね……」
緑は、なぜ魚に鑑定をかけなかったのかと悔やんだ。
幸い痺れはあるものの、軽度と書かれている様に、緑には命の危機は感じられなかった。毒はこのまま自然に解毒されると思った緑だが、1つ思いついたことがあり、実験をしてみることにした。
その実験とは、先ほど髪の隙間にできた実であった。
緑は強く解毒を意識しながら、先ほどの実を生み出し、鑑定してみる。
【緑の実】水野緑から生まれた実。強力な解毒作用をもつ。
「よし! できた!」
緑はそう言って、拳をぐっと握りしめ、早速、実を食べてみる。
「おお! 体の痺れがなくなった! 鑑定!」
【水野 緑】状態……正常
狙った通りに状態異常の麻痺は解除されていた。
「よし! 思った通り! しかし、この実全く味がしないな……どうすれば味をつけれるだろう?」
その後、緑は色々実験し、結果いくつか分かった事があった。
まず1つ、この実の効果は緑のイメージで治癒や解毒などさまざまな効果がつけられる。
続いて2つ、効果同様、味や香り栄養素も緑のイメージで左右され果肉の部分もイメージ通りつけれる。
3つ、付ける効果により必要となるエネルギー量が決まる。
緑は先ほどの状態回復の実と、ケガをしたとき用の治癒の実をいつか作っていく。その際、緑は自分が元いた世界の果物の味を付けるのを忘れない。
その後、緑がスキルを確認すると【果実生成】と言うスキルが生えていた。
このスキルは実を作った際に生えたようで、もしかしたら他にもスキルも生えるかもしれないと考える緑であった。
「とりあえず、これからは食べるものには鑑定をわすれないようにしよう……」
いくら状態回復の実があるとはいえ、強い毒なら実を食べたなら、実を食べる前に死んでしまうかもしれないと思った緑は、そうつぶやいた。
異世界に来て初めての食事は踏んだり蹴ったりだったが、緑は何とか命に別状はなかった事を幸いと思う。そして、食事をし、毒にあたるが、それも解決した緑は、次に何をしようか考える。
緑は自分のスキルも確認し、自分の確認はできたと思い、次は周りの状況を確認しようと、湖の周りを歩きはじめた。
しばらく湖の周りを歩いていると、木々の間に細い道があることに気づく。
「あ、この道はを辿れば街までいけるかな……? でもどれくらいかかるだろう?」
緑はこのまま道沿いに進み、村や町などがすぐにあれば良いが、着くまでに数日かかる可能性を考える。
そこで、緑は、再び実を作りだす。今度の実は、瓢箪のような中身が空洞になっており、蓋もついた実をイメージし、水筒の代わりになるものを作りだす。
緑は実がちゃんと空洞になっていることを確認すると、その実の中に湖の水を入れ、それを大量に作ってアイテムボックスにしまっていく。
「よし! これで人がいるところまで数日かかっても、水は大丈夫だろう」
これだけの水を確保しておけば、長期にわたり日が差さない日が続かない限り、【超光合成】ができずに飢えることはないと、緑は考え、林の中のあった細い道を進みはじめる。
1時間ほど歩くと緑は、大きな道に突き当たる。緑がどちらに進むか緑が考えていると遠くで人の声が聞こえてくる。その方向に緑が歩いていくと、馬車を中心に人が周りを固め、小さな緑色の小鬼のようなものと戦っていた。
それを見た緑は走り出す。以前の体と比べると、とても運動に適した体のようで、どんどん馬車との距離が短くなっていく。緑が馬車に向かって走っていくと、馬車を守っていた1人の男が、緑のほうを見て叫ぶ。
「あかん! アラン! ゴブリンの追加や!」
アランと呼ばれた男は、その言葉に反応して緑を見る。
「いや、よく見ろ! 体はずいぶん薄い緑色だし背も高いぞ! ゴブリンじゃない!」
だが、アランと言われた男は、まわりの者に支持を出し、自分も複数のゴブリンと戦いつつも、緑を冷静に見て、そう叫ぶ。
緑は、ゴブリンと間違われたことを気にしつつも、今は、彼等のゴブリン退治の手伝いをしようと叫ぶ。
「僕はゴブリンじゃありません! 良ければゴブリン退治を手伝います!」
緑が大きな声でゴブリンではない事を伝えたにも関わらず、今度は女性が叫ぶ。
「ゴブリンがしゃべった! 」
その言葉に緑はゴブリンじゃないと言った男が反応する。
「バカ! 違うと言っただろう! すまん! 助かる、手伝ってくれ!」
緑は、二人の返事を聞くと、そのまま戦闘に突入する。
緑は、目の前のゴブリンに意識を残しつつ、横目で馬車を守っていた者達を見る。
彼等は、馬車を守るように円陣を組み、それぞれが向かってきたゴブリンに対応している。素人の緑が見ても、彼等がそれぞれが戦い慣れしている事が理解できた。
1人につき2、3匹のゴブリンを相手にしており、時間がたつに連れて確実にその数を減らしていく。皆が、順調にゴブリンの数を減らし、もう少しでゴブリンが全滅する。そう思った時、最初に緑をゴブリンと間違った男が叫ぶ。
「アラン! 今度こそゴブリンの増援や!」
その場にいる全員に緊張が走る。
見れば30m先の森のほうから、20匹ほどのゴブリンが走ってくる。
緑が、すかさず目の前のゴブリンを髪で縛り上げそのまま力任せに引くと、縛り上げられたゴブリンは、髪に切り裂かれて、輪切りになる。
緑は、目の前のゴブリンを倒すと、そのまま増援のゴブリンに向かって走る。
「おい! 1人で前に出すぎるな!」
その声がかかる頃には、もうゴブリンを緑の髪が縛り上げており、緑が髪を引くとゴブリンは輪切りにされ崩れ落ちていった。
その光景に固まっている者達をよそに、緑が髪を振ると一筋の血の跡ができ、髪についた血は綺麗に落ちた。
その後、緑達は目に見えるゴブリンを全滅させた後、全員で森の方を警戒するも、追加のゴブリンが来ないことに安心し、皆が馬車の方に集まって来る。
緑が馬車のそばまで来ると、緑に手伝いを頼んだ男性が話かけてくる。
「手伝ってくれて助かった! 俺はアランってんだ。あんたは?」
リーダーと思われる人物ははアランと言い、緑にたいして感謝を伝える。
「初めまして、僕は【水野 緑】と言います」
「いや~! にぃちゃんが走ってきたときゴブリンと勘違いして悪かったわぁ。俺はドナってんだ、ほんまに助かったわぁ」
「いや~!うちも勘違いしてごめんやで~。うちはセリアいいます。ドナはうちのお兄です。ほんまに助かりましたわぁ~」
緑をゴブリンと勘違いした、なまりのある2人、ドナとセリアの兄妹も緑に感謝を伝える。
「ゴブリンごときで全滅することはないが、下手なケガは負いたくなかった、もしあんたが来なかったら誰かがケガをしたかもしれん。改めて感謝する」
アランの後も緑は他の者達からも礼を言われる。
その後、緑達はゴブリンの死体を全員で処理をする。
「よし!ゴブリンの処理もしたし街に進むぞ!」
そうアランが言うので、緑はすかさず尋ねる。
「アランさん、それなら僕も一緒に行っていいですか?」
「もちろん構わないぞ」
そのまま皆で、馬車の周りを囲いながら歩き街に向かう。緑達は歩き続け日が傾き掛けるころ、視界に城壁が見えてくる。
「予想外の事はあったが無事街についたな」
リーダーのアランが言うと、皆が笑顔で頷き、城壁に向かうのであった。