195話 ミドリムシと洞窟1
「「いっぱいいるー♪」」
そう言った干支緑達が入った洞窟は大きく、ミノタウロスとなった丑緑が立ちまわっても、他の干支緑達に迷惑がかからないほどであった。
それぞれの干支緑達が魔物と間違われそうな姿になりゴブリンをなぎ倒していく。
そんな中、今まで入り口から1本道だった洞窟が3本の道にわかれていた。
「どっちにいく?」
「う~ん」「え~っと」「どうしよう~」
誰かの声で干支緑達はどの道に行くか考えはじめた。
しばらくして11人いる干支緑達は、同時にそれぞれが行きたい道を指さす。
「あっち」「こっち」「そっち」
普段めったに意見がわかれない干支緑達であったが、この時はそのめったにが起こった。
「えーっ!?」「あっちにいこうー」「こっちがいいよー!」
口々に自分の行きたい道に行こうと声を上げる干支緑達。
その様子を見ていた龍種達も話はじめた。
「さてどうしたものか……」
「まぁ、たぶんわかれるんじゃねぇか?」
「珍しく意見がわかれたわねぇ」
「むむむ、ここでわかれられると後で報告をしなければならないのだがな」
干支緑達の行動を後で報告しなければならないシェイドが思わずうなると、それに助け舟を出すノーム。
「なら、シェイド以外の行動は我らが見ればいいだろう」
「それは助かるがいいのだろうか? 緑には、全てを報告するように言われていたが……」
それでも不安を言葉にするシェイドにウンディーネが話はじめる。
「でも、そもそもこれは干支ちゃん達の素の行動を見たい緑からすれば、わかれようとする干支ちゃん達に無理に一緒にいるように言うのはちがうと思うわ」
「たしかに、こいつらが自分達で考えた上でわかれたんならしかたがねぇ。もしかしてそれを見越して俺達にシェイドをサポートする様に言ったのかもな」
そう言ってサラマンダーもウンディーネの意見に賛成する。
「たしかに…… だがその考えは緑ではなく魔緑か腐緑辺りの考えだろう」
「「たしかに」」
「なら、誰がついていく? 道は3本、別れるとしたら3つのチームにわかれそうね」
「じゃんけんできめるか?」
「まてサラマンダーよく考えろ、もし万が一が起きた場合に癒しを使えるウンディーネがここで待機している方がいいだろう」
「そうね、もしもケガ人がでて持ってきた実だけじゃ足りなくなったら私が癒さないといけないわ」
「ああ、たしか治癒の実の数を制限してるんだっけか? 全部使い切る前に撤退できれば再チャレンジしていいが、使い切って撤退できなかったら依頼は失敗で俺達が介入するんだったな」
ウンディーネの言葉にサラマンダーが緑が干支緑達に言った言葉を思い出す。
「ああ、そうだ。だが、普通の冒険者が持つような回復アイテムは持っているし、あの子達がその回復アイテムで治療できないほどの怪我をするような事は考えられないがな……」
「なら、俺以外が見る子達は、サラマンダーとノームに任せるぞ」
「ああ」「うむ」「そうね」
龍種達が相談が終わった所で干支緑達に目をむけると、干支緑達は龍種達が話していたように道ごとに分かれる話になっていた。
左の道は子、卯、丑緑。
真ん中の道が寅、午、申、亥緑。
みぎの道は巳、未、酉、戌緑。
3つのチームに分かれた干支緑達は、それぞれが指さした道の前に立つと立ち位置を決め進んで行く。
「じゃあ、はじめるねー」
そう言った子緑の周りに3人の子緑が現れる。
3人の子緑は天井と左右の壁に張り付くと何事もないようにそのまま進んで行き、その少し後ろをミノタウロスとなった丑緑が進んで行く。
本体の子緑は丑緑の後ろを歩き、最後に卯緑が後ろを警戒しながら歩いて行く。
子緑の姿は、その小さな体は大きさを変える事無く鼠の獣人の様な姿をしていた。
子緑の能力はこの分身を作り出す力で、作り出した分身の感覚を共有しチームで動く際は斥候の役割を果たす。
この分身を作り出す能力は超光合成で作られたエネルギーを多く使い、自身の持つエネルギーを総動員しても10人ほどが限界で、分身を作り出している間の戦闘力は普段の子供姿の時と同じ程度である。
だが、この戦闘力は分身体も同じであり、分身のために戦闘力が下がる事はなくほぼ死角が無くなり手数は10倍以上に膨れ上がる。
「ゴブリンが来た!」
先行していた分身の3人が同時に声をそろえ知らせると、分身はそのまま闇の魔法でその姿を隠し前からやってくるゴブリンの様子を観察する。
子緑が好んで使う武器はレイピアで、自分の前を通り過ぎるゴブリンに死角からその急所を1撃で貫き死に至らしめる。
集団で向かってきたゴブリンは突然仲間が倒れた事で混乱を起こす。
仲間の異常に気付いた者は、倒れた仲間に駆け寄りさらに分身の餌食になる。
気づかずに進んだ者は、自分が攻撃した後に続けざまに攻撃する仲間がいない事にそこで気づき丑緑の反撃に合い、その大きな斧で両断され沈んでいく。
運よく丑緑の反撃を受けなかった者は、丑緑の背後から飛び出てきた卯緑に急所を蹴り潰される。
卯緑も武器は使うが最も得意とするのは自分自身の体を武器とし戦う徒手空拳。
緑達はダンジョンで元Sランクの冒険者の流の元で修行しており、干支緑達ももれなくこの修行に参加していた。
もちろん卯緑の得意な攻撃はウサギの脚力を超ミドリムシの力で増幅した蹴り。
丑緑の斧を運よく避けたゴブリンに待っていたのは、容赦のない卯緑の蹴りであった。
「さすが俺達より修行が進んでいるだけあるな」
そんな事をご機嫌につぶやいたのは、チーム左の道(仮)の後を付いてきたサラマンダー。
龍種達も子供の姿で戦う上で流の元で同じように修行をしていた。
純粋な徒手空拳だけの力を見ると、姿をかえもともとの戦闘スタイルかありながら新たなスタイルを一から学んでいた龍種達より卯緑の方が習得は進んでいた。
ゴブリンと干支緑達の戦いは数分間もすると次第におさまり、そこに立っていたのは干支緑達と龍種のサラマンダーだけであった。
「あー! うーちゃんがけったゴブリンのあたまどっかいっちゃったー」
「ごめんねー」
「あ、うしちゃんもあたまつぶしちゃってるー」
「ごめーん」
「ふたりともきをつけてねー」
「くしししし、俺達もやったな」
干支緑達の様子を見て笑ったサラマンダーは、自分達龍種もはじめはモンスターの討伐証明の部位や素材をその力で吹き飛ばしてしまい落ち込んだ事を思い出していた。
そんな思い出し笑いしていたサラマンダーが急に真面目な顔をして洞窟の奥を見る。
「……ふむ、キング辺りがいるのか?」
洞窟の奥を見つめるサラマンダーはそうつぶやく。
しばらく洞窟の奥を見つめていたサラマンダーが視線を干支緑達に移すと、そこで干支緑達は夢中になって討伐部位を集めていた。
「まぁ、たいした脅威でもないしこの距離ではまだ気づかんか…… まぁ特に問題はないだろう」
そう言うとさらにサラマンダーは進んできた道を振り返る。
「……まぁ、こちらも問題ないだろう」
そうつぶやいたサラマンダーはふたたび視線を干支緑達に戻すのであった。




