194話 ミドリムシと依頼
王都の西の門で、干支緑達は城壁から者の列に並び自分達の番が来るのを待っていた。
「はい、次…… って子供だけなのか!?」
王都から出る者達の確認しながら列の整理をしていた兵士が、次の者に目をむけると思わず声を上げる。
「「はーい」」
兵士が思わず上げた声に手を上げ返事をする干支緑達は、自分達だけで行動することを楽しみにしており早く早くと目を輝かせながら待っていた。
「お前達出るのは良いが身分証明できるものをもっているのか?」
そう言われた干支緑達は、カモフラージュのために着けているウェストポーチからさっき貰った冒険者ギルドのギルドカードを取り出し、兵士にさしだす。
差し出されたカードを見て再び兵士は驚きの声を上げる。
「お、お前達…… 冒険者ギルドの登録をしているのか!?」
兵士が再び声を上げた事で、他の者を担当していた兵士達が何か良くない事がおきたのかと思い集まって来る。
「おい、何かあったのか!?」
集まってきた兵士の1人が干支緑達と話していた兵士に声をかける。
「ああ、問題はない…… ないんだが……」
「じゃあ、何で2度も声をあげたんだ?」
そう聞かれた兵士は干支緑達を指さす。
「子供? 何か問題が? こんに大勢いるんだ保護者の大人もいるんだろう?」
干支緑達を見た兵士がそう言うと、干支緑達は指さした兵士が首を振る。
「いや、どうやらこの子達だけのようなんだ。しかもこの子達全員が冒険者ギルドカードを持っているだ」
「本当なのか? 俺にも見せてくれ」
そういって干支緑達のギルドカードを受け取り、カードを調べはじめる。
「本物だ……」
カードを調べた兵士は思わずつぶやく。
「ああ、ギルドカードの偽造なんて犯罪だし、こんな子供達にカードを持たせればすぐに疑われるから、そんな事をする奴もいないなだろう……」
「たしかに……」
そんなやり取りをしていると、騒ぎが大きくなりさらに兵士があつまってくる。
集まってきた兵士の中の1人が干支緑達を見るなり声を上げ笑いはじめた。
「ああ、なるほど…… ッぷ、くくくく」
「お前、何かしってるのか?」
1人笑いはじめた兵士に気づき他の兵士が尋ねる。
「まぁ、まってくれ。君達、良ければお名前を聞いてもいいかな?」
兵士にそう聞かれて干支緑達は、1人1人名前を答えていく。
「どこかで聞いた覚えが……」
兵士達が干支緑達の名前をどこで聞いたのか思い出せないでいると、先ほど笑った兵士が答える。
「それはチーム【軍団】のリーダーの名前だろ?」
「「ああ! そういえば! 名前もほとんど一緒だな!」」
干支緑達の名前は【水野 緑】の緑の前にそれぞれ干支がついている。
「チーム登録がされていなかったからわからないかった……」
兵士の1人が言った言葉に他の兵士達もうなずく。
「となると冒険者ギルドで試験をうけてきたのか?」
「しけんはなかったー」「でもテンプレがあったから、わるいぼうけんしゃをやっつけたー」
「……そのわるい冒険者とは、君達に因縁をつけた冒険者なのか?」
「いんねん?」「よくわかんなーい」
因縁の言葉がわからないと言う干支緑達の言葉に兵士はどうわかりやすく伝えるかなやむ。
「君達に何か悪い事をしようとした冒険者がいたのかな?」
再び緑達の事に気づいた兵士がたずねる。
「うん♪」「うしちゃんがむねをつかまれたから、デコピンでやっつけたー」
その言葉を聞き兵士達は納得する。
「この時間にギルドに居ている奴は、良くて中堅どころだろうが、話を聞くかぎり片手間でそいつらをかたずけたようだな。それなら初心者冒険者の力は優に超えているな」
「なら、ギルドのお墨付きもあるんだろう。行っていいぞ」
「だめだまだだ、そっちの4人がまだ確認できていない」
兵士が干支緑達に門から出るのを許可しようとすると、干支緑達の担当をした兵士が、干支緑達と兵士のやり取りを黙ってニヤニヤしながら見ていた4人に視線を向ける。
4人は、自分達のギルドカードを差し出す。
そのカードを見た兵士達は途端に顔を青くさせる。
「お、お前達……」
兵士が何かを言おうとするが、すかさず4人が唇に人差し指を当てながら
「「しー」」
そう言われて兵士達は、黙りこむ。
しばらく黙った兵士達の1人がため息をつくとすっと門の外を指さす。
「行っていい」
その様子をみて干支緑達が全員で手を上げ挨拶をする。
「「いってきまーす」」
そう言って、干支緑達と後をついていく4人が門の外へ進んで行く。
それを見送った兵士達はひときわ大きなため息をつく。
「ギルドカードに種族が乗るのは知っていたが、今日はじめて驚いた」
「ああ、俺もだ」
「「龍種って……」」
兵士達は茫然と4人の後姿を見る。
すると4人全員が振り返り、再び唇を人差し指で抑えた。
「「!? まさか聞こえたのか?」」
そんなやり取りを知らずに干支緑達は意気揚々と門をくぐり城壁の外に出るのであった。
門の外にでて、しばらくの間歩き続けた干支緑達は、その歩みを止める。
「このへんでいいかな?」「ねー」
干支緑達は、門を出てすぐに街道を外れ進んできた。それは、人の目に付かないない様にするため。
戌緑と亥緑の2人が集団の先頭をこえ前にでる。
「だれもいないよね?」「みんな、ほかにひとはいないよね?」
「「いなーい」」
それを聞いた戌緑と亥緑が声をそろえる。
「「へんしーん」」
2人はそう言うとみるみるその姿を変貌させる。
戌緑はその姿を人狼へ亥緑は猪人へと変身する。
2人は変身するとすぐに鼻を鳴らしはじめる。
くんくんくんくん すんすんすんすん
「うーん」「うーん」
2人は地面の匂いを嗅ぎならが進んで行く。
しばらく2人が鼻を鳴らしながら進み続けると同時に声を上げる。
他の干支緑達は、2人の様子の変化を見逃さないと2人の様子をうかがう。
そんな中、
「くっさっ!」「くっさっ!」
同時にそう声を上げた2人は振り向き皆に伝える。
「「みんなみつけたー」
「「ついせきだー」」
「じゃあ、わたしもへんしーん」
戌、亥緑に続き酉緑がその姿をかえて、飛び上がる。
そこから干支緑達は、猛スピードで走りはじめ森の中へと入っていく。
森の中に入ると全員がその姿を変える。
11匹の魔物にも見える姿、これを何も知らない人たちが見れば大騒ぎすると思われるために、慎重にその姿を変える場所をうかがっていた。
「えいっ!」
寅緑がそう言って腕を振るうとゴブリンが引き裂かれる。
「みんなきをつけてー あっちとそっち、むこうからもくるよー」
そう言ったのは卯緑、森に入りすぐにゴブリンの巣があるのか大量に周りから襲ってくるために匂いでの索敵はやめて、卯緑の音での索敵に切り替える。
さらに巳緑も索敵に加わる。
「そこにかくれてる!」
蛇のピット器官を使い熱を感知し、隠れて襲い掛かろうとするゴブリンを先に見つける。
巳緑は、下半身が巨大な蛇、上半身は女性のナーガの姿になり槍を使いゴブリンを倒していく。
空からその様子をうかがっていた酉緑が他の干支緑達に向かって叫ぶ。
「どうくつがあるー。そこからどんどんゴブリンがでてくるよー。すがあるのかもー」
「「どっちー?」」
思わず地上から酉緑を見上げていた他の干支緑が叫ぶと、酉緑は地上におりてきて森の奥を指さす。
「あっち」
「「しゅっぱーつ!」」
そう言って干支緑達は襲い掛かってくるゴブリンを返り討ちにしながら、巣があるかもしれない洞窟にむかうのであった。




