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193話 ミドリムシとギルドマスター


「話は聞こえていた」


 そう言ってギルドマスターは干支緑達にからんだ冒険者達をひとにらみする。


「「ひいっ!」」


「登録する前の冒険者をかるくいたぶるつもりが逆にいたぶられるとはな…… まぁいい薬か……」


 そう呟くとギルドマスターは干支緑達の方に視線をむける。


「ジークさんだよね?」「でもジークさんはひがしのギルドにいるんだよね?」


「じゃあジークさんじゃない?」「でもそっくりだよ?」


 干支緑達は、ギルドマスターの容姿があまりにもジークに似ていたために話あっていた。


 そんな中、意を決して丑緑がたずねる。


「あのー ジークさんですか?」


 そんな丑緑の言葉を聞きギルドマスターは目を丸くし、他の干支緑達は答えを聞くために静かにギルドマスターを見つめる。


「ああ、そうだなお前達はジークをしっているのであったな…… はじめまして私は、フリート。ジークは私の双子の兄なんだ」


 目を丸くしたのは一瞬ですぐに優しい目で干支緑達の質問に答えるフリート。


 干支緑達は、フリートの言葉を聞くと再び話はじめる。


「やっぱり、ジークさんじゃなーい」「すっごくにてるよー」


「きょうだいだからにてるんだー」「ぼくたちといっしょだー」


「幼いと聞いていたがここまで幼いとは…… しかし、幼さを差し引かなくても強いな……」


 干支緑達の会話を聞き思わずフリートはつぶやく。つぶやいた後もしばらくの間フリートは干支緑達の会話に耳を傾けていたが、本題を切り出す。


「お前達はギルドに登録にきたんだな。だれかこの子達の冒険者登録をしてやれ!」


「は、はい! わかりました!」


「あ、そうだ! とうろくだ!」「テンプレでわすれてた!」


「「フリートさん、ありがとうどざいます!」」


 フリートの言葉を聞き、ギルドに来た理由をおもいだした干支緑達は、声をそろえてフリートに礼を言う。


「ああ、気にするな」


 干支緑達にそう返事をしたフリートは、登録の作業の準備をする者達に小声で話しかける。


「この子達は、あの【軍団(レギオン)】の家族だ。小さな子供達だが強はささっき見たとおりだ」


「「!?」」


 そこまで聞いたギルドのスタッフは顔をこわばらせる。


 そんなスタッフを安心させる様に優しい顔になり、フリートが続ける。


「何かと騒ぎを起こすチームだがその性質は確実に善だ。さっきも絡まれるまでは手を出さなかっただろう? この子達にからむ馬鹿は、少々痛い目を見せてもかまわん。今後この子達にからもうとする奴らには通常通りに警告をするだけで良い、後は警告を無視した奴らの責任だ。あと登録だが子供にもわかりやすいように説明してやってくれ」


「「わかりました」」


 フリートの顔を見たスタッフ達も安心したのか声をそろえてフリートに返事をするのであった。




 

 それからしばらくして、無事干支緑達は冒険者ギルドに登録し、冒険者とギルドの説明を受ける。


「それでは、皆さん何か依頼をうけますか?」


 ギルドのスタッフの言葉に干支緑達は話はじめる。


「みんなどうしよう?」「すぐにうける?」「でも、もうすぐごはんだよ?」


「ごはんたべて、もどってくる?」


「うーん、でもきょうのうちに、1こはいらいをうけるようにいわれたよねー」


「じゃあ、さかばでごはんたべる?」「えー。ダンジョンのほうがごはんはおいしいよね?」


「じゃあ、えだをたべてからすぐにうける?」


「「うん、そうしよう♪」」


 そう決めると干支緑は受付に向かって声を揃える。


「「あとでまたきまーす」」


「はい、わかりました。では後ほどきてください」


 そう言って干支緑達は、受付を後にするとギルドに併設されている酒場に向かう。


 干支緑達は数人ごとにテーブルにわかれると目的のものがメニューにあることを安心して注文する。


「「ミルクをくださーい」」


「あら? かわいいお客さん。ミルクだけでいいの? そろそろお昼だしご飯もあるよ?」


 そう言ってやってきたは、ギルドに併設されている酒場のスタッフの1人。


 干支緑達の注文を聞くと思わず飲み物以外もあると聞き返す。そんなスタッフの言葉に干支緑達は笑顔で返事をする。


「はーい、ミルクだけでいいですー ぼくたちこれをたべるからー」


 そう言って干支緑の1人が取り出したのは、緑色をした木の枝の様な物。


「え? えだ? そんなものをたべる?」


 自分の質問に笑顔で答える干支緑達が取り出したものを見て、スタッフが再び思わず質問する。


「おねえちゃんもたべてみるー?」


 そう言って干支緑が1本の枝をスタッフに渡す。


 見た目には木の枝にしか見えない物を渡され、スタッフはどうしたものかと思っていると、干支緑達がそれぞれ口にくわえて嚙みはじめる。


「おいしーね」「ねー」


 そんな光景を見て、思わずスタッフは涙ぐむ。スタッフは干支緑達が美味しそうに枝を噛むのをみて、貧しい生まれで枝をかんで飢えをしのいでいると勘違いする。


「ぐす…… こんな小さな子達が木の枝をかじって飢えをしのぐなんて……」


 干支緑達が齧っている枝の様な物(実際は【水野 緑】達が生やした枝)は、獣人の国の有名な冒険者チーム【料理人】がなんとしてもこの枝を定期的に欲しいと言い、仕入れているほどの素材。


 そんな事を知らず、思わず泣きそうになりながら言葉を漏らしたスタッフだが、不意に漂ってきた良い香りに気づく。


「ぐす、うぅ……う? なにこの匂い?」


 本格的に涙する前に香りに気づいたスタッフはその出所を探すが、出所は干支緑達がわたした枝だとすぐに気づく。


「すごく、良い匂いがする…… でも、普通の木の枝にしか見えない…… 綺麗な緑色をしている以外やっぱりただの枝だよね?」


 手渡された枝を見つめるスタッフであったが思い切って齧ってみた。


「こんな枝がおいしいはずが……!?」


 スタッフが齧った瞬間、彼女の口の中に美味が溢れる。


「!!!!!」


 スタッフが声にならない声を上げ厨房に走って行く。


 そんなスタッフを気にした様子もなく干支緑達は、掲示板に張られた依頼書を見て話しはじめる。


「なにをうけるのがいいのかなー?」「まちのおそうじ?」


「やくそうさいしゅ?」


「「魔物の討伐でいいんじゃないか?」」


 そう言ったのはここまで干支緑達の行動に一切口を挟まなかった、龍種達。


「こら、あんた達! なに勝手に決めているの! 私達はあくまでもこの子達に付いてきてるだけで経過をみて後で報告するためについてきているのよ!」


 サラマンダー、ノーム、シェイドが魔物の討伐をすすめるのを聞き、自分達の役割を思い出させるためにウンディーネが声を上げた。


「やっぱり、とうばつがいいかなー」


「いくつかうけるー?」


「そうだ! いっしょにうければいいんだ!」「それなら、やくそうさいしゅもいっしょにうけるー」


「じゃあえだをたべて、すぐにいこー」


 そういって再び受付に戻る干支緑達。


「「いらいをうけにきましたー」」


「はい、ではなんの依頼をうけますか?」


「まもののとうばつとー」「やくそうのさいしゅでーす」


「わかりました。どちらも依頼書に書かれているもの以外の魔物の討伐の証や薬草を持ってきてもらえれば、依頼の達成や買取も可能です」


「「わかりましたー」」


「ではお気をつけて」


「いってきまーす」


 そういって受付のスタッフに手を振りながらギルドを出る干支緑達。


「大丈夫かしら…… あんな小さな子供達だけで……」


 干支緑達がギルドの扉から出るのを見届けた後、スタッフは思わずつぶやく。


「心配ない、あの子達は以前に起こった同時スタンピードの際に、エルフの国で大量の魔物をたおしているらしい」


「マ、マスター!? あのスタンピードで魔物を大量に!?」


 自分のつぶやきに反応し、干支緑達の話をしはじめたギルドマスターに思わず声を上げる冒険者ギルドのスタッフ。


 さらに、驚いたスタッフに追い打ちをかけるようにつぶやく。


「あの子達11人全員が方向性は違うが同程度の戦闘力を持っているらしい」


「え…… それって丑緑て言っていた子がミノタウロスになった様に他の子も何かに変身するんでしょうか?」


「それはわからん…… だが聞いていた話では闇属性の魔法を使い大量の魔物の死骸を使役しているらしい。しかもアイテムボックス持ちだから大量の死体も持ち運びできるらしい……」


「そ、そんな出鱈目な……」


 ギルドマスターの言葉にスタッフは茫然とする。


「だが根は良い子達だ、もし仕事の手が空いてるときは気にかけてやってくれ。もちろん君達もな……」


 そう言ったギルドマスターの視線は、聞き耳を立てていた他のスタッフに向けられた。


「「は、はい……」


 スタッフ達が返事をしたことに満足そうな顔をするギルドマスター。


「まぁ、気にしてもしょうがない。ちなみに彼等の後を付いてい言った4人なんだが……」


 満足そうにしたにも関わらず、再び話はじめたギルドマスターの話をスタッフ達が不思議そうに聞いている。


「さっき話した、以前に起こった同時スタンピードの原因になった龍種が変身している姿らしい」


「「えっ!?」」


「これは一部の者しか知らない情報だから他に話さない様に」


 そう言って、フリートはギルドにある自分の部屋に戻っていく。


 その後、フリートの話を聞いたギルドのスタッフ達は声にならない声を上げるのであった。 



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