192話 ミドリムシとテンプレート
「ところで干支達はどこで冒険者登録をするんだ?」
干支緑達の冒険者登録をするために、干支緑達と龍種はダンジョンの外を目指していた。
そのためたくさんの場所とダンジョンを繋ぐ扉が設置されている場所に向っていた途中、シェイドが他の龍種達に尋ねる。
「ああ、緑には人族の王都の西のギルドで冒険者登録をするように言われている。
「ふむ、西と言うには他には北や南もあるのか?」
「ああ、この間お前らと戦う前に東のギルドマスターのジークって奴がダンジョンに来ていた。そいつは緑達とも交流があるそうで、交流のない西のギルドで登録をして欲しいって言ってたな」
シェイドの質問にサラマンダーとノームが答える。
「「ついたー!」」
龍種達が話をする中ダンジョン内の目的地に着き、干支緑達達が声を上げる。
ダンジョンの中にある様々な場所とつながる扉。その扉は地面に描かれた地図の上に設置されていた。
緑達が居る大陸には人族、エルフ、ドワーフ、獣人の国があった。
緑が以前、王達が緑のダンジョンに集まった際に聞いたことがある。それは、他にどんな国があるのかという事。
緑のこの質問に各国の王が答える。
王が言うには、人族、エルフ、ドワーフ、獣人の国があるが、それぞれ思想の違いから同じ種族でも思想ごとに国がいくつもあると言う事であった。
さらに王達が言うには、緑達が訪れた国は大陸の北西部に位置しその広さも大陸のほんの一部との事であった。
「緑達は、大陸の全部の国をくまなく回りたいみたいよ」
「緑達が本気を出せは、それほど時間はかからないと思うのだが、干支緑達にむかわせるつもりなのだろうか……」
ウンディーネの言葉にシェイドが思わずつぶやく。
「緑は干支達に見聞を広げてほしいのだろう……」
「ああ、緑達に以上に常識に疎い干支緑達だからな……」
自分達の事を棚に上げてノームとサラマンダーが口を開く。
チキチキチキチキ
「「みんなこんにちわー」」
龍種達の会話をよそに、干支緑達は扉の周りにいる警備をする蟲人達の子供達に挨拶をする。
干支緑達は子供達にあっという間にもみくちゃにされる。
「あはははは!」「くすぐったーい」
子供達は、干支緑達に対する挨拶なのか頭をなでたり抱きしめたりしていくが数が多いために、干支緑達を中心にした11個の蟲の団子ができる。
緑が以前いた世界ならば、常識外の大きさの蟲達に抱き着かれ蟲の団子になるような場合、中心に居る者達は発狂するかもしれないが、その中心に居るのは干支緑達。
姿形は違えど家族に抱き着かれる事に不快にする者は1人もいない。
さらに、警備には緑達が保護したスラムと言われそうな貧民街からダンジョンに連れてこられた者やダンジョンに移り住む事にした龍種が人の姿を取った者達もいる。
そんな者達は、蟲団子を温かい目でみていた。
そんな蟲団子を形成した子供達もしばらくすると、気が済んだのか警備に戻るためにちっていく。
「では、扉をくぐりましょ」
ウンディーネの言葉により、干支緑と龍種は人族の王都の東のギルドの扉をくぐる。
干支緑達が扉をくぐるとそこは部屋になっており、すぐに部屋を出る。
部屋を出ると長い廊下になっておりそこには幾つかの扉がある。
その1番遠い扉の方から多くの人の声がする。
干支緑達は廊下を歩き、その扉開ける。
そこは、王都の東のギルドの中で、今扉を開けた干支緑達に視線が集まる。
それまで賑やかな声が聞こえていたが、干支緑達が開けた瞬間ギルドの中は静かになり、冒険者やギルドのスタッフ、ギルドの酒場に来ていた一般の人々はしばらくの間干支緑達を見つめる。
だがすぐに元の喧騒にもどり干支緑達に声をかける者はいなかった。
それは、緑達から先に干支緑達がギルドを訪れる連絡がされていたためであった。
そのため、ギルド内では決して干支緑達に絡まない様にと連絡がされていた。
そんな事をしらない干支緑達は挨拶をする。
「「こんにちわー」」
「「こんにちわー」」
干支緑達の挨拶にその場に居た者達が声をそろえて挨拶をする。
挨拶が帰ってきたことに干支緑達は、嬉しくなり他の冒険者達に声をかけようとするが緑の言葉を思い出し、出口に直行し再び挨拶をする。
「「おじゃましましたー」」
そう言って干支緑達はギルドを出る。干支緑達がギルドを出て、それについていく龍種達が振り返り口を開く。
「「ありがとう」」
そう言って龍種もギルドを出る。
その瞬間ギルドに居た者達全員が安堵のため息をはく。
「大人しく言ってくれたようだな……」
「はい、マスター何も起きなくて良かったです」
そう話すのは、ギルドマスターのジークと副ギルドマスター。
「ここで何も起きなくて安心した。さぁ仕事にもどるぞ」
「はい」
そう言って2人は仕事に戻っていった。
「うわー。ひとがいっぱいー」
そう言ったのは干支緑の1人、干支緑達がギルドを出てすぐに驚きの声をあげた。
緑のダンジョンにもたくさんの人々が居たが、それは緑のダンジョンに入りたいと思う者達のほんの一部であった。
緑のダンジョンの中に入れる者は保護された者達、もしくは【赤い依頼】をこなした冒険者達かその冒険者達と非常に友好な関係を持つ者達。そのため、王都にいる人々の数は比べるまでもなく多かった。
「じゃあ、みんなしゅっぱーつ!」
「「しゅっぱーつ!」」
目をキラキラとさせていたのも束の間、そう言って干支緑達は西の冒険者ギルドに向かう。
干支緑達が王都内の西の冒険者ギルドに向かう途中、ある冒険者達が困惑していた。
「なんだこいつら?」
「ゴブリンじゃないよな?」
「こんな可愛い子供をゴブリン言うな」
「しかも見た目だけじゃなくて装備してる武器や防具も使い込まれている…… 冒険者か? だが子供すぎないか? 貴族の子供ならこんな使い込まれた装備を持っているはずがない」
「ああ、貴族の子供なら見た目は立派そうな装備をもっているんだが……」
そんな会話をする冒険者達は、まさに西の冒険者ギルドに行くところで干支緑達をみつけ不思議な子供だと話はじめる。
「なぁ、このまま真っすぐ行くならギルドにつくよな?」
「ああ」
冒険者達は、不思議な子供と思いつつ、まさか自分達と同じ目的地なはずがないと様子を見ていたが、徐々に目的地に近づくにつれて不思議さが増していく。
「「こんにちわー」」
「おいおい! ギルドに入ったぞ!」
「大丈夫か!?」
「とりあえず俺達もはいるぞ」
冒険者達は、干支緑達を追うようにギルドに入る。
「「ぼうけんしゃとうろくをしにきましたー」」
ギルドの中は昼前のために冒険者の姿は少ないがそれでも全くいないわけではなく、干支緑の言葉に2つの反応する者達にわかれた。
1つは常日頃から情報をチェックしており、最近何かと話題になるチーム【軍団】の主要となる人物がゴブリンの様な全身緑色をしている事を知っており、その身内なのではと思い慎重に様子を見る者達。
もう1つは単純に子供が冒険者になると聞きからもうとする者達であった。
特に前者は高ランクの者が多く、後者はランクも低くチンピラやあらくれものと言われる様な粗野な者達。そんな者達の数人がギルドに併設されている酒場の席を立ち干支緑達に近づいて来る。
「おい、お前達。今、冒険者登録をしにきたと言ったか?」
「「はい♪」」
「「ぎゃははははは!」」
席をたち干支緑達に近づいた冒険者達は、干支緑達の言ったことを確認しその答えを聞くや、大笑いしはじめた。
そんな様子を見た干支緑達を心配して急いで入ってきた冒険者がその者達との間に入ろうと駆け寄る。
だがそれは、ある者達に止められる。
「わりぃ、あんた達が良いやつってのはわかるがしばらくの間みててやってくれないか」
そう言ったのは干支緑達の後をついていた4人の子供の姿をした龍種達。そんな事を言われても子供がからまれようとしているのを黙っていられないと、4人の正体を知らない冒険者達は口を開く。
「だが、あのこ達は君達の友達なんじゃないか? あの子達に絡もうとしているのはろくでもないやつらなんだ。だからほっとくにはっ!?」
そこまで言って冒険者は口を閉じる。
「大丈夫だ」
子供達の言葉に黙ったわけではなく、その子供達から僅かに漏れた殺気ともとれる巨大な気迫に思わず口を止める。
そう言って僅かに殺気をもらしたのはサラマンダーで視線を干支緑達の方に向けると黙って様子を見守る。
「まぁ、大丈夫だからみてなさい」
おどろいた冒険者達がどうしたものかと思っているとウンディーネが諭す様に声をかける。
「君達はいったい……」
冒険者達が4人の龍種達に気を取られている間に事は進み、粗野な冒険者が干支緑達の1人の胸ぐらをつかみ持ち上げる。
「お前達のような子供が冒険者になってもすぐに死んでしまうんだよ!」
言葉だけなら冒険者登録はまだはやいと言っていると取れない事もないが、からんだ冒険者達はそのような善人ではなくただ弱いと思われる子供を脅して楽しもうとするような者達であった。
普通の子供なら、自分達より大きな大人の冒険者にそんな事をされれば怯えてしまうだろうが干支緑達は違った。
「「あ! うしちゃん!? いいなー。からまれたらやっつけてもいいんだよねー?」」
「わーい、テンプレだー」
「ああ、言わんこっちゃない」
そう心配する冒険者達をよそに干支緑達はからまれた丑緑にうらやましいと漏らす。
「ん? なんだ?」
胸ぐらをつかんでいた冒険者には干支緑達の声は届いておらず、どうやって世間知らずの子供を嚇そうかと考えていた中、異変に気付いた冒険者は思わず声を漏らす。
それは、胸ぐらをつかみ自分の目線の高さまで持ち上げた子供が重くなった気がしたため。
干支緑達にからんだ冒険者の様子を楽しげに見ていた仲間達が同時におかしな事に気づく。
「なぁ、あの子供でかくなってないか?」
「ぎゃはははは、もうそんなに飲んだのか?」
仲間の言葉にもう酔ったのかと馬鹿にした冒険者も視線を干支緑の方に向ける。
「ん? たしかにでかくなってる?」
そんな言葉を冒険者が言った瞬間、ギルドの中は異常事態におちいる。
「へ?」
それまで楽しそうに胸ぐらをつかんでいた冒険者が間抜けな声をもらす。
なぜなら、それまで胸ぐらをつかまれ持ち上げられていた丑緑が恐るべき変貌をとげたから。
今も冒険者は胸ぐらをつかんでいるがその服を着ていた子供の姿は身長が3mを超えるミノタウロスとなっていた。
「えっ? なんで?」
そんな間抜けな言葉をしぼりだす。冒険者はその姿に怯えていたがそんな事も気にしない丑緑はつぶやく。
「ころしちゃだめだから、えいっ!」
丑緑にぶら下ががる様になっていた冒険者に向かって丑緑は、そういってデコピンをする。
そこで冒険者の意識は刈り取られ、ギルドの壁に叩きつけられる。
干支緑達にからんだ冒険者の仲間は、からんだ冒険者が吹き飛ばされた方を見てその後に丑緑をみて叫ぶ。
「魔物だー!」
それまで様子をみていた他の冒険者達までがその言葉で、自分達の武器に手をかけ臨戦態勢に入り丑緑の様子をうかがう。
そんな中声を上げる他の干支緑達。
「「ええーちがうよー。からまれたからやつけたんだよー」」
「「ねー」」
そういってお互い互いの顔を見る干支緑達。
「う、うるせー! この魔物が! 死ねー!」
冷静でなくなった冒険者が、吹き飛ばされた仲間のかたきと短剣を抜き、丑緑と違い子供の姿のままの干支緑にきりかかった。
バキン!
だが大きな音をたてて冒険者の短剣が折れる。
冒険者は、斥候を担当するものでそこそこの速さで干支緑達に切りかかったが、それを丑緑が角で受け止めた結果であった。
「ひぃ、化け物!」
「に、逃げろ!」
それを見た仲間の冒険者が叫ぶ。
「そこまで!」
ギルドの中に居た者達の視線はその声の主にあつまる。
「ギ、ギルドマスター」
ギルドのスタッフの1人がつぶやく。
声の主の方を見た干支緑達は不思議そうに声をそろえた。
「あれ? ジークさんがいる?」




