185話 ミドリムシのダンジョンと龍種
「ふむ、真っ白で小さな粒が沢山あるな…… やはり何かの卵なのだろうか?」
スプーンにすくったものを見ながらシェイドが呟き、口に入れる。
もぐもぐ
「ふむ、ほのかに甘い……」
もぐもぐ
「ん? 甘さがました?」
「シェイドそのまま魚も食べてみて」
緑の言葉に口の中のものを飲み込まないでか?と自分の口を指さすシェイドに緑達は、無言で頷く。
シェイドは不思議そうにしながらも、緑達に言われたとおりに口の中に焼き魚くわえる。
もぐもぐもぐもぐ ごくり
「ほう! これは、それぞれで食べるよりも美味くなるな! ほのかな甘みの中に魚の香ばしさと塩気が何とも良い! はっ!? しまった! 思わず飲み込んしまった!」
「甘みが増すくらいかんだら飲み込んでもいいんだよ。甘みが増すのを知ってほしかったんだ」
「なら次をいただこう」
そう言ったシェイドは、今度は焼き魚から口に入れる。
「さっきのバランスを味わうと今度は少しからくかんじるな……」
「そう思ったら、これをたべて」
「白いつぶつぶだな……」
もぐもぐ
「うむ、やはり一緒に食べるのが良いな。そろそろこの白いつぶつぶの正体をおしえてくれないか?」
シェイドの言葉に緑は嬉しそうに答える。
「これは、お米っていうんだよ。僕が前にいた世界で僕がいた国の主食なんだ」
「私は緑の世界の様々な料理を食べてみたが緑の国の料理が1番すきだな」
緑の説明の後にノームが呟く。
「俺は、緑の隣の国の料理、中華だっけ? が一番好きだな。強い火を使うから俺なら作りやすいしな」
「そうそう、サラマンダーは自分で料理を作れるように練習してるものね」
「そう言うお前だってフレンチだったか優雅な食事が好きだと練習しているではないか?」
ノームに続きサラマンダーとウンディーネも自分の好きな料理を答えていく。
「じゃあ、次はこれかな?」
「ふむ、黒い紙のようだな」
「シェイドこれは、のりって言うんだ。お米と魚をまいてたべてみて」
「ふむ、まくのか?」
シェイドが米と魚をのりでまき口に運ぶ。
もぐもぐ パリ……パリ……
「ふむ、香りが良いな。米と魚の香りもよりひきたつ」
シェイドが朝飯を食べていると魔緑と腐緑が食堂に入ってくる。
「お前達も朝飯か」
「おはよう~ 私も一息ついたから朝ごはん~」
「2人共おはよう。何やら朝から忙しくしていたみたいだね」
「ああ、鍛冶の途中でうるさく騒ぐから追い払ったな」
「私もエルフのお2人に時間を貰っていたからね」
「追い払ってわるかったな(ね)」
「ひひふふな」
先ほどまでと違いシェイドは口いっぱいに米や魚、のりを詰め込んでいたために言葉にならない。
ごくり
「気にするな。緑にこうして案内してもらっているからな」
「シェイド! これも食ってみろ!」
「ふむ、その次はこれだな」
「私のおすすめがこれよ」
緑達が話しているとサラマンダー、ノーム、ウンディーネの3人は自分の好きなものをシェイドにどんどん進めはじめる。
「ふふふふ、シェイドの面倒は3人が見るみたいだから僕もご飯をたべようかな」
「ああ、俺も腹がぺこぺこだ」
「私ももらおっと」
緑達は、シェイドの周りに置かれた大量の料理に手を付けず、料理人に自分達の朝飯を注文する。
「「ご馳走様でした」」
「なんだそれは?」
「飯を食べたあとの挨拶だな」
シェイドの問いに魔緑が答える。
「自然の恵みとその恵みを育んでくれた人、料理してくれ人、僕達の目の前に出されるまでかかわった人達と恵みに感謝する言葉だね」
「僕達【水野 緑】が居た国はまわりのもの全てに感謝する習慣があったんだ」
「ああ、俺達はその習慣をそのままこちらの世界でもおこなっているんだ」
「この1つ1つの皿にかかわった人、恵みに感謝か。俺も食べながら考えてみよう」
そう言ったシェイドは机に並べられた料理を見渡し、再びたべはじめた。
そんなシェイド達をよそに緑達は食堂を出ていく。
「じゃあ、朝ごはんが終わったら、また部屋にきてくれるかな?」
「ああ、わかった部屋を訪ねる」
食堂を出る緑の言葉にノームが返事をする。
「「ご馳走様でした」」
龍種の4人は緑達と同じように手を合わせてそう言った。
「うまかった、食事とは良いものだな……」
シェイドが呟くとサラマンダーが口を開く。
「シェイド、まだまだお前の知らねぇ事がここには溢れているぞ」
「サラマンダーの言う通りだな、まだまだ私達が知らなかった事、伝えていくぞ」
「そうね、次は畑かしら」
「ふむ、畑では何をするのだ?」
「私達は他の種族と違って全ての能力が高いでしょう?」
「ああ、そうだな。力を使うことなら他の種族以上の成果をだせるだろう」
「だが、畑の作業をする場合は他の種族に劣っている部分があるのだ」
「ん? おかしくないか? 全ての種族の頂点の能力を持っている我らが劣っている部分?」
「くしししし、それがあるんだ能力の部分とは少しちがうがな」
龍種の4人が歩きながら話ていると緑の部屋の前につき、ノームが部屋の扉をノックする。
コンコン
「は~い、4人共次はどこに行く?」
「ああ、次は畑にいくぜ」
「なるほどね」
サラマンダーの言葉に緑がニヤリと笑う。
緑達の寝床がある建物からでて畑に向かって道をすすむ。
「おお! 緑! お邪魔してるぜ!」「ゆっくりしていってくださいね」
「緑さんお邪魔してます!」「傷の具合はどうですか?」「温泉のおかげで楽になってきてます!」
「「校長先生こんにちわー!」「はい、みんなこんにちわ~」
「緑さんこの果物たべてください!」「ありがとう、みんなで食べるね」
緑が畑に向かって歩くと、ダンジョンに休暇にきた冒険者、傷を治しに湯治にきた冒険者、学校の生徒や露天をだしてる者など様々な者達から声をかけられる。
「ふむ緑はここの王様だったな…… しかし皆が気安く声をかけ過ぎではないか?」
緑が皆から声をかけられのをみて少しシェイドが不機嫌そうに口をひらく。
「ふふふふ、シェイドそこが緑のいいところよ」
「ああ、ここの者達は緑が力を見せずともこの国の王とみとめているのだ」
「力をみせずとも?」
「ああ、俺達が力と思っていなかった力で緑は、皆をみとめさせているんだぜ」
「力と思っていなかった力?」
「それはなんだ?」
「「豊かさだ(よ)」
「それは戦って奪えばいいのではないか?」
「弱い者達はどうするの?」
「それは弱い者達が悪いのだ。この世はしょせん弱肉強食だ」
「じゃあ、緑はあなた達から何かうばった?」
「!?」
「緑は何も奪わなかっただろう?」
「……」
「そのうえ戦ったお前達をダンジョン…… 緑の国に迎え入れてくれたんだぜ?」
「良い寝床を用意してくれたな」
「美味しい食事をだしてくれたわよね? シェイド何か思う事はない?」
「た、たしかに…… 言われてみれば負けた我らにたいして破格の待遇だ……」
「俺達も緑に負けた時は死を覚悟していた、だが死ぬこともなく、何も奪われなかったし、蔑まれる事もなく受け入れてくれた」
「私達3人はお前の命令もあって、嫌々ながらそれぞれ国を落とすためにうごいたんだがな……」
「他の種族同士でも戦争をすれば負けた国は全てを失うはずよ。だが緑はどう?」
「……」
「緑は、弱い者達は守っているぜ」
「ああ、しかも生きていくための力を教えている」
「打ち負かした相手に手をさしのべるわ」
「……」
「本当に強い者は、緑みたいな奴の事を言うんじゃねぇか?」
「我等は運よくお前より、それを早く知れたと思っている」
「シェイド、ダンジョンの中を見て考えてみて……」
「……ああ、ダンジョンを見ていく中で考えてみる」
「あれ? 皆なんでそんなにはなれているの? 畑にいくよ~」
「ああ、わりぃわりぃ」「ああ、話し込んでしまった」
「ふふふふ、シェイド行きましょう」「ああ」
話し込んだために緑と少し離れた4人の龍種は緑に追いつこうと早足になるのであった。




