184話 ミドリムシの朝飯
ゆさゆさ
「ぉ…ぃ…」
ゆさゆさ
「ぉぃ……ぉ……」
ゆさゆさ
「 ぉ……きろ。おきろ!」
「ん……んん」
「ふん、やっとおきた、さっさとここを案内しろ!」
そう言ったのは黒髪黒目の小さな少年。その少年は布団の上から緑をゆすっていた。
「うん? もしかしてシェイド?」
「ああ、そうだ他の3人の言われたのだ小さな子供の姿をとるようにと……」
「おはようシェイド。もうちょっと寝かせてくれないかな…… 昨日は宴で遅かったし」
「ふん、サラマンダーにノーム、ウンディーネの奴らここは【水野 緑】の国だから緑に案内してもらえと言われたのだ。しかもニヤニヤしながらな!」
「それなら、まーちゃんやふーちゃんもいるじゃない……」
「……そいつ等の所ならすでにいってきた」
「えっ? そうなの?」
緑が目を擦りながらシェイドを見ると服のあちらこちらが焦げていたり、溶けていたりしていた。
「もしかして…… 追い返されたの?」
「くししししっ」「くくくくっ」「ふふふふっ」
「「あはははははは!」」
緑が尋ねるとドアの外から3人の笑い声が緑の耳に届く。
「ふん! あつら馬鹿にしやがって!」
シェイドが恨めしそうに言うと、ドアの方から3人が部屋に入ってくる。
「くししししっ、魔緑は、朝からビル達と何やら工房で作っていて追い返されたからな」
「くくくくっ、ああ、振り向きもせずにシェイドに向かって真っ白な炎の魔法を撃ちこんでいたな」
「ふふふふっ、それで慌てて工房からでてきた時のシェイドったら」
「「あはははは!」」
シェイドと魔緑のやり取りを思い出した3人が再び声をそろえて笑う。
「ぐぬぬぬぬっ!」
それを見て再びシェイドが悔しそうにうなる。
「腐緑は腐緑で…… 半裸のエルフ2人にポーズを取らせて、忙しいと言いながら何やら絵をかいておった。そのうえで俺をコバエでも払うかのように龍種だけ溶かす毒をまいてきた」
シェイドが腐緑の話をすると、3人も真面目な顔に戻り話はじめる。
「あれは私達もおどろいたわね」
「ああ、萌だ! 芸術だ! 漫画祭りだ! と叫びながら絵をかいていたな」
「俺はシェイドのすぐ後ろにいてまき込まれて少しかかっちまった」
そう言ったサラマンダーを緑が見るとシェイドほどではないが少し溶けていた。
「う~ん、ふーちゃんの話をきいたらまた寝たくなってきた……」
「おい! いい加減におきてここを案内してくれ!」
腐緑の話を聞き、枕に顔をうずめた緑の言葉に懇願するようシェイドが叫ぶ。
「ふふふふ、私の方からもお願いしていいかしら。そろそろおきてもらえないかな?」
そう言って、ウンディーネが姿を子供から妙齢の女性に変え、緑の布団にそっとはいろうとする。
「ちょっ! ちょっ! ウンディーネ!? 冗談はよして! 言ってることと、やってることが違うでしょう!」
そう言ってウンディーネの動きに気づいた緑がベットの端に慌てて移動する。
「あらもちろん、冗談よ、冗談」
「もう、びっくりするよ……はぁ…… っ!?」
身を守るように布団をかぶってベットの端にいた緑。
緑がため息をして視線をそらした瞬間を見逃さないウンディーネ。緑が視線をそらしたスキをついて、あっという間に距離を詰めたウンディーネ。それに緑がきづき息をのむ。
「そろそろ我らもおきて欲しいな緑」
「ああ、そうだな俺もそろそろおきて欲しいな」
ノームとサラマンダーは緑とウンディーネのやり取りを見てニヤニヤと笑いながら呟く。
「はいはい。おきますよ。着替えるからまってて」
「「わかった(わ)」」
「「……」」
「……」
緑が返事をした4人を見ていると一向に部屋から出ていかない。そんな4人をみて緑が言い直す。
「……着替えるから、部屋の外でまってて……」
「あら、残念」
「我らの前で気にすることがあるのだろうか? サラマンダー」
「さぁ、どうなんだろうな……?」
「早くしてくれ……」
そう言っって4人は部屋から出ていく。
「起きたばかりなのに疲れたよ……」
そうぼやきながら緑は4人が出ていくのを見ていた。
「おまたせ、じゃあ気をとりなおして案内するね!」
「ああ、頼む。俺は、人の暮らしなどしらないからな…… だが昨日の寝床は良い物であった。俺はこれまで戦い以外にあまり興味をもたなかったからな……」
「戦いとは対等の相手と戦ってこそ意味がある」
「ああ、自分達より強い者と戦うこともな」
「自分を強くする努力もね」
先ほどまでシェイドの様子を馬鹿にしていた3人は温かい目でシェイドを見る。
「うん、戦い以外にも良い事や物は沢山あるよ! これから僕が案内するから今までの行いも一緒に考えて欲しい」
「ではまずは朝飯からだな」
「早く、朝飯がくいたいぜ」
「龍種がごはんを食べる習慣を持っていなかったことがくやまれるわ」
3人がシェイドに教えるために朝飯を食べずにまっていた事を聞いた緑は食堂に案内する。
「緑さん、おはようございます! 朝ごはんは何にします!?」
「今日はね、メニューを片っ端から出してくれるかな!」
「メニューすべてですか!?」
緑の言葉を聞いた料理人が驚きで声を上げるが緑の周りにいる子供を見て納得する。
「龍種さん達がいるんですね。わかりました! どんどん作って出してもらうので席に座って待っててください!」
「うん! お願い!」
緑が振り向くと3人がシェイドを席に案内して座るように言っていた。
「さぁ、朝飯を食わないと1日がはじまらない!」
「サラマンダーの言う通りだな」
「今日は全種類食べても良いみたいだしね」
「お前達、そんな喜ぶような事なのか?」
「シェイド楽しみにしてて、すっごく美味しいから!」
緑達が話していると料理を持った者達が大量に料理を運んでくる。
緑達が座っているテーブルは沢山の人々が座れるように用意された長いテーブルだが、その上を埋め尽くすかの様に続々と料理がおかれていく。
その運ばれてくる料理を見たシェイドが驚きの声を上げる。
「なんだこれは!? 人が食べる者とはこれほど美しいものか!?」
「くししししっ、緑のダンジョンで出てくるものはその中でも特別なものだ! 見た目だけじゃないぜ!」
「ああ、その通り俺達がよそってやるから気になったものから食べてみろ」
「そうね、きっとしばらくの間は今までの価値観をくつがえされるとおもうわ」
「では、まずこれから…… これは魚か?」
そう言ってシェイドが焼き魚を手づかみで食べようとする。
「待ってシェイドこれを使って。ってハシは無理だから慣れないうちはスプーンをつかってね」
「ふむスプーンくらいは知っている。ハシとはなんだ?」
「ふふふふ、ハシはこれよ」
そういってウンディーネが自分のハシを見せる。
「そんな棒2本で物がくえるのか?」
「はじめはそう思うだろうがこれが慣れると便利なものだ」
「ああ、俺達もこれを使えるように練習したからな」
「サラマンダー、ノームにウンディーネもはじめは苦戦してたけど今は、見本にできるほど上手にハシを使ってるんだ。ではまずは僕が魚をほぐすね」
そう言って緑が焼き魚をほぐしシェイドの皿にのせていく。
それを不思議そうに見つめたシェイドはスプーンですくって食べる。
「よくかんで食べてね」
緑に言われるままにシェイドはスプーンで口に運び、言われるままによくかんだ。
「……うまいな」
シェイドの呟きに緑が嬉しそうにしながら皿をシェイドの前に移動させる。
「これと一緒に食べてみて」
「なんだこれは…… この白いつぶつぶはなんだ? これは、動物の卵ではないのか?」
「シェイドよ、まず食べてみろ」
ノームにいわれシェイドは皿の中のものをスプーンですくう。




