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180話 ミドリムシの家族は戦う


 三日月は緑と戦った時と同じ様に抜刀するような姿勢をとり、腕を振りぬいた。


 ただし、以前とは違い三日月の指には指輪がはめられており、腰にはその指輪を収納するホルスターがついていた。


 さらに五指にはめられた指輪には髪がつなげられていた。


 三日月流は、五指で糸を使う抜刀術。緑と三日月がもといた世界なら化学繊維を使っていたが、昨日の夜に緑が三日月に渡したものは【水野 緑】()の髪が使われていた。


 ()()()()、水と土の属性。

 ()()()()()火の属性。

 ()()()()()()闇の属性。

 ()()()()()聖の属性。


 髪は、それぞれの【水野 緑】の得意な属性の力を発揮した。


 水と土の属性を帯びた髪は敵を泥をまとい、目標を絡めとりその動きを阻害する。

 火の属性の髪は、その動きの直線上の全てのものを切り刻み、燃やす。

 闇の属性の髪は、地面をたたくとその場に闇の沼を作り出し、動きを阻害された者達を飲み込む。

 聖の属性髪は、輪を作るとその輪の内に結界を張った。


 緑達の様に髪を体の一部とし、意志のままには使えはしなかったが、三日月流は湖上一族が長い年月を費やし、体の一部の様に操る技術を練り上げた。


 さらに、異世界に渡り勇者の力を獲得した三日月は5本だけだが、以前の世界の技術、魔王の力と勇者の力を融合させた。


 そんな三日月の攻撃力は瞬発的な力で言えば、緑の家族ですら大きく突き放す。


 シェイドの合図と共に振りぬかれた髪は、舞台の上の龍種達を刻み、吹き飛ばす。舞台には三日月しかたっていなかった。


「「……」」


 戦いがはじまる前とは打って変わり、辺りは静まり返る。


「「まじか……」」


 思わず呟いたのは、【水野 緑】達と家族であった。3人の龍種も呟いたあとは、絶句する。


「だ、だれも死んでないよね?」


 そう次に言葉を発したのは、その惨状を作り出した本人の三日月。


「こっちの勝ちでいいか?」


 三日月の声で意識を取り戻した魔緑がシェイドに尋ねる。


「あ……ああ」


「ははっ……長年寝られた技術と勇者と魔王の力、混ぜたら危険すぎるね……」


 そう呟いたのは頬を引くつかせている腐緑。


 その場に居た、緑達の家族すら茫然としていた。


 1人舞台に残っていた三日月は、勝利したとわかり慌てて緑に向かって走り出す。


「いたたたたた! 緑ちゃん! 緑ちゃん! 治癒の実をくれない!?」


「えっ!? 三日月ちゃんどこかケガしたの!?」


 緑が慌てて【アイテムボックス】治癒の実を取り出し三日月に駆け寄る。三日月が近づいてきた緑に見せた、抜糸した手は、()()()()()()()()()()()()()()


「は! はやく! 食べて!」


 そう言って三日月の口に治癒の実を押し込む緑。


 治癒の実を食べて指が元通りになると三日月は思わず声を上げる。


「自分でも威力にびっくりして、思わず見た自分の手を見て2度ビックリだよ。あはははは」


「さすがに指が全部なくなってたらびっくりすよね……はははは」


 三日月と緑は乾いた笑い声をあげる。


「みかづきちゃんだいじょうぶ?」「もういたくない?」「はい、これ」


 そう言って干支緑達が三日月の()()()()()手渡した。


 指輪と髪をホルスターになおし、自分の指を受け取るとそっと【アイテムボックス】に入れる三日月。


「要練習かな?」


 そう言って心配して集まってきた家族にニコリと笑顔を見せて、ごまかす三日月。


 緑達のやり取りを横に魔緑とシェイドが話を進める。


「じゃあそろそろ、お互い代表者をだそうか」


「ああ、そうだな」


「では1人目はクウです♪」


 クウがそう言い、舞台に上がる。


 それに合わせて対戦相手の龍種が1匹舞台に上がる。


「ほう、お前がクウと戦うのか……」


 それを見て呟くノーム。


 ノームの呟きが聞こえたのかその龍種はノームをにらみ言い放つ。


「もう、あんたの下僕じゃない」


 舞台に上がってノームにそう言い放ったのは元ナンバー2の土属性の龍種。その姿は同じ属性だがノームとは違い、龍種の中でもかなり大柄者であった。


 クウと龍種は舞台の真ん中に歩み寄る。


「今度はそっちが開始を宣言しろ」


「はじめ!」


 シェイドが魔緑に開始の合図を出す様に言うと魔緑がうなずき、声をあげる。


 だが、1人と1匹は動かずにいた。


「まずは小手調べだ」


 そう言った龍種はクウに向かって腕を振るう。


 この龍種を知っており、シェイドの仲間である龍種達は思う。


『『これで終わりだろう』』


 だが結果は違った。龍種の振るった腕をクウはその小さな腕でとめる。


「「!?」」


 腕を振るった龍種とその龍種を知る者達も驚き、息をのむ。


 腕を振るった龍種はもちろん本気ではなかったが、クウはそれ以上になんでもないかの様にそれを真正面から受け止めた。


「撫でただけだが、これは楽しめそうだ」


 内心とは裏腹にクウと対峙した龍種は冷静にそう言い放つ。


 それを聞いたクウも口を開く。


「それは良かったです♪ クウもこの状態に慣らしている状態なので♪」


 そう言いきったクウの姿が変貌する。クウの体を包み込む様に外骨格の覆われる。


 外骨格がクウの全身を包んだ瞬間、戦いを見ていた者達は大きな音が2度聞く。


ドン! ズドン!


 龍種がクウを見失った瞬間に腹部に衝撃を受けた。


「ぐっ!」


 クウは龍種に向かって真っすぐと走り、その勢いを殺すことなく拳をはなった。


 外骨格を纏ったクウの膂力は、普段の姿の時の数倍のであった。その力は今もなお現在進行形で上がり続けており、その小さな体に龍種以上の膂力を秘めていた。


 上昇が続いているためにクウ自身もどこまで力をだせるかわからず、動きの調整を続けている。先日のシェイド達の城に突き刺さった事も、思った以上の力が出てしまったために起こった事故であった。


「我も本気をだそう」


 そう言った龍種の鱗が逆立ち、クウに向かって咆哮すると体の周りに土属性の魔法で作られた無数の棘が現れる。


 龍種はその棘を体の周りに浮かべたままクウに向かって腕を再び振るう。先ほどと同じ攻撃を受けた事を不思議に思いながらも、クウは攻撃を避ける。攻撃した後のスキを突き、クウは攻撃をしようと一歩踏み出すがその動きをすぐに中断する。


 動きを急遽中断したクウは後ろに飛び、龍種との距離をとる。


 クウの一連の動きは、龍種のスキに一歩踏み出したクウを正確に狙う魔法の棘を避けたためであった。


「ほう、すぐに反応したか。スピードに自身のある者ほどかかりやすい罠なのだがな」


 そう言った龍種はクウに近づき、再び腕を振るう。


 腕、魔法、尻尾、魔法、噛みつき、体を使った攻撃と魔法を交互に繰り返し攻撃し続ける。それらは言葉で表す事ができない速さで繰り出され、そのスピードを上げていく。


 もし、この攻撃にさらされるのがクウでなければ、相手となる者はすぐさま肉片になっただろう。


 だがクウはこの嵐のような攻撃をさほども激しく感じさせる事無く、避け続ける。


「ほう、さすがクウだな」


「……」


 その様子を見たノームとシャイドの反応は違い、ノームはクウを褒め、シェイドは悔し気に黙ってその様子を見つめていた。


 幾度目かの龍種の攻撃の隙間にクウが反撃する。


パン! ドン! ズドン!


 1撃目は龍種の噛みつきをはらいのけ。2撃目で魔法の棘を吹き飛ばし、3撃目は龍種の腹部に拳をねじ込む。


 生まれながらにして強固な鎧の様な鱗を持つ龍種。その鱗を粉砕し、なおも威力をおとさない拳を鱗の下にたたきこむ。


「ぐはっ!」


 拳の威力は内臓にまで達し、龍種は血を吐く。うめき声をあげ体制を崩す龍種のスキを逃さないクウはそこから怒涛のラッシュをかける。


 流を師匠と崇め、教わった武術の集大成を確かめるようにクウは次々と龍種に攻撃を加え続ける。


 それは弱者が自然環境下で自然に身につけるものではなく、ただ強さを求め、ひたすら試行錯誤し、効率化をはかり、無駄を省き続けた技術の集大成。それを上がり続ける膂力でクウは、余すことなく使いこなそうとしていた。


 クウは、龍種との戦いをわすれ、上がり続ける膂力で技を使いこなすその1点に全ての集中力を注いでいた。


 龍種もそれを防ごうと腕を振るい、魔法をうち、あらゆる手段を使ってクウを止めようとするが普通の人間が土石流に抗う様なもので抵抗は空しいものであった。


 龍種はもはやクウを止める事もできず、声をあげることもなく体を削りとられていく。


 本来、土属性の龍種は大型で鱗が硬く、基礎能力だけで言えば肉体的な強さは他の種族からは要塞を思わせる。


 三日月との戦闘で傷ついた龍種達は治療を行いながら、その光景をただ目を丸くし見つめていた。


「無理だ……」


 その光景を見た1匹の龍種が呟く。


 その光景にシェイドも魔緑も見入ってしまっていたがそれを止める者達がいた。


「クウちゃんだめー!」「とまってー!」


 それは干支緑達。


 干支緑達は全力でクウを止めるべく髪や黒い魔物を使いクウを止めようと割って入ったがボウリングのピンの様に弾き飛ばされる。


「ああっ!」


 その声を上げたのはクウであった。


 クウは意図せず弾き飛ばした干支緑達を助けようと、龍種への攻撃を中断し走り出した。


「そ、それまで!」


 干支緑達の行動に意識を取り戻した、魔緑が叫んだ。


「!? み、みんな! お願い!」


 クウが叫ぶ前にヒカリやクウ、レイの子供達は飛び出していた。


 1人につき、子供達が十数匹が束になって包み込む。


「うわっ!」「キャハハハハ!」「みんなありがとう~!」


 ヒカリとクウの子供達に包まれた干支緑達は、それぞれが無事な事が分かるように声を上げていた。


 走り出したクウは舞台のはしまで来ており、思わず降りそうになったのを堪えてその様子を見ていた。


「勝者クウ!!」


 緑達の家族が安堵した瞬間、クウが舞台から下りなかった事を確認した魔緑がクウの勝利宣言を叫んだ。

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