179話 ミドリムシの家族の代表
「お前は誰だ?」
シェイドは自分達の拠点として使っていた城が傾き、さらに部分的に壊されたことに腹を立てるが冷静さをよそおい尋ねる。
「私はクウです♪」
今全身を外骨格で覆ったクウはそう答える。
今の彼女は、兜が変貌し巨人になった時の様に全身が外骨格で覆われていた。
「そこまで全身が蟲の様になるとは、さぞ強いんだろうな?」
蟲人達は、その姿が本来の蟲に近づけば近づくほど強いと言われる。クウやヒカリにはじまり、兜、レイ、ファントムと琥珀達は、その常識とは裏腹に緑に蜜を貰ってから本来の蟲のモンスターの姿から限りなく人に近い姿になっていた。
蜜による姿の変貌により限りなく人に近い姿になった彼等は、本来なら力は弱くなるはずだが彼等は違った。
彼等は、元の冒険者ギルドが定めた魔物のランクを数段上げなければならない力をつけ、本来の蟲のモンスター以上の繁殖能力を持ちあわせる。
蟲毒の戦士達は長い年月をかけ、自分達の種族を高めるために膨大な仲間を生贄にし力を蓄えた。その過程でその姿を本来の蟲の姿に近づけていった彼等とは違い、その姿を一瞬で人の姿に変え異常とも思われる力を得た。
さらに緑の家族の蟲人達の中で兜はだけは、更に巨人化する。まさに昆虫の中の一部の種族が蛹から成虫になる様に。
だが、この現象は兜だけのものではなかった。
琥珀とファントムだけは、まだ琥珀の体が小さい事もあり、兜の様に変貌することはできなかったが、他の者達は違った。なら今まで何故変貌しなかったのか。
それは、それぞれが乙女心を持っていた。つまるところ緑にきらわれたくなかったためであった。
だが先日の緑と勇者の戦闘時の事を後で聞かされ、決断するにいたる。敵対者に対して全力を持って対処しようと。
そのため、クウはシェイドの城に来る際に変貌を遂げていた。
「だが、我等龍種とくらべてはどうなんだろうな!」
そう言ってクウに飛び掛かろうとするシャイドに待ったをクウがかけた。
「今日は、戦うためにきたのではありません」
「なんだと? 貴様、城を傾けた上に部分的に城を壊したのに戦わないだと?」
クウの言葉にシェイドはさらに腹を立て、こめかみに青筋をたてる。そんな様子を見ながらもクウはひょうひょうとこたえる。
「それは、本当にすいません、まさかこんな事になるとは思っていなかったんです」
そういってクウは深々と頭をさげるとシャイドはあっけにとられる。
「敵の本拠地を攻撃しときながら、こうなるとは思っていなかっただと?」
シェイドがそう言った時、クウが城に着地した時の音と振動に気づいた部下達があつまってくる。
「敵だはどこだ!」「あそこだ!」「囲め囲め!」
部下達が声を荒げ、クウを囲んでいく。
「くくくくっ! あーはっはっはっは! こんなことをしてこうなるとは思っていなかったと! いいだろう話をきいてやろう! ではここには何をしに来たんだ!?」
「はい♪ 戦いを申し込みに来ました♪」
「ほう! それは今からお前が私と戦うのか?」
「う~ん、それも楽しそうではあるんですけど…… 今回は代表者を出し合って4対4で戦うのはどうでしょうか?」
「我等龍種と1対1で戦えるものがいるのか?」
「はい♪」
「いいだろう、その話のってやろう。いつ戦うのだ?」
「シェイド様! サラマンダー様やノーム様、ウンディーネ様が居な今代表者を決めて戦うのですか?」
「あいつらが居ないとお前達は戦えないのか?」
暗にサラマンダーやノーム、ウンディーネが居ない状況はまずいのではないかと言った者をシャイドは睨みつける。
「サラマンダーさんにノームさん、ウンディーネさんは私達の家族になりましたよ♪」
「「なんだと!?」」
クウの言葉にシャイドの部下達が声を上げるがシャイドが口を開く。
「そんなもの嘘に決まっているあだろう! プライドの高いあいつらが誰かの下に着くわかけがないだろう。どうせ奴らにそう言う風に命令されているんだろう」
「嘘じゃないですよ♪」
そう言い放ったクウの瞳をシェイドは真っすぐに見つめる。
「……」
見つめられたクウは目をそらさずに黙って見つめ返す。
「ふん、どうせすぐにわかる。さっきも言ったがいつだ?」
「明日のお昼からです♪」
「お前達聞いただろう! 明日の昼から決戦だ!」
「シェイド様今ここで潰せばいいのでは!」「そうです今この場でこいつだけでも!」
「うるさい! 私の意見がきけないのか?」
そういってシェイドは部下達ににらみを利かせる。
「それにな…… 羽虫を潰すことぐらいで騒ぐな。明日でいいだろうが! そこにいる奴らは明日、龍種に挑んだ事を後悔するだけだ。クウと言ったなこれ以上城を壊さず大人しく帰れ!」
「わかりました♪ では、明日のお昼にまたお会いしましょう♪」
そう言ったクウは背中の翅を広げるとそっと飛び立つ。
「では皆さんん♪ 明日はよろしく、お願いします♪」
そう言って、今も広がり続ける森の開けた場所に向かって飛び立つ。
クウが向かった開けた場所に作られている途中の舞台があり、そこにそっと降り立つ。クウは周りで舞台を作っている子供達に向かって両手で大きな丸をつくる。
「皆! うまく行きましたよ♪ 急いで舞台を作りましょう!」
そう言って子供達に混ざりクウも舞台造りに参加する。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「じゃあ、そっちの代表の4名はだれだ?」
このリングを作りシェイド達が待っていた事から、すでにクウが話をしていると魔緑は話を進める。
「火、水、土属性の代表者と俺だ、だが1つお前達の話を飲んだのだ、こっちの話も聞いてもらおう」
「なんだ?」
魔緑はシェイドの提案に目を細める。
「それは勝ち抜き戦だな、いちいち交代するのがめんどくさい。先鋒に俺がでて全員蹂躙してやる」
「なるほどなそれで構わない」
そんな事かと魔緑はすぐにシェイドの提案をうけいれる。
「サラマンダー、ノーム、ウンディーネさっさと前に出ろだれから来るんだ?」
指を指された3人がクスリと笑い答える。
「シャイド残念ながら俺らは代表者ではない」
「何!?」
サラマンダーの言葉に思わず声を上げるシェイドだがすぐにノームが続ける。
「正確には代表者にはなれない」
「そうね緑の家族の最大戦力は私達じゃないものね」
「はぁ? ノーム、ウンディーネ何をふざけた事を言っている」
「「それが本当なんだ」」
「はっ! おおよそ、そいつらで俺の体力を削って後で一斉に襲ってくるつもりなんだろう!」
「「お前と一緒にするな!」」
龍種達がそんなやり取りをする中、三日月が手を上げる。それに気づいた魔緑が尋ねる。
「どうした三日月?」
「うわ、緑ちゃんに呼び捨てにされた! これはちょっとゾクゾクするね♪」
「ふざけているなら話を進めるぞ?」
「わあッ! ごめんごめんちょっと呼び捨てにされるのが珍しかったから。私からの提案なんだけど代表者じゃない残りの龍種達全員と私が戦うってどうかな?」
そう言ってニヤリと笑う三日月。
「何を言っている人間の雌が!」「ふざけるな俺が潰してやる!」「お前など私だけで十分だ!」
三日月の言葉を聞いた代表以外の龍種達から罵詈雑言が三日月に飛ぶ。
その様子を聞いた、3人の龍種とシェイドが声を上げて笑う。
「くししししっ!」「くくくくっ!」「ふふふふっ!」「あーはっはっはっは!」
ひとしきり笑ったところで声をそろえる。
「「いいだろう!」」
3人はそれは面白いと、シェイドはもう怒りで思わず笑ってしまうほど怒っていたが、3人と声をそろえる。
それを聞いた魔緑も思わずニヤリと笑う。
「良いんじゃないか? 向こうも良いようだし」
「うん、三日月ちゃんなら大丈夫だよね」
そう言ったのは、クウを持ち上げくるくると回っていた緑。
「確かに、決着がついた後に散り散りになって暴れられるのは避けたいからいいんじゃないかな?」
そう言ったのは腐緑。
「みかづきちゃんがたたかうの!?」「ゆうしゃがたたかう!?」「すごーい!」
そう言って喜びながら、三日月の周りをまわりはじめる干支緑達。
「【水野 緑】全員が賛成だ良いんじゃねぇか。くっくっくっ」
悪い笑いをする魔緑。
「泣いてすがっても許さない!」「ひき肉にしてやる!」「生まれたことを後悔するがいい!」「種族の違いを絶望の淵で気づけ!」
龍種達は話を進行する魔緑の言葉を聞かずにリングに上がる。それを見た三日月も魔緑に何も言われることもなく舞台に上がる。
クウ達が作った舞台は1対1ではかなり広めに作られているが、数十匹の龍種が乗ると手狭になる。必然として三日月が舞台の中央に立ち、それを龍種達が取り囲む様になる。
龍種が舞台に乗ったのを見た魔緑が叫ぶ。
「シェイドあんたが開始の宣言をしてくれ!」
「……殺せ!」
シェイドの言葉で一斉に龍種達が動きだし、それを見た三日月が叫ぶ。
「三日月流抜糸術、五指三日月!」




