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178話 ミドリムシは出陣する


「う~ 私としたことが二日酔いになるなんて~」


 そう唸っているのは、歓迎会で出された酒があまりに美味く精神年齢が90歳をこえる勇者【湖上 三日月】。


 コンコン


 自分の失態を恥じながら、三日月が使うように言われた部屋のベットの上で唸っているとドアがノックされる。


「は~い、どなた?」


「三日月ちゃん、二日酔いになってるんじゃない? いいもの持ってきたよ」


「緑ちゃん? どうぞ入って」


 三日月の返事を聞き、緑が部屋に入りベットの中で唸っている姿を見つけてに苦笑する。そのまま、緑はベットの横まで移動し手に持った果物を三日月に差し出す。


「果物? 確かにこれなら食べれそうだね」


 そう言って三日月が上半身をおこし緑から果物を受け取ろうとするが、緑の様子がおかしい事に気づく。緑は、顔を真っ赤にして三日月を真直ぐ見ずに顔を横に向けていた。


 必死に三日月が視界に入らない様にしていた、緑の様子に三日月はニヤリと笑う。


「あれれ~? 緑ちゃんは、話すと相手に顔を見せずに話すのかな?」


「もう! 三日月ちゃんからかわないでよ! それよりこれを早く食べて!」


 緑にそう言われ、三日月はニヤニヤとしながら果物を受け取りる。緑が顔を赤くした理由は体を起こした三日月が下着姿のためだった。


 三日月は、緑の反応に嬉しそうにしながら、受け取った果物をかじる。


「!? 美味しい! こんな果物はじめてたべたよ!」


 三日月はそう言うと、果物をものすごい勢いで食べる。


「ふう~ 美味しかった! 緑ちゃんありがとうね」


「どういたしまして♪」


 お礼を言われ嬉しそうにした緑が三日月に尋ねる。


「三日月ちゃん、二日酔いは収まった?」


「そういえば、もう頭も痛くないし。体のだるさもおさまってるね。今の果物のおかげだよね?」


 そう言ってベットから抜け出した三日月は、体の調子を確認する。そんな下着姿の三日月の様子を見て、再び顔を赤くした緑は、三日月に背中を向ける。


「うん♪ 体の調子も元通り! すごいね、今の果物」


「じゃあ、皆のところに案内するから、それに着替えたら部屋からでてきてね」


 そう言って、緑は背中を向けたまま部屋を出る。


「ふふふっ。そのまま見てても良かったのに」


 ドアに向かってそう言った三日月は、着替えをはじめる。




「おまたせ」


「じゃあ、皆のところに案内するね」


 部屋から出てきた三日月を連れて緑は歩き出す。2人は、皆が集まっている場所に着くとその場に居た者達と挨拶を交わす。


「うわ~ これは、壮観だね」


 そう言った三日月の目の前には、クウとその子供達を除いた家族がきれいに整列していた。勇者召喚にかかわった者達もその場にいたが三日月の様にその光景に感動するのではなく黙って顔をひきつらせていた。


『昨日の他の国の警告は正しかった…… もう一度、この事を国に知らせて、緑達との関係を考えなければならない……」


 各国の代表者の中で態度には出さなかったものの、心の中で頭を抱え込むジークがいた。そんなジークをよそに緑が声を上げる。


「じゃあ皆、勘違いした龍種に押しをしに行くよ!」


 緑の言葉に家族が答えると、その返事で地面が揺れる。家族の返事がおさまると緑達の後ろに巨大な扉が現れる。


 ヒカリの子供達の羽ばたきが激しくなり、レイの子供達は自分の鎌を擦り合わせる。そんな中、静かにゆっくりと扉が開くのであった。




◇◆◇◆◇◆◇◆




「あっ! 門が開く♪」


 門の外ではクウとその子供達は、門が開くのを今か今かと楽しみに待っていた。


 門が開き切ると緑を先頭に家族が門から次々と現れる。


 緑を先頭にして、その後ろに3人の龍種、サラマンダー、ノーム、ウンディーネ、ウィスプに蟲人のヒカリ、兜、レイ、ファントムが後を追い出てくる。さらに、その後には、魔緑、腐緑、干支緑、三日月が続き、魔緑の後を追うように出てくる、嫁の3人、琉璃、凛、珊瑚。


 彼等が門を出てしばらくすると門が噴火した。


 それは、大量のヒカリとレイの子供達が門からあふれ出し、さらに子供達に守られるように勇者召喚に関与した各国の代表も現れる。その子供達があふれ出している間に緑はクウに話かける。


「クウ昨日は帰ってこなかったけど、ちゃんと寝たの?」


 緑の心配する言葉と裏腹にクウはこれでもかとイキイキとした様子で返事をする。


「クウは数日寝なくても平気です♪ もちろん子供達もです♪」


 そう言ったクウは緑の前でくるくると回りながら自分の大量が万全であることをアピールする。それを見た緑はほっとした表情で口を開く。


「本当に大丈夫そうだね。じゃあ、昨日もんから先にでてここで何をしていたのか教えてくれる?」


 緑がクウに昨日先に子供達と門から出た理由を尋ねる。


「ふっふっふっ! それはこれです!」


 そう言ってクウが振り向くとクウの後ろに密集して集まっていた子供達が一斉に左右にわかれるとそこには大きなリングと観客席が現れる。


「昨日から、家族総出で魔法を使って頑丈なリングを作りました♪」


 そう言われて緑が驚きの声を上げる。


「わっ! クウすごいよ! こんな立派なリングを作ってくれていたんだ!」


 そんな、緑の声にクウは胸を張って答える。


「皆で魔法で作ったので兜さんや魔緑さんが暴れても簡単に壊れないです♪」


 その言葉にいち早く反応したのが土の属性龍のノーム。


「おおおおおおおっ! このリングは信じられないほど強力な土の属性の魔法で作られている。我等でもちょっとやそっとでは壊す事はできないな! さすがクウだ!」


 普段は落ち着いたノームだが、普段から同じ属性のクウとは何か話が合い仲が良く話をしていた。そんなクウが家族と作り上げたリングをみてノーム感嘆の声を上げる。


「ノームさんがそう言ってくれるなら間違いないですよね?」


 そう言ったクウは目をキラキラさせながら緑の顔を見る。視線をおくられた緑は、サッとクウのそばによると脇の下に手を差し入れ、クウを持ち上げるとその場でくるくると回る。


「さすがクウ! すごいよ!」


 緑と持ち上げられたクウはくるくると回りながら笑い合っている。そんな、様子を見て声を上げる者がいた。


「おいっ! さっさと勝負をはじめるぞっ!」


 そう言ったのはリングの向こう側で集結していた龍種達の代表者のシェイド。


「お前達のような者達の話を聞いて待ってやったのだ! さっさと勝負をはじめるぞ!」


「シェイド何を焦っているんだ? くしししし」「お前らしくもない」「何か焦るような事でもあったの?」


「ちっ!」


 サラマンダー、ノーム、ウンディーネの言葉に舌打ちをするシェイド。


 シャイドが大人しく緑達を待っていたのには理由があった。






 1日前


「シェイド様、城の前の森の先に突如として門が現れました!」


 慌てた部下の言葉に、面倒くささを前面に押し出しながらまだ報告があると叫ぶ部下を無視して、シャイドは座っていた王座と言われてもおかしくない椅子から腰を上げ歩きはじめる。


『龍種ともあろうものが何をそんなに慌てている!?』


 そう思いながらシャイドは城から目の前の森を一望できるテラスまでイライラしながら足を運ぶ。そこでシェイドが見た光景は、森の先にある巨大な門からホレストアントが溢れていた。


 部下の不安をよそにシャイドはさらに苛立ちをつのらせ叫ぶ。


「たかが蟻ごときで俺に報告などするな!」


「ですが! あの量は尋常ではなく!」


「うるさい! 何度も同じことを言わせるな! 俺が良いと言うまでしばらくを様子を見ていろ!」


 そう部下に行ったシェイドは再び、先ほどまで座っていた椅子に座りなおす。


「まったく、少し負けが続いただけで慌ておって。龍種の我らが本気を出せば負けるはずなどありえない!」


 1人そう言い捨てると、シャイドは煮詰まった頭を冷やすために目をつぶりそのまま眠りについた。


 シェイドが眠り、半日ほどたった時、地響きが鳴りシェイド達龍種が本拠地としていた城が傾いた。その衝撃に驚いたシャイドが目を覚まし叫ぶ。


「何事だ! おい! 誰か状況を説明しろ!」


「はっ! シャイド様がおっしゃった通りに蟻どもの様子を見ておりました。蟻どもはしばらくすると姿を消したので通常の警備に戻りました! ですが周囲の警備には目をひからせておりましたが突然先ほどの衝撃が」


 自分が下した命令に忠実に従った部下の報告を聞いたにも関わらず、シャイドは再び苛立ちテラスに向かい自身の目で森の様子を確認する。


「なんだあれは!?」


 テラスから森をシャイドが確認すると、門と城の中間地点の森がひらけた。その光景に目を細めるシャイドだがその光景はすぐに変化した。


 シャイドが気づいた森のひらけた部分は、僅かな時間でその面積を広げはじめる。その開けた場所は徐々に遠目で見てもわかるスピードで広がり、さらにすり鉢じょうに陥没しはじめる。


 その陥没に合わせて城が傾く。


「だ、だれかあの場所に調べにいかせろ!」


 シャイドが思わずそう叫んだ瞬間。


 ズドン!


 そんな音と共に城がさらに傾く。音はシャイドの足元から聞こえ、シャイドが音のした方に顔を向ける。そこには、全身が外骨格で覆われた小さな蟲人が城に大きなクレーターを作りシャイドを見上げていた。


 

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