176話 ミドリムシは説明する
今、ダンジョンでの騒ぎに関係した者達が一堂に会していた。
特にこの騒ぎの根幹にかかわっていた者達は正座をしながら。
緑、シャーク、セリアに勇者と女神。
「女神様、どうかそのような事をしないでください!」
そうジーク達が叫ぶと横から魔緑が口をはさむ。
「ダメだ…… 今回の件はこいつにも責任がある……」
「魔緑! 女神様になって事をさせるのだ!」
女神までが正座させられ、それを見たジーク達が慌てて声をかけるが、それを魔緑が許さない。
「いったいどうなってるんだ?」
「うちも全然、意味わからへん……」
「なんでだろう? 僕もちゃんと説明したのに…… ぐす」
根幹の原因の3人は、自分達の置かれている立場に不服を口にするが正座の姿勢を崩そうとはしない。すれば周りの者達にさらに怒られることが想像できるから。
「とにかく初めからの説明をしてもらおうか?」
「ああ。そうだな……」
女神の事で揉めていたジークと魔緑が一時休戦とし、今回の件の把握をしようと3人に説明をもとめる。
「ああ、ならきっと俺とセリアか…… 昨日の昼頃にダンジョンの冒険者達が突然騒ぎだしたんだ。話を聞くとダンジョンのある場所に緑達家族が集まっていると、それはダンジョンで見かける子供達を含めて」
シャークがそう言うとジークが魔緑に視線を移す。
「確かに俺達は、家族総出で戦いの準備をして集まっていたな……」
魔緑がそう呟くと今度はセリアが話はじめる。
「シャークとこっちに向かってる途中でうちは、合流してん。そんで緑に言ってん! なんで戦いにいくならうちらに声をかけてくれへんねんって!」
正座をしながらも感情を抑えれなくなったセリアが声を荒げる。それを見た魔緑がセリアに感謝し、一瞬優しい目になるが、再び厳しい目つきにもどると言い放つ。
「別に俺達家族だけで事が済むからだ」
その言葉にシャークまでも声を荒げ始める。
「魔緑! お前達が家族総出で戦う相手なのだろう!? そんな言葉で俺達が納得するか! お前達だけではきびしいんだろうが! 何故、俺達に頼ろうとしない!? お前達が助けた国々はお前達を見捨てると思うのか!?」
シャークが声を荒げて話したことにジークは驚きつつも視線を魔緑に移す。
すると、ヤレヤレといった表情で魔緑がため息をついた。
「はぁ~ ここでこじれたのか? ちょっと待ってくれ。 サラマンダー、ノーム、ウンディーネ、ウィプス来てくれ!」
魔緑が4人の龍種に声をかけると、すぐさま4人が集まって来る。4人が集まると今回の戦いの話を龍種達にも確認を取りながら魔緑が話す。
「龍種達と正面から戦い叩きつぶすだと……」
話を聞いたジークが思わずこぼす。
「蟲人達を助けに行くと聞いていたが、いつから魔王と戦う事になったのだと不思議に思っていたがまさかこんなオチだったとはのう…… っぷ!」
「確かに話を聞くと話のすれ違いやけど、その話をしてた当人たちが力の強い者達だけだとすれ違いの話でここまで大事になるねんな~ くくっ!」
「ええ、すっごく大事になってますね…… フフッ!」
獣人代表の父親3人が呆れながら笑いをこらえていた。緑達に全幅の信頼を置いてる獣人達は、緑達のミスに対しても喜劇を見ているような感想を告げる。
「確かに緑様達らしいですね……ふっ!」
エルフのイリスもヤレヤレといった表情だが笑いをこらえている。
「ガハハハハハ! まぁ、間違いは誰にでもあるわな!」
ドワーフにビルにいたっては大笑いして終わらす。
そんな中、こめかみに青筋を立ててジークが叫ぶ。
「他の国の皆様まで!? 笑い事じゃないでしょう!」
ジークが叫ぶとそれまで笑っていた者達全員が鋭い視線をジークに向ける。
「なら、人族はどうするのだ?」「ほんまや聞きたいわ」「ええ、すっごく気になりますね」
「確かに私もですね」「ああ、俺もだ」
3人の獣人代表はおろかエルフとドワーフの代表まで緑の肩を持ちジークに尋ねる。
「そ、それは軽い罰を受けてもらうなど……」
思わず小声になりながら話すジーク。だが、そんなジークに各国の代表者達が尋ねる。
「のう、ジーク殿そなた達人族は緑に助けられた事はないのか?」
「ああ、同時スタンピードもあったよな?」
「すっごく最近の話ですよね?」
「私達エルフの国は世界樹様を救ってもらっていますし、さきのスタンピードも」
「ああ、うちの国もだ! 酒ももらったしな!」
「「で、軽い罰をあたえるのか?」」
「い、いや…… さっきのは言葉の綾で……」
「なら、緑達に言う事があるんじゃねぇか? ガハハハハ」
そういったビルがジークのバンバンと肩を叩く。ジークは肩を叩かれると緑の元に歩み寄る。
「ああ、緑こんな間違いは2度とする……」
そこまで言ったジークにまたもや鋭い視線が集まりジークは言葉を止め言い換える。
「こんな間違はなくしてくれよ」
そう言ったジークが周りの様子を伺うと各国の代表も頷いているのを確認して胸をなでおろす。
そんなジーク達のやり取りを見ていた魔緑が女神と勇者の前に歩み寄る。
「では、2人の話も聞きたいんだが……」
そう言った魔緑は、この上なく笑顔であったがこめかみに青筋を浮かべている。そんな魔緑に腐緑が声をかける。
「まぁまぁ、まーちゃん落ち着いて。湖上さんにいたっては混乱しているみたいだし、私達も【水野 緑】ってことも知らなさそうだし」
そう言われて魔緑が湖上こと勇者に視線を向けると目を見開き驚きの表情で固まっていた。
「とりあえず…… 湖上は置いといて駄女神さま、事情を説明してくれますか」
「そうだね、私もぜひ聞きたい」
「やっと正座から解放されるのですね」
そう言って女神が立ち上がろうとするが、魔緑と腐緑が肩に手を置きそれを阻止する。
「「ちゃんと話をきいてから」」
「……はい」
そう言って女神は正座のまま話始める。
「勇者と魔王の称号を得ていたら緑が爆散していたのか……」
「あはははははは」
女神になぜ湖上が勇者として召喚されたか説明を受け、驚く魔緑と笑い転げる腐緑。そんな腐緑を見て女神が腐緑に声をかける。
「腐緑さん、笑っていますがコアごとですよ」
「あははは……は? マジで?」
「マジです」
女神の言葉を聞いた腐緑が、コアまで爆散しては本当に死んでしまった事に気づき途端に青い顔になる。そんな様子を見た魔緑が女神に手をさしだし言葉をつづける。
「今回の件では、うまく立ち回ってくれたのか…… 正座をさせてすまなかった。以前の例があったから疑ってしまった」
魔緑がそう言って女神の手をとると、魔緑が女神を立ち上がらせる。
「誤解が解けて何よりです」
正座から解放され、誤解もとけ安心した女神に魔緑が深々と頭を下げる。
「今回の件、誠に感謝いたします。女神さま」
魔緑の声は決して大きなものでは無かったが、周りに居た者達はその言葉を聞き逃さず驚きで目をむいていた。
そんな周りの様子に気付いた魔緑が顔を赤くしながら呟く。
「俺だって礼くらいはちゃんと言う」
「魔緑さんにはじめて感謝してもらいましたね嬉しいです。では皆さんご説明もできましたし私はそろそろ失礼します」
そう言って天に浮き上がっていく女神に向かって周りに居た者全員が声をそろえる。
「「女神さまありがとうございました」」
それは、女神の説明を聞いた勇者召喚に集められた各国の代表者達に加え緑の家族達全員が、緑の命を女神が救った事に感謝をし思わず声をそろえた。
そのまま全員が女神が見えなくなるまで見送った後に、魔緑が勇者の方に視線を移す。
「で、湖上。何故お前はいきなり緑を攻撃したんだ?」
魔緑に声をかけら、それまでフリーズしていた勇者が再起動をはたす。
「まさか、緑ちゃんが魔王になってるとは思わなかったんだ……」
「は? 女神さまから説明はうけなかったのか?」
「まーちゃん、もしかして女神様は説明をわすれていたのかな? あはははは」
「あの駄女神ががぁあああああ!」
そう言って魔緑は消えた女神に向かって叫ぶ。そんな中、緑が正座のまま魔緑に声をかける。
「ねぇまーちゃん。そろそろ、僕達もたっていいかな?」
「俺も足が限界だ……」
「うちも……」
「ああ、そうだな……」
話が終わったと思い緑が恐る恐る尋ね、シャークやセリアも同意する。魔緑は頭をかきながら緑に向かって頷く。
そんな緑の声に勇者が反応する。
「本当に緑ちゃんなの?」
「そうだよ、湖上さん」
そう返事が返ってくるとみるみる目を輝かせ話始める。
「うわ~ 美形になったね~ しかも緑ちゃんが一杯いる~」
そう言って緑から魔緑、腐緑と視線を移していく。そんな中干支緑達がやってくる。
「なんでおねぇちゃんのことしってるんだろう?」「みんなしらないよね?」「だけどおなまえはしってる~」
やってきた干支緑達は、湖上の名前だけ知っているのを不思議そうに話していた。そんな干支緑達を見ていた湖上が尋ねる。
「も、もしかして、この子達も緑ちゃんなの?」
その質問に緑、魔緑、腐緑が頷く。その途端、湖上の様子が変貌する。
「うわ~! 可愛い! 可愛いすぎる!」
そう言いながら湖上は干支緑達をそれぞれ頭をなでたり、頬ずりしたり、抱きしめたりともみくちゃにしていく。
「キャハハハハ!」「くすぐったーい!」「もっとなでて~」
もみくちゃにされるも干支緑達はそれぞれ、喜びの声を上げる。
「まさか、こんな形で緑ちゃん達と再会できるとは思っていなかったよ♪ 魔王を倒してからのご褒美だとおもったよ!」
「女神にはなんて説明されたのかな?」
湖上の言葉に思わず腐緑が尋ねる。
「この世界に来て欲しい事と、緑ちゃんが大ピンチで、その緑ちゃんとは魔王と会えば居場所が分かると言われたから、てっきり緑ちゃんが魔王につかまっているかと思ったんだよ。しかも緑ちゃんが増えてるなんて夢にも思わない」
「あの駄女神、サプライズのつもりだったのかもしれないが俺達【水野 緑】の姿が変わっていることを忘れていたんだな……」
「それでいきなり僕を攻撃してきたんだね…… はははは、ひえっ!」
緑が笑っているといきなり抱きしめられる。
「ごめんね、緑ちゃん……」
「こ、湖上さん!? 落ち着いて! もう傷も治ったし気にしないで!」
緑がそう言うも湖上は緑をはなさない。そんな湖上の目には涙が見え、それに気づいた魔緑も腐緑も声をかけずにいた。




