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172話 ミドリムシのささやかな歓迎会


 本来、緑達は戦力をわけそれぞれシェイドの本拠地を目指していたが今、全員がダンジョンにあつまっていた。


 緑達に各所で負け続ける報告がシェイドの元に届き、分散させていた戦力を慌てて手元にもどしたシェイド。本拠地にスパイとして潜んでいた、ファントム、レイ、ヤスデの戦士が戻り、3人からその事を聞いた緑達も戦力を集めた結果であった。


「大方の龍種が家族になってくれたのは嬉しいね♪」


「だが、全てを信用していいものでは無いぞ緑」


「まぁ、まぁ、まーちゃん、それでも信用できそうな龍種も居るのは良い事でしょ、それに蟲毒の戦士の村や集落も問題なく保護できたし」


 緑が現状を嬉しそうに話し、それに魔緑が油断しないように釘をさし、魔緑を腐緑がだなめる。

 今、緑達が居るのはダンジョンの会議室に使われることが多い広間で【水野 緑】以外にシェイド以外の各ナンバー1の龍種に家族の蟲人、獣人全員がそろっており、それぞれが3人の【水野 緑】の意見のどれかに頷いていた。


「3人共お疲れ様、疲れたんじゃない?」


 そう言った緑の言葉に3人はそれぞれ返事をする。


「それほどでもです~ けどありがとうございます」

「いえ、幻術などに大きな危機感を抱いてない者達の目を欺くのは特に問題ありませんでした。ですがお褒めの言葉ありがとうございます」

「いや、2人が見えてる私にしたら、すごく神経をすりへらしましたよ」


 やんわりと、短くそれほど疲れなかったと報告するレイ。それを補足する様にファントムが疲れなかった理由が説明するが、それをヤスデの戦士が嘆きながら否定する。

 そんな3人のやり取りを見て緑がクスリと笑い口をひらく。


「そうだ、ヤーちゃんもダンジョンの住民じゃなくて家族になる?」


「ヤーちゃん?」


 緑の言葉に思わずヤスデの蟲人が聞き返す。


「うん、スパイ活動がおもな仕事できちんとした名前が無いって言ってたから、一時的にね」


「ヤーちゃんなら良いとおもいます~」

「そうですね、ヤーさんなら緑様に蜜を頂けば彼もきっとお役にたてるかと思います」


 緑の言葉に3人でシェイドの本拠地に潜っていたレイとファントムは賛成の声を上げる。

 この時、ファントムの言葉に一瞬だけ【水野 緑】苦笑していた。


 そんな中、ヤスデの戦士が緑の言葉を聞き質問をする。


「……1つきいてもいいですか? もし私が皆さんの家族になれば俺の一族を優遇してもらえますか?」


 そう尋ねたヤスデの戦士に答えたのは緑ではなくヒカリ。


「それは、無理ですね。あなたが家族になった事で優遇はできません。ですが緑様達はその者の働きを見て、評価をしてくれます。あなたが言うように、何もせずにあなたの一族を優遇はできません。ですが緑様はその者の働きに対しての対価を存分に与えてくれます。その対価に対してあなたが何を求めるかは自由です」


 ヒカリが最後まで話すとヤスデの戦士は緑にひれ伏しさけぶ。


「ぜひ家族の末席に加えてください!」


 ヒカリの言葉を聞きはじめは暗い顔をしたヤスデの戦士であったが最後まで聞くと笑顔で緑の問いに答え、頭を下げた後に顔だけ緑に向ける。


「もちろんヤーちゃんの一族の蟲人にもダンジョンで働いてもらう事もわすれないでね」


「一族共々お願いします!」


 そう言うとヤスデの戦士は再び頭を下げる。


 ヤスデの戦士が頭を下げると緑の頭に咲いている花の一輪から蜜が滴りそれをコップで受ける。蜜は徐々にたまりコップの8割ほどになると自然と止まる。


 【水野 緑】の蜜、それは時に振舞われるが、はじめて家族になる者に与えられるものは別格。ヒカリ、クウ、レイ、兜、胡蝶それぞれ緑からはじめてもらった蜜により大きな変貌を遂げる。


 家族に、なる者にはじめに与える蜜にたとえ自分が居なくなったとしても幸せに生きる事ができるようにとこれでもかと言うほどにエネルギーと愛情を込める。蜘蛛の戦士のように記憶が引き継がれるわけでもないが飲んだ者達は、緑の愛情をもれなく感じていた。


 その愛情になんとしても報いたくなるのが元魔物から蟲人になった家族。そのため彼、彼女らの思いは崇拝に近い愛情であった。


 今のその蜜が入ったコップがヤスデの戦士に渡される。ヤスデの戦士は特に鑑定ができるわけではないが渡されたコップに入った蜜が尋常じゃない事を理解し、恐る恐る口に運ぶ。


 他の者達と同じ様にヤスデの戦士の体が光り輝く。その光が収まると1人の女性が立っており、すかさずヒカリが大きめの布で彼女を包む。


「体の大きさの変化が分からないために布を用意しましたが、後で丁度良い服を受け取ってください」


「ありがとうございます、ヒカリさん」


 ヤスデの戦士は自分を布で包んでくれたヒカリに感謝を言うと深々と頭を下げる。


 そのやり取りを見ていた他の者達が一斉に声をかける。


「よろしくです♪」「よろしくな!」「改めてよろしくです~」「よろしくおねがいしましゅ~」


「これからよろしくのう」「よろしくな~」「すっごくお願いします」


 新しい家族を喜ぶ蟲人と獣人。


「良かったな」「緑に感謝するのだぞ」「緑はやさしいでしょ」「……」


 龍種達も口を開くがウィスプだけは黙ってその様子をみている。


「と、もう1人紹介するね」


 緑がそう言うと部屋の端で緊張した面持ちでその様子を見ていたひとりの少女が緑のそばにあるいてくる。少女は緊張しまま頭を一度さげ口を開く。


「先日、皆様に失礼をはたらきました蜘蛛の蟲人です。緑様に家族にして頂きましたがこれから今までの事を皆様とご一緒させていただく中で償っていこうと思っています。どうかよろしくお願いいたします」


 少女がそう言うと緑と少女をはさむ場所に移動したヒカリに皆の視線が集まる。


「何か?」


 皆、先日の蜘蛛の戦士がこのような挨拶ができるとは思えずヒカリが仕込んだと思い目をむけるがそれがどうしたと返すヒカリに苦笑する。


 全員が訳ありだとすぐ認識し、再び少女に視線を移すとその表情は温かい。その中、緑が口を開く。視線が少女に集まったために緑が話の本題を告げるために声を上げる。


「ねぇ皆聞いて。正直、僕達は彼女や他の蟲毒の戦士のことは話でしかしらないからいいけど他の蟲人からしたら、仇や恐怖の対象の場合が多いと思う。だから、彼等は死刑になったと発表する」


「わかりました、私から蟲人達にそう伝えます」


 緑の言葉を聞きウィスプが自分がその役割を担うと答える。


「ウィスプさんお願いします、そして本題のシェイドの話なんだけど…… レイ、ファントム、ヤーちゃんの話では今、集めた戦力を再編しているらしい……」


「ファントム、予想でいい。それはどれくらいの日にちがかかりそうだ?」


 3人の得た情報を皆に緑が伝えるとノームが情報を持ち帰ったファントムに質問する。


「私の予想では3日はかかるかと……」


「ふむ、ファントムの予想なら間違いないだろう。なら緑よ新しい家族とダンジョンの住民の歓迎会でもするか?」


「え!? 歓迎会なんかしてていいの?」


 いつも突拍子もない事を言う緑が龍種の中でも真面目なノームの言葉に驚く。


「ああ、大丈夫だ。これまでの戦いで確信した、緑の家族に我等3人の龍種が居れば、シェイドの元に集まったやつらなど問題にならない……。それに真正面から戦い叩き潰し目を覚まさせてやってくれ。我等3人が居ない間のあ奴ら怠けていたらしい……自分達より弱い蟲人達を虐めるくらいでろくに動いてなかったのだろう、動きが鈍くなっておった」


 言葉からノームが頭にきている事はわかる緑だが果たして大丈夫なのかと心配になり、ファントムに視線を向けるとファントムが緑の内心を読みとり答える。


「ノーム様のお言葉通り問題ないかと思われます。皆この大陸にきて何度も龍種と戦い家族全員の実力は来る前と比べ各段に上がっています、もちろん緑様達も。その上で問題ないとかと思います」


「なら緑様、歓迎会をひらきましょうか」


 ファントムの言葉に緑が悩まし気にしている中、珍しくヒカリが歓迎会をすすめる。


「……うん、そうだね、歓迎会を開こう♪」


 緑は蜘蛛の蟲人の事を思ってヒカリが歓迎会をすすめていると事に気づき笑顔で答える。



 歓迎会がはじまり、緑の口から蜘蛛の戦士の境遇が家族に説明される。話の途中からどこからともなくすすり泣く声や嗚咽の混じった声も聞こえてくる。話をしている緑も途中、途中で言葉を続けられなくなりながらもなんとか説明しきる。


 今回は、まだシェイドとの戦いの途中のためなのと、蜘蛛の戦士の歓迎を良く思わない者が、今居る大陸の蟲人の中に居るために盛大にはできず、緑の家族でも【水野 緑】、蟲人、獣人、龍種のみとなる。


 料理や飲み物も用意されているが全員があまり手を付けていない中、我関せずとモリモリ食べて飲んでいるもの達がいた。


「くししし、やはり歓迎会の飯は特にうまい」「だな、普段の飯も上手いが特に」「おいし~もうここ以外の食事では絶対に満足できないわ」「本当に美味しいですね」


 龍種達は緑の説明を聞くも暗い様子になることもなく食事を続けている。そんな様子を他の家族が不思議そうに見ていた。


「なんでそんな平気に食うてられんの?」


 龍種達に思わず凜が尋ねる。その言葉を聞いたサラマンダーが答える。


「むしろ不思議なのは俺達のほうだ。確かに蜘蛛の戦士の境遇には同情もするが、しょせんこの世は弱肉強食。蟲毒の戦士を作り出したそれぞれの村や集落もそうしなければ生き残れなかったのも容易に想像ができる。だが、今その者達は緑がそのダンジョンに迎え入れたのだろう?」


「うむ、そうだなその者達はもしかしたら、この大陸に居る他の蟲人達の中でも1番幸せになるのではないか?」


「そうよね、しかも蟲毒の戦士達は今までの風習は捨てても戦士の道は捨てないかもしれないわ。その時緑達は彼等を一緒にきたえるのではない? それは、戦士として力をつけたい者にとっては最高の環境でしょう?」


「少々、蟲毒の戦士達の種族が優遇されすぎのような気もします」


 サラマンダーの後にノームとウンディーネ、ウィスプと続く。


 そう言われると他の悲しみに包まれていた家族もいくらか明るくなる。


 そんな話をしていると勢いよく部屋の扉が開かれる。


「「おはなしおわった?」」


 そう言って入ってきたのは干支緑達と今話に上がっていた蜘蛛の戦士とヤスデの戦士。2人は自分よりも小さな干支緑達に周りを囲まれながら入ってくる。


「あ、あの……干支ちゃん達が……」


「もう、話も終わっているだろうと……」


 本当に話は終わっていたのか分からず2人が恐る恐る尋ねる。それを聞いて緑ニコリと笑う。


「うん♪ 今、呼びに行こうと思っていたところだよ」


 そう緑が言うとヒカリやクウ、琉璃、凛、珊瑚が部屋を出て追加の料理を取りに行く。


 しばらくし、料理が大量に運ばれるとそれを見た干支緑が声を上げる。


「ごはんだ!」「いいによい!」「たくさんある~」


 運ばれてくる料理に2人の蟲人の戦士が驚き目を見開き思わずこぼす。


「すごい、こんなにたくさんのご飯が……」


「ここの料理は上手かったが今日のは飛び切りにおいしそう」


「「はやくたべよ~」」


 驚いている2人に早く食べようと口をそろえる干支緑達、その言葉を聞き他の家族も食事をはじめる。


「「美味しい! 美味しい!」」


 そう言って涙を流しながら食べ続ける2人を見て全員が温かい目をしながら自分達も食事をとるのであった。





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